金の林檎を喰みながら   作:セレニティ

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…幸せが壊れる時は、いつも、血の匂いがする。…とは、誰の言だったか。この時ほど、その言葉を思い知った瞬間は無いだろう。

私は都市ではフィクサーだった。だから、血の匂いは嗅ぎ慣れている。都市はそんな場所だったから。…でも。

この世界は、そんな風にはできていない。それを、誰よりも分かっていたはずなのに。

どうして幸せは、手に取った瞬間に、離れてしまうのだろう?


第2話 転機

…さて、何から話したものか。ここ最近はツッコミどころが探せないほど色んなことがあったから、今でも心が追いついていない。

 

まあ、まずは列挙していった方が良いだろう。そうしたら、頭の中もまとまるのかもしれない。

 

……まずは、3日前。懐かしい夢を見た。L社支部跡を一緒に周った、あの人たちの夢を。私が死んだ後のグレゴールさんの顔を。…みんな生きてる、か。

 

そうして目覚めたその時から、やたらうるさい声が聞こえるようになった。暖かくて、美しい声。だけどやたら喋ってくるせいで雰囲気が台無しになっている。

 

その声は、カルメンと名乗った。話を聞くに、白夜・黒昼現象の時に都市にばら撒かれたもの…"光の種"、というらしい。それに乗って、カルメンの意思がばら撒かれたって感じなのかな?軽く怖くなる。何なのこの人。

 

そして喫緊の問題は、そんな存在が何故私に話しかけてるのか、という点だ。カルメン曰く、

 

「いやぁ、どうやらここの世界にいる都市の人間が貴方だけらしくてね。この世界には光の種も届いてないようだから、仕方なく貴方に憑くような形になってるの」

 

…だそうだ。何だろう、私とこの人は合わない気がする。何というか、この人は純粋なのだろう。でも、その考え方が周りと致命的にズレてるような、そんな気がする。

 

まあ、そんな感じでカルメンが私の心の中に滞在するようになったらしい。正直な話、良いか悪いか決めかねる。間違い無く頭は良いし、性格も悪くは無いのだろう。だけど、この人がいる限り、私のQOLが下がり続けてる気がするのは気のせいだろうか?

 

「気のせい気のせい。あと、いつまで私の話をしてるの?今は最近あったことをまとめてる途中なんでしょう?」

 

ええい、黙らっしゃい。…だがまあ、事実でもある。よし、次の話をしよう。

 

お次は昨日の話だ。昨日、アヤさんと一緒に遊びに行ったのだ。いやあ、あれは今思い出しただけでも頬が緩んでしまう。

 

ああ、アヤさん、歌うの上手かったなぁ…何ならできないんだろうな、あの人…いや、何でもできるのでは?

 

まあ、途中で献血しに行ったのはびっくりしたけど。それもあの人の味なのだ。

 

…そして、今日。今日は休みだったから、外に散歩しに行こうかなー、なんて思って外に出たら…何か変な集団に囲まれて車に詰め込まれた。ぐるぐるにされるのは初めてかもしれない。

 

そして、今に至るわけである。こんな時ほど、家族がいないことに感謝することは無いだろう。

 

ちなみに、今の私に家族はいない。子供の頃の記憶はぼんやりとはあるが、明瞭ではない。そのせいで、家族の顔すら思い出せないのだ。

こういうのを、世界5分前仮説と言うんだっけか。記憶が植え付けられた云々のやつ。こういう境遇だと、少し信じてしまいそうだ、

 

…しかし、拉致とはどういうことなのか。何故私なのか…いや、それ以前にこの世界の倫理的にアウトだろう。そう考えたら義憤が溜まってきた。

 

「…なあ。お前は、何徹目だ…?」

 

「…3徹目だ。何せ今はやってもやっても書類が舞い込んでくるからな…お前は?」

 

「…俺か?俺は…5徹目だな。同じく書類仕事が終わらねえよ…」

 

「「…ははっ」」

 

…………義憤、が……………

 

「…にしても、とても混んでるな。このままじゃあ、規定の時間に間に合わんぞ…何でこんなに混んでるんだ…?」

 

「…お前、隣の車の運転手の顔を見てみろ。その理由が分かるから…」

 

「…なっ。何だ、あの幽鬼のような表情は。なんでこんな早朝に……まさか」

 

「ああ、そうだ。この時間帯に運転しているヤツらは、みんな夜勤明けなんだ。これが、この国を影ながら支えてるヤツらの真の姿なんだよ」

 

「…遠からぬ未来に、俺たちもあんな顔をしてるのか…」

 

「ダメだ、それを言うな。せめてこの運転の間は現実から逃れよう」

 

「…ここのヤツらを跳ね飛ばしてでも早く行きたいな…こちとらこの子を向こうまで運ばなきゃなのに…」

 

「流石に安全運転を心がけろ。俺たちが拉致してきたんだ、せめて向こうに着くまではこの子の身柄は保護しないとダメだろう」

 

………………うん。何か聞いてるこちらも胃が痛くなってきた。都市にいた頃に書類仕事をしたことは勿論あったが、流石にここまで疲弊はしなかった。恐らく想像を絶する量の書類が舞い込んできているのだろう。ご愁傷様としか言えない。

 

それに、話を聞く限り、悪い人たちじゃなさそうだ。なら一度向こうに行ってみるのも良いのかもしれない。まあ、少し気楽に行くのも良いだろう。

 

…………………

……………………………

………………………………………

 

…何時間ぐらい経っただろうか。そろそろ着いてもおかしくなさそうだが。

 

む、この音はブレーキの音。どうやら着いたらしい。

 

「ほら、着いて早々すまないが、すぐに向かってくれ!もう説明会が始まってしまっているから!」

 

はぁ!?え、そんなに混んでたのアソコ!?てか外さっむ!

