スティル鬼つええ!このまま逆らう奴ら全員ブチ抜いていこうぜ! 作:スティル可愛すぎるインラブねぇ
ヒ○トリエやドリ○ターズよりは早く完結できるように頑張ります ハンター○ハンターは怪しいかも知れない……
「お、来たかアルヴ。……って追い込み過ぎだろへろへろじゃねぇか! 適当にって言ったじゃん!」
「……べつに。いつも通りです。……ご飯、まだですか?」
ふらふらと部室に現れ、幽鬼じみた目でこちらを見るアルヴ。いくら何でも嘘すぎる。……少し髪と尻尾が濡れていて、わずかに塩素の匂い。プールか。そりゃ腹減るわな。
「空腹でハチャメチャにイラついてるとこ悪いが、俺は見ての通り調理中でスティルもまだトレーニング中だ。まぁどっちもすぐ終わるよ」
鋭い目がつい、と部屋の奥に向く。すぐに驚愕によって彼女の目が見開かれ丸みを帯びた。
「……何してるんですか、あれ」
「彼女、体の操縦が抜群にうまくてな。普通のヨガとかだと大した負荷にも練習にもならなくなったからオリジナルの難しい動きを作った。あの子多分、初めて見た楽器とかでも演奏するとこ観ればできるぞ」
「すごいですけど、あの動きに何か意味が?」
「自分にどう言う動きができて、どんな動きができないのかを意識的にも無意識的にも刷り込む。これをやっとくと怪我の確率は下がるしトレーニング効率も上がる。最初から自分の体にとって正しい動きができるわけだからな。あとは純粋にどこまでできるのか興味があるな」
最大の目的はインの無法な出力に耐えられる体を作る事だ。
現時点では、極端に言ってママチャリにジェットエンジンが載ってるような物である。
バラバラになってしまっていないのが不思議なぐらいなのだが、スティルは選抜レースの後も平気そうにしていたし、実際に異常はなかった。彼女の卓越した身体操作センスの賜物だろう。
今平気だからと言ってずっと平気な保証はないので、彼女の強みを伸ばしつつ、せめて軽自動車ぐらいの強度に高めてからメイクデビューに臨みたいところである。
「……私もやった方がいいんでしょうか」
「真似しようとしてできるようなもんじゃないと思うが……まぁ、姐さんと相談してみてくれ」
「……」
俺の言葉に対抗心を刺激されでもしたのか、アルヴはじっとスティルの動きを観察している。
一言で言えば、ヨガウェアを着て髪をお団子に纏めたスティルが片手で逆立ちをしているのだが、それだけではあまりに説明不足だ。
左手の指三本だけで全体重を支えた状態で右手でバランスを取り、かち、かち、とスローペースで鳴るメトロノームに合わせて肘をゆっくりと曲げ伸ばししている。脚は曲げ伸ばしの度に、時計の針のように様々な方向に開いては閉じる。
最終的に体全体を垂直にピン、と伸ばし直立する。そのまま弓のように背中をしならせ、ブリッジの様な体制になった後、ゆっくりとそのまま立ち上がった。手を広げ瞑目し、深呼吸している。
……一番難しい動きを最後に持ってきたのだが、またもやあっさりこなされてしまった。次は指の本数をさらに減らすか、曲げ伸ばしではなくジャンプさせるか、はたまたリズムがランダムに変わる様にするか……
「……ふぅ……あ、アルヴさん、来てくださったんですね!」
「……こんにちは、スティルさん」
「はい、こんにちは! ああ、申し訳ありません、私ったらこんな格好で……すぐに着替えてきます!」
彼女はメトロノームや動きの撮影に用いたスマホと三脚を片付けて、ぱたぱたと更衣室へ駆けていく。アルヴはじっと考え込み、先ほどの動きを反芻しているようだ。
ソースの鍋の火を止めてアルヴに声をかける。
「……いきなりあんな動きからやろうとするなよ。ペースが早いだけで段階は踏んでるんだ。怪我するぞ。そして俺はきっと君のトレーナーに殺される……」
