数日後、
家に家庭教師が訪ねてきた。
ロキシーだ。
どうやらリーリャの根回しは上手くいったようだ。
「はじめまして。ロキシー・ミグルディアです。これからお世話になります。」
やはり御神体はお美しい。
ゼニスとパウロは驚いている。こんなに小さな子が家庭教師かと言わんばかりに。
「それで…?私の教える方はどちらに?」
パウロが問いに対して返信する。
「…ああ、この子です。」
「はじめまして!これからよろしくお願いします!師匠!」
俺は元気に返事した。
この人は俺の妻になる人なんだぜって感じで。
「……居るんですよね…すぐ子供を天才だと思うバカ親が…」
聞こえてますよ!ロキシーさん!
「何か…?」
ゼニスが怖い。
ロキシーが身を震わせて慌てて返事する。
「いっ…いえ…何でもありません…よろしくお願いします…」
────
これから家の庭で稽古のお時間である。
とは言え、前世でも魔術を教えてもらったから、ロキシーから習うことはほとんど残っていないのだが…
「いいですか?魔術にはそれぞれ───」
聞いてはいるが全部聞いたことのあるものばかりだ。
だからと言って神のありがたいお言葉を聞き入れないということは絶対しない。そんなことしてしまえば切腹だ。
「では実際にやってみましょうか。」
ついに実技のレッスンが。
もっとも前世では熱~い夜のレッスンをしていたがね!
……少々テンションが高くなってしまうな。
再会できたんだ。そんなことはしょうがない。
「了解です師匠!」
魔力を貯めて放つ。
ここで俺はあえて詠唱をしない。
オルステッドの仮説が正しければ何かをトリガーに記憶が戻るらしい。
そこで俺の代名詞とも言える行動をして記憶を戻そうという作戦だ。
「…詠唱をはしょりましたね?」
「…はい」
「いつもこれを…?」
「いつも無詠唱でやってます。」
ロキシーがよろける。そして笑いながら答える。
「これは…鍛えがいがありますね…」
これでは戻らないか…
─翌日─
「そうでしたか。」
リーリャと共に会議中だ。
「やはり、もっと鎌をかけるべきでしょうか?」
「いえ、このままでも大丈夫だと思います。まだ焦る必要はありません。」
「うーん、分かりました。普通に接していきますね。」
「オルステッド様にも伝えておきますので。」
「よろしくお願いします。」
一日のスケジュールは
小会議。
その後はロキシーの魔術、
午後になればパウロの剣術を習う。
そんな感じだ。
ロキシーの記憶は未だに戻らない。
だが焦る必要は無い。
リーリャにもオルステッドにも言われたが、少し不安だ。
もし、覚えていなかったら…
もし、思い出せなかったら…
最近はモヤモヤした気持ちが俺の中を渦巻いている。
──────
「師匠。」
授業後に俺はロキシーに対して話しかける。
「何でしょうかルディ?」
「僕たち会ったのはこれが初めてじゃありませんよね?」
今日は少し鎌をかけてみようと思う。
急ぐ必要は無いが…
気持ちを抑えられない。
しかし、ロキシーは不思議そうな顔を浮かべ、
「いえ?ここで出会ったのが初めてですが…?」
「本当のことをお願いします。」
「ですから、これが初めてですよ。今日はどうしたんですか?」
「すいません…何故かこれが初めてではないような感覚が抜けないもので。」
ロキシーがにこやかに笑い、頭に向けて手を伸ばし、俺の頭を撫でた。
「ふふふ…でももしかすると私とルディは前世とかで出会っているのかもしれませんけど。」
やっぱり記憶に無いのか。
最近この調子だ。
何度もそれらしい行動はしてみたのだが
やはり成果は得られない。
一体いつ戻るのだろうか…
不安のみが募る。
──数日後──
とうとう来てしまった。
俺の五歳の誕生日だ。
あれからオルステッドにも聞いてはみたが、
やはり駄目だという。
魔大陸で再会した時がトリガーになるのかもしれない。
そんなことも言われた。
でもそうなれば数十年間…になってしまう。
戻ることはほぼ確定しているが早く再会したいという気持ちがやはり抑えられない。
その日俺の誕生日は盛大に祝われた。
パウロは酒で酔っ払いながら、ゼニスはロキシーと話に花を咲かせながら、それぞれ楽しい時間を過ごした。
そして、今世でもパウロには剣を、ゼニスには本を貰った。
前世と変わらないラインナップだ。
そしてロキシーからは見習い魔法使い用の杖を貰った。
これにもやはり懐かしい記憶が蘇る。
だが今はそんなことなんて考えられるほどの余裕なんて残ってない。
ロキシーが旅立ってしまうからだ。
「これで私が渡せるものも
あとわずかになってしまいました。」
ロキシーが哀愁ある声で俺に語りかける。
「それはどういう………?」
分かっているのに口に出てきてしまう。
「明日卒業試験を行います。それに合格できればルディは晴れて魔法使いです。」
ついにきてしまったか。
結局、成果は何も得られなかった。
目新しい情報も、魔術も、御神体…は置いといて。
俺はよく物事を引きずる男だからな。やる気が無くなって、
どうでもよくなって、全てを捨てて、なんてしかねない。
だが俺は前に進まなければいけない。
いつまで人を頼るんだ。
誰かが必ず助けてくれるなんて考えは捨てろ。
俺は進む。たとえそれが前より辛い道でも、進まなければ楽できる道でも。
本気を出すと決めたからには。