スティル鬼つええ!このまま逆らう奴ら全員ブチ抜いていこうぜ! 作:スティル可愛すぎるインラブねぇ
「あ! お〜い! はすみーん!ティルっち〜!」
ウマ耳と共にぴょんぴょん揺れる高めのポニーテールに合わせて、ブンブンと手が振られている。こちらも振り返す。
「スティルです。おふたりとも、お世話になります」
「いや、悪いねハルちゃんに凛々眉くん。急にねじ込ませてもらって。今日グラウンド使う予定なくってさ」
「西丸です。……スティルさんだけでなく、錚々たる顔ぶれと併走させていただけるとの事でしたので」
「スペシャルゲストって言ってたわね。 おおっ、ホントにすごい面子ね。〈アケボシ〉のふたりに、ファイン先輩! に、……ゲェーーッ!? アドマイヤグルーヴ……!」
先程までの人懐っこい笑みはどこへやら、苦り切った表情をアルヴに向けている。
当のアルヴはと言うと、
「……」
と、全く感情の読めない無表情を保っている。……これが彼女のデフォルトなのだろうか? こりゃ姫さんたちが苦心するわけだ。
「ええっと、……お知り合いだったのですか? お話しされてる所、見たことありませんけど」
「知り合いぃ? はん! 向こうはわたしの事なんか知りゃしないでしょうよ!」
鼻でため息をひとつついた後、アルヴが口を開いた。
「……知ってるわよ、オースミハルカさん」
「ああん??!」
「スティルさんとの選抜レースでは敵を侮って、無様な負け方をしていたわね。……いつもの貴方なら、もう少しぐらいなんとかなったんじゃない? 勝てはしなかったでしょうけど」
「……んぐぎぎぎ……! あいっっっ変わらずね……!」
「なんだアルヴ、友達いたのか」
「違うわよ!……ん?アルヴ?」
「違います、お兄さん。……ジュニアクラブの全国大会でよく見た顔、と言うだけです」
「お兄さん! ……な、なになに?聞いてもいいやつ?」
一転、興味津々、と書かれたネオンを目の中に輝かせながらこちらに笑みを向けてくる。表情がよく変わる子だ。
「ダメ」
「なんでよ!」
「結構長い話になるんだ。そのうちアルヴから聞きな」
「大会の度に話しかけても、『……敗者と話して私にメリットあるの?』とか言ってほぼ無視してくるのに!?」
えらくクオリティの高いモノマネを披露してくれた。観察力の高さが窺える。
「アルヴ、君……」
「う……」
苦言を呈されるとでも思ったのか、無表情が僅かに崩れバツの悪そうな顔になる。どうやら俺には多少心を開いてくれている……のだろうか。
「クソかっこいいな」
「そうなのよ! でもほんっっとムカつく……!」
「……は?」
「……ハルちゃんとトレーナーさん、よく似た所がありますよね。おふたりとも、私が自動ドアを通れないのを見て指差して笑うし……」
「それは……君が面白いのが結構悪いよ」
「そうよそうよ。変なポーズで固まったかと思えば、センサーに向かってぴょんぴょん飛び跳ねちゃってさ。可愛すぎて気ぃ狂うかと思ったわ」
「わかるなぁ……あ、デジたんが貰い死にしそうだ。親分ちょっと頼む」
俯いて顔を赤くし、ぷう、とむくれるスティル。楽しそうに笑ってそのほっぺをつつく姫さんを見て、小刻みに震えながら奇声を堪えていたデジたんは普通に死んだ。ウインディが手慣れた調子で、前に倒れ込もうとするデジたんの首の後ろの襟を掴んで転倒を阻止する。「ぐえぇっ!」と言う声と共に勇者は復活を果たした。
「……それで? 私とは走れない?」
「……負かすまではこっちから口もきいてやるもんかと思ってたけど、やってやろうじゃないの! 雪辱2件、まとめて果たしてくれるわ!」