「……しませんよ。取り敢えずはヨガをこなせるようになってからです」
「うん、それが良い。君は多分、一番良い走り方が分かってるタイプだからここまでやる必要はないと思うが。……いけね、麺茹でてねぇ」
「何やってるんですか」
恐らく少し不機嫌なだけなのだろうが、彼女の顔を通すとすごい迫力で出力される。あまりビビらない性質のつもりだったが、これは慣れるのに時間がかかりそうだ。
「ゆ、湯は沸いてるし生麺だからすぐだよ。そんな怒んないでよ。手洗って座ってて」
「……すみません。……何か手伝えますか?」
「うん?うーん、何かしてた方が気も紛れるか。そうだな、あっちの食器棚から皿とか出しといて。深いやつな。デカいの1枚と普通の3枚」
「はい」
◾️
「……!……いつも、こんなの食べてるの?」
「ふふ、そうだと良いんですが。トレーナーさん、料理はたまにしかしたくないって。私もまだ3度目です」
「こんなの、とは随分な言い草だな」
「す、すみません。……美味しいです、とっても」
「ははは、顔見りゃわかるよ。褒めると伸びるタイプだからその調子で頼む」
「こんなに美味しいものは、今まで……」
「そこまでやれとは言ってねぇよ」
陶然と皿を眺めながらそんな事を宣う。
怖いわ。俺異世界転生したの?
「ほ、本当なんです」
「……まぁ、恩人に出すものだから気合いは入れたけどさぁ。運良く君の好みを引き当てたようで良かったよ」
「……私も、今日のものが今までで一番美味しいと思います」
「そうなの?君もみんなも褒めるもんだからまた腕が上がっちまったかな……何これ美味ぁ!?」
「……お兄さんは味見してたじゃないですか。これ見よがしに」
「ソースちょっと舐めたぐらいでそこまで言う?いや、麺と合わさると全然違うな。茹でて良かった」
アルヴもスティルと同じく、食事は静かに摂るタイプのようだ。食べる速度に関しては大きな差があるが。
表情は乏しいが、目を輝かせて大きい耳とスプーンとフォークをパタパタと動かしている。
「……なんでじっと見るんですか」
「そりゃ見るだろ。君も誰かのためにご飯作ってみりゃわかる。……まぁ、嫌ならやめておこう」
「べつに、嫌とは……」
「そう言う事なら見るが」
「……やっぱりやめてください」
「話が違うぞ?……わかったよ」
「……ふふ」
心地良い沈黙をしばし楽しんでいると、バタバタドンドンガチャリと突然ドアが開いた。
見ると、ウインディを先頭にデジたんが手を引かれ、その後ろで彼女の両肩を押してるのは……姫さん?
「子分にスティル〜!遊びに来たぞ!……!にしし、や〜っぱりなんか作ってたのだ。ウインディちゃんにも食わせるのだ!」
「ちょちょちょ、ご迷惑ですってぇ……嗚呼、ファインしゃんのロイヤルおててぬくい……やぁらか……ホギャーッ!チーム〈ヴィーナス〉4人目の顔面国宝!?」
「子分くんごきげんよう! 実は、ちょっと相談したい事があってね……、えっ?〈ヴィーナス〉?……って、あ〜っ!ウチの子取られてる〜!?」
「ファ、ファインモーション先輩?」
「たいへんたいへんみんなに教えなくちゃ!」
ファインモーションが言葉とは乖離した満面の笑みでスマホをアルヴに向けてパシャパシャとやっている。とりあえずフレームインしてピースしながら応える。
「おお、今日は客がよく来る日か……イェーイ姫さん久しぶり!食べてからでいいか?それか君も食べてく?」
「え?いいの?何それラーメン?」
「……この皿を見てなんでそう思ったのかはわからんが、結構奥深い問いだなぁ。スープと麺でできてるわけだから俺がラーメンだと言えばラーメンだな。キノコと野菜と鶏肉が雑多に入ったホワイトソースの底にフェットチーネが沈んでる。今日のは会心の出来だ」
