滅尽龍のシリオン   作:匿名

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コートハンガー

エーテリアスで事前にウォーミングアップを済ませていた男は次から次へと殴りかかるギャング達を右に左に投げ飛ばす。非正規の防護服でさえ満足に着用していない彼らの耐侵食装置は簡単に損傷してしまい、ホロウ内の活動限界時間が大幅に縮む。男に人権意識などはなくエーテリアスに成ったらもう少し手こずるのだろうか、なんて欠伸を噛み殺しながら考えている。

 

ギャングを全て地に伏せさせ腰を抜かしている治安官の前で戦利品を物色し始める。普段からホロウに専用の装備などを持ち込まない、というよりそういった物への理解がない男は興味深そうにギャング達の道具を手に取って試している。フルフェイス型のヘルメットが中からどう見えるのか気になって頭を押し込もうとするが角が邪魔で入らない、結果的に両側が割れて前と後ろにヘルメットだったものが引っ掛かっているだけという可笑しな格好になってしまった。

 

「す、すまない、少しいいだろうか」

 

男をこの状況に引き込んだ治安官は見返りに何を要求されるか内心穏やかではなかったが、鎮圧が終わっても一向にこちらに意識を向けずに漁る様に遠慮がちに声を投げかける、声は微かに震えている。

 

「ん?ああ、大丈夫だ。流石に全部は持って帰れないからな、お前も好きな物を取るといい」

 

破損によって遊びが生じているヘルメットが男の頭の動きに振り回され左右に揺れる。

 

「いや、そういうことじゃないんだが…」

 

自分に略奪行為を咎める力はないが、ギャング達を放置していたらいずれエーテリアスに成ってしまう、流石に見過ごせないしエーテリアスは怖い。

 

「私が君に指示できる様な立場ではないことは重々承知しているんだが…」

 

 

 

 

 

 

「プロキシ、オーリーの場所は!?」

 

「このまま真っ直ぐ、エーテリアスはもう皆消滅しちゃってるみたい!」

 

ボンプを抱えながらネコのシリオンが走る。人質に取られた治安官のオーリーはギャング達を誘導してエーテリアスの群れにぶつけることに成功、しかしエーテリアスが討伐されてしまったのなら次はオーリーの身が危ない。途中から彼の通信も聞こえなくなってしまい向こうの詳しい様子は分からない。

 

草臥れた雰囲気のオジサンと言われる年齢に片足突っ込んだ冴えない治安官、そんなオーリーが今回の作戦に懸けた思いは治安官という人種を良く思っていない猫又から見ても大きかった。極度のエーテリアス恐怖症でありながらも繰り返しホロウで下見を繰り返し、弱気でありながら誇りを投げることをしなかった彼には少しでも報われて欲しい。作戦が失敗しても活路を見出そうと藻掻くオーリーを救出する為に全速力で駆け、遂に反応が示す廃墟に突入、そこで目にしたのは。

 

オーリーの背中を捕まえて鞄の様に持つ、ギャング特有のホロウ調査用ヘルメットの改造廉価品を被る悪魔の角を生やした男。

 

「っ、オーリーを放せ!」

 

声に反応した男が首を傾げ、空いている手でオーリーを指差す。肯定すると一拍置いて手が離され、オーリーが地面に落ち呻き声を上げる。その後にパンパンに詰まった背負い袋をしょって去ろうとする男を遮る声がもう一度。

 

「待て、そのバッグの中身は何だ?」

 

「戦利品だ」

 

くぐもった声で返事が来るが安心できる内容ではない。猫又達は治安局の本体の場所を知っているがエーテル資源の見た目は分からない。オーリーとの通信が途切れる前に彼は誰にもバレないまま資源を運び出すことが出来るとギャングに言っていた、そしてギャングにとっての戦利品とはつまり…

 

猫又が姿勢を低くして一触即発の空気が流れる。治安官に駆け寄るボンプはここでやっとヘルメット男の他の特徴に気付く、棘の生えた大きい翼と尻尾、該当する人物は一人しか知らない。

 

ボンプが確認する前に猫又が行動する、足取り軽く背中を向けて歩き出した男の荷物を掠め取ろうと手を伸ばす。両腕でがっちり抱え、腰を入れて荷物を分捕ろうとするが一歩も進まない、それどころか猫又ごと引き摺られていく。終いには背負い袋に爪を立ててぶら下がって為す術なしの猫又、身長が1.5倍程に伸びている。

 

「猫又殿、彼は悪い人じゃないんだ」

 

情報不足によるすれ違いにオーリーが気付いて慌てて諭すその前に、首根っこを摘ままれて男の目線の高さまで持ち上げられた猫又が男のヘルメットをはたく。左右に振り子のように揺れるヘルメットの向こう側にうっすらと見覚えのある素顔がチラチラと現れ、自分の記憶を辿っている猫又に男が頭突きをかます。鈍い音が響き、解放された猫又が額を押さえながら地面を転がり回り、辛うじて引っ掛かっていただけの男のヘルメットは粉々に砕け散る。

 

「ネルギガンテさん、だったよね?なんでこんな所に?」

 

おずおずとボンプが話を切り出すと男の視線が治安官の傍にいる小さきものを捉える。

 

「言葉を介するちっこいのは1人しか心当たりがないが…」

 

「そうそう、それ私!前におっきな怪物と戦ってたでしょ?」

 