「うーん、そう言う事なら、併走じゃなくて模擬レース形式にするか?」
「おお、良いですね! ……萌芽したてのフレッシュなライバル関係、後ろの方から堪能させていただきますね。……んひゅひゅひゅひひ」
「デジたんよだれ。 ……にしし、いっちょ新人どもを揉んでやるのだ!」
「わー、やった! レース形式久しぶり!」
「う……勢いで言っちゃったけど、先輩方いるんだった……まぁ、同期2人に先着できればよしとしましょう! 改めて、オースミハルカです! 皆さん、胸お借りします!……その、ウインディ先輩も芝イケるんですか?」
「おいおい、彼女も芝G1経験者だぞ。結果は……聞かないでやってほしいが……」
「うっさい!!!」(14人立て13着)
「どうどう。併走よりもこっちのがインも嬉しいだろうしね。……スティル、どうだ?」
「……その時になれば、確実に出てくると思います。その、」
スティルはちらりとファインモーションの方を見た後、良いのですか、と不安げな目を向けて来た。
「姫さんと走れないんなら、君は誰とだって走れないよ」
「っ……それは……」
「逆に言やぁ、今日大丈夫ならどこの誰相手であろうと問題無いってわけだ。大丈夫、姫さんは寛容だ。もしなんかあっても俺の首だけで済む。君に累は及ばない。キャリアを続けられるように尽力しよう!」
「お、及んでます!もしそうなったら、私……!」
「そうならないようにインの……手綱を握ってくれって話だよ。うん、これは我ながら上手い言い方だ。……出来そうか?」
「……はい、やってみせます!」
「よし、その意気だ!……ウインディ、君が噛みついて話の腰をブチ折ったりするなよ! 今度こそ庇ってやれないからな!絶対だぞ!」
「……レース中には、あれからもう一度も噛んでなーいーのーだー!!」
「来るか!」
こちらに突進する構えを見せたので、腰を落とし迎撃態勢をとる。果たして彼女は飛び出して来た。
真っ直ぐこちらに突っ込んでくるように見えたウインディは急制動し、ノーモーションで俺の頭上を飛び越えるように跳躍した。タイミングがずれ対応し損ねる。
そしてそのまま身を翻して後ろからがばりと俺の背中に取り付いた。
何だその技知らんぞ!
「ぎゃあああ!頭に噛み付くな!骨に、骨に食い込んでる!あででで!」
「きゃあ!? ウ、ウインディ先輩! 落ち着いてください! 人に見られたら練習どころでは……!ああ、言ったそばから誰か来た……!」
「お、〈アケボシ〉名物だ。久々に見たな」
「いい事あるかもなぁ。……帰りガロ打つ?」
「いいね」
ウマ娘に襲われ痛みに苦しみ悶える同僚を目撃したはずの通りがかった2人のトレーナーは、そのまま歩き去っていった。 薄情者め。
「……えぇっ」
「まぁこの通り、ここではちょっとやそっとのことでは騒ぎになどなりません。気楽に、というわけには行かないでしょうが、どーんといきましょう!」
「なんかあったら、一緒に頭下げてやるのだ。ウインディちゃんが頭を下げて許さなかった奴はいないのだ!」
「……! はい、ありがとうございます、先輩方」
「頭下げる前に、まず俺の頭から降りろ!」
「むー。私って地雷か何かなの?」
「ははは、ごめんな姫さん。ご協力、感謝に堪えません」
「ふふ、デザートのためだからね。……キミがあれだけ言うんだから、ホントに美味しいんだろうなぁ」
先ほど部室で参加賞を提示し、その名状し難き魅力を乏しい語彙で懸命にアピールした折、目論見通り「はいはい私も私も!参加します!」と姫さんが釣れ、アルヴもそれに続いて控えめに挙手し、現在に至る。疑いなく相手の意思による参加だ。責任とはこのような積み重ねで回避したり軽くしたりできる。