「え〜、おいしそう!是非、ご相伴にあずかります!」
「うん」
「ちょ、ちょっと、離れてください、お兄さん」
「お、ごめんアルヴ。カメラ向けられるとつい写りたく……」
「お兄さん!? アルヴ!? わ〜!なんだかドラマの予感!」
「昔ちょっと縁があってな。恩人同士なんだ。再上映の予定は特に無いので詳細はアルヴから聞いてくれ」
「恩人……と言いますと、もしやこの方が迷子の青髪ウマ娘ちゃんですか!?再会できたんですね!」
「おお!よかったのだな子分!」
「よく覚えてんなぁ2人とも。結構前だろ? その話したの」
「忘れませんよ!むぬふふ、こんなのあたしのデータに無いぞ!追記せねば……って、あれ?」
「? なんで契約してないのだ?」
「いや、お互い大きくなってて全然分かんなくて……アルヴは結構早くに気づいたらしいんだけど、俺は今日になってやっとね……それ、スティルにも今朝言われたんだけどもしかして一生言われる?」
「言われると思いますねぇ」
「なにやってんのだ」
2人の呆れ顔が向けられる。俺が既にダメージを受けている事を察してか、それ以上は言わないでくれるようだ。
「そっかぁ……まぁ背負って行くか。アルヴ、持ちネタにして良いぞ」
「えぇ……?」
「だ、大体、何があったのか分かっちゃったかも……」
「まぁいいのだ。子分〜!お皿とかどこにあるのだ?」
いつの間にかキッチンの方へ移動しているウインディから声がかかる。
「食器棚はあっちだがまず手ぇ洗いなさい!フォークとかは引き出し。あ、デジたんコップ3つ出して」
「え?あ、いえ、あたしは……この辺で壁にならせて頂ければそれで……」
「な、なんで君が今更俺に遠慮するんだ! 悲しいぞ俺は!」
「は、はいぃ、お言葉に甘えさせていただきましゅ……」
流し台に手洗いの行列が形成される。きゃいきゃいと騒ぎながら良い匂い、などと嬉しい声が聞こえる。
ウマ娘3人追加かぁ……アルヴがどのくらい食うか分からんから多めには作ったが、鍋ひとつ分はさらに作る事になるか、と食べるペースを上げると、スティルの視線が突き刺さってきた。
もちもちもっちもっちと割と早いペースで咀嚼しながらキリッと上がった眉でこちらを睨みつけている。訓練の甲斐あって彼女の食事ペースは上昇の一途を辿っており、今では普通に遅いと言うレベルだ。
偉大な進歩である。本格化に向けて、食べる量を増やし始めても良いかもしれない。
「ど、どうした?」
……今日は彼女によく怒られる日でもあるな。リズミカルに動く膨らんだ頬へのニヤけを噛み殺しながら怒れるハムスターの言葉を待つ。
ごくん、と飲み込んだ彼女は何から言おうか、と言った感じに暫し思案したあと、次のような言葉を発した。
「…………私、トレーナーさんと写真撮ったことありませんっ」
「え?そうだっけ……ホントだ。撮ろう。今すぐ撮ろう。ごめんちょっとみんなこっち来て!」
三脚兼自撮り棒にスマホを取り付け伸ばし呼びかける。
「なになに?記念撮影?わっ、きゃあ!あなたがスティルインラブ?ごめんなさい、私ったら大変な失礼を!気がつかなくって、挨拶もせずに」
「い、いえ、よくある事なんです。私、影が薄くて。どうか気に病まないでください」
「ふふ、ウインディさんとデジタルちゃんの言う通り、優しい方ね。ファインモーションです!あなたやアドマイヤグルーヴと同じティアラ路線で、今年で
「こ、こんにちは。ファインモーション先輩。スティルインラブです。はじめまして」
「ファインで良いよ!それ、素敵なベールね!少し見せて頂いても?」
「あ、ありがとうございます。……どうぞ」
