スティル鬼つええ!このまま逆らう奴ら全員ブチ抜いていこうぜ!   作:スティル可愛すぎるインラブねぇ

4 / 6
ネオユニヴァースちゃんをエミュるために言語プロセッサをclear upしてたら年が明けてました。
途中急に喋らなくなりますがお察しください。 
ステイゴールド(馬)の戦績見たりステイゴールド(ウマ娘)のシナリオ見ながらDiggy-MO' のSTAY BEAUTIFUL聴くと涙出てくるのでオススメです


がーるずとーく、お引っ越し

「……ごちそうさまでした」

 

寮での夕食を終え、食器を返す。……食堂にはまだまばらに人が居る。こんなのは初めてだ。いつもは一番最後に食べ終えることがほとんどで、もう全員食べ終わったであろうと私の存在に気付かず別の場所で作業に入ってしまった寮母さんや当番の人に代わり、自分で食器を洗うことさえあった。

 

「……アゴって、疲れるのね……」

 

両頬の下を軽く揉みながらひとりごちる。なるほど、確かにこれはトレーニングの一環だ。……明日の朝は時間に余裕があるし、いつも通りのペースで食べよう。そう考え部屋に戻ろうとすると、角の席に座りぽやーっと電灯を眺めているルームメイトの姿が目に入った。昨夜部屋に戻った時には、声をかけて返事が無かったらどうしよう、とまで思わせるほどの静謐さで既に眠っていたので起こすのは憚られ、今朝目を覚ました時には既に彼女の姿は部屋になかった。そのため、お礼も謝罪もし損ねてしまった。彼女はなかなか神出鬼没なところがある。……いつも散々お世話になっているのに、不義理を働いてしまった。彼女の視界に入るように右手を軽く上げてから声をかける。

 

「あの、ネオユニヴァースさん。こんばんは」

 

彼女は少し驚いた顔をした後、柔らかな笑みと共に挨拶を返してくれた。

「……こんばんは。スティルインラブ」

すぐに、彼女の眉がハの字の形をとり、耳がぺしょりと垂れる。

「……ネオユニヴァースは、あなたに『謝る』をするよ」

 

「え?」

 

「あなたの、時間外の”EVA”……船外活動を幇助したのは、間違いだった。……外で、1人でぐったりしてたって……ごめんね」

 

……?彼女の話し方は独特で難解だが、たぶん、私が寮を抜け出した事を言っているのだろう。

 

「い、いえ!私の方こそ、いつもろくなお礼もせずに貴方の厚意に甘えてしまって……あの、やっぱりフジ先輩に怒られましたか……?」

 

「……”CPTN”……すごく、こわかった……”ABSS”……」

 

青ざめてぷるぷると小刻みにふるえている。……彼の取りなしが無ければ、私も彼女と同じ恐怖を味わう事になっていたのだろう。私など、ほんのちょっと圧をかけられただけでアイスを置いて辞去しようとしてしまった。

自己嫌悪と罪悪感が強まる。

 

「本当に申し訳ありません……責めを負うべきは私だけだったのに……」

 

沈黙が場を支配する。……彼ならきっと、彼女とも上手くコミュニケーションを取ってこの場を明るくできる。……彼ならどうするだろう?……そうだ、アイス。そう言えばフジ先輩もあれを分けると良いと言っていた。……そうやって食べるものなのだろうか?

 

「ええと、その、甘いものはお好きですか?」

 

「? アファーマティブ」

こくり、と頷いてくれた。肯定、でよいはずだ。

 

「少し、待っててくださいね」

 

共用の冷凍庫までぱたぱたと駆けて、扉を開ける。扉のポケットに、ピンクのウサギのクリップで口を止めてあるアイスの実を発見した。軽く笑んでクリップを外し、ドアの前面に貼り付けて彼女の元に戻る。

 

「これ、よろしければ一緒に食べませんか?私は昨日初めて頂いたのですが、とっても美味しくって。残り物で申し訳ありませんが。……また改めて、ちゃんとしたお礼をさせていただきますね」

 

袋の口を彼女に向けて差し出す。

 

「……いただきます」

 

彼女はオレンジ色のものを一つ取り出して暫し眺めた。

 

「……"MARS"……」

 

ぱくりと口に入れたあと、むぐむぐと咀嚼を始める。

ごくん。と飲み込み、

 

「スフィーラ」

 

と呟いた。表情から察するに、お気に召したようだ。

 

「ふふ、良かった」

 

自身も一つ取り出し口にする。……驚いた事に、色によって味も香りも違うようだ。今度、人が多い時にコンビニに行ってみよう。私の影の薄さは機械にも通じるようで、自動ドアを通るには誰かと一緒に入る必要があり、出る時も同様である。昨夜のような人が少ない時間帯に1人で行くのは、入れないだけならまだしも、閉じ込めの危険がある。

 

「……今度の”EVA”には、『わたし』も同行する。……『頑張る』をして、夜間も活動を継続するよ」

 

「……ありがとうございます。でも、もう大丈夫なんです。今度我慢できなくなった時は、私のトレーナーさんにお願いする事になると思います」

 

「……!……おめでとう。あなたが、よい”軌道”に乗る事を祈るよ」

 

