男女比が壊れた世界でギスギスする話   作:月島しいる

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1章
01話


瑞樹(みずき)様、大丈夫ですか? もしもご気分が優れないのであれば……」

「うん。ボクは大丈夫だから」

 

 気遣うような声に、苦笑しながら藤堂瑞樹(とうどう みずき)は車から降りた。

 ずっと引きこもっていた為か、肌が白く身体の線も細い姿は、一見すると少女のようにも見える。

 

「入学日くらいは頑張らないとね」

 

 瑞樹(みずき)の言葉に、付き従っている補佐官、御門玲(みかど れい)が感服したように頭を下げる。

 その様子に、瑞樹(みずき)は一瞬複雑そうな顔を浮かべた後、煉瓦造りの城塞のような校門を見上げた。

 

 白雪(しらゆき)学園。

 名門高校の一つで、瑞樹(みずき)はこれから三年間、ここに通う義務を負っている。

 中学時代は殆ど登校しなかった瑞樹(みずき)にとって、久しぶりの学校生活だった。

 

御門(みかど)さんの母校なんだよね?」

「はい。この壮麗な校門は明治の半ばに建てられたもので、重要文化財にも指定されています。瑞樹(みずき)様に相応しい校舎です」

 

 どこか誇らしそうに母校を紹介する補佐官と雑談しながら、周囲に目をやる。

 新入生らしき女子生徒たちがちらほらと見えた。そして好奇の視線。

 白雪学園の男女比は1:30。外の世界に比べれば遥かに男比率は高いが、もの珍しい事に変わりはない。

 中学時代の瑞樹(みずき)は、こうした女子の視線が苦手だった。

 純粋だった小学生の頃は気にならなかった。しかし、成長と共に徐々に性的な視線を感じる事が増え、中学での事件をきっかけに耐えられなくなった。そして、ついには学校への登校が難しくなった。

 それが中学三年生の冬、事故で昏倒した時に前世の記憶のようなものが蘇り、それからは不思議と平気に感じられるようになっていた。

 

「ん?」

 

 ふと、足を止める。

 校門近くの自販機の前で、身を屈めて何かしている女子がいた。

 瑞樹(みずき)は逡巡した後、真っすぐに近づいた。

 

「大丈夫? どうしたの?」

「鍵を落としてしまっ……て……」

 

 振り返った女子を見て、瑞樹(みずき)は思わず息を呑んだ。

 見た事がないほど美しい少女だった。

 ハーフアップにした黒髪に、切れ長の双眸。そして、良家の出身と思われる所作。

 一瞬、彼女の顔に見入ってしまった瑞樹(みずき)は、すぐに用件を思い出して彼女の手元を覗き込んだ。

 自販機前の側溝に鍵が落ちてしまったようだった。溝の上にはグレーチングと呼ばれる金属製の金網が被さっていて、簡単には取れそうにない。

 

「んー、特殊なネジで固定されてて金網は取れそうにないね。教務の人に言えば後から取って貰えそうだけど……」

 

 瑞樹(みずき)は新品の学生鞄を下ろすと、中から弁当箱を取り出した。

 

「あの……?」

 

 固まっていた女子が、お弁当箱を見て戸惑った声をあげる。

 瑞樹(みずき)はそれを無視して、弁当箱についていたお箸を側溝に向かって伸ばした。

 

「あ、いけそう」

 

 中に落ちていた鍵を上手く引っ掛け、引き上げる。

 

「はい、どうぞ」

「も、申し訳ありません。男性にこのような事を!」

 

 取り出した鍵をハンカチで拭ってから手渡すと、女子が更に恐縮したように頭を下げた。 

 

「ク、クリーニング代はお出ししますので!」

「それより時間大丈夫? 女子は先にオリエンテーションがあるよね? もう行った方がいいよ」

 

 入学日と言っても、全校生徒が集まるような入学式はない。

 男子と女子に別れて入学オリエンテーションを受けた後、それぞれのクラスで顔合わせとなる。

 頭を下げたまま動かない女子を見かねて、瑞樹(みずき)は自分からその場を離れる事にした。

 

「本当にありがとうございました! 後日お礼に伺いますので、お、お名前だけでも!」

藤堂瑞樹(とうどう みずき)だけど、あんまり会わない方がいいんじゃないかな」

「……え?」

 

 思わず漏れた言葉に、女子が不思議そうにする。

 

 

 

 

「ボク、最下位クラスの人だから」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「以上の通り、クラスポイントによりクラス順位が変動します。Aクラスの皆さんにこれ以上の昇格はありませんが、クラス選択権、及び確定権の行使の為に常に努力が求められます」

 

 北条乃愛(ほうじょう のあ)は退屈な入学オリエンテーションを聞きながら、目の前の空席について思考を巡らせていた。

 北条(ほうじょう)家は始国(しこく)十八家と呼ばれる名家の一つである。江戸以前から続く由緒正しき名家であり、近代化においては象徴的な役割を果たしてきた。

 そして、彼女の前の空席には同じく始国(しこく)十八家たる一色雫(いっしき しずく)がいるはずだった。

 

(さて、これはどういう事かな?)