スティルはそう言って頭を軽く下げた。白いベールと水色のイヤーカバーがよく見える。
「……この角度から見ると、スティルってだいぶウミウシっぽいよな」
「え、えぇ?」
困惑気味に彼女の耳がへにょへにょと動く。
「……ふぐっ……」
お、アルヴにウケてる。あとでスティルに教えてやろう。
「あはは!本当だ!……わぁ、リボンがかわいい〜!サラサラ〜!何処のものなのかしら!」
「……ふふ。これは、私の母に贈って貰ったもので……今度、聞いてみますね」
もう打ち解けたようだ。さすがは姫さん。
俺の手は押しのけたのに、と軽く傷つきながら自撮り棒のシャッターボタンの動作確認に少し手間取っていると、デジたんが声をかけて来た。
「あのぅ、子分さん。あたし撮りますよ?」
「……怒るぞ。親分、デジたん捕まえて」
「ん!」
配膳を終え俺の真後ろに陣取ったウインディが右手でデジたん、左手でスティルをぐいっと抱き寄せ、俺の頭頂部に顎をドンと乗せる。いてぇ。
「ヒョエエエエ!?」
「きゃあ!?」
具以外は素敵なサンドイッチの完成だ。……三方を囲まれているからおにぎりの方が近いか?
そのままウインディは大口を開けて牙を見せつけるポーズで待機。わが親分は自分の魅力を理解しているので写真に映るのが抜群に上手い。
「うふふふ! ほら、アルヴ。私達も写りましょう♪……こう呼んでもよろしいかしら?」
「か、構いませんが、わ、ちょっと、え、えぇ……?」
アルヴが姫さんに手を引かれ、スティルの近くに来る。スティルが中心になるように画角を調整。
「はい、チーズ」
「見せて見せて!……わぁ、素敵な写真!……2人とシャカールも呼べば良かったなぁ」
「ははは。エアグルーヴとどぼ先……ドーベルはともかく、シャーたんは来ないだろ。流石に食材足んないし。……いや、いい写真だけど、流出すると俺だけ死ぬなコレ。みんなに送るけど無闇に拡散したりSNSに上げたりしないでね。マジでな。頼むぞ。……スティル、こんなもんでどうだろう? あ、ツーショットも撮っとく?」
「い、いえ、結構です」
「……結構か……そうか……」
「そ、そう言う意味では! 今度、撮りましょう。今は、その、……恥ずかしい、です」
「……うん、そうだな」
スティルは俺が送信した写真をじっと眺めている。そのうち、にへら、と顔を上げた。
「……えへへ。こういう写真、初めて撮りました。皆さん、本当にありがとうございます」
「ア゜ッ」
短く微かな断末魔とともにデジたんが真後ろにビターン!と倒れる。俺も正直倒れるところだったが、中央トレーナーであれば誰しも備えている鋼の意志が発動し耐えた。
「……子分くん、そんな顔するんだ……」
「? 姫さんなんか言った?」
「ううん、何も!……うん、本当に美味しそう!いただきます!」
「デジたん起きるのだ! ウインディちゃんも早く食べたいのだ!」
「だ、大丈夫ですか!? デジタル先輩!?」
「うぅ……ウマ×ウマ トレウマオーバードーズ……って何でそこにデジたんが!?」
「うわぁ!? きゅ、急に起きるな!びっくりするのだ!」
大丈夫そうなので放っておこう。
「アルヴ、連絡先教えてくれ。今の送るわ」
「は、はい。……あの、このひとたちは?」
「ああ、俺、つい最近までチーム〈アケボシ〉で見習いやってたんだ。そこのメンバーだよ」
「……じゃあ、本当にあのかみつき姫と勇者……?」
ぎっ、と渋面がアルヴに向けられる。
「ひーめーじゃーなーいーのーだー!……まったく、誰が言い出したのだ。ウインディちゃんのイメージじゃないのだ!」
「俺俺。噛みつき事件の炎上が多少は和らぐかと思って広めた」
「がるるるる……!」
明確な怒りと共に視線が俺に移った。
