呪いの囁き   作:gp真白

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呪いの毒牙

アリス(ウィスパー)は、内線チャンネルでブレイズに最終指示を送り終えた後、深く息を吸い込んだ。彼女の沈黙の準備が、今、パーティ全員の耳に届く言葉の力に変わる瞬間だった。

 

ブレイズのVC(ボイスチャット)が、張り詰めた緊張を切り裂いた。

「ゼウス!今だ!『猛攻の呪印(もうこうのじゅいん)』を起動しろ!そして、リゼル! 最大出力の『フレイム・バレット』を0.5秒以内に3連射だ!ターゲットはボスの心臓部!ウィスパーのデバフが、解除の導火線だ!」

ゼウスは一瞬、耳を疑った。これまで拒否されていた『猛攻の呪印』の許可。しかも、直後にリゼルへの詳細な攻撃指示が続く。しかし、ブレイズの迷いのない声が、彼の不信感を一瞬だけ押し流した。 

 

「チッ...分かった!」

 

ゼウスは猛攻の呪印を発動。アタッカーとしてのプライドが、彼の動きを最速にした。同時に、リゼルは弓に炎の魔力を集中させる。

 

『ウィスパー:[コールド・パルス] 最大層維持を確認。冷気耐性ゼロ』

 

『ボス:[氷結装甲] 起動中』

 

アリスはログで、自身のデバフがボスの氷の核をギリギリで露わにしていることを確認する。そして、リゼルの放った炎の弾丸が、0.1秒の狂いもなくボスの心臓部に着弾した。

 

ダメージログ: リゼルのフレイム・バレット 10,500 (特殊ダメージ)

ダメージログ: リゼルのフレイム・バレット 10,800 (特殊ダメージ)

ダメージログ: リゼルのフレイム・バレット 11,200 (特殊ダメージ)

 

三発目の着弾と同時に、ボスの全身を覆っていた極厚の氷の装甲が、まるでガラス細工のように粉々に砕け散った。

 

ボス: [バフ] 防御力+100% / 解除

 

「やったわ!」セイクリッドが安堵の声を上げる。

 

ゼウスは、自身の火力が急上昇していることを確認し、全身の血が沸騰するのを感じた。

 

「あのデバフは、解除のトリガーだったのか!」

 

ゼウスは理解した。アリスが**『猛攻の呪印』を温存していたのは、後半戦のギミック解除に使う別のキーデバフ**(リゼルの攻撃力を活かすための耐性削り)のクールダウンを確保するためだった。そして、このギミック解除の瞬間こそ、**瞬間的に火力を最大化できる『猛攻の呪印』**を使うべきタイミングだったのだ。

 

氷の装甲が剥がれ、パーティの火力は一気にボスのHPを削り始めた。しかし、ゼウスの心には、新たな不信感が芽生えていた。

 

「ブレイズ。今の指示は、なぜ全体VCで出さなかった?なぜ俺が**『猛攻の呪印』を使うタイミングと、リゼルの『フレイム・バレット』**の連携を、事前に俺たちに伝達しなかったんだ?」

 

ゼウスの声には、怒りではなく、裏切られたような戸惑いが混じっていた。

「ウィスパーが、俺の火力を上げるデバフを出し惜しみしていたのも、すべてはこのための『演出』だったんじゃないのか?俺たちの能力を試すために、情報を意図的に隠していたのか!」

 

ブレイズは、ボスの猛攻を耐えながら、静かに、そして重い声で答えた。

 

「ゼウス、違う。情報が多すぎれば、お前はフリーズする。そして、事前にお前に全てを話せば、お前は『猛攻の呪印』を温存できず、このタイミングで使っていただろう」

ブレイズは全体VCでの会話ではなく、内線でゼウス個人にメッセージを送った。

 

『ウィスパーの解析によれば、このギミックの解除猶予は0.5秒。事前にお前たちが「火炎攻撃を打つ」という情報を持っていれば、0.1秒の誤差でクールダウンが間に合わなかった。俺が最後に、最もシンプルで明確な命令を出すこと。それが、最速で確実に解除する唯一の道だった。全ては俺の責任だ』

ブレイズの言葉は、ゼウスには**『言い訳』**にしか聞こえなかった。

 

「指揮官の威厳、ね...。結局、あんたはウィスパーの影の操り人形じゃないか。俺の能力を信用せず、ウィスパーの情報隠蔽を正当化しているだけだ」

 

