デビルハンター。
この世界に蔓延る「悪魔」と呼ばれる人喰いの異形を狩る職業の事を差す。
なんか秘密裏でやる……みたいな仕事でもなく、結構ちゃんとした職業で官民どちらともに存在する。基本的にはしっかり設備が整っており、福利厚生がちゃんとしている公安の方に行く奴が多い印象だ。法整備も整っており、例えば民間が狙った悪魔を公安が横取りしちゃダメ……みたいな法律があったりする。
まぁダラダラ話していたが、よーするにデビルハンターってのは『感覚で言えば超危険だけど給料が高い猟師さん』みたいなもんだ。
んで、話を戻そう。
俺はそれをしている。
……民間として、だが。
「カラカラカラ………」
「鹿の悪魔、発見。討伐を開始——」
◆
「はぁ……死体になっちまった……」
横たわった悪魔を見てそう呟く。
せめて生きている状態で一もふしたかったなぁ……。
「
同僚が呆れた様に笑う。
文句を言おうにも今回のMVPなのだからあんまり強くは言えないのだろう。というかもう諦められてる。
「まぁ、言うだけ無駄か。負傷者の手当てに入るぞ」
彼は俺にそう呼びかけた後、体を回し怪我人を救いに行くのだった。
「わかった、あと5分だけ待ってろ。すぐ行くから」
消えていく同僚に対しそう返す。
流石に面倒くさいので手当てをサボるとか、そういうのは彼が可哀想だ。それを聞いた同僚は声を出さず、右手を挙げて返事をした。
………さて、と。
鹿の悪魔だァ………。
笑みが溢れる俺。
最近は粘土の悪魔やら、ティッシュの悪魔やらで動物系の悪魔の依頼はなかったからな……。あいつらもよかったけど、やっぱり動物系の悪魔の触り心地は別格!!今回の鹿の悪魔討伐は報酬も良かったし、動物系の悪魔だしで神依頼だわァ……!!
久々に触れるぜ!!
多分毛並みからしてもふもふしてると思うし!!
……まぁ、死体なので少し虚しくなるけど。
今は息をしていないそれを優しく撫で回す。
まずはお試し程度で、触ってみた感触を確かめているのだ。
わしゃわしゃわしゃわしゃ。
——背中の毛並みは全体的に触ってまた結構硬い。感触で言えば毛が深い人工芝に近いな。密度も良く、どことなく包容力の様なものを感じる。
手をもっと強く、早く動かす。
予想とは違ってもふもふではなかったが、これもまたいい……。
わしゃわしゃわしゃわしゃわしゃ………。
そして三分後——
……満足☆
死体から手を放す。
評価としては満点の☆5だ。
コメントとしては『絨毯にしたい』だな。
これを絨毯にできたら多分俺は帰宅後すぐに床にぶっ倒れて爆睡するだろう。
……まぁ、討伐した悪魔の死体は国に引き渡さないといけないんだが。
あーまだもうちょっと触ってたい。
残りが2分しかないのが口惜しいわぁ……。
はぁ、とため息を、つく。
まぁいつものことだから仕方ないか。そういうルールですしおすし。
またいつか巡り会える筈だ。いつかきっと……。
だから……その時まで生き残らないとな。
立ち上がり、死体に向けて左手をかざす。
搾取させて貰おうか。
「遺伝子、記憶しておけ」
そう口にした瞬間、左の掌から2本の触手が皮膚を突き破り、伸び始めた。契約相手である遺伝子の悪魔だ。
この世界では悪魔と契約する事で力を得られる。
悪魔とは基本的に人間の敵だが、それと同時に契約する事で力強い武器となるのだ。ちなみになんかよく分からないけど契約を破ったら破った側は死ぬらしい。不思議だ。
『できればもっと人間の遺伝子が欲しいんだけどな……』
鼻を摘んだ様な声で呟く契約相手は死体をつんつんとつつき始めた。死滅していない細胞を探しているのだろう。なるべく早くして欲しいものだな。5分で終わらせると連絡しているから……あと2分か。
動きが少しずつ鈍っている遺伝子を右手の中指で弾いた。要するにデコピンである。
『イデッ!?』
「俺で我慢しろ。こちとら最近胸も大きくなったんだぞ?」
自身の胸元を見ながらそう訴える。
まだAぐらいのサイズだが、そろそろブラをつける事も考えなければならないだろう。
『分かったよ……』
それを聞くと、触手の動きがしぶしぶながらも先より少しだけ早くなった。
できればもっと早くして欲しい物だが、これ以上文句を言うと対価を求めてきそうなので辞めておく。できるだけ支出は増やしたくないからな。
「……そろそろか?」
そう告げると遺伝子は戸惑いもせずに返す。
『うん、今見つけた』
遺伝子は触手の先端を烏の頭へと変化させ、死体を啄み始める。
すると小さな肉片を一つ、取り出した。まだ少し動いている。
悪魔の生命力は恐ろしいものだ……。
『溶解』
烏の頭からいつもの姿へ戻り、遺伝子の触手は2本で肉片を取り囲む。すると肉片は段々と元の形を保てなくなり、ドロっとしたスライムの様な物質へと変化した。
『精錬』
遺伝子がそう呟くと色素と共に肉片の不純物が取り除かれていく。
そしてそれはやがて透明な1本の糸となり、触手はそれの先端を掴みピンと張らせた。
『保存』
触手は自身の体を捻り、二重螺旋を作る。
すると張っていた糸が螺旋に沿って滑る様に自身の根本……つまり俺の掌に沈み込んでいった。
『………終わったよ』
掌が完全に糸を取り込んだ時、二本の触手もそう言い残して自身の掌に戻っていく。
「 OK、じゃあそろそろ行かんとな」
死体に背中を向け足を前へ出す。
連絡していた5分以内にはなんとか間に合いそうだ。
そう思考を巡りながら俺は天に顔を向けた。
「さらば、愛しき鹿の悪魔よ……」
◆
「……民間のデビルハンターと公安のデビルハンターの違いを知っているか?」
とあるマンションの一室。
長身の初老の男が廊下にあるカレンダーを眺めながら倒れ伏す金髪の男と角を生やした女に語りかけた。
ンなァもん……知らねぇよ……!!
金髪の男はそう心の中で叫ぶ。
首を切られたせいでまともに呼吸もできないのか、血走った目で初老を見つめていた。
「……民間のデビルハンターは基本的に公安の下位互換だ」
「民間で対処できなかった悪魔がこちら側に回ってくるからな……」
初老の男はそう答えながらコートから酒瓶を取り出し、中身を口に流し込む。
クソジジイ………ッ!!!
金髪の男は歯を食いしばりながら地面を強く叩いた。一発でもいいから返してやろうと踏ん張っているのだろう。
すると初老の男が音に反応し、金髪の男に体を向けた。
「……なら、殉職率が公安よりも低い事は知っているか?」
「何故かと思うだろう?簡単だ」
彼はそう話した後、人差し指で自身の頭を指す。
「公安にも入れない程頭がイカれているからだ」
男の眉間にナイフが、突き刺さった。
未来の悪魔の首元の毛っていいですよね。多分もふもふしてる。