全部全部、わたしのせいにして。   作:皇という名字、格好良すぎないか??

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こうして彼女は己の力を確認する。

 あれから、私はあまり家にいないようにしている。

 

 それは私がゼロであるために、倒されるべきラスボスであるためにずっと鍛えているというのもあるけど、一番の理由は──皆が私をゼロと慕ってくるからだ。

 ……自分からしておいてではあるけど、どうしても苦しくなってしまう。

 

 だからと言って、一切帰ってないとかそんなことはない。近所の人や、あの時集合には参加していなかった瞳子お姉さんを含めた職員の人がまだいる。それらを一気に書き換えちゃうと『お日さま園』が変に思われちゃう。

 

 それは私も嫌だ。だから夜だけは帰って、今までと同じように皆と過ごしているように見せ掛けている。

 

 他の職員の人がいないときはゼロとして扱われるけど、それ以外は今までのようにしてという風に指示を出した、という感じだ。

 

 ……正直、苦しい。だって、演じている時の皆は皆じゃないから。

 

 あそこにいるのは、マキちゃんじゃないから。

 

 そんな状況に居続けると頭がおかしくなる。本当に狂ってしまう。だから、私は夜は帰ってくるにはくるけど、一人で部屋に引きこもるようになった。

 

 その結果、瞳子お姉さんから心配されてしまった。優しい声で話をしないかって言ってくれた。でも、私は瞳子お姉さんでさえも裏切ってしまう。それが苦しくて、会ったら絶対泣き出してしまいそうで、出ていけなかった。

 

 ……これが私の最近の生活。多分最後までこんな感じなんだろうな。ずっとずっと、心が痛い日常。

 これが終わるのは、捕まって死刑になるときだ。

 

 ──これは一旦置いておこう。あの苦しみは私の罪と罰だ。そんなどうしようもないことを考えても仕方ない。

 

 さっきも言ったように、最近の私はずっと外で自分を鍛えている。そこそこ順調におこなえているとは思うけど、一つだけ大きい問題がある。

 

 それは特訓を私だけでやっているということだ。

 

 特訓が捗らないとか、そういうことじゃない。以前からも一人でやってたけど、実力が着いてきていることは自覚出来ていたから。

 

 じゃあ何が問題なのか。それは……私はゼロとして相応しい実力を持てているのか? ということ。

 

 実力は上がってる。でもその実力は他の皆に比べてどうか? ()()()()()()特訓を既に始めているエイリアチームよりも上にいけているか?

 

 これが分からない。少なくともエイリア最強の称号──『ジェネシス』だったはず──よりも上にいないといけない。

 

 でも、今の実力の度合いが分からない。確認のしようがないんだ。

 解決方法がないわけじゃない。皆と一緒に特訓して、その実力を体験すれば簡単に知ることができる。

 

 でも今の皆とはやっぱり会うのはしんどい。集中出来ないだろうし、向こうも向こうで私を上司だと認識してるはずだからやりづらいはず。本来の実力は発揮できないかもしれない。

 だからこれは最終手段だ。

 

 なら他に方法はないかと考えた時──一つ思い付かんだ。

 

 それは、私たちと同年代の人たちで全国で名を轟かせてる学校。そこと私を比較することで把握出来るんじゃないかってこと。

 

 計画では最低ラインが全国クラスのチームに大差で勝ってしまえるくらいになることらしい。つまり、私が今最低ラインを超えてるかどうかくらいは確かめられるということ。

 

 ということで、最近各地を飛び回るであろうということで開発が進められてるサッカーボール型転送装置──通称『エイリアボール』のプロトタイプを貰ったから、それを使って全国規模のチームのところに言って簡単な勝負を申し込んでみることにした。

 

 だけどここで一つある問題に直面する。

 

 ──どこに行けばいいだろう?

