転生の間にも三年【異世界で成り上がる予定なので美少女達と事前準備(意味深)しまくります】 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
妖精の止まり木という宿は娼館を兼業している宿で、リアは最初怪訝そうな顔を浮かべたが、娼婦の女性達や働いている人達と話しているうちに、悪感情も薄らいできたらしい。
「なぁなぁデジ!」
「どうしたヒュース」
興奮したヒュース曰く、この宿は2年前、私達の領主になるケッセルリンク男爵とその奥さん達が寝泊まりしていたのだとか。
暇そうにしていた娼婦に話を聞くと、ヒュースの言っていることは本当で、ここの宿の娘はケッセルリンク男爵に娶られて子供を既に産んでいるのだと。
「出世のご利益があると言われて、この宿は大人気よ。まぁでも今回の移住でここの宿ごと移住になるんだけどね」
ケッセルリンク男爵は空間魔法の使い手で、建物とかを壊さないで移設することができるらしい。
ここ妖精の止まり木の主や女将も娘の近くで商売をしたいということで、この宿をケッセルリンク男爵に移設してもらって、働いている従業員も移住に応募するらしい。
「移住先ではただでさえ男が多くなるからね。娼婦としては稼ぎ時だし、稼げる人を旦那にしたいからね。町に残る子は既に退職や他の娼館に移動済みだしね」
娼婦でも色々あるらしい。
娼婦の方に聞けるだけケッセルリンク男爵の事を聞くと、まず職業差別とかは一切しない方だったと言っていた。
種族や外見的特徴で差別することは無く、能力主義的な感じもしていたので、何か売り込める腕があれば高く買ってくれるとも言われた。
あとは農民出身だから貴族の様な傲慢さは一切無い。
開拓ももしかしたらある程度やってくれている可能性すらあると付け加えられた。
嬢達の話を聞いている限りなかなか優れた人柄の可能性が高い。
気になるのは年齢がまだ12歳というところであるが、優秀な家臣も居るらしいので、そこは安心してよいとのこと。
「ずいぶんと内情に詳しいですね」
「いや、この宿はケッセルリンク男爵を泊めていた事から信用されて、男爵の家臣達がよく利用していたから情報が集まるのよ。それにミクっていううちの元受付嬢……この宿の娘さんが男爵の子供を産んだから、父親の店主と母親の女将さんも男爵家を訪れることが度々あってね。だから男爵が宿を出た後も内情に詳しいのよ」
「なるほど……でもそんな色々話して大丈夫なのですか?」
「いや、男爵の機密とかは喋ってないから良いんじゃないかしら? それに皆さん男爵がどんな人か知らないでしょ? 人柄を伝えるのも私達の役目だしね」
嬢の人にケッセルリンク男爵について教えてもらうのだった。
翌日、リアとヒュースと共に集合場所を確認したり、町の中の探索をしたりしたが、今までに嗅いだことの無い匂いがする店を見つけたのである。
お店の名前は鰻屋……うなぎを取り扱う店であるのはわかるが、私はうなぎに良いイメージを持っていなかった。
泥臭く、ネバネバしていて、川でよく取れるが、味はイマイチ。
腹持ちが良いので食べるには食べるが、ぶつ切りにしたうなぎを煮詰めて、冷やすと煮凝りが起こり、ゼリー状になる。
これにハーブや柑橘系の果実を絞り、食べるのであるが……腹持ちが良い代りにあまり美味しくはないのである。
いや、好き嫌いが分かれる料理と言った方が適切でリアは比較的好きな感じで、ヒュースは好きでも嫌いでも無いらしい。
ただいい匂いがするので中に入ってみると、うなぎが串焼きにされて焼かれていたのである。
ここの店では他にほうれん草と川海老の炒め物やだし巻き卵なる料理も作られていた。
あと酒が出されている様で、普通の雰囲気とは違う酒場でもあるらしい。
とりあえず小腹を満たすために、店主におすすめされたうなぎの蒲焼なるメニューを頼む。
すると目の前でうなぎがタレに付けられてから豪快に炭火で焼かれる。
