全部全部、わたしのせいにして。 作:皇という名字、格好良すぎないか??
その変化は連鎖的だった。
病弱として入院していた如月零の急激な回復、そこから数週間しない内に毎日始まった零自身の朝から夕方までの散歩、そしてある日を境にしたお日さま園全員に対する違和感と零の引きこもり。
絶対に何かがあった。お日さま園に姉的存在として位置している瞳子はそう感じていた。
しかし誰に聞いてもその内容を話してくれないし、まるで何でもないかのように振舞っている。だが、その様子が顔にどこか面を張り付けて演じているようで、どうしても違和感が拭えない。
それこそ、皆が突然誰かと入れ替わってしまったかのように。
零に至っては最近あって話すことができていない。なにせ、部屋から出てきていないようから。食事を部屋の前に置いているが、食べている痕跡もあまりない。少しだけ食べて残している様子。思い切って部屋に押し入ってみたが、出掛けていた。夜になると帰ってきているようで、そこに関しては安心しているのだが。
お日さま園のメンバーの中で、最近顔を見ていないのは零のみ。そのため零まで変わってしまったのではないかと心配になりよく様子を見に行くようにしていた。だが、出て来てくれない。何度も話をしようと、顔だけでも見せて欲しいとお願いしたのにもだ。反応すら返さない現状。
何より、零が──誰かがこんな事態になれば必ず皆心配するはずだ。零がこうなれば、少なくともマキは放っておかないはずだ。なのにマキや皆は人が変わったかのように振舞う。何故零の心配をする必要があるの? と言わんばかりにだ。
今のは一例でしかない。他にも何があったのかと言わんばかりの変化は山ほどある。
少しの間仕事でお日さま園を離れていた瞳子でさえこんな異例な事態に気が付くのだ。ならば、ずっと近くで見ていた職員やその上司であり、皆の父である吉良星二郎が気が付かないわけがない。瞳子はすぐに直談判をしにいった。
今のお日さま園はおかしくなっている。私たち大人がなんとかしなきゃならない、と。
しかし、星二郎は瞳子の想像と正反対の回答をした。
『何を言うのです、瞳子。彼らは「ハイソルジャー計画」の要。是正などしなくても、これが正常でしょう?』
『……は?』
『……そういえば、まだ瞳子には話していませんでしたね』
そこから、星二郎は瞳子に語った。
そのために宇宙人として彼らを扱い、そしてこの世界を征服しようとしていることを。
『──瞳子、お前も感じているはずです。兄を──ヒロトを奪ったあの事件を事故として片付けられた時の怒りを。
その復讐の機会を、エイリア石を、ゼロ様が与えて下さった。提案してくださったのです。素晴らしいものであったでしょう?
計画はもうすぐスタートする。さあ瞳子、お前も我々と共に──』
『──ふざけないでッ!!』
思わず瞳子は叫んでいた。
気持ちは痛いほど理解できる。唯一の兄なのだ。優しい兄で、大好きだったのだから。
しかしだからといって、実の弟や妹のように思っていたお日さま園の子らを復讐の武器にするのは間違っている。この場で真っ当な感覚を持っている唯一といってもいい瞳子だからこそ、意見することが出来た。
『間違ってるッ! 父さんのやろうとしていることはッ!
ねぇ、一体何がどうしちゃったの?! あんなにあの子たちを大事に思っていたじゃないッ! なのに、急に人が変わったかのように──』
そこまで言いかけて、気が付く。この計画が、誰かから星二郎に提案されたものであるということに。
"ゼロ"。星二郎の口から告げられた謎の存在。曰く、計画の提案者であり、力を分け与えてくれた者。
本来星二郎は優しい性格だった。怒り自体はあっただろうけど、お日さま園の皆と接する中で薄れていたはずだった。
なのに、怒りが再浮上してきている。おそらくそれを焚きつけて、その方向に流した者こそが──ゼロだ。
瞳子は確信する。今回の事件及び計画の全ての発端はゼロという者の仕業だと。
何が目的なのか、どうしてそんなことをやったのかは不明。
ただ、星二郎を含めた周りの職員らが誰も現状に触れようとしてないこと。そして星二郎が告げるゼロという存在に対する賛美。これが答えであろうと瞳子は感じ取った。
『……瞳子?』
おそらく、ゼロに星二郎たちは洗脳されている。ゼロが一緒に持ち込んできたらしいエイリア石によるものなのか、巧みな話術なのかは分からない。
とにかく、ゼロという存在によって、今がもたらされていることだけは確かであった。
『──いえ、何でもないわ。父さん。ちょっと考えていたの。父さんの言うことが正しいって』
『! そうですか。良いことです。では瞳子も計画に参加するのですね』
だが、情報が無さすぎる。何をどうすればいいのか、そもそも"ハイソルジャー計画"とは一体何なのか、ゼロとは何者なのか。
いきなり敵対してしまえば、これらの情報は得られない。だから今は──今は従う。
いつかこの計画を止める。そのために。
『えぇ。私が間違っていたわ。復讐のために……私に出来ることは何でもやるわ』
心にもないことを口にしてしまったことを、今でも後悔している。
何せこの発言は、あの子たちの裏切りになるのだから。
『だから父さん。教えてほしいの。全てを』
だけど、顔には出さない。
全ては、この計画を止めるために。
──そして今、調査を進めていく上で、瞳子は色々と情報を知った。