「お、なんだ?噛むのか? いい子にしてないとご飯あげないぞ?」
「ワンちゃん扱いするな!……食べ終わったら覚えてるのだ」
「いやはや、何とも面映いあだ名で……、いや、ガチのマジで顔面眩しッ……実在、なさってます……?」
「……? すみません、意味が……」
「んでゅふっ……何たる低温な視線!……これは実在ダァ……」
ちょっとフォローのしようが無いほど気持ち悪い。デジたんは嬉しそうだしそのままにしておこう。と思っていたら意外にもスティルから掣肘が入った。
「……デジタル先輩って、誰にでもそうなんですね」
「アッ想定外のダメージ!……しかし使えるぞ、このセリフは……!」
「無敵だなぁ君は。さすが勇者だ」
「……なんなの」
「……! うん、とっても美味しい! けど、ラーメンとしてはちょっとパンチ不足かなぁ。にんにくある?」
「別にラーメンとして出したつもりはねぇよ。あとにんにくは無い。スティルが苦手なんだ。黒胡椒ならあるよ」
先日スティルと一緒に街に買い物に行った折、彼女は所謂マシマシ系ラーメン店の前で挙動がおかしくなり、一体中で何が起きているのか、と真剣な表情で聞いてきた。
入った事がある店だったのでその時の写真を見せたところ、彼女は短く悲鳴を上げ、その日一日微妙に距離を取られた。食べたの数ヶ月前だったのに。
「え、そうなの?一緒にラーメン行くなら慎重に選定しなきゃだね……うーん、黒胡椒は2杯目からの味変にしようかな」
姫さんはお代わりをご所望のようだ。大皿にはもう殆ど残っていない。手早く自分の皿を空けた。
「……今から追加作るけど、他にもっと食べる人?」
全員の手がスッと上がった。光栄の極みだ。
「ははは。褒めても俺の腕が上がるだけだぞ」
「……子分さん、本当に凄い所まで来ちゃいましたねぇ」
「今年の聖蹄祭お料理対決、ヒシアマに勝てるんじゃないのだ?」
「や、やめろよその気になっちゃうだろ。これから超忙しくなる予定だし出れないよ。……決着ついたしな」
「接戦だったねあれは!……楽しかったなぁ」
「惜しかったんだが、特別審査員の姫さんを満足させられなかったばっかりにな」
「当時も言ったけど、ほんとに、ほんとに僅差だったんだよ!」
「ふん、覚えてるよ」
「ふふ、泣いてたもんね子分くん」
「うるせぇ!」
吐き捨てて、逃げるように立ち上がりキッチンへ向かう。
「あの、手伝います」
「え?良いよアルヴ。座ってな。君は俺が招いたお客さんだ」
「……その、レシピを知りたくて。自分の分は食べ終わってしまって、暇ですし。……構いませんか?」
どうやら、チームメイトとは楽しくお喋りする間柄ではないらしい。当の姫さんは少し寂しそうにこちらを見ている。……彼女の用件は恐らくこれか。
「お、料理する子だったか。……俺の料理はアドリブとフィーリングだからなぁ……大体さっきと同じになるようにはするが。野菜切っといてくれる?」
「はい」
「その、トレーナーさん。先程から気になっていたのですが、姫さん、と言うのは?」
いつのまにかスティルもそばに来ていた。彼女も食べ終わったのか。記録大幅更新だ。必要な材料をてきぱきと次々冷蔵庫から出してくれている。……俺は何をしよう?……鶏肉焼くか。
「ああ、そりゃあマジもんのお姫様だからだな。なんでもマッハやセングレンの血を引いてるんだと」
2人とも作業の手がぴたりと止まる。
「……そそ、それって、ケルト神話の光の御子の愛バたち……!?」
「……王家じゃないですか」
「おお、博識だな2人とも。……いや、アルヴ、チームメイトなのに知らなかったの?それはちょっと没交渉過ぎねぇ?」
「う……」
「むむ。確かに今日の相談事はそれだけど、ちゃんとお姫様です!って自己紹介したよ!」