ゴム毬が跳ねるような身振り手振りでボンプが話す。角を軽く動かして注意深く観察するとこのボンプの周囲のエーテルは何やら特殊な動きをしている。

 

「一応あたしとも1回会ってるぞ」

 

額をさすりながら会話に合流してくるネコのシリオン、たんこぶができている。

 

「初対面だな」

 

「いや、本当だぞ、デッドエンドブッチャーを一緒に倒しただろ」

 

「一緒に…?」

 

「うん、まあ協力したとは言えないかも」

 

緊張が解け、お互いが自己紹介と情報の共有を始める、ギャングの構成員達は拘束済みだ。エーテリアスとギャングをぶつけて消耗させるつもりだったオーリーは、一緒に現れた男が短時間でエーテリアスを殲滅してしまったことで計画が破綻、心苦しく思いながらも男を治安官の一味だと仄めかすことで猫又達が来るまでの時間稼ぎに利用したことを謝罪した。

 

「結局私は何時だって自分では何も成し遂げれないんだ…」

 

落ち込み始めたオーリーに猫又が尋ねる。

 

「オーリー、ギャングに捕まったときに言ってた事って」

 

「あれか、猫又殿が以前言っていただろう?嘘をつく時には真実を少し混ぜるんだと。もっとも、私は猫又殿のように器用ではないから殆どが真実だ。私は孤児院では年長だった、弟や妹達に楽をさせてやりたいと学院は偏差値ではなく学費で決め治安官に成れはしたがこの様だ」

 

俯いてしょぼくれるオーリー、男は口を挟まない。

 

「オーリー、あんたはギャング相手に引かなかった。治安官を諦めて楽な道を選ぶことだって出来たんだぞ、それに嫌いなエーテリアスだって覚悟を決めて利用してやったんだ。もうあんたは、小さい頃に憧れた立派な治安官なんだぞ」

 

「そうだよオーリーさん、自信を持って!」

 

「君たち…」

 

どうやら理想ばかりを見上げ追いかけていた治安官は現在までどれだけを歩いてきたか把握していなかったという事なのだろう。確かに歩みは進んでいるのにそう感じられないのは目標の設定の仕方が悪いのか自信がないのかその両方か。理想を求める同輩として手を貸してやろう。

 

「今日の戦果を振り返ってみろ、敵対集団を捕縛、エーテリアスの襲撃を撃退、防衛目標は無傷だ」

 

「しかしそれは、猫又殿や君の助けがあっての事で…」

 

「お前の報告に我の名前は載らない、拒否する」

 

男の言っていることに合点がいったのか猫又がニヤリと付け加える。

 

「じゃああたしも。オーリー、あたし達はここに居なかった、あんたはずっと1人だった」

 

「ま、待ってくれ、そんな事になったら…」

 

オーリーを遮って男がこれからの予想を告げる。

 

「単独でエーテリアスを退けつつギャング共を制圧。さぞかし立派な褒賞かはたまた大躍進か、楽しみになってきたな?」

 

身の丈に合っていないと思っているのか言葉につっかえながらもどうにか説得しようとするオーリー、それを薄く笑って無視し話を続ける男。

 

「1度活躍を見せてしまっては2度目も期待されてしまうだろう。自然と今回のような捕り物に参加させられる機会が増えるだろうな」

 

「む、無理だ…私には…」

 

目眩でもしているのかオーリーの頭がクラクラと揺れる。

 

「オーリー、お前は我が怖いか?」

 

「…最初はそうだった、私が面倒事に巻き込んだから報復されても仕方ないと思っていた」

 

「ふむ、人は恐怖に慣れる存在だ。お前が恐怖するエーテリアスを滅ぼす我に恐怖を感じにくいのは何故だ?」

 

「それは、君とは意思の疎通が出来るからだ。あと見ず知らずの私を助けてくれた良い人でも…」

 

「我は治安局から凶悪な犯罪者として指名手配を受けている」

 

昨日今日の出来事で作戦の下準備に奔走していた2人とボンプには初耳だ、驚愕から動きが止まる。

 

「今後我を見かけたらお前は我を取り押さえないといけないだろう。だが…」

 

男が近づいてくる、剣呑な雰囲気を携えて。迫力に呑まれて尻餅をつくオーリーに男が右手を延ばし、胸ぐらを掴んで目線を強制的に合わせる。

 

「全力で抵抗する。治安官のお前はどうする?」

 

言葉につまる治安官を待たずに左手が右腕に生えている棘の1本を折る。オーリーの頭を保護する防具、その耳の下に棘を差し込み、甲殻類の殻を剥くように面を剥がす。

 

「恐怖を克服するとっておきの方法を教えてやる」

 

ほんの一瞬だけ男が視線を外して傍観者を見る。棘を逆手に持ち肩の装甲に突き刺す、肉体に到達することなく止まる。一連の行動にショック状態のオーリーはついていけずに浅い呼吸が間隔短く繰り返される。

 

「克服するには克服するしかない」

 

オーリーを掴んでいた手が離れ、自由になった途端に男はこの場を離れる。治安局の増援がギャング達を引き取りに来ているのもそうだが、馴れ合いをしてしまっては効果が薄れてしまう。

 

「エーテリアスとは違って殺しはしない、何時でも来い」

 

そう言い残して立ち去る男を留める者はいない。途中で新しいヘルメットを角に掛けた姿を見てもネコのシリオンは尻尾をピンと張っただけで言葉を発することまでは耐えて見せた。

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