計画で何をどのような形で進めていくのか。そのために今何を実施しているのか。
……ゼロの存在が全ての元凶になっていることが。
計画の要であるエイリア石をもちこんだのも、計画を提案したのも、そのためにあの子たちを利用しようと提案したのも、全部ゼロ。今こうして計画が動いているのも、ゼロの存在があることが大きい。
ゼロさえなんとかできれば、星二郎を止められる。そう思えてもおかしくないほどに、存在感を醸し出していた。
情報収集開始から半月は経っている。しかし瞳子はまだゼロに会えていない。いつか行うべき革命の準備を進めつつも、未知数であるゼロを無視できない。どのような容姿で、どのような力を持っているのか不明なのだ。最低限、持っていなきゃいけない情報だ。
だが、ゼロは中々姿を見せない。星二郎と時折会話をしていたり、研究所のほうにいることもあるようだが、内容及びその様子は誰にも公開されていない。
これまでの前提が全て崩れるが、そもそもゼロは存在していないのではないかと思えてすら感じ始めていたその時、瞳子はある提案を星二郎から受けた。
「そうだ、瞳子。明日はゼロ様が、あの子たちの訓練をしてくださるそうだ。いつものロボットたちはしまっておきなさい」
お日さま園の子らは現在、基礎訓練やロボットとの疑似対人戦を実施している。瞳子はお日さま園の子たちの訓練を管理する立場にあった。なお、訓練方針はゼロと星二郎が定めている。瞳子はその通りに出来ているか、そのためにすべきことは何かなどの管理者の立場にあった。
故に瞳子にその話が来たのだが……これを瞳子は好機と捉えた。
「……ゼロ様が?」
「えぇ、大変喜ばしいことです。お忙しい中、あの子たちが目指す指針を、自らがお示してくださるのですから」
「……そう、ね」
ようやく拝める。その姿を。
全ての元凶。諸悪の根源。歯車の歪み。それをようやく確認することができる。瞳子は内心喜びに包まれていた。
だが、油断は出来ない。
初めての邂逅だ。ゼロのもつすべての力は見られないと思うべきである。あくまでその一端を覗き見ることが出来れば御の字だろう。
加えて、ゼロは相当の切れ者であると考えられる。なにせ、瞳子の父、星二郎を復讐の鬼に仕上げたのだから。
下手な言動、様子を見せれば瞳子の本心に勘づく可能性すらある。
仮面をより厚くしなければ。一層瞳子の気が引き締まる思いであった。
しかし想像してしまう。どのような姿をしているのだろうか、と。
恐ろしい形相なのだろうか。それとも、どこかうさん臭さを感じる見た目であったりするのだろうか。
相手は宇宙人だ。どんな姿をしていてもおかしくないはずだ。驚くことはないだろう。
そう、思っていた。実際に対峙するまで。
「皆さん、今日はゼロ様が皆さんの相手をしてくれます。くれぐれも、失礼のないように」
「……よろしくお願いします」
驚く、なんて生優しい表現では済まされないほど、瞳子の内心は困惑で溢れかえっていた。
──零?
常に冷静でいるつもりの瞳子から、思わず声が溺れてしまったのだから。
──────
お日さま園の皆がトレーニングを始めて、少し経った。サッカー経験者もいれば未経験者もいたから、しばらくは基礎練習をすると指示していた。お父さんは、早くエイリア石を与えて、それに対してトレーニングすればよいと思ってたみたいだけども。
だけどそこは止めた。「エイリア石を使うには早すぎる」という、一部嘘の理由を交えて。
エイリア石は、使う者が強ければより力を発揮する。つまり、器が大きければその分エイリア石からの力を受け取りやすくなるということ。
だけどこれはちょっと違う。別に早くエイリア石を使っても力は手に入る。確かに器が大きければ力もより得られるけど、それはエイリア石を使った後にやってもいい。
それでもエイリア石を使うことを躊躇った理由、これはただの我が儘。
──出来れば使ってほしくないという、ただそれだけの。
エイリア石とは、力を手に入れる代わりに契約をすることになる。"何か"を引き換えに力をくれる。それが心なのか身体なのか、はたまた両方なのか……それは分からない。少なくともわたしの場合は両方だった。ただ、一個の例だけで全体を言うのは難しいから、必ず皆がそうだと判断は出来ない。
だからせめて……その契約をわたしが全部背負えるようになるまでは、使わせたくない。もう少し鍛えなきゃいけないから、まだ使わせるつもりはない。
なんだけど……お父さんは「そろそろ良いのではないか」と時折言ってくる。私の首を縦に振らせたいみたい。今日の私が参加するトレーニングもその一環。既に器は出来上がったというアピール。
確かに、皆はかなり強くなった。
今の私の全力の5%ほどを模倣したロボット相手に、大分やれるようになってたのだから。多分余裕でFFの全国優勝は出来ると思う。
だけど、まだまだだめだ。まだ使わせるわけにはいかない。
答えは変わらない……だけど、皆の様子を見てみたい。
だから、引き受けた。ここで改めて力を見せることで、わたしの計画がやりやすくなるとも思ったから。
そんな中臨んだトレーニング。てっきり皆とお父さんだけかと思ってたのに。
──瞳子、お姉さん。
決して声には出さなかった。だけど、驚いてしまうには十分過ぎる人がいた。
何故なら……瞳子お姉さんは、私が唯一この中で
そろそろ需要あると思ってもよさそう……?