「ふふふ、ありがとうございます。……ちょっと、変わった人なんですけどね。貴方と同じようにあの子を怖がらないどころか、一方的に捲し立てて説教を始める始末で……」

 

「……エキセントリック、だね」

 

「まぁ!うふふふふ!……でも、なんだか温かくて、楽しい人なんです。本当に不思議……」

 

 

 

「…………あなた、スティルインラブ、なのよね?……双子だったりする?」

 

胸に手を当て彼のことを思い返していると、横から突如第三者の声が降ってきた。

 

 

「わっ、オースミハルカさん?その、こんばんは……」

 

「ハル。こんばんは。……スティルインラブは、”GMNI”では無いよ」

 

「……こんばんは。ユニさんが誰かと話してるなんてちょっと珍しいと思って近づいてみたら、まさかあなただったとはね。今日はどうも。かんっっっぜんに負けたわ」

 

彼女は隣の椅子にガタリと腰掛け、顔を近づけて睨め付けてきた。

 

「次はわたしがかんっっっっぺきに負かすからね。そこんとこよろしく。……あなた、ティアラ路線?それともマイラー?」

 

「……ティアラ路線です。そして、ただの一度も負けるつもりはありません」

 

一歩も引かずに彼女の顔を見つめながら、軽く微笑みそう返した。……インではなく、私がやった。私にこんな事ができるなんて、と我ながら少し驚いていると、彼女は表情を緩め、椅子に深く座り直した。

 

「わたしもティアラ志望よ。ふふ、再戦の機会は早い上に多そうね。良かった良かった。あ、ごめんねユニさん割り込んじゃって。お、アイスの実。ちょっともらって良い?今度わたしもなんか買ってくるわ」

 

無言でじっと私の目を見るユニヴァースさん。

 

「? ああ、あなたのだったの。いい?」

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがと。ありゃ……最後の一個だった」

 

「ええっ!?」

 

「あはははは!めっちゃショック受けてる!まぁもらうけどね」

 

「……ごめんなさい。”ミューテフ”の高まりを『観測』していたら、手が止まらなくなった」

 

「い、いえ、良いんです。そもそもユニヴァースさんへのお礼のつもりでしたから。すみません大きい声出しちゃって……」 

 

「……ところで、他寮の人ってこっちきて良いもんなの?ダメとは聞いた事ないけど、見た事ないし。良いならわたしも今度そっちに遊びに行こっかな」

 

「……え?あ、その、私、栗東寮で、ユニヴァースさんのルームメイトです。……あと、貴方と同じクラスです……」

 

「…………嘘ぉ!?」

 

「その、私、影が薄くて」

 

「そ、そんな問題ぃ?いや、よく見たら確かに見覚えが……って隣の席じゃないの!マジで?!……あっ!もしかしてたまにいつの間にか教室のゴミ出し終わってたり黒板めっちゃ綺麗になったりしてるのってあなたの仕業?」

 

「ええと、はい。多分……」

 

「どうもありがとう! でもね、振られた役割や領分ってもんがあるんだから、黙ってやるのはよくないと思うわ。……なんか、妖精さんの仕業だ、とかほぼ怪奇現象扱いされてたし、慣れたらみんなサボるようになっちゃうわよ」

 

「か、怪奇現象……!でも、私、役割決めの時に参加出来なくて、無役なんです。だからと言って、クラスのために何もしないでいるというのは……それに、黙ってやったわけではなく、日直の方に気付いていただけなくて……」

 

「……全員にそれぞれ割り振ったはずなのに美化委員が何故か空欄で、私が学級委員と兼任してたのよね……あなたに譲るわ。……あなた、クラスで自己紹介をちゃんとやり直した方が良いわね。たぶんほとんどの子に存在を認識されてないわよ」

 

「い、いえ、私、あまり目立つのは……」

 

「限度ってものが有るでしょうが!あなたにお礼言いたがってる子、きっとたくさんいるからちゃんと受け取っときなさい!それに、わたしを負かした奴がクラスに居るんだか居ないんだか分からないウマの骨とかそんなの許せるかぁ!」

 

「は、はい。わかりました。……月曜日、みなさんに私の顔を覚えてもらう事にします……」

 

「ごめんなさい。わたしも大声出しちゃった。……わたしを負かしたのはなんとあの妖精さんでしたってみんなに紹介するわ。……ふふ。いけ好かない高慢ちきに宣戦布告するつもりだったのに、なんか友達できちゃったわね」

 

「……え?……友達……?」

 

「なによ。……い、嫌なの?……さすがに、……それは、傷つく……」

 

後になるほど言葉が震え、うるうると彼女の鋭い目尻に涙がたまっていくのが見えた。

 

「い、いえ!そうではありません! ただ、驚いて……」

 

「……レースの時とは、ほんとに別人みたいね……」

 

「……その、お強い方と走ると、ああなってしまうんです。……ごめんなさい、不快な思いをさせてしまって……」

 

「!……ふ、ふ〜ん。……二重人格ってやつ?ほんとにいるんだ。まぁ、ギムレット先輩やオペラオー先輩みたいに常時ああなよりはいいんじゃない?見ようによっちゃあ、ちょっとカッコよかったし。……なによ。目まんまるにして」

 

「……私と一緒に走った方に、そんなふうに言われるのは初めてで……」

 

「? 今まではなんて言われてたの?」

 

