地獄先生ぬ~べ~A(アテナ) ~女神様の『普通』の小学生生活(ハードモード)~   作:斉宮 柴野

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恋の季節、来たる。

私、城戸沙織。普通の小学生(※物理的には違う)。
今日は運命の恋愛イベントに挑む……はずだったのに、
気づいたら地形が変わってた。

だって、恋ってさ――地面を揺らすほどのものじゃない?

――ぬ〜べ〜、また報告書に「生徒が地層を露出させました」って書く羽目になります。ごめん。


乙女の恋、地表を割る。

その日、私は完璧だった。

頭の中で鳴り響いていたBGMは「恋のフラグ交響曲第5番」。

そう、今日こそ私は普通の女の子の恋愛イベントを実現させるのだ。

 

ぬ~べ~の粋な計らい(というか強制)で、広くんはサッカー部に入った。

彼が運動場で汗を流している姿を見た瞬間、私の脳内で何かが爆発した。

(来たわね……恋愛イベントの季節が!)

 

郷子と美樹を放課後の教室に呼び出した。

机の上にはスマホ。

画面にはとあるアニメの画像。

そして、私は誇らしげにそれを突き出した。

 

「二人とも、これよ!私たちが目指すべき姿は!」

 

郷子が顔をしかめた。

「……何これ。布少なくない?っていうか、これもう下着じゃない!?」

美樹が興味津々でスマホを覗き込む。

「えー、可愛いじゃん!私こういうの着てみたかったんだよねー!ノリノリ!」

 

ふふふ、いいぞ、美樹。理解が早い。

「いい?こういうのはね、パンツ見せて胸も見えちゃって、男をメロメロにするものなのよ!」

 

「お前、もしかしなくても……広のこと好きなの?」

郷子がジト目で聞いてきた。

 

……違う。断じて違う。

力強く首を振った。

「違うわよ!これは恋愛フラグ管理の一環なの!分かってないわね郷子ちゃん!」

 

「恋愛フラグ管理……?」

「そう!ゲーム的に言えば、今がイベント発生タイミングなの!マネージャーとかチア部のかわいい子が応援に来るっていうのは、鉄板の好感度アップイベントなんだから!」

 

美樹が目を輝かせる。

「やばーい!分かる!分かる!アニメでよくあるやつー!」

郷子は呆れたように腕を組む。

「私は絶対着ないからね!」

 

ニヤリと笑った。

(ふふふ、言うと思った。なら――挑発で落とす!)

「へぇ……郷子ちゃんは、自分の体に自信がないんだ?」

 

「なっ!?誰が自信ないって言ったわよ!?」

「じゃあ、着てみればいいじゃない」

「うぐっ……くっ……着てやろうじゃないの!」

 

勝った。

(策士、城戸沙織。恋愛イベント管理の鬼。)

 

私は満足げにうなずいてから、声を潜めて言った。

「ふふふ……この衣装のいいところはね、すぐに脱げてエッチな展開に移行できるところなのよ」

 

「えっちな展開!?」

美樹が即食いついた。

ナイスリアクション。

 

 

「想像してみて!練習で疲れた彼の前に、私たちが現れる!

 『がんばって♡』って言いながらタオルを差し出す!

 私たちの魅力に当てられた男たちが、汗だくのまま迫ってきて……ぐふふふふ……」

 

両手で頬を押さえた。

「……あんなことやこんなことされちゃうのよ!想像しただけで……濡れちゃう?」

 

郷子と美樹が同時に固まった。

その顔、言葉を失ったとはまさにこのこと。

 

「……ねえ」

「……なに?」

「普通とは?」

「知らん……」

 

いや、待って。

私だって普通を目指してるのよ!?

これは普通の女の子が恋を実らせるための必須工程なの!

恋愛マニュアルにも書いてあったのよ、「視覚的刺激は効果的」って!

