全部全部、わたしのせいにして。 作:皇という名字、格好良すぎないか??
──とうとう、始まってしまう。
その日の私は、とにかくもやもやし続けていた。元々毎日それを抱えてはいたけれど、今日は特にひどい。
このもやもやを忘れるために、太陽が昇る前から外に出ていつもの特訓に出ていた。いつもより激しく、いつもより速く、いつもより理想を高くした。特訓以外何も考えられなくするために。
だけどそうやって特訓はするものの、現実は何も変わらない。気が付けば、約束されてた時間まであと少しになってしまっていた。
もうすぐ、私は皆を宇宙人にする。
方法は前にお父さんにやったみたいな、エイリア石の力を使った洗脳。一人ひとりのこれまで歩んできた人生を殆ど全部、宇宙人という新しい要素で上書きする。
名前、人生観、使命、自分の立場など、矛盾が無いように書き換えなきゃいけない。それも他に悟られないために一気に、そして一人ひとりを丁寧にしていかないといけない。
──一時期だけとはいえ、皆の大切な数年間を、潰さないといけない。
「っ……」
罪悪感で心が痛む。同時にほんの一瞬──このエイリア石のことを、憎く思った。
「──っぁ」
思って、しまった。
「──ァァァいたいいたいたイ゛イ゛タ゛イ゛ィ゛!!」
全身を駆け巡る激しく鋭い痛み。脚、手、腕、お腹、胸、頭、全部が痛い。
立ち上がれなくなり、その場に転げる。しばらくの間、絶叫がこの森を包み込んだ。
「ゥゥ゛ゥ゛……ァァァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛……ッ!!」
頭がおかしくなりそう。だけどなんとか一つだけのことで頭をいっぱいにすることだけを意識した。
エイリア石を受け入れる。ただそれだけを。
「──ハァ、ハァ、ハァ……ッ!」
それにより、痛みは徐々に引いていった。
これが、エイリア石を深く受け入れた代償。強大な力と、洗脳能力を獲得した分受け持つことになった、私の罪の象徴。
私は、エイリア石を拒絶できない。一瞬でも、ほんのわずかでもエイリア石を嫌悪したり拒絶してしまえば、今みたいになる。深く浸透してるエイリア石がこれに反応して私を攻撃しているんだ。
「……ちがう。わるいのは、私。ぜんぶぜんぶ、私が悪い」
木に寄りかかってなんとか立つ。そして、そう何度も何度も自分に対して語り続けた。
──そうだ。悪いのは私。だってこうするって決めたのは私じゃないか。全ての元凶になるって、そのために力を得るって、決めたじゃないか。
倒れてる暇なんてない。皆の未来のことを考えて、私は皆から今を奪う。それが最善で、最高なんだから。
時計を確認。時間まで、あと少しになっていた。
「……いかなきゃ」
ここまで来たんだ。もう戻れない。なら、後は進むだけ。
──許してほしいなんて、そんな恐れ多いことは言わないよ。だけど謝らせて。
ごめんなさい。私はこれから、あなた達を少しの間上書きします。でもこれは本当に少しだけです。時期が来れば、ちゃんと終わります。
大好きだよ。だから、私全力を尽くすからね。どうか、未来では幸せになってね。
──────────
この日、お日さま園には吉良星二郎の名のもとに一つの通達が全員に対してなされていた。
──正午12時に全員体育館に集合すること。
体育館は、お日さま園内に存在する比較的小さめのもの。それでもこのお日さま園にいる子どもたち全員が入る程度の大きさはある。
ここは元々雨の日にも運動をしたいという子や、たまにある"皆で遊ぶ日"に使うために作られた場所だ。
「……なぁ、今日何かあったっけ?」
「さぁ。でも珍しいよな、"全員集合"だなんて」
「だよなぁ。オレたちに何か言う事でもあるんかな? 父さん」