「……その、気持ち悪い、とか、もうあの子と一緒に走りたくない、とか……」

 

「はっ。なにそれ。つまんない奴らと走ってたのねぇ。……え?それであの強さ?ヤバ……」

 

「え、ええと、恐縮です……」

 

「……一応ね、一応聞いておきたいんだけど、今日のレースのあなたの減速、わざとじゃないのよね?」

 

「……はい。あの子、インが出てくるのを抑えようとしてしまって、それで。私のトレーナーさんには抑えないようにと言われていたのですが……」

 

「な、名前があるのね。……強い人って大体キャラ濃いなぁ……わたしもなんかあった方がいいのかしら……」

 

私とユニヴァースさんの顔を交互に見ながら自信なさげにそんな事を言う。な、なんと答えて良いやら。

 

「ま、まぁ、わざとじゃないなら良かったわ。あなたのトレーナーの言う通り、わざとだろうがそうじゃなかろうがわたしの負けは負けだけど、気分的にね」

 

「……聞こえていたのですか?」

 

「まさか。あんなに離れててざわついてちゃ無理よ。あの時、あなたのトレーナーの肩を掴んだのがわたしのトレーナーよ」

 

「ああ、そうだったんですか」

 

どんな顔をしていた方だったろうか……?と思い出そうとしたが、インはあの時彼をトレーナーさんの脅威とは見做さなかったようで、彼を一顧だにしていなかった。代わりに、トレーナーさんの見た目の印象より筋肉がついているらしい腕の感触が思い起こされる。

 

「そうだった、と言うよりそのあとにそうなったんだけどね。ふふ、指示通りとはわざとという事かと問いただしたら、正論でボコボコにのされちゃったって。それはそれとしてあいつらムカつくから僕と一緒にレースで一発ぶん殴ってくれるウマ娘はいるか、って言われて、わたしが手を挙げたの。なかなかの大盛り上がりだったわ」

 

「そ、そんな事があったんですね……」

 

なんとか雑念を振り払いながらそう応える。本当に私はどうしてしまったのか……

 

「ええ。あなたのトレーナーにも、そのうち一緒に挨拶しに行くわ。……なんかちょっと有名人みたいね。なんでも、生けるレジェンドの最後の直弟子だとか」

 

「そう、みたいですね。私も、昨日お会いしたばかりで詳しくは知らないのですが……」

 

有名人。きっとそうなのだろう。……たづなさんやフジ先輩ともなんだか親しげだった。……チームアケボシの方々とも、きっと仲が良いのだろう。たぶん、私の知らない他の誰かとも。ちり、と胸の奥を灼く感触。

 

「……あの距離感で?めっちゃ腕絡めてたじゃないの。……あれにはマジでビビったわ、実際」

 

「あ、あれはインがやった事で……!うぅ、お恥ずかしい……しかも彼にご迷惑を……!」

 

「ふーん。なんか難儀そうね。……あぁっ!」

 

「ど、どうなさったんですか?」

 

彼女は辺りをキョロキョロと見回したあと、深刻な表情でくいくいと指を動かし、私とユニヴァースさんに耳を貸すようにジェスチャーした。それに従い、2人とも頭を彼女に近づける。

 

彼女はひそめた声で次のように言った。

 

「あなたの声を聞いてたら急にピンと来たんだけど、昨日の夜、彼氏の家から汗だくで門限破って帰ってきたってフジ先輩に怒られてたの、あなたよね?……ど、どんな感じだったの?」

 

思考が完全に停止する。1分ほどかけて何とか意味を飲み込むと、血流が顔に集中するのを自覚した。

 

「なっ、な、ちがっ、違います!トレーナーさんとはそういうのじゃ!」

 

「えっ、えぇ〜〜っ!やっぱりあの人と!?……噛むなよとか次は痛くするぞとかって、そういう!?す、すごっ。ヤバ〜……わたし、ちょっとお茶持って来るわ」

 

「"FUEL"、持ってきたよ」

 

ユニヴァースさんがいつの間にか3人分のほうじ茶をお盆に乗せて持ってきていた。……見たことがないほど目が輝いている。彼女がこの手の話題を好むとは。ふと周りを見渡すと、それなりにあった喧騒が3割ほどの音量におさまり、チラチラとこちらを窺う方、おもむろにイヤーカバーを片方脱ぎはじめる方などがいた。……き、聞き耳を立てられている……!

 

「ユニさんサンキュー!ふふふ、夜はこれからよ。なんか超楽しくなってきた!」

 

「……お茶、私もいただきます。ええと、その、」誤解です、と続ける前にふと、ある考えが頭をよぎる。……誤解を解かずにいれば、ものの本で読んだ、いわゆる外堀を埋める、や既成事実、と言うものになり他の方に先んじる事ができるのでは……

 

〈……クビになっちゃうんじゃない?〉

 

「誤解です。その、他の方には内緒にしていただきたいのですが……」

 

……彼の噛むなよ、という言葉を聞かれていた以上は、あの出会いの事をある程度話す必要があるだろう。……今の誤解が広まってしまうよりはマシな筈だ。

 

「うんうん大丈夫大丈夫!わたし口固いし!いや〜昨日はフジ先輩にバレちゃいけないと思ってギリギリ声が聞こえる位置までにしか近づけなかったのよね〜!断片的にしか聞こえなくて気になって気になって!」