 

でも二人は全然乗ってこない。

「沙織、それ、どう考えてもR18イベントでしょ」

「ていうか、学校で脱ぐとか通報案件だよ?」

 

「違うの!私が言ってるのは心の裸よ!」

「心どころか布も無いでしょ!」

 

ああああもう、わかってない!

二人ともロマンが足りない!

 

机を叩いた。

「聞いて!恋愛っていうのはね、勢いと演出がすべてなの!

 夕日、汗、スポーツ男子、チア衣装――この四つが揃えば勝利は確定!」

「なにその根拠ゼロの四天王」

 

構わず続けた。

「だって考えてみて!あの広くんよ!?転校初日からあの存在感!

 でもどこか闇を抱えてる感じ!これはヒロインが救うルートに決まってるのよ!」

 

郷子が呆れながら言った。

「アンタ、もう脳内でエンディング迎えてるでしょ」

「当然!最終章では『ありがとう、沙織。お前が俺を救ってくれたんだ』って言われて、

 バックには校舎と夕陽、そしてBGMは切ないピアノ曲!」

 

美樹が拍手した。

「うわー、想像力すごーい!」

 

「やばい。もはや病気の域だわ」

 

でも、私は止まらない。

「いい?明日、サッカー部の練習が終わる頃に、私たちがこの衣装で登場するの。

 ポンポン持って、『フレー!フレー!ひろくーん♡』って言うの!」

 

「言わない!!」

「言わない!!」

二人のハモリが完璧だった。

 

「いいじゃない!青春よ!汗と涙とパンチラよ!」

「最後の単語がすべてを台無しにしてる!!」

 

机を乗り越えて、二人の肩を掴んだ。

「いい?恋は戦いなの!羞恥を捨ててこそ真のヒロインになれるのよ!」

「その理屈でいくと、アンタはもう魔王だよ!」

 

しかし、私は折れない。

だって私は、普通の女の子として恋をしたいんだもん。

(普通の定義はもはや風化してるけど!)

 

と、その時。

ドアががらりと開いた。

 

「おーい、まだ帰ってなかったのか?」

ぬ~べ~先生が顔を出した。

 

全員、凍りついた。

机の上にはチア服(布面積:限りなくゼロ)。

スマホ画面にはアニメ風過激チアリーダー特集。

タイミング最悪。

 

先生の顔がみるみる青ざめていく。

「……お、お前ら……なにを、してるんだ?」

 

立ち上がった。

「違うんです先生!これは健全な恋愛教育です!」

「どこが健全だ!!!」

 

先生は額を押さえた。

「お前らほんっとに問題児だな……」

「先生、恋愛って大事ですよね?」

「いやまあ、大事だけど!」

「じゃあ!応援チア作戦、賛成してくれますよね!」

「するわけないだろバカ!」

 

郷子がため息をつく。

「ほら見なさい。大人の意見は正しいの」

「うるさい!先生は恋愛経験少なそうだから説得力ないの!」

「おい失礼な!」

 

美樹がくすくす笑った。

「でもさぁ、ぬ~べ~、意外と優しいし頼れるよね。

 なんか、お父さんみたい」

「いや、みたいじゃなくておっさんだろ!」

「誰がだ!!」

先生のツッコミ炸裂。

 

腕を組んで宣言した。

「先生!明日、私たちはサッカー部を応援します!衣装も作りました!」

「……その衣装、許可取ったのか?」

「もちろん!自分の良心に!」

「ダメだこいつ……」

 

先生は肩を落とした。

「頼むから、校則の範囲でやってくれよ……」

「大丈夫!パンツは見えない範囲で!」

「いや見えたらアウトだからな!?!」

 

そうして、先生はため息をつきながら帰っていった。

残された私たちは顔を見合わせた。

そして――

 

「やる?」

「やるしかないね」

「うん、やる」

 

郷子が天を仰いだ。

「……私、人生で初めて普通の応援が恋愛バトルに発展する瞬間を見たわ」

私は胸を張って言った。

「これぞ青春よ!」

 