このような会話がお日さま園の各グループから聞こえてくる。誰も何故集合するのか、何があるのかなど知らない。新しい子が来るんじゃないかとか、新しい職員でも来るんじゃないのかなど噂はされていたものの、結局結論がまとまることはなく時間だけが近づいてきている。
11時50分。そろそろ集合しておくかという時間となり、全員が体育館のほうへと向かう。ここで拒否しなかったり、何かあるんじゃないかと疑ったりするような者が現れないあたり、星二郎という人間は相当信頼されているのだということが窺える。
「……」
しかし、一人だけ入口のほうを見つめ続けて動かない者がいた。
「……ねぇマキ、そろそろ行きましょ? 遅れちゃうわよ」
「……でも、まだ零が帰ってきてない」
「そうだけど……」
"如月零"。それが彼女、皇マキが待つ少女の名前。この施設の中では『マキと一番仲が良い今は元気な女の子』として認識されており、実際マキと零が一緒にいる時間は誰よりも長い。
しかしマキばかりと遊んでるというわけでもなく、ちゃんと色んな子とも友好関係を築いており、一番幼げがあるということもあって可愛がられてる節がある。
ただ、最初はそうでもなかった。むしろ誰ともかかわろうとせず、常に一人で居ようとし続けていたのだ。
かつてはそうだった零に構い続けたのが、マキだ。マキ自身、何故構い続けたのかということに明確な答えは出せない。ただ、推測は出来た。おそらく、ムカついたからだと。
マキは皆でワイワイやるのが好きなタイプだ。加えてその中で、主導権を握りたい方でもある。自分の思い通りにことが運んで、皆で楽しくやることが好きなのだ。
しかしそんな中で一人で浮こうとしてて、そしてまったく楽しそうにしてくれないやつがいる。それが、許せなかったんだろうと。
だから、教えてやりたかったんだろう。一緒に遊ぶことの楽しさを。この楽しさを知らないで、面白くなさそうにしていた零の表情を崩してやりたかったんだろう、と。
きっかけはこのようであったが、接していくことでマキは段々と零のことをよく知ることが出来た。ただ、寂しかったんだと。もう一人にされたくないから、一人で居続けようとしただけだと。
マキは痛いほどその気持ちを理解できた。多少は違えど、このお日さま園に来た経緯は殆ど同じであったから。
その日から、零に接する時の気持ちは変わった。楽しませてやろうから、一緒にいてあげように。
その気持ちが伝わったのか、零はマキに懐いた。それはもう懐いた。めちゃくちゃ懐いた。懐きすぎて、マキがからかわれてしまうくらいには。
マキもマキで、零からのような剛速球の好意をぶつけられたことはなく、からかわれることで恥ずかしくは思っていたが、今では慣れたのか素直に受け止めることが出来ていた。なんだかんだで、零からの好意をマキも嬉しく感じていたのだ。
零が入院している時も、積極的にマキは通い続けた。寂しくさせたくないという思いがあったのだろう。時間が出来れば会いに行っていたほどだ。
正直、そこまでやっていれば懐かれるのは必然と言えるかもしれない。
「……こないわね、零」
「……あーもう! 朝からどこ行ってんのよ! バカ零!」
朝から外出してしまって今日まだ出会ってない零の愚痴を吐き出すマキ。
「……最近おかしいわよ、零」
そのままたまらず、ここ最近の零についてぽつりとこぼした。
「おかしいって……まぁ確かに変わったわよね。元気になった反動かしら?」
「ううん、違う。そこもだけど、そこじゃない」
「違う?」
マキのこの返しに、赤髪の少女──蓮池杏*1は再び返した。マキはこれに、答える。
「なんか……焦ってる感じ。薄々感じてはいたんだけど……。ねぇ、最近零が泣いちゃったこと覚えてる?」
「あぁあれね。ちょっとの間噂になってたわよ。愛か穂香かが泣かせたんじゃないかって」
「マキは選択肢に入らなかったんだ」
「そりゃあマキだしねぇ。それで?」
「うん、まぁそこで何か抱えてるなってのを確信したの。多分それに関して、めちゃくちゃ焦ってる」