 

……あの時部屋がある方からした物音は彼女だったのか。

 

「……確かに私が門限を破ったのが悪いですけど、一般的に言って盗み聞きは良くないと思います」

 

「と、トイレから戻ろうとしたらなんか電気ついてたから、つい……誰にも話してないから、噂にはなってないはずよ。たぶん」

 

「……それは良かったです。ええと、何から話しましょうか……」

 

かくかくしかじかまるまるうまうま。

 

 

「……暑さで錯乱して噛みついてきたあなた、というかインを制圧……?人間が……?」

 

「……『すごい』、だね」

 

「はい。その後、気を失った私を介抱するために彼が私を自分の部屋に。その、フジ先輩には、自主トレ中に暑さでぐったりした私を偶然彼が保護してくれた、ということになっているのです。できれば口裏を合わせていただけると……」

 

暑さで、と言うところ以外は本当だ。……ふと聞き耳を立てていた方々の様子を窺うと、私達の様子からどうも色気のある話ではなさそうだと察し、こちらへの興味を失ったようだ。 ……とりあえずは良かった。

 

「……立場上、暴力沙汰には然るべき対応をしなきゃいけなくなるでしょうしね。私も一応そういう立場っちゃそうなんだけど、まぁ当人同士が納得してるならとやかく言わないわ。……再戦の機会がこじれたら嫌だしね」

 

「……今の話を聞いても、また、私と走ってくださるのですか?」

 

「ああん?ナメんじゃないわよ絶対走るっつーか負かすに決まってんでしょうがでも痛いのは嫌だから噛まないでね!」

 

「……!うふふふ!ええ、わかりました。インによく言っておきます。……負けませんが」

 

「ふん。吠え面かかせてくれるわ。……わたし、お風呂まだだから行って来る。あなた達は?」

 

「まだ、だよ」

 

「ええと、私もまだですけど、その、お誘いという事で良いのでしょうか?」

 

「? それ以外の何に聞こえたってのよ」

 

「……はい。私達は着替えを取りに行かないと。では、またあとで」

 

「じゃ、先行ってるね。ユニさん、スティル」

 

「はい。……ハ、ハルちゃんっ」

 

「お、おぉ、予想外の距離の詰め方。どしたの急に」

 

「その、クラスのみなさんにそう呼ばれておられますから。……私たち、友達なんでしょう?それに、愛称には憧れがあって……」

 

「……ふーん。わたしもあだ名で呼んだげよっか。そうね、ティルっちとかどう?」

 

「え……ごめんなさい。嫌かも……」

 

「なんでよ!」

 

「……ふふふふふ!」

 

「……ユニさんに声を上げて笑わせるとは。やるわねティルっち」

 

「あの、冗談を言ったのではなく、本当に嫌です。……スティル、でお願いします」

 

「……そんなにダメかなぁ、このあだ名……」

 

彼女は肩を落とし、とぼとぼと浴場へ向かっていった。……悪い事をしたと思うが、嫌なものは仕方がない。

 

……それにしても。

 

「……本当に、あの人の言う通りになった……」

 

「?」

 

「……私、今日の選抜レースで、勝ちはしたのですが、醜態を晒してしまって。また嫌われてしまったに違いないと、その、うじうじしていたら、彼が、私は嫌われてなんかいない。私に再戦を申し込む方が現れるし、友達も出来る、とおっしゃってくださって。……信じていなかった訳ではないのですが、心のどこかでただの慰めだ、とも思っていて……」

 

「……よかったね」

 

「はい。……友達なんて、本当に小さい頃以来です」

 

何故か愕然とした表情でこちらを見るユニヴァースさん。……今日は彼女の知らない顔ばかり見る。

 

「ど、どうされました?」

 

「……ネオユニヴァースは、スティルインラブの友達じゃなかった?」

 

「そ、そんなふうに思ってくださっていたのですか?」

 

「『マブダチ』だと思ってた」

 

「マ、マブダチ」

 

予想だにしない語彙が飛び出てきた。……馴染みが無さすぎてよく分からないが、悪友、のようなニュアンスなのだろうか?……確かにイン関連で何度か悪事の片棒を担がせてしまっている……!

 

「……うふふふ!……ありがとうございます。ユニヴァースさん。貴方が困っていたら、私も必ず助けになります。……貴方がしてくれたように、『マブダチ』として」

 

「……!うん。"クルーメイト"は、助け合う。ふふふ。”ミューテフ”!」

 

「はい。……急ぎましょうか。ハルちゃんがのぼせてしまうかも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。日記は案の定うまくまとまらず、寝るのも起きるのも遅くなってしまった。ほぼ寝ぼけながらうつらうつらと朝食を食べていたらいつの間にか危うい時刻になっており、少し行儀は悪いが、慌てて食事を中断しスマホを取り出す。

トレーナーさんに寝坊してしまい少し遅れるかも、と謝罪と共にメッセージを送った。

すぐに、『疲れているなら無理をしないで休むように。もし来るならちゃんとゆっくり朝ごはん食べて来てね』と返信があった。

少し遅れて、二頭身の猫のキャラクターが哀愁ある背中を見せるスタンプが送られて来た。怪訝に思いながらよく見ると、ぼくひとりでもできるもんと書かれていた。

 

