とうとう卒業試験が始まる。
だが悔いはない。
正しくは悔いなんてないと思い込ませているだけだが。
─翌日─
俺は朝早く起きた。
「俺はオルステッド様と話し合いをしてきますので、父さんたちには散歩に出かけた。とかの理由で誤魔化してください。」
「かしこまりました。旦那様」
朝早いが、リーリャは相変わらず家事を行っている。
「…あの、旦那様。」
ドアに手を掛ける直前、リーリャに呼び止められた。
「何でしょうか。」
「その…迷惑に思うかもしれませんが言わせてください。
……ロキシー様の記憶が戻らなくても決して立ち止まってはいけませんよ。旦那様は偉大な方です。ロキシー様が居なくてもやっていけると信じております。」
「…分かりました。今世でもリーリャやオルステッド様に迷惑をかけるわけにはいきませんから。俺も頑張りますよ。
では、いって参ります。」
「よろしく頼みました。旦那様。」
目頭が熱くなる。
その通りだ。どうせまた会える。記憶がもどる。
今はまだそう考えても良いだろう。
────
「よく来た、ルーデウス。」
「それで、要件というのは何でしょうか…?」
「これからのことだ。
結局ロキシーは前回の記憶を引き継いでいなかった。
だが、仲間は他にも居る。
次はノルン・グレイラット、アイシャ・グレイラットを誕生させろ。」
「かしこまりました。そのつもりでしたので。」
「では頼む。」
やはりオルステッドも半ばあきらめているらしい。
計画が十年単位でずれるのはなかなか痛手だろう。
今回はいけるのだろうか…
─────
「このあたりで良いでしょう。」
馬とロキシーと共に家から離れた場所に来た。
今回はカラヴァッジョに雷を当てるヘマをしないで欲しいのだが…
「これから卒業試験を始めます。
ではルディ、よく見ていてください。私の魔力では一回が限界です。」
「となると試験内容は魔術の習得ですね。」
「ええその通り。しかも水聖級魔術の習得です。」
途端に空気が変わった。
ロキシーが魔力を貯めながら詠唱を…始める。
「雄大なる水の精霊にして、天に上がりし雷帝の王子よ!
我が願いを叶え、凶暴なる恵みをもたらし───」
ついに終わってしまう。
そしてロキシーは旅立ってしまう。
そう思ってしまうと涙が溢れ出す。
それと同時に雨の勢いも増す。
あぁ…いかん…このままでは姿が……見えないじゃないか…
「ああ、雨よ! 全てを押し流し、
あらゆるものを駆逐せよ!
キュムロニンバス!」
ザァァァァ!!
「さあ、次はルディの番です。」
「ッ…はい……!」
魔力を貯めて詠唱を始める。
「雄大なる水の精霊にして、天に上がりし雷帝の王子よ!
我が願いを叶え、凶暴なる恵みをもたらし───」
ロキシーが居なくなってしまう…寂しい…
悲しみで胸が張り裂けそうになるが、詠唱は止めない。
ここで止めてしまえば
何か裏切ることになってしまう気がする。
雨は止まらない。
目元をぐっしょり濡らしてもなお、
詠唱を始めてもなお。
「ああ、雨よ! 全てを押し流し、
あらゆるものを駆逐せよ!───」
詠唱は終わったが、ここで俺は"このまま"続ける。
「雄大なる光の精霊にして、天を支配せし雷帝よ!───」
瞬間、ロキシーの目が見開かれた気がした。
信じられない、まさか、という用に。
しかし目がぼやけてよく見えない。
これは俺がロキシーに対して贈る俺なりの感情、
讃美歌である。
何もしてあげられない馬鹿な弟子をお許しください師匠……
「そびえ立つ者が見えるか!
傲慢なりし帝の御敵が!
我は神なる剣にて、かの者を一撃に打倒せんとする者なり!
光り輝く力を以って、帝の威を知らしめん!
『ライトニング』!」
ビガァァン!!
耳をつんざくような雷鳴が鳴り響く。
───
終わった。
清々しい青空との対比に、俺の心は曇り模様だが不思議と悔いはない。
するとロキシーが抱きついてきた。
合格なのか…どうなのか…
「ルディ!!!」
「なんでしょうか…」
「会いたかった……っ……………会えて…っ良かったぁ………!」
心拍数が上がる。
そんな……ことが……っぐ……
「ロギシーぃ……っ!!!おれもッ…会いたがっだよぉ……!!」
「ありがとう……私のことを愛してくれて……っ!
私とまた再会してくれてっ………!!!」
「俺だって……!ロキシーと会えて……結婚できで…っ……
ロキシーとの子供をつぐれで…っ…一緒に過ごせで……
幸せだった!!ありがどう……ロキシー!」
ロキシーは記憶を取り戻した。
そして最後に話せなかったことを沢山話した。
そして再会を喜び合った。
雨はまだ、止まないみたいだ。
─前世の記憶のある人物─
・オルステッド
・リーリャ
・ロキシー