滅尽龍のシリオン   作:匿名

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欲しい物

大量の荷物でパンパンに張っている袋がカウンターにドカリと放られ、その拍子に紐が緩んでいくつかの物がこぼれ落ちた。スタンロッドやガントレットといった武器から防具まで様々な物が入っているが共通するのはどれも非正規の物だということ、しかし非正規とは言えども動作不良の物はざっと見た限りでは無く、つまりはまだまだ使われていた現役の装備達だ。

 

持ってきた客を長い年月によって歪んだ目付きで睨む、コイツにとってウチはジャンク屋なのだろうが一応質屋でやっている、違いを気にするとも思えんが。修理無しで問題なく使える点で言えば買い手は簡単に付くが出所が分からない。ただでさえ最近は秩序側の客もちらほら来るようになって面倒くさいというのに。

 

硬貨をカウンターに積んで反応を見る、全て売り捌けた際の利益と比較すると半分にも満たないがそこは迷惑料も込みだ。男は片眉をあげてこちらを見る、言葉はない、こっちから弁明をしだすと非を認めるようなものなので目線が交差するだけの会話、やがて男が硬貨を鷲掴みにして巾着に放り込む。取り零した数枚は拾う気がないと、硬貨とこちらを行き来する男の目が告げていた。金銭感覚はまだおかしいままだ。

 

人類はホロウに負けている、受けた傷跡は大きく、癒える未来も自分には見えない。こういった考えは何も特別ではなく、自分以外にも沢山いることを知っている。そんな不甲斐なさを棚に上げても良いのなら、今は負け犬共を嗤ってやろう。ホロウに潜み、日々の余裕もない市民から奪い、危なくなったらまたホロウに逃げる、そんな人類の癌の命綱が大量にここにある。この理不尽な世の中で目に見える正義はなんと気分が良いものか。男がこちらの言葉を待たずに店を出て、静かになった店内で老人は思いを馳せる。眉間に力の入った薄い笑みは本人にもどういった感情なのか説明は出来ない。

 

 

 

 

「猫又、報酬を貰わなくて本当に大丈夫?アンビーを見返すんだって言ってなかったっけ」

 

「大丈夫だって、だけど邪兎屋の皆には内緒だぞ?後、やっぱりビデオ屋で偶に働かせて貰うかも知れないぞ、もやし生活にも限界があるんだ」

 

オーリーの作戦終了を見届け、ホロウから出てきた2人、そんな猫又の通信が復活したケータイに通話が来る。

 

「あ、ニコだ」

 

通話に出ると同時に抱えられているボンプを通して大きな声が聞こえる。

 

「金儲けの時間よ!」

 

邪兎屋に在籍して時間の浅い猫又にもニコと彼女の傍にいるであろう他の2人の従業員の対照的な表情、そして大まかな展開が一言で伝わった。まだしばらくもやしが続きそうだ、ため息の似合わない顔で家路を進む彼女だった。

 

 

 

 

選挙が近いせいで少しのイメージダウンも嫌う治安局、というよりは1個人はギャング検挙の功績を現場指揮を担当した治安官を盛大にもてなすことで懐の広さをアピール、その実失敗と紙一重だったことを発表することはなかった。その上、ギャングに出し抜かれたとあっては印象が悪いということで、襲われた治安官の防護服に都合良く刺さっていた棘から今回の被害を全て指名手配犯の仕業と報道、危険性を説いて逮捕に注力することを誓った。ついでに賞金も引き上げられた。

 

表の市民はそれで納得するかもしれないが、ひねくれものが集うインターノットはそうもいかない。疑ってかかることに情熱を持つ彼等は最初の情報が公表された時から大人しく待っていることはしなかった。出不精が足を使って聞き込みをし、賞金目当てに雇われた探偵が治安局以外からまともな情報が出ていないことからきな臭さを嗅ぎ付ける。真相を求める者もいるが大多数は変化を求めながら平和は手放したくない者だ、事実ではなく噂という形でインターノットを情報が彷徨う。

 

曰く、最初に見つかったのはホロウの中で外に連れ出すと暴れなくなるとかなんとか。治安局に恨みがあり、執拗に襲撃しているだとか。人間かどうかも怪しい風貌だとか。大食い、パエトーン信者とかどうでもいい噂すらある。そんな中、1人がネタにした仮説動画がちょっとバズる、題材は指名手配犯と昔の怪談噺、名前は「ホロウの悪魔」。2つの存在の類似点を面白おかしく比べて最後には明らかなこじつけと一緒に治安局の画像が雑に爆破されて終了。オリジナルの動画は投稿後数日で削除されてしまっていたが、現在は同じ動画が数個再掲載されている。インターノットの規制はまだまだ追い付いていない。