「デザートにさして興味はありませんが、”彼女”と走る機会を逃す手などありません」
「おい興味無いとか言うなよスティルめっちゃ頑張って作ったんだぞ!」
「ご、ごめんなさい」
「あっはははは!あなたが謝るのなんて初めて見た! はすみんすご〜っ!」
「ぐ……!」
「か、顔怖すぎでしょ。冗談よ、冗談。……ふくくっ……! ところで、デザートって?」
「参加賞だよ。スティルお手製の逸品。欲しけりゃ君らの分もあるよ」
「え〜!やった!絶対もらう!」
「君らって……僕のもですか?」
「うん。……彼女、頑張り過ぎちゃってね。いい加減、冷凍庫を空けたり新作を食べたりしたいんだ。良ければ手伝ってくれ」
「どんだけ作ったのよ」
「だ、だって、あんなに褒めてくださるものだから……」
俺がたまに部室のキッチンを使う事はあるものの、全く活かされる事のない大きなオーブンを見かねてか、ある日私が使ってみても良いか、と提案があった。聞けば彼女の家には似た様な設備があり、クリスマスなどにケーキを焼くのは彼女の役目なのだと言う。そりゃすごい、ぜひやってくれとお願いした所、俺では逆立ちしても届かぬようなクオリティの……なんか、オシャレな名前の焼き菓子を出してくれた。焼き菓子は基本アドリブもリカバリーも効かないので俺にとって鬼門である。なんでちょっと手順間違えたぐらいで膨らまないんだあいつら。
感情のままに激賞したところ、もっと自信のあるメニューがあるんです、と過日に件のフォンダンショコラをふんだんに焼いてくれた。
これまた素晴らしいクオリティではあったが、短期間に人間が食べきってしまえば確実に健康を害し、ウマ娘であっても影響が出るような量だったので、申し訳ないし俺も惜しいが折を見て誰かに分けても良いか、と提案し、了承を得た。
「俺は丈夫なほうだが、それでも限度が無いわけじゃ無いからなぁ……併走じゃ無くて模擬レース、となると負荷めっちゃ上がっちゃうけど、〈ヴィーナス〉的には勝手にやって大丈夫なのか?」
〈ヴィーナス〉の2人に水を向ける。
2人は少し顔を見合わせたあと、
「……うん、ダメだね!」
「……バレますね、絶対」
前者は笑顔で、後者は渋面と共にそう答えた。
「き、聞いてよかった〜。……俺から姐さんに話通しとくわ。デシたん、大親分にも一応言っといて」
「あ、もう連絡済みです。見に来られるそうですよ」
「おお、いつの間に。流石気が効くな。……あ、もしもし姐さん?ご無沙汰してます。いえ、めちゃくちゃ仕事の話です。ああ、飲むとこだったんですか、こんな昼間っから。ははは、羨ましいだけで他意はありませんよ。いや、行きません。仕事中です。いえ、夜も先約があるんで……その、俺の用事を伝えても?」
「あの、ファイン先輩」
「! なに、アルヴ?」
「彼、佐倉トレーナーと親しいんですか?」
「うん、私達のトレーナーも〈アケボシ〉の大親分さんの弟子なんだって! 姉弟子ってやつだね。子分くんが学園に来る前には独立してたらしいけど。私が入学する前から、〈ヴィーナス〉とは結構交流があったみたいだよ」
『はあ!? あの子と打ち解けたの!? どうやって?』
咄嗟に耳から離した携帯を、顔をしかめながら元の位置に戻す。周りの子達が目を丸くしてこちらを見ている。お騒がせしました。
「……びっくりしたなもー。んな声出したらお店の人とか怒っちゃいますよ? あと、そう言うわけじゃなくて、彼女がうんと小さい時に知り合ってて。今朝わざわざ訪ねて来てくれたんですよ。俺の方はすっかり忘れてて、今日思い出したんですけどね。……いや、もうそういうの死ぬほど言われたんでご勘弁を……はい、……はい、分かりました。一生言われます。……ええ、分かりました。バッチリ撮っときます。……ははは、承りました。では」