その瞬間、放送スピーカーからぬ~べ~の声が響いた。

『放課後の三人、今すぐ職員室に来なさい。話がある。』

 

……チア服を握りしめたまま、私たちは無言で見つめ合った。

 

「……やっぱり怒ってるよね?」

「うん、完全に説教コース」

「でも、後悔はない!」

「あるに決まってるでしょ!!」

 

それでも私は心の中でつぶやいた。

 

(広くん、待っててね。明日、あなたの人生、ちょっとだけ壊してあげる♡)

 

 

 

 

 

 

 

観客席の端っこで双眼鏡を構えていた。

そう、恋の監視――もとい、応援観察タイムである。

 

今日も広くんは汗を輝かせながらボールを蹴っている。

風になびく髪、真剣な目、ほどよく焼けた肌。

(……ふっ、これが青春ってやつか)

 

郷子と美樹も隣で見ている。

でも、私の胸の高鳴りとは裏腹に、郷子は冷ややかだ。

「アンタ、双眼鏡逆じゃない?」

「えっ」

本当に逆だった。

(あ、道理で広くんが小っちゃく見えると思ったわけだよ)

 

広くん、今日もすごい。

入部してたった一週間なのに、部のエースを軽く抜いてシュート決めてる。

その度に部員たちの顔が引きつっていくのが分かる。

あ、あの表情――嫉妬の香り。

そして、私の恋愛脳が警鐘を鳴らす。

 

(出たな……スポ根系サブイベント、「嫉妬とラフプレー」ルート!!)

 

案の定、上級生たちがざわざわし始めた。

「なんだよアイツ、生意気だな」

「新入りのくせに調子乗ってる」

「ちょっと、挨拶代わりに膝いっとく?」

 

はい来たぁぁぁ!!

嫌がらせイベント突入!!

スナック感覚でポップコーンを食べながら見守る。

(いや嘘、ちゃんと止めるつもりだから!)

 

試合再開。

ボールが広くんに回る。

一瞬の隙もないドリブル。

……が、その瞬間、後ろから悪質タックル!

 

バシィッ!!

 

広くん、転倒。

部員の靴の裏が彼の脇腹にヒット。

見てる私の方まで痛くなった。

 

「おい、何すんだよ!」

「練習だよ練習〜、新人は当たり強くしとかねーと!」

 

うわぁ……出たよ、スポ根悪役テンプレセリフ。

でもその瞬間、空気が変わった。

 

広くんが、立ち上がる。

顔は無表情。

でもその目。

その目の奥が、黒く揺れてた。

 

(……やばい。これ、完全に暴走フラグ)

 

脳内に赤ランプが点滅する。

《警告:ルート分岐発生!広の心が闇堕ちします!》

 

いやダメ!ここで復讐ルート入ったらBAD END確定!

こういう時、ヒロインが止めるのが鉄則!

乙女ゲームの鉄板イベントその2、「暴走する彼を止めるヒロイン」

 

ベンチから立ち上がった。

郷子が慌てて袖を掴む。

「ちょ、行くなって!あいつら危ないよ!」

「大丈夫!私は普通の女子だから!!」

「お前の普通の定義どこいった!?」

 

気づけば私は走っていた。

砂を蹴り、風を裂く。

広くんの拳が、悪質タックルの男の顔面へ振り下ろされる。

(まずい!間に合わない!)

 

その瞬間、私の体が勝手に動いた。

……ううん、正確には、反射的に出ちゃったの。

 

「ぬおおおおおおお!!」

 

自分でも意味不明な叫びと共に、私はジャンプした。

狙いは悪質プレーヤー……だったんだけど。

 

足がちょっと滑った。

ちょっとだけ。

 

――結果。

 

ズドドドドドドォォォォン!!!!!