 

 パッと出てくるのは全国大会優勝学校である帝国学園。だけど帝国学園が得意としているシュート技は三人技『デスゾーン』。つまり勝負をしてもらうには三人の選手が必要になる。いきなり訪問してそこにデスゾーンを撃てる選手が揃ってることなんてあんまりないだろう。

 それ以外はオールラウンドな学校だし、私自身オールラウンダーにならないといけないから、本来ならここに行くといいんだろうけど……まずは本来のポジションであるキーパーとしてどこまで来ているのかを知りたい。

 

 つまり最初は、全国クラスで強いシュートを出来れば個人で打ってくれそうな選手と勝負をしたいということ。そんな選手は確か帝国にはいなかった気がするから一旦候補から外した。

 

 次に注目したのは──『豪炎寺修也』という選手。木戸川清修って学校にいるみたいで、まだ噂の規模は小さいみたいだけど、『炎のストライカー』って呼ばれるみたい。

 

 なら、その人にしよう。一人だけのタイミングを見計らって勝負すればいい。正直あんまりまだ私という存在は世に広めたくないからね。

 

 エイリアボールの使い方はさっき説明を受けたから大丈夫。

 

 さあ、行こう。今日の結果次第では、私の計画を練り直さないといけなくなるんだから。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 部活が終わり、各々帰宅する時間帯。空は既に夜と言ってしまっていいほど暗くなってきている。彼の通う木戸川清修は全国大会出場常連学校だ。所謂強豪校の一つである。故に、練習時間がここまで長くなることは自然なことであった。

 

 あまり人のいない道を歩きつつ、自宅を目指していく。

 いつもの帰り道。いつもの風景。今日の晩御飯は何かといういつもの想像。

 

「こんばんは」

 

 そんないつものは、突如現れた来訪者によってかき消された。

 

 目の前に現れたのは黒いローブを被った存在。声からして、女子であることは把握できる。

 

「豪炎寺修也さんですね?」

「……お前は?」

「私はレイと申します。『炎のストライカー』さんに一つお願いがありまして」

 

 レイと名乗った少女はどこからかサッカーボールを取り出し、豪炎寺の方へと差し出される。

 

「実は、最近サッカークラブに所属しまして。キーパーをやらせていただくことになったんです。

 そこで、今の私の実力がどこまであるのか知りたくて」

「……」

 

 だからシュートを打って欲しいと言外に伝えるレイ。理由は本人から告げられたものの、同じチームメンバから打ってもらえばよいことや、そもそもなんでそんな格好なのか等、怪しさは拭えない。

 

「悪いが疲れてるんだ──」

「断られたら場合、今日から毎日、色んな時間帯に同じことを言いに来ます。あなたが了承してくださるまで。私はしつこいですよ?」

 

 適当に言いくるめて帰ろうとしたが、レイによって、脅しのような何かを喰らう。

 毎日、突然声をかけられる。しかもランダムな時間に。かなり面倒なことになったと豪炎寺は感じた。

 

「一発だけでよいのです。これを受けてくだされば、もう二度と来るつもりはありません」

 

 たった一発。それだけでこの面倒事からは解放される。今はサッカーに専念したい思いがあり、余計なノイズを消せるならば、この話は受ける方が良いだろうと悟る。

 

「……一発だけだ」

「えぇ、十分です。では場所を移しましょうか」

 

 その言葉を待っていたかのように、レイはまたどこからか別のボールを取り出す。黒いサッカーボールだった。

 

 突如そのボールが怪しく光り出す。眩しいのあまり視界が奪われ目を閉じてしまう豪炎寺。

 

 そして気が付けば、先ほどまでいた木戸川清修のグラウンドに立っていた。

 誰もいない、1対1の状況だ。

 

「……?! ここは」

「ここなら普段のように打てるでしょう? さあ、お願いします」

 

 豪炎寺の足元には普通のサッカーボール。顔を上げた先にはゴールと、その前に立つレイ。構えは普通だ。どうやらキーパーであるということは本当らしい。

 

「……」

 

 何が起こってこうなっているのか、流石の豪炎寺でも完全に把握できていない。分かるのは、自分が厄介な存在に目を付けられてしまったということだけ。

 

 だが相手がお望みなのは自身のシュートのみ。……ならば、全力で打ってやろうという気持ちになった。

 

 驚かされているだけなのは癪。ならば逆に、シュートで相手を驚かせてやろうという魂胆だった。

 

 その口ぶりから、レイは豪炎寺のことをある程度把握していると見ていいだろう。だが、それはデータ上だけのもののはずだ。だからこそ、実際にシュートすることでその力を分からせてやろうとしているのだ。

 

「いくぞ」

「えぇ、いつでも」

 

 疲れがあることは事実。しかし、目の前のレイを見返したいという気持ちが勝っていた。

 

「ッ……!」

 

 ボールを上空に蹴り上げ、それを追いかけるようにして空中で回転をしつつ跳ぶ。

 

 その時、足先には炎が生成されてきていた。

 

 回転の勢いをそのまま乗せながら炎と共に──放つッ!!