我が姉弟子はほっとくといつまでも喋り続けるタイプの人だ。手早く通話を終了する。
「よし、了承取れたぞ! あ、そうだ。おーいピッコロさ〜ん!」
呼びかけると、姫さんの後方の物陰から黒服が現れた。
「……保安上のリスクがありますので、単に隊長とお呼びくださいと……」
「ああ失礼。日本人には声に出して呼びたくなる名前なんですよ。それで、レースの撮影をお願いしたいのですが……隊長と、そうだな、あと3人くらいで、例の方法、姫さんメインで」
ピッコロさんがつい、とサングラスを姫さんの方に向けた。 彼女はただにこりとして頷く。
「……かしこまりました。人員を見繕って来ます」
「謝礼も用意していると伝えてください。
「おお、それは……ふふ、選抜が紛糾しかねないので伏せた方が良いかも知れませんね。では、少し失礼します」
彼女は耳のインカムに手を当て、先ほどとは別の物陰に消えていった。
「お願いします。そんじゃ、各自アップしてくれ。そうだな、15分後ぐらいに……」
時計を見ながら話していると、急激に空気がピリつくのを感じた。
G1もかくや、と言う雰囲気なので、みんなガチすぎんだろ、と様子を見ると全員の視線がスティルに集中している。
俺も釣られて彼女の顔を見る。陽の光の下でもなお妖しく輝く紅い瞳が、スティルのそれとはまるで違う種の微笑みと共に向けられていた。
「ふふ……話相手が尽きないヒトね、アナタ」
「……イン! や〜っと俺と口きいてくれる気になったか。久しぶり!」
「ワタシはいつもこの子と一緒よ。……こんな素敵なご馳走を用意してくださるんだもの。礼は尽くすわ。……でも、良いの?ワタシを走らせるのは体に負担が大き過ぎる、だの言っていたじゃない?」
「だからと言って、いつまでも慣らし運転をしない訳にはいかないよ。それに、大丈夫だ。それは激しい競り合いが起きた場合の話だ。君は今回普通に走って普通に負けるだけだから、そんなことにはならない。安心だな!」
「……は?」
「……?ああ、君、自惚れが強いタイプか。スティルと真逆だな。まぁ、勝つ気でやってくれるに越した事はないか」
「…………」
「なんだ、そんな不満そうな顔をして。……うーん、そうだな、1着に3バ身以内につけられたら、今後は君の意向に出来る限り従う事にしよう。欲しい物ややって欲しい事も叶えてやる。出来なかったら、満月以外も俺に会ってもらうし、俺の指導をちゃんとちょくちょく受けてもらうぞ。……君、本当は出てこようと思えばいつでも出てこられるんじゃないのか?」
「……狩り以外に興味がないだけよ」
「狩りか! 良い表現だな。だが、狩りをやるにはガムシャラに走る以外にすべき事が本当に沢山あるぞ。 これからみっちり教えてやる。……楽しみだな?」
「ふふふふふ!……ちゃんと育ってるわよ? このカラダは。きっと、アナタが思う以上にね」
「”スティルが”頑張ったからな。まぁ、それも楽しみにしとくよ。……と、言うわけでウインディにデジたん。今回の頼みはどうせ本気出せば自分が一番強いと思ってるこの浮かれポンチの鼻っ柱を叩き折ってもらう事だ。よろしく頼む」
「まかせろ!」
「ちょちょちょ、大丈夫なんですか!?そんな言い方……」
「再三の呼びかけに応じずつらーい練習を全部スティルに押し付けてるんだ。このぐらいは言わせて欲しいね。ちなみにデジたん、君が大本命だ。大差つけてやれ、大差」
「ひょえええ……?」