「焦ってる、ねぇ……」
杏は考える。この時期に、何に対して焦るのかということを。だが、すぐには出てこなかった。
「一体何に焦ってるのかしらね」
「分かんない。それが分かったらこんなこと言ってないし」
「それもそうね」
苦笑する杏。長い間一緒にいてきたマキでさえ分からないなら、分かるわけないと結論の出したからだ。
「そんなに苦しいなら、誰かに相談してもよさそうよね」
「そうっ! そうなのっ! 相談して欲しいのにっ! 一人で抱え込んじゃうのよバカ零はっ!」
ばしばしと近場の物を叩きながら叫ぶように言うマキ。直後、ため息をついて呟くように続ける。
「……頼ってくれても、いいじゃない」
マキは悔しいのだ。長い間ずっと居てきて、親友と呼べるレベルまでになってきているはず。それなのに、自分を頼ろうとしてくれない。まだ零の中でそこまで自分は大きくないのかと、心が苦しくなってしまう。
時刻は11時57分。まだ零は帰ってこない。
「……マキ。そろそろ行かないと本当に遅刻しちゃうわ」
「でも……」
「後で内容を零に教えてあげましょ。そして、皆で説教しなきゃね。マキをこんなに悩ませてるのよって教えてあげなきゃ」
「……そう、ね。たっぷり教えてあげなきゃね。零は一人じゃないってこと」
「その意気よ。じゃ、行きましょうか」
「うん」
ようやく、マキは動き出した。少し駆け足で体育館へと向かい、とりあえず中に入っておく。職員からの指示で、大まかに5グループに分かれる形にされた。
奇しくも、各グループちょうど11人となっている。加えて、普段よく一緒に遊ぶような人や、すごく頼りにしてる人もいるけど、あまり絡みがないような人もいる。
なんでこのグループなんだろう? とマキは少し疑問を抱いた。もしかしたら単なるグループ分けで特に意味はないのかもしれないが、敢えてこう分けてるようにも感じられてならなかったのだ。
そんな時、自分たちの父である星二郎が体育館前方にある壇上に立つ。そのまま全員を見渡せる位置について、話し出した。
「今日は急な呼び出しだったのに、来てくれたこととてもありがとう。早速ですが、見てほしいものがあります」
裏のほうを向いてお辞儀をする星二郎。同時に、その裏からある人物が現れた。
「──零?!」
マキを始めとして、お日さま園の皆が知っている元超病弱で現在元気になりすぎている少女、如月零そのものであった。
周りがざわつく。なぜあそこに零がいるのか、これから何が起こるのか、今日零と出会えなかったのはこのためかと、様々な話題が飛び交った。
そんな中、マキは零の様子に違和感を持つ。
「(──なんで、そんなに泣きそうな顔してるの?)」
マキ以外が見ても気が付かないであろう程度には、無表情が作られている。しかしマキは見破れた。これも長い間一緒にいたからということも大きいだろう。
全員の前に立つ零。そのまま、掌を皆のいる方向へと向けた。
──突然、強い嫌な予感をマキが襲った。
何か、来ると。反射的にマキは零に手を伸ばしていた。
「零っ! やめ──」
次の瞬間、体育館全体は紫色の光によって包まれる。
それと同時に──お日さま園の全員は、上書きされてしまったのだった。
──────
「……さて、皆さん。私は一体誰でしょうか?」
『──はっ! エイリア皇帝閣下、ゼロ様でございます!』
「っ……よろしい。これより、私の部下であり、皆さんの上司である吉良さんから今後の訓練について通達があります。心して聞くように」
『はっ!』
──やってしまった。書き換えてしまった。
皆の目を見る。既に正気は感じられない。
敬語を使われた。まるで他人みたいに。
分かってた。覚悟はしてた。こうなるってことはお父さんのときに実際に体験したんだから。
あぁでも、なんでだろう。……お父さんのときに比べて、すごく苦しいなぁ。
需要……あるのかなぁ。