ゼウスは激昂し、ブレイズへの返答を拒否。その代わりに、彼は誰にも頼らず、自分だけの力でボスのHPを削りにかかった。彼は、パーティの連携から意識的に孤立したのだ。

 

ゼウスが連携から離脱した影響は、すぐに現れた。ボスのHPが30%に達した瞬間、新たな特殊ギミックが発動する。

 

ボス:[最終波動] 詠唱開始 (詠唱時間 3.0秒)

 

「まずい!全体即死攻撃だ!」セイクリッドが叫ぶ。

アリスは即座に解析する。

 

『ウィスパー:[内線] ブレイズ!この波動を止めるには、ゼウスの**『オーバーロード』と私の『カース・ブレイク』を0.5秒以内に同時着弾**させるしかない!』

ブレイズは全体VCで、最後の、そして最も重要な指示を出した。

 

「ゼウス!全火力解放スキル**『オーバーロード』**を使え!ターゲットは心臓部! ウィスパーがデバフを合わせる!」

 

しかし、ゼウスはブレイズの内線にも、全体VCの指示にも耳を貸さなかった。彼は孤立を選んだ。

 

「ウィスパーのデバフなしでも、俺の**『猛攻の呪印』と『オーバーロード』**なら、単独で突破できる!俺の価値は、誰の指示にも依存しない!」

 

彼はブレイズの指示の0.8秒後に、単独で『オーバーロード』を発動。

『ウィスパー:[カース・ブレイク] 発動!』

 

ブレイズの指示とアリスのデバフは、彼の**「沈黙の共闘」通り、最速で着弾。だが、ゼウスの攻撃は0.8秒の遅延**をもってボスに着弾した。

 

ダメージログ: ゼウスのオーバーロード 5,000,000(デバフなし)

ボス:[最終波動] 詠唱完了!

 

たった0.8秒の遅延。デバフによる耐性無効化がない状態での攻撃は、ボスのHPを削りきるには遠く及ばなかった。

 

「間に合わな...」

 

ボスから放たれた最終波動がパーティ全員を飲み込み、挑戦は失敗に終わった。

 

パーティハウスに戻ったゼウスは、怒りに震えてVRヘッドセットを投げ捨てた。

「俺は指示に従った!火力が足りなかったのは、デバフが弱かったせいだ!ウィスパー、なぜ**『カース・ブレイク』**をもっと早く使わなかった!」

 

アリスは静かに、最後の戦闘ログをブレイズの眼前に投影した。

 

『ウィスパー:[カース・ブレイク] 着弾時刻 04:32.11』

 

『ゼウス:[オーバーロード] 着弾時刻 04:32.91 (ウィスパーの着弾より0.8秒遅延)』

 

「ゼウス。ブレイズの指示と、私のデバフは0.1秒の狂いもなく着弾しています。あなたが、ブレイズの指示を信用せず、0.8秒間、単独で行動を遅らせた。その0.8秒が、マスターランクへの道を閉ざしたのです」

 

アリスは、初めて全体VCで、感情を交えずに**「沈黙の真実」**を口にした。

「私の役割は、あなたが最高の火力を出す瞬間を作ることであり、あなたを操ることではありません。ですが、その瞬間をあなたが信用できなければ、私たちのパーティは、この先、永遠に**『5秒の壁』**を破れないでしょう」

 

ゼウスは、自身の独断が招いた結果を突きつけられ、言葉を失った。

ブレイズは、疲労困憊の妻と、沈黙する仲間たちを見つめ、静かに立ち上がっ

た。

 

「今回の敗北は、俺の指揮ミスだ。ウィスパーの情報を、俺が自分の言葉として伝えることができなかった。そして、ゼウス。お前を信頼させることができなかった」

 

「ウィスパー。すまない。お前の貢献を、俺の責任で歪めてしまった...」

 

アリスはブレイズを見つめ、静かに首を振った。

 

「いいえ。ブレイズ。あなたの責任ではありません。**『沈黙の貢献』は、いずれ誰かが、『情報の隠蔽』だと受け取る。これは、私たちの『最強の毒』**だったのです」

 

パーティは崩壊の危機に瀕していた。技術的には最強でも、信頼という最も脆い部分で、彼らは打ち砕かれたのだ。

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