「対抗姫さん、大穴親分、他は……まぁ、賑やかしだな」
「……安い挑発ですね」
「同感」
言葉とは裏腹に、アルヴもハルちゃんも顔の血管が全部浮いてる。
しまった、インを焚き付けようと脳が煽りカスモードになってていらん遺恨を生んでしまったかもしれない。
後でフォローするか逃げるか考えとかないと。
ちなみに親分は大穴扱いされると喜ぶ。
「ご馳走の上に、余興まで用意してくださるのね。ふふふふ……何をさせてあげようかしら?」
「おーう。何でも良いぞ。土下座する俺の頭の上でタップダンス踊ってくれてもな」
「……しないわよ、そんなこと」
呆れ顔のあとインは瞑目した。独特の気配が薄れていく。
「あ、待て!久々なんだからもうちょい話を……」
言い終える前にスティルが目を開く。数瞬ののち、彼女は居心地悪そうに目を伏せた。
「ぬぅ、行っちまったか。……まぁ、必要な事は言えたからあとはおいおいだな」
「えーっと……おかえりなさい?」
不安そうにチラチラと周りの表情を窺おうとするスティルに、姫さんが声をかけた。彼女の肩がびくりと跳ねる。
「……も、申し訳ありません……その、驚かせてしまって……」
「ちょっとびっくりはしたけど、謝られる覚えは無いよ。 ……強いて言えば、私もインとお話してみたかったなぁ。レースのあと、また会えるかな?」
「え……」
「いやはや、映像でも凄い迫力でしたが、生で見るとさらに凄まじいものがありますね! まだレースも始まっていないと言うのに! むふふ、何たる強烈な個性……!ついに体験の機会が……!」
「わがウインディちゃん軍団に居ないタイプの人材なのだ。……お前、悪の女幹部に興味無いのだ? 候補生として迎えてやるぞ!」
「え、ええと、か、考えておきます」
手応えのない回答に親分がしょんもりしている。
ちょっと手出してやるか。
「ははは。俺は悪の作戦参謀らしいから、コンビを組む事になるかもな」
「……入ります。ウインディ先輩」
「おおっ! ……だが、わが軍団の基準はヒジョーにキビシイのだ。このレースで親分にいい所見せてみろ!」
「はい!」
スティルは気分を持ち直したようだ。……つーか、俺とコンビ組みたいのか。 結構、いや、めちゃくちゃ嬉しいな。まぁ、既にコンビ組んでるけど。
「先輩方は流石にトレセン慣れしてるわね。……わたしはちょっと気合い入れ直さないと」
「……お兄さん」
「どうしたアルヴ?」
「さっきの3バ身以内につけられたら云々、私にも有効ですか?」
「! 君、俺に何かして欲しいことがあるのか!? なんだ、言ってみろ!」
「……何で嬉しそうなんですか。……その、例えばの話ですけど、……肩車、とかでもですか?」
「? そんなの、今してやっても良いぞ。さっきウインディにもやってたろ」
「あ、あれは背中にしがみつかれていただけでは……では、関西弁で話す、とかは」
「……おお、罰ゲームとして絶妙に嫌なラインだな。今更キャラ変したらみんな戸惑うだろ。……うん、いいだろう。面白そうだ」
「……子分の関西弁、あんまり良い思い出が無いのだ」
「まぁ、基本すんごい怒った時にしかなりませんからねぇ」
「お父様を説き伏せちゃった時も話してたね。 ……あの時、最後の方はなんの話してたの? すっごい早口で当時は全然聞き取れなくて」
「……あんま覚えてないよ。去年の話だし」
「え〜? ほんとに〜?」
何か面白い秘密でもあると思っているのか、不満そうに口を尖らせている。
実際の所は、この子の姉の事は自由にさせておきながら彼女の方は縛ろうとは何事か、と言う所から口論がヒートアップし、ついには彼の祖父が晩年に出版した自伝の記述を基に、娘の前で彼の留学時代の恥ずかしい秘密を暴露しようとしただけである。