「ふふっ……!」

 

『すぐに食べてすぐに向かいます』

と返信。

 

『だめ。別に急いでないからゆっくり食べてゆっくり来なさい』

 

と返事があった。

 

色々な思いが去来したが、『はい』とだけ送った。

 

 

 

 

「……?」

 

部室の前に、車体にURAのマークがついている軽トラックと怪しい青い人影がある。何やら雑多なものが乗った荷台をゴソゴソとしている。

十中八九彼であろうと思いながら声をかける。

 

「あの、おはようございます」

 

くるりと怪しい青い人影が振り返る。……顔がゴーグルとマスクで覆われていてまだ誰なのか判然としない。

 

「おっ。おはようスティル。疲れてないか?」

 

マスク越しのくぐもった明るい優しい声が返ってきた。

 

「ああ、やっぱりトレーナーさんでしたか。はい、大丈夫です。すみません、遅れてしまって」

 

「9時半前なら9時くらいの範疇だよ。来たからにはバッチリ働いて貰うぞ。これ、君の防護服な。着方わかるか?前のジッパー開いて足から履くの。……尻尾用の穴がついてるみたいだが、出さない方が良いだろうな。絶対汚れる。ゴーグルとマスクと、あと軍手もつけるように」

 

「は、はい。わかりました」

 

言いながら、ウマ娘用、とパッケージに記載されている、フードに耳のついた青い防護服などを受け取る。

……やはり私もこれを着るのか。……私の想像した大掃除のイメージとは、少し違うものになりそうだ。

 

 

大掃除開始から1時間強。作業は滞りなく、というよりは極めて順調に進んでいる。……この格好は掃除に対して気兼ねなく全力を出せる。勝負服と呼んでも良いかもしれない、とさえまだ少し眠気のある頭で思った。

 

「いやあ、マジで手際良いな!想定よりかなり早く終わりそうだ。今後この手の作業は陣頭指揮も君にとってもらう事にしよう」

 

「ふふふ、恐縮です。掃除は得意で好きなので。お役に立てて何よりです」

 

「君が疲れてるようなら俺1人でもやってしまおうと思ってたけど、来てくれて本当に助かったよ。……昨日結構走らせちゃったけど、本当に大丈夫だったのか?」

 

「はい。体調はいつも通りです。その、昨日は色々あって、睡眠が思うように取れずに起きるのが遅くなってしまって……実はゆうべ、貴方がおっしゃった通り、再戦を申し込まれて、その、友達もできたんです」

 

「へー!昨日の今日で!すげぇ!」

 

「ふふ、貴方に頂いたアイスの実を、寮の食堂でルームメイトのネオユニヴァースさんと一緒に食べていたら、オースミハルカさんが話しかけてくださって。だから、貴方のおかげなんです。ありがとうございます、トレーナーさん」

 

「おー、やっぱりあの子か。疑いなく君の力だと思うが、まぁ貰えるお礼は受け取っておくよ。……ご両親に良い報告が出来るな!」

 

「はい!……一番に報告したいのは、貴方のことですが」

 

「……それもそうか。ちゃんとご挨拶しとかないとなー……」

 

「え」

 

「大事な大事な娘さんを何年も預かって、しかもある種、過酷な茨の道を行かせる訳だからな。……うーん、なんて言や良いんだろうな?ちと胃が重くなってきたぞ!」

 

「あ、ああ、そういう……同席いたしましょうか?」

 

「……うーん、誤解のないようにはっきり言ってしまうが、インの事についても君のご両親から聞きたいんだよな。君が目の前にいては話しづらい事もあるだろうから……」

 

「……そ、そうですか……」

 

「まぁ、まずは君から俺の事を良い感じに紹介しといてくれ。……出会いの最初の、暴力沙汰については伏せておいてくれると助かる。……一瞬で破談になりかねん……」

 

「……そうですね」

 

もしかして、昨日おふたりに出会いの話をしてしまったのはまずかっただろうか……相談してみようか……?しかし、それには発生しかけていた勘違いについて彼に説明する必要があるだろう……流石に、それは恥ずかしいというか、おこがましいというか……

 

「ど、どうした?難しい顔をして。……もしかしてご両親と俺って相性悪そう?……どんな人なんだ?」

 

「い、いえ、それは大丈夫だと思いますが……ええと、父は大学で歴史を研究していて、母は小説家です」

 

「お、おお。どっちもなんかすごいな」

 

「母はいつも家で仕事をしているのですが、父は家を空ける事が多くて。今も中東のどこかの遺跡に居るはずです。フィールドワーク、というのでしょうか」

 

「へー!……君のお父さんとも是非話してみたい所だが、まず会うとしたらお母さんか。……どんなの書いてる人?」

 

「色々なジャンルを手広く書いていますが、ご存じかどうか。児童小説も昔書いていて、ウマトラクエストというシリーズを……」

 

「えぇっ!?ブラダマンテ先生!!?」

 

「ご、ご存じなんですか?」

 

「初めて自分のこづかいで買った本だよ!……すげー、こんな事あるんか……サインってしてくれるかな……あわよくば、あの話も……」

 

「うふふ、そんなご縁があったんですね。なんだか嬉しいです。……本、お読みになるんですか?」

 

