全部全部、わたしのせいにして。 作:皇という名字、格好良すぎないか??
計画の概要は、もうほぼ完璧に理解した。どういった流れで行っていくのか、どういうことが目的なのか、それがいつ始まるのか、それらをお父さんに全部言わせて、内容を掴むことが出来た。
これを聞いてなお、私にはこの計画が全部上手くいくとは思えなかった。だから改めて、私独自の計画を進めることを決めた。全部の罪を私に背負わせるっていうもの。
数年後、私は世紀の大悪党として日本中にその名前が知られるはず。普通に考えれば国家転覆罪で死刑。こうなってもおかしくない。でも決めたんだ。それが皆まとめて幸せになる最高最善の手段なんだから。
だからそのために、私は誰よりも強く在らないといけない。支配できる立場にいなきゃいけない。誰も届かない力を持っていなきゃいけない。
前に受けたエイリア石のブーストはかなりある。現状、このお日さま園で私に敵うのはいないって分かるくらいに。だけどそれは、皆がエイリア石を使用してないときの話だ。
お父さんに言って、エイリア石の研究に関するものを見せてもらった。そこには当然といえば当然のことが書かれてあった。
エイリア石の力を得れば誰だって強くなれる。これは間違いない。ただ問題は、全員が全く同じ強さになるというわけではないみたいだ。どうしてもその底には、元々持ってる力が関係してくる。
つまり、今どれだけ私が強かったとしても、元々私より強い人がエイリア石を持ったら、私はその人に勝てないということだ。
計画開始まで数年ある。それまでに元々の私を強くしないといけない。加えて、お父さんの計画の軸である"サッカー"。これも完璧にマスターしなきゃならない。その様子を誰にも見られずに。
そのため、私は近場にある富士の樹海で秘密の特訓をすることにした。基礎体力向上のための走り込み、安定してない樹海での道でのボールキープ練習、ボールを蹴って木々に反射させてそれをキャッチするキーパー練習など、一人で出来ることは何でもやった。
もちろん、闇雲に練習するだけじゃない。無理を言って今のプロ選手や同年代のトップチームの試合のDVDを見て、何をしているのか分析、動きの観察などのインプットもかなりやった。
そしてそのインプットした情報を使って、イメージで私以外の残り10人の選手と相手の11人の選手を作り出し、開けた場所で疑似的な試合を行ったりもした。最初はイメージも曖昧で全然練習にならなかったり、理想が高すぎて乖離が激しかったりしたけど、最近では比較的よく動けてきているほうだと思う。
「──ふぅ」
今日の特訓はほぼ全部終了。腕時計で確認すると、時間もちょうどいいくらい。いつも通りにちゃんと帰ろう。
全力で駆け抜けて、より早い速度で樹海を出る。ある意味これも特訓。早い方が、誰にも怪しまれないから。
出た後は、急いで着替えて普段の格好に。サッカーボールも一応カバンの中に仕舞いこむ。
そして……少しだけ憂鬱な気分になりながら帰路についた。
「……」
計画が始動し始めるまでは、皆の前では
これが少し……いや、かなりしんどい。
何も知らない頃ならよかった。何も考えずわたしのままでいることが出来た。でも知ってしまった。皆が酷いことに巻き込まれてしまうことを。
最後は全部私のせいにするとはいえ、一時的にでもそんな惨いことに皆を巻き込んでしまう。知っていながら、止められない。
「──う゛っ」
込み上がってくる。急いで近場の公園のトイレに駆け込んで便器に向かった。
「ぉえ゛ぇ゛ぇ゛……」
吐き出されるのは、多分胃液。固形物はない。すごく喉がちくちくする。
最近、ずっとこうだ。何か食べても、すぐに吐いてしまう。お腹に食べ物が入っていなくても、よくこうやって気持ち悪くなって吐いてしまう。
「はぁぁ……はぁぁ……」
吐き出したはずなのに、すっきりしない。多少は楽にはなれたけど、それでもまだ苦しい。
今すぐ楽になりたい。誰かに心をぶちまけて、すっきりしたい。
なんでこんなことしなきゃいけないの? なんでこんなことになったの? なんで、なんで……。
「……いや、それはいまじゃない」
無限ループしそうになったところに、両手で頬を叩いて無理やり冷静を取り戻す。
そうだ、嘆くのは今じゃない。全部終わってから、牢屋の中でやればいい。どうせここで色々言ったって何も変わらないんだから。
落ち着いて、思い出せ。私のすべきことは何? どうすれば皆が幸せになれる? あの日決めたでしょ? そのために生まれてきたんだって思うようにしたんでしょ?