「……いろいろ気になる事が溜まっていってるけど、わたし、はすみんにして欲しい事とか別に無いんだけど?」
「ははは。この世代は自信家が多いのか? 良い事だ。まぁ、思いついたらで良いよ。……それか、西丸くんに要求したら?」
「え? うーん、……もっと頼れるようになって欲しい?」
「……先輩、僕、どうすれば良いんでしょう」
「この場面ですぐに人に頼れるのは強みだな。ハルちゃんに引っ張ってもらってりゃ、その内頼られ方もわかるよ」
「……トレーナーさん」
「ん、どうした?」
「私、先に走って体を温めて来ても良いですか? 私は午前中ずっとストレッチをしていた様なものなので、柔軟も最低限で良いと思うのですが……どうでしょう?」
「うーん?……あ、そうか、本番前に皆と走ったらインが出て来て体力使い果たしちゃうかもだしな。 良いよ、軽く行っといで」
「はい。では、少し失礼します」
スティルは皆に一礼すると、その場で体を軽く曲げたり伸ばしたりし、ぴょんぴょん跳ねた後、軽やかに走り出した。
「おおっ! あの独特なフォームに更に磨きがかかっていますね! でも、アップであのスピードはちょっと力んじゃってますかねぇ。 ……って、あれ?どうしました子分さん? 見た事ない顔してますけど」
「……悪いが、2人とも責任重大だ。マジのガチの本気でやってくれ」
「? どうしたのだ?」
「あの子、ちゃんと流してる。力んでないよ。……それでアレだ」
コース向こう正面へ走っていく彼女を見ながら言う。
この場の全員が息を呑む気配が伝わって来た。
「……デビュー前なんですよね?」
「そのはずなんだが……いや、驚いた。なんで急にあんなレベル上がってんだ……びっくりしてる場合じゃねぇ。うっかり何でもするって言っちゃったから育成プランに多大に影響しかねん。……あの、頼むぞ、マジで頼むぞ! 勝つだけじゃダメだからな!」
♦︎
そろそろグラウンドの半周に差し掛かる。……とても、調子が良い。……と言うよりは、今までに無く体が軽い。
ちらりと反対側のトレーナーさん達の様子を見てみる。彼は器用にもこちらを見ながら、出走者達のアップを指導し、戻って来たSPさん達にあれこれ指示を出しているようだ。
彼はやはり、とても優秀なのだろう。少し変わったところはあるが、人当たりは良いし皆に慕われている。
私にも、とても良くしてくれている。……他の方々にするのと同じように。
付き合いの長さには年単位の差があるのに、ほぼ隔たりを感じさせない。間違いなく彼の美徳だ。
彼はきっとチームを持つ。何年かのち、私の後に現れる子にも、同じようにするのだろう。
それはきっと楽しくて、幸せな事だ。
でも、それでは。そんなの。……などと、烏滸がましくも思ってしまう。 私が誰かの輪の中に居る未来、なんてものを、想像出来るようになったのに。
……何の取り柄もない私が、本当に彼の特別になるには、やはり、これしか無い。
内なる紅に呼び掛ける。
「イン」
《なぁに? つまらない忠告なら必要無いわよ。 ちゃぁんと、始まるまでは我慢するわ》
「全員、ブチ抜くわよ」
《…………あら、まぁ♪》
トレーナーさん。私、自分がこんなにも嫉妬深いなんて、知りませんでした。
でも、きっと。 受け止めて下さいますよね?
あまりに時間かかりすぎてワロタなのでちょっとプロットってやつを組んでみようかと思います
ただ推しつつ積んでるゲームのアプデが来たので今年中に更新出来たら嬉しいだろうなって感じです
みんなもやろう活俠傳