「ああ、昔は割とよく読んでた方だと思うけど、最近はどうしても仕事関連の本になっちゃうな。小説は話題になってるのをたまに読むぐらいだなぁ。漫画は今でもまぁまぁ読む。君もやっぱり読む方?」

 

「はい。特に歴史小説が好きで。……漫画は、あまり読んだ事が無いかも……」

 

「ええ?君のお母さんの本棚に漫画が無いとは思えないけど」

 

「はい。ありましたよ。でも、私には小説の方が合っているみたいで」

 

「ふーん。……歴史小説かぁ。そう言えばあんまり読んだ事ないなぁ。漫画ならいくつかおすすめできるのを知ってるが」

 

「……ふふ、今度、おすすめの交換をしてみましょうか」

 

「良いね、楽しそうだ。……好きな時に読めるように部室に小さい本棚でも置いて、そこに置いとく事にしようか」

 

「わあ……!とても、素敵だと思います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレーナーさんの手によって、ノックも無しに引き戸がピシャリと開けられる。

 

「お久しぶりでーす! ねぇねぇねぇねぇみてみてみて!担当!担当できた!連れて来た!」

 

「おう、やっと顔出しやがったか」

 

「!……ふん、薄情ものが来たのだ。つーん」

 

「子分さん!お久しぶりです!そ、それで、件のウマ娘ちゃんは……見当たりませんが」

 

「何言ってるんだ。ここに居るだろ。ほら、挨拶挨拶」

 

後ろから両肩をポンポンと叩かれる。私を先頭にチームアケボシの部室に入ったが、やはり気づかれなかったようだ。

 

「こ、こんにちは。このたび、彼と担当契約を結んだスティルインラブです。どうぞお見知りおきを……」

 

一拍置いて、三者三様の反応が返ってくる。

 

「おわーっ!ど、どうやったのだ今の!絶対イタズラに活かせるのだ!」

 

「……おもしれぇ特技だ」

 

「あ、あれぇ?デジたんリストに該当者なし……?まさか……そんな事が……?」

 

「おいおい、同じ栗東寮だろ君。それに、昨日の選抜レースで凄い勝ち方をして話題沸騰中、……だと思ってたんだが、違うのか?デジたん」

 

「そ、そんな、生徒会長のように、全校生徒の事を把握しているとは言いませんが……あ、あたしはウマ娘オタクとして恥ずかしい!もはや、生きて……」

 

「その、私影が薄くて。そのつもりがなくてもよく人を驚かせちゃうんです。どうか、気に病まないで下さい」

 

「ああ、なんとお優しい……三女神様が新たな推しを遣わされた……いや、もしや貴女が女神様?」

 

「い、いえ、違います」

 

「塩対応頂きましたァ!でゅっふふふふ!」

 

「……あの」

 

何なんですこの方は、どうすれば良いのですか、と目でトレーナーさんに助けを求める。

 

「ああ、この子、アグネスデジタルな、根っこは繊細で人見知りだから後になって傷つかない様に初対面でわざと少し嫌われようとするんだ。たまにちょっと気持ち悪い以外は本当にめちゃくちゃいい子だから、仲良くしてやってな」

 

「ちょっとぉ!オタクの繊細な心のひだを詳らかにするのやめていただけませんか!?」

 

「あと、凄まじく物知りな上に何でもできるし人脈も広いぞ。困ったらこの子に頼れば大抵のことは何とかなる」

 

「何故今ハードルを爆上げする必要が!?」

 

「何を言うんだ。思ったままを言っただけだ。それと、奥でおじいちゃんの肩叩いてたあの子、ウインディ親分な。親分は……シンコウウインディは……その、たまにめちゃくちゃカッコいいぞ」

 

「なんかリスペクトが足んなくないのだ!?」

 

「ごめん、親分。君のあふれ出る魅力を一言で説明するなど俺の語彙力では……」

 

「……ふん。次までに鍛えておくのだ」

 

「努力しますよ。そんであのおじいちゃんが大親分。俺のトレーナー業の師匠です。顔と実績以外はそんなに怖くないぞ。最近は編みぐるみに凝ってる」

 

私にはちょっと高度すぎる冗談だな、と思いながら見ると、彼の手元にはかぎ針と毛糸があり、4つ足の黄色い胴体から長い首が伸びつつあるようだった。口に出さなくて良かった。……キリンだろうか?

 

「……あんま言いふらさんでくれよ。そんで、今日は顔見せに来ただけか?」

 

「いえ、あなたに賜った新居の掃除が予定より早く終わったので、お昼前に私物の回収に来ました。凄いんですよこの子。掃除の達人です」

 

「ああ、おめぇ、明日からっつったのにそのままスタスタ歩き去ってったからな。止める間も無かったわ。……おめぇは基本できる奴なのにたまによく分からんバカをやるよなぁ……その子に愛想尽かされんか心配だぜ」

 

「ははは。もうその辺色々バレた上で契約してくれましたよ。えー、本棚だろ、プロジェクターだろ、ヤギボークッションだろ」

 

「ええええ゛子分さんアレ持ってっちゃうんですか!? ど、どうかお慈悲を!大画面4kライブに慣れたらもう、2度と、2度と元には!」

 

「うるせぇうるせぇアレは俺んだ!自分で買え変態天才万能G1ウマ娘!」

 