 

地響き。

爆風。

衝撃波。

 

……目を開けると、そこには、

直径25メートルの巨大クレーターが広がっていた。

 

「「「………………」」」

サッカー部員全員、無言。

風の音しか聞こえない。

 

グラウンド中央が消えた。

地層、見えてる。

物理的に終わった。

 

砂煙の中で、スカートの裾をパンパンと叩きながら立ち上がった。

「……あ、ごっめーん♡ 足が滑っちゃった♡」

 

誰も動かない。

誰もしゃべらない。

部長らしき人が口をパクパクさせている。

 

にっこり微笑んで、首をかしげた。

「次にまた間違いが起きたら、その人はこうなっちゃうんだろうな〜」

 

広くん、完全に石化。

口をパクパクして「え、え、え」しか言えてない。

 

部員たちは一斉に頭を下げた。

「す、すみませんでしたァァァァ!!!」

一瞬で謝罪ルート突入。

 

……やっぱり、愛は行動で示すものね(物理的に)。

 

私は優雅に髪をかき上げた。

「いいのいいの♡ 事故だし♡」

(※誰が見ても事故ではない)

 

ぬ~べ~が遠くから走ってくるのが見えた。

「おい沙織ぃぃぃ!!今の爆発音なに!?隕石でも落ちたか!?」

「私の足です♡」

「お前の足!?!?!?!?」

 

先生、絶叫。

その横で広くんがぼそっと言った。

「……やっぱり、ただの女の子じゃない……」

(うん、それ今さら言われても困る)

 

ぬ~べ~が土下座する勢いで頭を抱えた。

「お前なぁ!!学校のグラウンドにクレーター作るな!!」

「大丈夫です先生、もう再建計画考えてます♡」

「どうやって!?」

「ママ(エリス)に頼んで地形修復してもらいます♡」

「神頼み!?本気で神頼みか!?」

 

広くんはまだ放心状態。

彼の前まで歩いて行って、ポンと肩に手を置いた。

「広くん、怒るのはいいけど……人間殴ると壊れちゃうからね?」

「お、おう……」

「だから、代わりに地面を殴るといいのよ」

「え、でも地面も壊れてるよね!?」

 

確かに。

(我ながら名言っぽく言って失敗したわ)

 

先生はもう膝から崩れ落ちていた。

「はぁぁぁ……お前んちの家系どうなってんだ……」

「たぶん遺伝です」

「やっぱりかぁぁぁ!!」

 

その後、サッカー部員たちは練習どころではなく、

全員が私に向かって一列に並び、

「すみませんでした!すみませんでした!」を合唱。

なんか地獄の合唱団。

 

でも私は笑顔で言った。

「みんな仲良くね♡」

 

その瞬間、上級生たちは一斉に距離をとった。

半径15メートル安全圏。

「この距離なら助かるかも……」って言ってるの聞こえたけど、

聞かなかったことにした。

 

そこへ広くんが、ゆっくり私に近づいてきた。

「……ありがとう」

「え?」

「止めてくれて、ありがとう」

(な、なんか不意打ち……キュンとするじゃないの……!?)

 

「べ、別に!普通に止めただけよ!」

「普通ってレベルじゃねーよ」

「うるさい!」

 

そのあと、ぬ~べ~がクレーターの前で頭を抱えながらつぶやいた。

「今日の報告書、どう書けばいいんだ……生徒が誤って地面を消失って……」

「正確です先生」

「正確だけど不安しかない!!!」

 

でもね、その日の夕陽の下、

広くんがボールを蹴って笑った顔――

ちょっとだけ、嬉しそうだった。

 

(ふふっ、フラグ立ったわね……)

 

郷子の声が飛んできた。

「アンタのは恋愛フラグじゃなくて災害フラグだから!!」

 

……いいじゃない、恋も地形も、形から変えていくタイプなの。




恋のフラグを立てるはずが、地層を立ててしまいました。

沙織にとって“普通の恋”は、もはや自然災害。
でも、彼女の行動には常に「誰かを守る」意識がある。

クレーターを作っても、心はピュア。
それがこのシリーズの最大の魅力です。

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