 

「『ファイア……トルネード』ッッ!!」

 

 これぞ豪炎寺が炎のストライカーと言われる所以。彼そのものを示す代名詞のような必殺シュート。

 

 非常に洗練されていると言ってもいいシュート。疲労度によってパフォーマンスが低下しているとは思えないほど完璧に近い。

 

「……ッ」

 

 それを受けるのはレイ。ローブに包まれてそこまではっきりとは見えないが、どこか不安そうな表情に。

 

 必殺技を使わなければ受け止めるのは難しいであろうこのシュート。これをレイは──

 

 

 ──パシッッ

 

 

「え」

「なっ」

 

 受け止めた。

 ただのキャッチで。

 

 シュートを打った豪炎寺は勿論、それをキャッチした本人であるレイでさえも困惑気味の声を漏らした。

 

 しばらく互いにその場で固まって動けないという状況。

 そんな中、いち早く回復したのはレイだった。

 

「──あ、ありがとうございました。お疲れの中相手をしていただき、感謝を申し上げます。

 では私はここで」

「──! 待て、お前は──」

 

 再びやってくる怪しい光。それに包まれた豪炎寺は……いつの間にか元いた場所に戻っていた。

 

 当然ながら、レイという少女はどこにもいない。

 

 一瞬夢だったのではないかと疑ってしまうほどに、全く同じ場所にいる。

 しかし帰宅の最中以上の疲労感、高揚具合、そして何よりはっきりと残っている先ほどの勝負の記憶。

 

 以上から現実であると判断した豪炎寺。次の瞬間彼はたった一つの感情に襲われる。

 

「……止められた、か」

 

 それは悔しさ。

 名も知れない選手で、しかも自慢のシュートを必殺技を使わずに止められた。

 

 そして興奮。

 自分の世界は狭かったのだと、自分が必殺技すら引き出せない選手がいたのだと。

 

「……俺も、まだまだだな」

 

 己を鍛え直すことを決意する。

 そしてもう一つ……決意。次は、決めてやると。

 

 これを機にして豪炎寺は、今まで以上に特訓に励むのだった。

 

 

 ────

 

 

 ……なんか、思ってたよりもあっさり取れてしまった。

 

 自分でも驚いてる。見た目は強かったのに、いざ相対すると簡単にいけてしまった。

 

 疲れていたのだろうか。いやでも結構驚いてたし、あの時の全力だったっぽい。

 

 そうなると、力は順調に付けられてるということでいいのかな。

 

 ……いやでも、まだまだ安心できない。何せまだ一人でしか試してない。

 

 もっと何人か、それこそ全国を巡って強そうな人と勝負すれば分かるはず。

 

 だけど、今日の結果は──かなりほっと出来るものだった。

 

 何せ、私の向かっている道は正しいんだって理解出来たから。このまま進んでいいと教えて貰ったから。

 

 まぁとはいえ、ここで安心しても皆がそれ以上になってるかもしれないから、結局何れは皆の強さも確認しないといけない。

 

 ……嫌だなぁ。

 

 計画開始まで時間はある。だけど、逆に言えばそれだけしかない。

 

 これを考える度にもやもやが私を支配する。なんでこんなことに、なんて思考になる。

 

「……マキちゃん」

 

 でも皆との時間を、マキちゃんとの日々を思い出すだけでやる気が出てくる。

 

 これからのことを全部私のせいにしてくれれば、皆は皆として生きていける。

 

 それだけでいい。それを想像すれば……今の苦しみなんてどうでもいい。

 

 ただ、進めていくだけだ。今のところ順調。何にも変更してなくていい。最善を歩んできている。

 

 ──全ては、皆の未来のために。




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