タレが炭火に垂れると良い匂いが店内を充満する。
「はいよ! うなぎの蒲焼だ」
そこにはうなぎを1尾使われたかば焼きなる料理が出された。
一口食べてみると、ホロホロと口の中で崩れ、うなぎ特有の泥臭さも全くない。
「滅茶苦茶おいしいな! これ!」
「おう! ありがとうよ!」
店主もご満悦。
常連さんの話によると、この店のうなぎ料理も味はそこまで良くなかったらしいのであるが、ある時ケッセルリンク男爵がうなぎを食べに来て、店主にアドバイスをしてからどんどんうなぎの味が良くなっていったのだとか。
「男爵様には頭が上がらねぇよ! 町を救った英雄だけど、うちは店すらも救ってもらったからな!」
ちなみに人気メニューのだし巻き卵と各種炒め物も男爵が店主に授けたメニューらしい。
「うなぎを美味しく食べるコツは数日綺麗な水でうなぎを泥抜きすることだって知った時には驚いたね」
それで泥臭さはほぼ無くなるらしい。
結構な量を食べたが、値段は銅貨5枚で済んでしまい、この町の物価の安さに感銘を受ける。
そんなこんなで町の美味しいものを巡ったり、移住するのにまた長い間旅する必要があると聞いているので、旅に必要な品を集めたりしていると、あっという間に期限の日時へとなるのだった。
「こうして千人以上の人が集まると壮観だな」
「ここに集まった全員が移住者……男爵様がこんなに運べる馬車を用意できるのかしら?」
移住予定者達が町の西口に集まっていると、空中を飛んでいる人が現れた。
「ケッセルリンク男爵だ!」
「男爵様だ!」
ハーゲンシュタット出身の移住者達が浮いている人物を指差してケッセルリンク男爵であると叫ぶ。
すると頭の中に声が響いた。
『移住者の皆さん、初めましての方は初めまして……ナーリッツ・フォン・ケッセルリンクだ。今回は移住に応じてくれて嬉しく思う。これからの旅の行程を説明する』
ケッセルリンク男爵は念話の魔法で頭に直接語りかけて、移住の行程を説明してくれる。
男爵の説明によると、開拓予定地のステラリアという場所までは男爵の奥さんが作った乗り物に乗って移動するらしい。
予定では2日で移動するとのこと……そこまで1250キロもあると聞いていたから……1日625キロ……休憩も含めると時速30キロから40キロで移動することになるが、馬車でも時速12から15キロが限界だぞ……。
男爵様からの説明が終わり、その乗り物とやらに乗り込んでいくが、それはゴーレムと呼ばれる物だった。
ただ先頭に人型の体が付いていて、その後ろに箱型の胴体が伸びている。
箱の中に入ると座席になっていて、座ると思ったよりも柔らかい。
何だこれは……。
しかも嬉しいことに箱の中には個室の魔導具式のトイレが付いており、移動中に用をしたくなっても大丈夫そうである。
ただ外観は脚が無数に生えていて気持ち悪いが……。
ゴーレム1体につき10人が乗れるので、このゴーレムを男爵様が異空間から130体以上出して、並ばせると……うん、気持ち悪いな。
文句を言っても始まらないので、ゴーレムの中に乗り込んで、数分後、移動が始まるのだった。
揺れはほぼ無い。
多脚のお陰で衝撃が吸収されているのだろう。
窓から見ると、ゴーレムは凄まじい速さで動いており、普通の馬車の数倍早い。
それでいて中に乗っている私達の負担はほぼ無いのだから優れた乗り物であると言わざる得ない。
外見は酷かったが性能は高い。
リアは既に椅子に座って眠っており、私とヒュースはハーゲンシュタットの町で売っていた農業資料を読んでいた。
これから農業をして生活していかないといけないので、その知識はあった方がいいだろう。
一応男爵の話だと、農業に詳しい人も一定数集めたので、彼らに巡回してもらって指導させるという話であるが、どうなることやら……。
窓から移り変わる景色を見て、どんな生活が始まるのか、想像するのだった。