テーブルから姫さんの物言いが入る。
「す、すみません。……てっきり、そういう人かと」
「ギャハハハハ!」
「アルヴは初犯だから許しますが、子分くんは不敬罪ね!」
「俺は日本国の法に守られているので無効で〜す。アイルランドにも別に無いだろうけどね。ごっこ遊びじゃなくて、生きた言語として姫だの殿下だのイエスユアハイネスだの言える機会なんてそう無いんだから君らも言っとくと良いぞ。……ノーって言いたい時はなんて言えば良いんだ?」
「英語にもアイルランド語にもそんなの無いよ」
「おお……王家ってすげぇ……」
「うふふふ! なっちゃう?」
「なりません。……姫さん、ジョークというのは、みんなで愉快に笑える事をいうんだぞ? 社会的評価の危機や命の危険を伴っちゃいけないと思う」
「はーい。ごめんなさい。……ぶー。またふられちゃった。シャカールに言ってやろ」
「俺をダシにしなくたって普通にイチャつきゃ良いだろ……」
「そ、そんなことしません!」
「どうだかな。……アルヴ、ちゃんと手順見てるか? 肉は植物性の油、植物は動物性の油で調理すると抜群に美味くなる。きのこはどっちでもいい。今回は鶏の皮から出た脂をとっとく」
「え、ええ。はい」
「……ま、また……?」
きついロイヤルジョークに当てられ2人とも少し動揺しているようだ。
……先ほどから、窓の外から質量を持った殺意を向けられているのを感じる。ちらりと窺うと、ファインモーション姫殿下の身辺警護を長年務めているSP隊長ことピッコロプレイヤーさんの、黒サングラス越しとは到底思えない眼光をまともに浴びる羽目になった。土曜の昼にご苦労様です。とウインクを送ると、一瞬殺意が増したあと窓から離れた。
……内ポケットに手を突っ込んでたが黒光りするものでも持ち込んでるんじゃないだろうな。確かめる勇気は無いが。
「そうだ。スティル、あとでデザートにフォンダンショコラ出して良いかな?こないだ作り過ぎて冷凍したやつ」
「それは良いのですが、い、今の方は?」
「見てたのか。姫さんのお付きで護衛だよ。たまにスーツにグラサンのウマ娘の人ら見かけるだろ?その隊長」
「ああ、学園のセキュリティの方々かと……。この前、ヒシミラクル先輩とサッカーをしているのをお見かけして、よく分からなくなりましたが」
「……あの子も大概、すげー奴だよなぁ……」
「……お兄さん、お知り合いがとても多いんですね」
「それなりに長くやってるしな。俺がと言うよりはウインディとデジたんに友達がいっぱいいるってのが正しいが。……ソースの決め手は多分刻んだエノキだ。とろみと旨みがいっぺんにつくからすごい応用効くぞ。油で炒めると、ほら、粘りが出てまとまる」
「なるほど……多分?」
「具材を鶏油で炒めては鍋に投入して、フライパンに水を入れて沸かして、こびりついてる旨みをこそぎ取ってこれも鍋に入れます。カレーの時は各具材を強めに焦がすぐらいの気持ちで炒めると美味しいですよ。鍋の中身が煮えたら濃いめにシチューを作ります。ルーは全量を小麦粉とバターで作るとコストが大変な事になるので市販の物と2:8ぐらいで混ぜて使うと良いでしょう」
「あはは!子分くん喋り方がお料理番組みたいになってる!」
「……物教えてるとなんか敬語になっていっちゃうんだよな」
「その、こぶん、と言うのがお兄さんの名前なんですか? どんな字を?」
「え?……うそ。俺まだ自己紹介してないじゃん!……どうも、蓮見俊一です。人の顔と名前を覚えるのがちょっと苦手です。子分は親分子分の子分。あだ名だな」
「……そうだったの!?」