「あたしが推し活にいくら使ってるかご存知でしょう!? お小遣いの前借りはもう出来ないしまとまったお金が手に入るとしてもまだ先だしその頃にはさらに散財してるし!」

 

「そんなの俺には関係無いねー!」

 

「あのクッションはもうウインディちゃんのなのだ!持ってかれたら困る!……そうだ、ツバつけてやるのだ」

 

立ち上がり奥にある青い大きいクッションに向けて駆け出すウインディ先輩。

 

「おい、何する気だ親分!やめろ!やめてください!」

 

トレーナーさんも駆け出す。

 

「ウインディちゃんのものにならないならこうしてやるのだー!ガブー!」

 

あろう事か、クッションに噛みつき歯で引っ張っている。

 

「ギャアアー!?やめろやめろ破ろうとするな!見た目よりだいぶたけーんだぞそれ!中のビーズ撒き散らしちゃうし!アア゛ーッ腕を噛むな!」

 

無事な方の腕によるデコピンがウインディ先輩に炸裂する。……人間が指先で出したとは思えない強烈な音に思わず身がすくんだ。おでこをおさえて「ぐおおおお……!」と呻きながらクッションに沈んでいく先輩。お、驚く暇も無い……!……噛まなくなったと言う話だったのでは?

 

「あたしはー、そうですね〜……あ、そうだ。あの夏の2日目に子分さんが買った本のタイトル暴露しちゃいましょうかね。1冊目はサークルさわやか鳥さんの、ボク(♂)がサイキョームテキの……」

 

「……待て待て待て何で知ってんの何で知ってんの?!!やめてくれ!分かった!譲る!置いていく!」

 

「「いぇーい」」

 

嬉しそうにハイタッチする先輩2人。……夏の2日目とはなんだろうか?

 

「ところで夏の2日目ってなんなのだ?」

 

「その話をするには5時間ほど頂くことになりますが……よろしいですか?」

 

「じゃあいいのだ!」

 

「……ふん、いいもんねいいもんね。そのうちあっちにもっとハイグレードなの一式揃えてやる」

 

「あ、そしたらそっちに遊びに行きますね」

 

「なのだ」

 

「君らなぁ……」

 

「たっはっは!久々だからってはしゃぎすぎだあいつら。騒がしくてすまんな、スティルインラブ。あいつがいるとこはどうやったってああなるから、慣れるしかねぇぜ」

 

「は、はい。……賑やかな人だとは思っていましたが、私の前ではまだ抑えていたんですね……。それにしても、先輩達、凄い……!あのトレーナーさんが手玉に……!」

 

「やい、新入り!」

 

「は、はい、何でしょうか」

 

「お前、子分にいじめられたり騙されたりしてないのだ?ひどい奴なのだコイツは。すぐ手出るし」

 

「ええ、あたしも最初は子分さんに言葉巧みに騙されてこのチームに……!」

 

「い、いえ」

 

「人聞き悪過ぎるわ!反撃以外はした事無いし、デジたんのアレは……騙したとは言わんだろう。……嫌だったのか?」

 

「まっさか〜!大感謝ですとも!」

 

「だよなぁ!」

 

顔を見合わせて声を上げて笑う二人。……この方たちは何年も一緒に苦楽を共にして来たのだろう。疎外感を感じるなどおこがましい事だ。しかし……

 

「あの、トレーナーさん……」

 

「うん?」

 

「私も、貴方の事を子分さん、とお呼びした方が良いでしょうか……?」

 

「ええ!?やだよ!俺、君にトレーナーさんって呼ばれるの大好きなんだ!……あっ」

 

「……ほほーう、意外な一面なのだなぁ、トレーナーさん?」

 

「……相変わらずウマ娘ちゃんたちの色んな顔を引き出してくれますねぇ、トレーナーさん?」

 

「やめろォ!」

 

顔を真っ赤にして、ニヤニヤとからかってくる二人に抗議するトレーナーさん。

 

「うふふふ!……貴方が望むなら、いつでも、いつまでもお呼びいたします。トレーナーさん」

 

「ぐ……君までからかうんじゃない……!」

 

おぉ〜、と二人分の感嘆の声と拍手がトレーナーさんに向けられる。

 

「何の拍手だ!……くそ、多勢に無勢か……!ちょっと軽トラ返してくるわ。その前に本棚だけでもあっちに……編みぐるみに占領されている……!」

 

「おう、おめぇ、ちょっと待て。車返す前に乗せてけ。家に取りに行きたいもんがあんだよ。ちょうど良かったわ」

 

「え〜?」

 

「重いものであれば、私も同行しましょうか?」

 

「それだと大親分かスティルが荷台に乗る事になるな。師匠、良いですか?荷台で」

 

「良いわけあるか!……このアホだけで足りるよ。ありがとな。すぐ戻るから、その間こいつらと仲良くしてやってくれ」

 

「は、はい……」

 

な、仲良く……どうしよう?