 

「え、あの、すみません!ここはどこか、くらいの説明はした方がよろしいかと!」

 

「ここか!?ここは南極だ!そしてお前の目の前の施設の名は『人理保証機関カルデア』だ!分かったらさっさと行ってくれ!」

 

「………え?あ、ハイ。」

 

…え?今、なんて?南極?ここが?そして、え?カルデア?

…なんか、頭がショートしてきた。この感覚は転生して以来だな…

…………まあ、入るか。

 

「失礼します……」

 

クソデカ自動ドアをくぐって施設の中に入る。中に入る時にシミュレーションだかのチェックを受けた気がしたが、気のせいかな。

 

そして案の定、中は静かだ。説明会をしているとか言っていたし、そこに集まっているのだろう。急いで行かないと…ん?あれは…

 

「….すみません。どうして貴方は今、何故ここに?」

 

「…ああ、所長のお話を聞いてた途中に寝落ちしちゃって…追い出されちゃった」

 

「……………ええ……」

 

…何だろう、一気に不安になってきた。多分この人も私と同じく連れられてきた人なんだろう。なのに、寝るって…

 

「…まあ、良いか。それで、その所長というのは、今どこでお話しを?」

 

「ああ、ここの廊下を渡って少ししたら大きい扉が見えるだろうから、そこでやってるよ」

 

「ありがとうございます。…貴方は、これからどうするのですか?」

 

「ん?俺?俺は…所長に言われた通り、あてがわれた個人部屋に行こうかな。」

 

「…そうなるのか…分かりました。教えてくれてありがとうございます。それじゃあ…」

 

「あ、そうだ!君、名前はなんて言うの?」

 

…初手で名前を聞くとは、この人、やりおる。人付き合いが苦手だった私からしたら羨ましい限りだ…

 

「…そうですね。私のことは、ユーリと呼んでください。」

 

「ユーリさんか、よろしく。俺は藤丸立香。…何か、この後すぐ会うことになりそうだね。」

 

「ええ、私も何かそんな気がしますよ」

 

…この人、良い人だ。都市では私が終ぞ見ることが無かった、根っこから優しい人。このやりとりだけでも察することができたんだ、どんだけ優しい人なんだこの人。

 

「それじゃあ、また後で」

 

「ああ、またね」

 

だからこんな、都市ですることがなかったやりとりも気兼ねなくできる。こういう体験が、私はとても嬉しい。

 

ちなみにこの後、マシュさんという後輩?も紹介してもらった。この人も優しい、というか純粋だ。良い人が多すぎるんじゃないかここ。

 

「…さて、そろそろ急いで向かわないと」

 

そう呟いた後に廊下を全力疾走しようとして……次の瞬間には、私の体は大きく後ろに下がり、無意識に臨戦体勢を取っていた。

 

「………え?」

 

知っている。私はこの感覚を知っている。でも、何で、こんな。

 

だって、これは。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それをやっと脳が認識した直後、施設全体が一度大きく揺れ…警報が鳴り響く。

 

『火災です。火災です。火災が発生しました。火災の発生場所は…』

 

その後即座に施設全体が停電する。そしてその停電が、否応無く私の意識を現実に叩き戻した。

 

「………ッ!!!」

 

足がバネの如く跳ね上がり、私は廊下を疾走する。爆発らしき音が聞こえた方向に。何故その方向に向かったかは、私自身も分からないが…。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんていう、都市にいた頃には考えもしなかったことを考えてしまったのだ。

 

 

…思えばここから、始まったのだ。

日常に溢れていた幸せも、仲良く下校したあの人も。全てが無くなってから、やっと。

私がこの世界に来た意味を証明するための、物語が。

 

 

 




・藤丸立香
拉致先で、しかもその施設内での偉い人のお話の途中に、よりにもよって寝てしまう人。何だコイツ。
作者がちゃんとエミュレートできてるか怪しい。だってストーリーは女性の方で進めてたからしゃーないやん

・ユーリ
もう既に驚きの感情が摩耗してそうな人。悲しいね。
数多の修羅場(トンチキイベント)を潜ったその先には、全てを諦めて常時泣き笑いのような表情を浮かべるようになったユーリちゃんの姿がある…かもしれない。
話が進むごとにサブカル沼に足を突っ込んでいく。最近はネットも見るようになってしまった。

・マシュ
今回セリフ0だった人。藤丸並みにエミュレートできるか怪しい(作者談)
まだトンチキに身を染める前の正真正銘純粋無垢な頃のマシュ。なので先輩が知らない女性と話しててもそこまで引きずらない。

・レフ、ロマニ、オルガマリー
本編未登場組。左から順に逃亡、回避、死亡。

・カルメン
ユーリの心の中の仙人様(大嘘)。暇な時はプロムン本編のあの女性の姿でユーリの視界の右下に延々と張り付く亡霊みたいになる。その度にユーリにお前を消す方法を検索される。残当。

ユーリちゃんが最初に召喚するサーヴァントのクラス

  • セイバー
  • ランサー
  • アーチャー
  • ライダー
  • アサシン
  • キャスター
  • バーサーカー
  • ルーラー
  • アヴェンジャー
  • ムーンキャンサー
  • アルターエゴ
  • フォーリナー
  • プリテンダー
  • ビースト
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