「姫さんにもまだだったか。……チーム〈アケボシ〉の伝説の大親分って肩書きに惹かれた自称親分のシンコウウインディが彼に契約を持ちかけてな、当時腰を大規模に悪くしちゃってからの長期療養明け、ほぼゼロからのスタートで途方に暮れてた大親分は初めての逆スカウトに大はしゃぎで二つ返事しちゃったわけだ。ところがその子はイタズラしまくるわ噛み付きまくるわのとんでもない癖ウマ娘でなぁ。何とかやって行きながらも体力的な限界を感じ始めた頃、〈アケボシ〉の部室にうっかり現れてしまったのがコネなしノウハウなしでトレーナーになりたての俺だったってわけだ。そのまま弟子入りして、大親分、親分の次だから子分」
「うーむ、なつかしい。若気の至りというやつなのだ」
「長期のご留学にお越しあそばされた事実上の国賓を落とし穴にハメくさったのは去年の話だけどな……」
スティルとアルヴがギョッとした様子でウインディとファインを交互に見る。
「うふふ!素敵なサプライズでした。急にフワッと体が軽くなったと思ったら、さふって腰まで甘い香りに包まれて。見上げたら、丸く切り取られた青空とピンクの花びらのコントラストがすっごく綺麗で!……今年はやらなかったの?」
「……ウインディちゃん、落とし穴はもう懲りたのだ」
「そりゃ重畳。説教の甲斐あったよ。……俺が姫さんに学園を案内してる最中に起きた事件でな。表沙汰になれば俺1人のクビなどでは到底済まない事態に発展しかねないので、すったもんだの末何もなかった事になってる。うっかり喋っちゃったが口外しないように。いや、関係者は全員知ってんだけどね」
その落とし穴はウインディが俺をハメるつもりで掘ったものであったらしい。
スポンジの上にビニール養生、集めに集めた桜の花びらを深く敷き詰めると言う粋と手間を凝らした逸品である。100回落ちても怪我をすることは無いであろうが、実際に落ちた相手が相手だった。
安全第一、面白さ優先、シャレで済む抜け道はいくつでも用意する、怒られたら謝り倒すのイタズラ四道を口うるさく説いておいて本当に良かった。……もし泥だの擦り傷だのつけようもんなら、少なくとも俺は今ここに居ないだろう。
「いや〜、おそらくチーム〈アケボシ〉最大の危機でしたねぇアレは……」
「君の尽力と姫さんの寛容さのお陰で何とか今も首が繋がってるよ……まぁ、つまり色々あって仲良くなったわけだ」
「……色々、ねぇ?」
何故か、姫さんからじとりとした視線を向けられる。……実は怒ってた、とはちょっと思えないが……なんで?
「尽力、と言いますか片棒を担いだと言いますか……子分さん、最終的に学園側とあちらの方々両方を脅迫してましたよね……謝罪と釈明の場だったのに、いつの間にかファインさんを走らせないとはどういう事かという話にすり替わってて……どんな話術ですか、ホントに」
「さすがは悪の作戦参謀だと感心したのだ。いや、”悪”」
「そのものなの?……なんかカッコいいな。……よし、多分できた。……あ!麺がもうねぇ!」
「えー! あれが楽しみだったのに!それじゃあラーメンじゃ無いじゃない!」
「ラーメンじゃねぇっつってんだろ! ええと、なんか無いか……あ、冷凍うどんあるわ。多分アレでイケる。チンするだけで食べれるし美味いし日持ちする自炊の強い味方だ」
◾️
全員フォークから箸に持ち変え、無心で啜る。奇妙な一体感を感じる空間と化している。
「……さっきの麺より美味いな。凄すぎるぞ、冷凍うどん」
スティル以外の4人が無言で頷いた。
「……私はさっきのフェットチーネも好きですよ。……トレーナーさん手ずからお作りになったものですし」
「ははは、ありがとう。小麦粉と卵が沢山あるからなんか面白い事できないかとやってみたんだが、まだまだ改良の余地がありそうだ。目指すは冷凍うどん越え……いや、かなり難しそうだなぁ」