 

「……自己紹介も兼ねて、昨日のレースの映像でも見せたらどうだ?多分もうアーカイブに上がってるだろ」

 

「おお!それは良いですね!どうせならあちらの部屋の大画面で上映会しましょう!」

 

「そ、そんな、お恥ずかしい……」

 

「……君は自分を見せる事に少し慣れた方が良い。見せた後でも、友達できたんだろ?そして君の勝利に恥ずべき所など何も無い。……スパートのフォームはちとアレだが、これから矯正するしな」

 

「うぅ……はい……」

 

「代わりに彼女たちのレースも見せて貰えばいいさ」

 

「あっ……それでしたら、ウインディ先輩のフェブラリーステークスが観たいです!トレーナーさんのお話を聞いてからとても気になっていて!」

 

「おお、お目が高い!アレはあたしもこの目で観ましたが本当に、本当に素晴らしかった……」

 

「!……なんだぁ、ウインディちゃんの偉業を広めているとは、ちゃんと子分してたのだなお前!スティル!こっち来るのだ!最初にみせてやるのだ!」

 

「わっ。は、はい」

 

屈託のない笑顔のウインディ先輩に手を引かれ隣の部屋に移動する。

 

 

 

♦︎

 

手で持てるぐらいの私物はついでに持っていっておこうとゴソゴソしていると、大親分に声をかけられた。

 

「車、例の部室の前だよな?先に行って缶コーヒーでも買って待っとくわ」

 

「はい。すぐ行きます。ありがとうございます」

 

「おう」

 

とだけ返すと、歳の割には、という枕詞が不要なほどしっかりとした足取りで出ていった。

 

「……子分さん、あたしの話はスティルさんにされなかったんですか?」

 

まだノートに何かしたためていた途中で、この部屋に残っていたデジたんの少しだけ不服そうな顔が向けられる。おお、ちょっとめずらしい……

 

「君は俺TUEE系ヒーローだからなぁ……共感を呼びたい場面にはあまり相応しくなくて……あ、そうだ」

 

隣の部屋にいるスティルに聞こえるように呼びかける。

 

「スティルー!デジたんのレースのオススメは秋の天皇賞と香港カップだ。ウイニングライブも併せて観て彼女にコール&レスポンスについて教えて貰うと良いぞ!」

 

「は、はーい」とかすかな返答が聞こえる。

 

「な、何故にそのような羞恥プレイを……?」

 

「スティルだって恥ずかしいんだ。我慢しろ」

 

「意味の通らない事を堂々と……!」

 

「デジたーん!はやくこっち来るのだ!なんか変な画面出て映らないのだ!」

 

襖越しにウインディ親分の明朗な声が響く。

 

「あ、はーい!すぐ行きますのでそのまま触らないでくださいねー!」

 

「ああ、デジたん、出る前に言っておくことがあった。……俺が買ったものについてどうやって知ったのか、今は聞かないでおくが、俺も君の弱みは沢山握っているからな。アグネスデジタル。いや、カペラアナログ先生?」

 

心からの笑顔を彼女に向けながらこう言う。

青ざめた顔で赤べこの如くこくこくと頷いてくれた。

 

……相互確証破壊が成立し、両者間に平和が齎された。

 

 

 

 

 

助手席の大親分と雑談しつつ軽トラドライビング。なんでも家に方々から届く野菜だのハムだのジュースだのその他様々な贈り物が溜まっているらしい。その手のものはトレセン学園に持っていけば当然あっという間に消費できる。俺もよく分けて貰っている。

 

彼は缶コーヒーを飲みきり、今までより少し重たそうに口を開いた。

 

「……昔むかーしによう、目をかけてた弟子を破門にした事があるって言ったろう?」

 

「ああ、教え子に手出したって言う。クズですねそいつ」

 

「……実の所は、教え子に手出されたってのが真相でな。……あのスティルインラブ、いい子なんだろうが、時々、あん時のあいつとまっっったく同じ目ぇしてるわ。……気ぃつけろよ」

 

「……色々、衝撃的ですが……なんで破門に?」

 

「当時は男の方がそんな目に遭ったとなっちゃあ不名誉なんてもんじゃすまなかったんだよ。武士の情けってやつだな。まぁ、お前に限っちゃ大丈夫だろうが、一応な。そいつは所謂逆玉になって今も元気にやってるらしいが」

 

「……スティルは真面目な子だから、そういう問題にはなりませんよ。気のせいでしょう」

 

大人しい印象と洗練された所作のせいで、感情が出た時に無駄に意味深に見えてしまう事があるのだろう。

……中にいるもう1人には嫌いとまで明言されているし。

 

「そうか?まぁ、妙な事になる前にさっさと身を固めちまうのも手だぜ。……おめぇ、駿川の嬢ちゃんとは仲直りできたか?」

 

「喧嘩ってほどの事はそもそも起きてませんが、なぜ今その話を?」

 

俺が稚気を出して一方的に怒らせただけの話である。……我ながら何ともアホな。

 

「いや、全く俺が口出す事じゃねぇわな。悪い、忘れてくれ。老婆心出ちまったわ。ジジィなのによ」

 

俺の不機嫌な顔をどう解釈したのか、謝られてしまった。

 

「今のはちょっと……面白かったと思います」

 

「そうか?……今度どっかで言ってみるか」

 

「生徒会長とかめっちゃ喜びます。多分」

 

「……じゃあ、ダメなんじゃねぇか?」

 

「ギャハハハ!すごい失礼!」

 

 




ずっとタグにいる謎のウマ娘ちゃんは次に出せる気がするのですが、次がいつになるかはちょっと…… 実装よりは早いやろ、多分(フラグ)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。