俺の名前はチェスター。行商人だ。
数年前親父の跡継ぎをすっぽかして
家を出てきてしまい、今に至る。
俺は今シーローン王国に滞在している。
何しろ、シーローンの奴らは
金払いの良い奴らばかりだ。
ここでガッポリ稼いじまおうって言うことよ!
そんな中、俺は奇妙な者、珍しい者を見た。
魔王だ。
誰が言ったわけでも彼が名乗ったわけでもない。
だが感じたのだ。
彼のただならぬ雰囲気を。
その瞬間俺は動いていた。
面倒事には関わりたくないが
なぜか動かされたのだ。
俺の薄れかかった騎士道なのかな。
「あのっ!魔王様!」
「む?貴様何者だ?」
「俺っ!行商人やってるチェスターっす!
少しお話しませんか?」
少し悩んだ末
「……人族というのは話好きな者ばかりだな…
だがそれも興。いいであろう。」
「ありがとうございます!」
───────
彼はバーディ・ガーディと名乗った。
魔王バーディ・ガーディ。
あいにく俺は歴史とかの知識に疎いから
あまり分からなかったが。
「魔王様はどういったご用件で?」
「……人探しと言ったところだな。」
「なるほど…でしたら俺手伝えますよ!」
しかし
「いや、結構だ。
もうすでに奴の場所は分かっている。」
ときっぱり断られた。
「そうっすか…」
少しの沈黙を空けて
「…その、探している人のこと
教えてくれませんか?俺も興味が湧いてきました。
魔王様直々に要件のある人なんて
そうそう居ないっすよ。」
「いいだろう!
奴のことを話す分にはタダだからな!」
ガハハと笑いながら魔王様は話した。
──────
ルーデウス・グレイラット
という人物を探していると魔王様は言った。
その人物とは戦ったことがあり、
互角の戦いを繰り広げたという。
魔王と張り合える人族なんてすげぇや。
それで、今後脅威になるらしいからって
もう一度戦いたい、だそうだ。
「それは魔王様が決めたことっすか?
それとも誰かの要求っすか?」
途端魔王様の動きが止まった。
「貴様…なぜそう考えた?」
やべぇ怒らせたか?謝らないと…
「い…いえ、
ただなんとなくそう考えただけっすよ!ハハ…」
冷や汗とまんねぇ…
「なら良い。」
「良かったっす…。」
「…まあ、ここで出会ったのも何かの縁であろう!
貴様の願い、一つだけ叶えてやろう!
これは我輩からのお詫びだ!」
おっ!まじかラッキー!
となると莫大な富!
いや、酒か?
長年生きてきた
魔王様なら旨い酒知ってそうだしなぁ…。
それか女か!?
どうすっかな…
「分かりました。では……」
「手合わせを願いたい。」
あああっ!俺のバカァ!!
心に思ったこと正直に話すぎだ!
「…なるほど、受けてたとうではないか。」
俺死なないよな……?
───────
懐かしいことを思い出すように話し始めた。
「我輩からルールを決めさせろ。
一発。一発だけだ。
それで我輩に傷をつければ貴様の勝ちだ。
良いか!チェスター!」
「……分かったっす!」
一発。
さて、どうすっかな……。
俺の剣術はチンピラを討伐できるくらいで
型なんて何もないんだけどなぁ…
だがやるっきゃないだろ!
力を込める。
素早く…剣を抜いて断ち切るイメージ!
「はあっ!」
やっちまえ!
ガキィィィン!
だがそれは虚しく無様に散った。
俺の愛剣はきれいに真っ二つ。
魔王様には足元にも及ばなかったのだ。
「……まあ良い。」
呆れた表情をされている。
「…そりゃ無理っす…!
俺型なんか全く知らねぇっすよ!
もしかしたら…なんて無いもんっすね…
こういうのサイノーの差って言うやつ?
ハハハ……。」
「…ルーデウスは魔法使いでありながら
武装した我輩に勝利した。」
「……は?」
「貴様も魔法使いの肩身の狭さは
十分理解しているであろう?」
「でも…それは才能っすよ!」
「いや違う。奴は努力した。
奴は最初はちっぽけな男だったものよ。
だが努力して登り詰めたのだ。」
「でも……俺には……」
すると魔王様が一喝した。
「チェスター!立て!」
「はいっ!!」
恐怖で足がすくむがお構い無しに立った。
「我輩は弱音を吐く者が嫌いだ!
貴様は戯れ言ばかりで努力する姿が全く見られん!
逃げてばかりは楽しいか!?
自分を卑下することは心地よいか!?」
「…いいえっ!」
「我輩は自分自身を卑下する貴様が嫌いだ!
…だがもう一度!
貴様が強くなれば
もう一度手合わせを我輩の方から願う!
精進するのだ!チェスター!」
「っ!……分かったっす!……グスッ…」
「では我輩はもうじき発つ!
また会おう!我が戦友よ!」
「感謝するっす!魔王様!
この恩は一生忘れないっす!」
遠くへ消える魔王様の姿が見える。
なぜ泣いているのだろう。
なぜ感心しているのだろう。
なぜ彼の言葉には惹き付けるものがあるのだろうか。
………俺には何も無い。
富も、力も、名声も、栄誉も何も無い。
ずっと逃げてばかりの人生だった…
魔王様には全てお見通しってか…。
しょーじき良い気分なんてしなかった。
叱られて、実力の差を見せつけられ、愛剣を折られた。
だけど何かは得た。
それらよりずっと大きい何かが。
まずは帰るんだ。
そんときゃ親父に、あのときはすまなかった。
謝らせてくれって伝えるんだ。
そしたら俺は行商人なんか辞める。
俺が進むべき道が分かった気がするからな。
行商人と魔王という奇妙な出会い。
だがそれは奇妙なりに心に刻まれる記憶となった。