「! それなら次はラーメン!ラーメン作ろうよ!ラーメンならきっと越えられるよ!」
「うーん、君のその異常な情熱に応えられるものを作るのは難しそうだが、まぁそこまで言うなら考えとこう」
「やった! 私、夏から北海道だからそれまでにね!」
「それは約束できかねるな。……ちと研究の時間をくれ。せっかくなら、北海道帰りの君を唸らせるものを作ってみたい」
「ぶー。……ふふ、楽しみだなぁ、北海道。……札幌、函館、旭川……」
恍惚と北海道ラーメン激戦地を読み上げている。
「羨ましいなぁ。ウインディもデジたんも北海道には縁がないから、暫く行けてねぇや。小樽もいいと思うぞ。ラーメンだけじゃなくて、回転寿司も行っときな。……こっちの寿司屋に入れなくなるかもしれんが」
「ふふ、覚えておきます。……楽しみだね、アルヴ!」
「……夏からチームで遠征、とは聞いていましたが、大丈夫なんですか?そんなに食べてばかりで」
……ジュニア級が先輩達の遠征に同行するのか。ついていける、と姐さんは判断したと言う事だ。……末恐ろしいが、楽しみでもある。
「むむ、今日一番食べてたのはアルヴじゃない」
「う……」
「ははは。そんなに後輩いじめてやるなよ。……相談事はもう大丈夫なのか? 察するに、エアグルーヴは基本慕われるか怖がられるかしかした事ないからツンケンされるのには慣れてなくて、ドーベルはそもそも人付き合い苦手で、君は後輩って概念自体が初めてでどうしたらいいか、ってところだと思うが」
「み、見てたの?」
「まさか。最近はずっとスティルに付きっきりだよ。……ツンケンしてる主な原因はおそらく俺だが、多分今日解決した。価値観は君とは合わないことの方が多くなるだろうから、寧ろそれを楽しむ方向でコミュニケーションとったほうが良いだろうな。生意気言うようなら先輩らしく実力で黙らせてやれ。アルヴも相当なもんだが、君なら彼女がジュニア級のうちは大丈夫だろ」
「ふんふん。実力云々以外は、大体シャカールと同じ感じでやれば良いわけだね!」
「……普通、当人の目の前でそう言う話するものなんですか?」
「ある人の事が気になるなら、あなたを気にかけていて心配です、と直接伝えるのが一番効くよ。覚えておくと良い」
「…………はい」
アルヴは思うところがあるようで、神妙に頷いた。
「一件落着なのだ? うむ、たまになら人助けも悪くないのだ!」
「子分さんに丸っとアウトソーシングしただけですけどね〜……」
「子分の手柄は親分の手柄なのだ」
「ふふふ!ありがとね、ウインディさん、デジタルちゃん。……子分くんも」
「君らの相談に乗るのは給料のうちだが、お礼は受け取っておこう。お土産とかも持ってきてくれて良いぞ」
「あははは! うん、わかりました。 ラーメンの材料も探してくるね!」
「……アルヴ、姫さんが牛一頭とか豚一頭とか買いそうになったら止めてくれな」
「……はい」
冗談を言ったわけではない、と俺の声色から察してくれたらしい。
「じゃ、ウインディちゃん帰るのだ。ごちそうさまなのだ」
「ご馳走様でした。すみません、お邪魔しました〜」
「? おいおい、俺が招いたアルヴや姫さんはともかく、君らにタダで食わせるなんて言ったか?」
「えっ……う、ウインディちゃん、今日お金持ってきてないのだ」
「あ、あたしも出費が嵩んで今は手持ちが……」
「ガキのこづかいなんざ要るか! やめろよ普段金取ってるみたいだろ。ちょっとお願いがあるだけだよ」
2人とも聞く体勢に入ったので、そのまま言葉を続ける。
「腹ごなししたら、スティル……いや、インと併走してもらう。いい加減、俺も彼女に会いたいからね。参加賞はデザートだ」