 

 

 

 

「うわー、本当に指名手配されてたんだー。ちょっとしたお祭りになってるねー」

 

ソファに座り手元の端末を見ながら少女が呟く、現在でもちょこちょことレスがついているのは新エリー都が注目している証拠だろう。目撃情報は思ったより多いがそれより深いものは殆ど無い。

 

「マスター、参考までに彼の賞金はマスターの生活費の27ヶ月分に相当しており、一考の価値があると判断します」

 

「そもそも不可能だろう…」

 

「治安局に連れていかれたのに何もなかったようにホロウに居たよねあの人」

 

もしかしたら自分達が彼との最多遭遇回数を記録しているかもしれないとインターノットの情報をざっと見て思う。街中よりはホロウに居る方が多く、おおまかな素性を知る者すら未だに現れない。映画を愛する人間としてこの手のミステリーは好物であり、考察が捗る。その中でも一番熱いトピックは、

 

「やっぱりハリネズミじゃないのかなー」

 

「いや、それだと翼があることに説明がつかない」

 

あの男は何のシリオンなのか。

 

「じゃあお兄ちゃんはなんだと思うのさ」

 

「うーん、ウニとか?」

 

「助手2号のアイデアは先程自分で言っていた特徴に当てはまりません、お粗末な発想と評価します」

 

「ほう、じゃあ我が家の高性能なAIはさぞかし理にかなった候補が出せるのかな?」

 

最初から答えが出ないことは承知の上でゴシップを楽しむ。

 

「あの棘の再生能力を動物で検索したところ、サメの歯の生え代わりに近似していると言えるでしょう」

 

「ぷっ、Fairy、それだと空飛ぶサメになってしまうよ」

 

「どこのB級映画?」

 

ビデオ屋のカウンターの横には面白いからと1枚の手配書が貼られてある、新エリー速報に付いていたものだ。治安局に追われる凶悪犯も市民の日々の生活に影響を与えること無く夜が更けていく。

 

 

 

 

 

 

面会室から出てきた黒髪の女は耳に指を当てて誰かと通信を始める。相手の方も今までのやり取りを聞いていたようで詳しい説明は要らない、捨て駒が調子に乗ってこちらを脅してきたのは可愛らしいが核心に触れる彼の発言は戯れ言と無視できるものではない。黙って檻の中でのんびり過ごせば良かったものを、1度膨らんだ欲望と自尊心は手の施しようもない。

 

「こちらで対応する」

 

低い男の声が耳に入る、息を吐きながらの返事には疲労感が漂っており、女は口元を歪める。

 

「彼の方も勿論任せてしまっていいのでしょう?」

 

ポケットから取り出した物を弄びながら楽しそうな声音で問う女、対照的な態度だ。

 

「…第一に、あれは元々の予定に無かっただろう?一体何故私がこんな事に時間を…」

 

「まあ、貴方ともあろう人が弱音なんて。私が送ったレポートはちゃんと読んだのかしら」

 

薄暗い通路に月の光が差し込む、手に持った黒いそれは夜に包まれた中でも輪郭が分かるように光を反射しているようにも見える。

 

「有用性と特異性は分かっている。ただ時期を考えて欲しいというだけだ」

 

ホロウという未知なる脅威、それを前にしても人類は団結できずに各々の利益を求め続ける。陰謀が絡み合い光明の見えない世界、誰が頭に立とうと長い目で見ると大した違いは無い。ならば嫌気が差してしまうのも当然ではないか。

 

通信を切って夜に消える女、計画は順調といえる範囲に収まっている。

 

 

 

 

 

 

何時も以上に人混みが勝手に避けてくれる、なんとも快適で散歩だろうか。川沿いの歩道を歩き、買い食いをしていた男は道行く人々の配慮に感心していた。しかし、前方からその傘が見えた途端に咀嚼が止まり息を潜める。今度は自分が道の端に寄り目立たないようにしているが男を中心に無人の領域が出来てしまっていて徒労に終わってしまう。

 

傘の少女が此方に気付いた、少し肩を落とす男に不思議そうな顔で近づいてくる、なぜ夜に傘を差しているんだ。目を瞑り気合いを入れて、マシンガンのような会話に備える。

 

「………」

 

距離を詰めてくるのは見えていたがまだ声はかからない、もしかして見逃してくれるのだろうか。疑問から片目を開けて少女を見る。

 

 

「………」

 

少女は立ち止まって男を真っ直ぐ見ている、見てはいるのだが此方の動きに反応しない。加えて彼女の頬を伝う涙の理由が分からず、両者共に沈黙の時間が過ぎていく。

 

 

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