「……だいじょうぶ。だいじょうぶ。うん、ぜったい、だいじょうぶ」
何度も、何度も唱える。段々と、心は落ち着いてきた。
今ここで誰かに怪しまれるわけにはいかない。これは全部私の責任なんだから。皆はただ、私を恨んでくれればそれでいいんだから。
「よし……」
ちゃんとトイレを流して、洗面台で手洗いうがいを何度もやって痕跡を消す。私はここでトイレをして、今手を洗ってる最中。それが正しい。
お日さま園に戻るまでには、いつものように戻らなきゃ。
「帰ろっと」
外は夕暮れ。そろそろ日が沈む。今日のご飯は何かな。ちゃんと全部食べれればいいんだけど。
お日さま園付近に到着。いつもみたいにそのまま自分の部屋に向かおうかと考えていた時、門の傍に誰か立ってることに気が付いた。
「あ、おかえり零ちゃん」
「ただいま……ってどうしたの二人とも。何でここに立ってるの?」
「あなたを待ってたのよ、零」
「……わたしを?」
何かやらかしたっけ? でも怒ってるって感じじゃないし、そもそも心当たりがない。昨日までこんなことなかったし……なんだろう?
「最近……ちょっと変じゃない? あなた」
「変……かな?」
「うん、変よ。だって最近零の洗濯物が急増したし、少し時間が出来ればすぐどっか行っちゃうし。おまけにどこに行くなんて誰にも言ってくれない。今日もどこ行ってたの?」
「あー……ちょっと近場を散歩してきただけだよ。洗濯物は、よくその散歩中に汗かくからさ、着替えも持って行ってるの。折角こうして元気になれたんだし、今まで出来なかったことをしてみようと思って」
「……ふーん? それを毎日?」
「ま、まぁね」
ちょっと苦しい言い訳かもだけど、最後の言葉のおかげでそこまで強く言い返せないはず。ずるいけど、これくらいは許してほしい。
でも、穂香ちゃんは本当に口が上手い。気が付けば言いくるめられちゃうかもしれない。やってることを絶対に気付かれないようにしないと。
これからさらに来る追及に備えて身構えていると、穂香ちゃんは軽くため息をついた。
「……ダメってわけじゃないの。むしろ言ってたみたいに、出来なかったことをやろうってのは良いことだと思うし、何でもやってみてほしいとも思ってるわ」
「それなら」
「でもね……私たちは怖いの。知らない内に限界が来てて、行った先で零が倒れちゃうなんてことが」
「……!」
そこで初めて気が付く。二人が私を見る目が、すごく優しい目になっていることに。
「あのね、零ちゃんが元気になってくれて凄く嬉しいの。一緒に遊べるようになったし、前よりイキイキしてるし。でも、それがまたいつ起きるか分からないでしょ……?」
「そう、愛の言う通り。完治したってわけじゃなくて、何故か元気になったから退院って形だったわよね? だから再発の可能性は全然残ってると思うの」
「……そう、だね」
今この身体は、エイリア石のお陰で健康体そのもの。だけどそんなこと今二人に言えるわけがない。
隠してしまってる罪悪感から、ちょっと心が痛む。
「だからせめて、どこに行ってるか、何をしてるかくらいは教えて? 零は元気で居続けてほしいの……!」
「お願い零ちゃん。あの苦しそうにしてた零ちゃんはもう見たくないの。皆も絶対そう思ってる。本当にお願い……!」
染みてくる。二人の優しさが。私のことを大事に思ってるってことが。
これから、二人にも酷いことをしちゃうのに。私のことを嫌いになっちゃうのに。
──こんなにも優しい二人の事を、皆の事を、わたしは裏切ってしまうんだ。
「零……?」
「零ちゃん……?」
「あれ……」
目の前が、霞む。擦ってみると水が付いていた。
──あぁ、わたし、泣いてるんだ。
自覚すると、さらに涙があふれだしてくる。止めたいのに、止まらない。
「──ごめんなさい」
口にしてしまえば、もう止められない。感情も一緒に溢れてきてしまった。
「ごめんなさい……ごめんなさ゛い゛ぃ゛……っ!」
「ちょ、零、どうしたの?!」
「えっと、ごめんね、ヒドイ言い方しちゃってたかなっ!? 怒ってたわけじゃないんだよ?!」
「えぐっ゛……ひ゛っく゛……」
言えなくてごめんなさい。心配させちゃってごめんなさい。この先ひどいことに巻き込んじゃってごめんなさい。優しくしてくれてるのに、裏切っちゃってごめんなさい。
どうか、許さないで。
「──あーっ! 二人とも、何マキの零泣かせてるのっ!!」
「あ、マキ助けてちょうだい! えっとね、これは泣かせたわけじゃないのよ?!」
「あのね、心配してるよってお話をしたら泣き出しちゃって……」
「え、それはそれでどういうことっ?!」
マキちゃん*3の声がする。近づいてきてくれてる気配がする。とても安心できる感じ。
──でもそんなマキちゃんでさえも、わたしは裏切ってしまうんだ。
「ねぇ零、あんた大丈夫……?」
「マ゛キ゛ち゛ゃ゛ん゛!」
反射的に、抱きしめにいった。
「ごめん、ごめんねぇ゛……ッ!」
「──あーもう! 大丈夫だから! よく分かんないけど許すから! ほら、よしよし──」
背中を優しく撫でられる。嘘でも許すって言ってもらえた。
本当に安心できる。いつまでもこうしてたい……。
ごめんねマキちゃん……。今日だけだから。本当に今日だけだから、これだけは許して。
これからのことは、どうか許さないでね。
──────
「……寝ちゃった、わね」
「うん、結構ぐっすり」
「……まったく、本ッ当にマキのこと大好きなんだから」
マキを抱きしめたまま、泣きつかれて眠ってしまった零。それにちょっと悪態をついてる風なマキだが、その目は非常に優しい。眠ってしまった今でも優しく背中を撫で続けている。
「ねぇ、本当に零に変なこと言ったりしてないよね?」
「するわけないじゃない」
「うんうん」
「だよね。……じゃあなんでこんなに泣いちゃったのかな」
その呟きには、誰も回答は出せなかった。少しの間、沈黙が場を包む。
そこに、零の泣き声を聞きつけてか一人の女性がその場に駆け寄った。
「どうしたの? 何かあった?」
「瞳子姉さん」
お日さま園の皆のお姉さん、吉良瞳子。ここの者よりも一つ抜けて年上のため、全員からこのように呼ばれており、慕われている。
「目が腫れてる……。あなたたち、零を泣かせたり──は絶対しないわよね。ごめんなさい、変なことを言ったわ。特にマキがいるならあり得ないわね」
「当然よ」
「何で泣いてたのか気にはなるけど……とりあえず、運びましょうか。このままここにいたら、風邪をひいてしまうわ」
瞳子が零を抱きかかえて部屋に運ぼうとしたとき──。
「あ」
「あら」
強く抱きしめてマキを離さない零。寝ているはずなのに、妙に強く抱きしめられている。
「……仕方ないわね。マキ、私と一緒にこの子を部屋に送ってもらってもいい?」
「はーい」
「愛と穂香、後でちょっと時間ちょうだいね」
「うん」
「わかったわ」
瞳子と一緒に寝ている零を部屋まで連れていくマキ。途中周りの人たちにちょっと奇妙な目で見られてはいたが、全く気にしていなかった。
「ねぇマキ。この子、どうしたの?」
「わかんない。二人が心配って話をしたら急に泣いちゃったんだって。んでその後マキが来たんだけど、そしたら抱きしめられて、ずっとごめんなさいって言われた」
「……心配かけてごめんなさいってことかしらね? それにしては大きすぎる気がするけど」
「うん、マキもそう思う」
部屋に到着。例の荷物をその場に置いてベッドに寝かせようとするが、やはり抱きしめる力が強くてマキから離れない。
「それじゃマキも一緒に寝る。多分すぐ起きると思うし、起きなかったらこのまま寝てるから」
「……ごめんね、マキ。また夕食の時になったら呼びに来るから」
「はーい」
二人でベッドに横になる形になる。瞳子が出て行って部屋には二人きり。軽く、マキは零の頭を撫でた。
「……マキ、秘密にされるのは嫌い。だから零、早く教えてよ?」
「全部、ちゃんと受け止めてあげるからさ」と付け加える。
ここで、一回あくび。気持ちよさそうに寝ている零に感化されたようだった。
そのまま夕食の時間になり瞳子が再び部屋を訪れるまで、夢の世界に旅立っていくのであった。
需要がある限り続けます