 

 北条乃愛(ほうじょう のあ)が知る限り、一色雫(いっしき しずく)は規範的な十八家の娘だった。

 成績は優秀で、人の上に立つ者として常に相応しい行動を見せる。少なくとも、入学日から休むような人間ではなかった。

 休校の理由としては家人の不幸くらいしか思いつかなかったが、十八家の人間に不幸事があれば乃愛にも何らかの情報が届いているはずで、この空席はどうにも不可解だった。

 

「次に、一年生としてご入学された男性について。今年度は11名の男性が入学されました。Kクラスまで編成され、Aクラスの皆さんは一度だけ自由に選択権を行使する事が可能です。ただし、【お手付き】になった場合は選択権が消失し、以降は他のクラスに移動する事ができません。くれぐれも軽率な行動は慎むようにしてください」

 

 教室前面に、各クラスに編成された男子生徒の顔が浮かび上がる。

 それまでの退屈そうなクラスの雰囲気が一変し、どこか浮足立ったものになる。

 

「男子生徒の成績については、学内サイトにログインする事で閲覧可能です。もちろん、これらの情報を学外に流した場合は退学処分となり、場合によっては刑事罰の対象にもなりえます。電車やカフェなど公共の場での閲覧は絶対にやめてください」

 

 乃愛(のあ)は壁時計にちらりと目を向けた。

 オリエンテーションが終わるまで後20分。一色雫はまだ来ない。

 

「当然、女子生徒の成績も男子に公開されます。中等部の成績から、家族構成、過去の選択権の履歴、全てが記録として残ります。特に選択権の行使については注意してください。男子生徒は通常、過去に自分以外のクラスに選択権を行使した女子を敬遠します。少なくとも、一年生の間に使う事は避けたほうがいいでしょう」

 

 乃愛(のあ)たちAクラスは、最優秀者が集められたクラスだ。

 同時に、任意の下位クラスへ移動するクラス選択権が与えられている。

 と言っても、この選択権は通常、使われる事はない。

 わざわざ下位クラスに移動するということは、下位クラスに所属する男目当てという意味であり、一度でも選択権を行使すれば他の男から相手にされる事がなくなり、今後の学園生活での潰しが利かなくなる。

 一年生によってこの選択権が行使されるのは往々にして、クラスの男子との折り合いが致命的に悪い場合のみである。

 

「さて、それでは皆さんが一番気になっているであろう男子生徒についてさらっとご紹介しましょうか」

 

 一色雫(いっしき しずく)の空席を眺めながら考え事をしていた乃愛(のあ)は、担任の言葉で現実に引き戻された。

 

「まずはこのAクラス。吉祥寺進(きちじょうじ すすむ)君。三等市民。見ての通り、社会奉仕スコアが非常に高いです。補佐官の交代回数は3回。お手付きは3回」

 

 乃愛(のあ)はプロジェクターに映し出された大柄な男子生徒のデータを眺めながら、典型的なエリート思考の男子だな、と冷静に分析した。

 高校生にして三等市民まで上がっているのは上昇志向が強い証拠。補佐官の交代回数は、気難しさの表れ。神経質な可能性が高い。

 

「次にBクラス。古葉巧(こば たくみ)君。四等市民。補佐官の交代回数は2回。過去にお手付きが16回」

 

 クラス内が、静かにどよめいた。

 高校入学前にお手付き回数16回というのは、かなり多い。

 つまり、相手にされやすい。

 

「Cクラス。白川健斗(しらかわ けんと)君。四等市民。補佐官の交代回数は5回。お手付きが7回。暴力事件が3回」

 

 乃愛(のあ)は思わず顔をしかめた。

 暴力事件が3回。間違いなく問題児だった。

 しかし映し出されている顔は整っていて、クラスの何人かが熱の籠った視線を向けていた。

 

「Dクラス――」

 

 そこから先は、乃愛(のあ)の記憶に残らなかった。

 平均的な男子生徒のデータがただ読み上げられるだけ。

 特に下位クラスに近づくにつれ、女嫌いなどの特記が増えていく。

 どこか浮足立っていたクラスの雰囲気も次第に落ち着き始めていた。

 

「最後、Kクラス。藤堂瑞樹(とうどう みずき)君。補佐官交代数は0回。お手付き0回。中学時代の登校回は20回のみ。社会奉仕スコアも殆どなく、女性恐怖症との診断が出ています」

 

 映し出された顔写真に、乃愛(のあ)は一瞬目を奪われた。

 中性的な顔つきに、優しそうな目元。他の男子生徒に比べ、明らかに突出した容貌をしていた。

 女性恐怖症という情報から、この見た目のせいで過去に何か怖い思いをしたのだろう、と当たりをつける。

 

(もったいない)

 

 補佐官交代数が0回、という情報を見て思わず乃愛(のあ)は溜め息をついた。

 幼少期や反抗期の男子は大体、癇癪を起こして一度は補佐官を交代する。0回というのはひどく珍しいものだった。

 きっと、穏やかな性格なのだろう。

 女性恐怖症さえなければ真っ先に選んだのに、と思いながら他の男子生徒について考えを巡らせた。

 乃愛(のあ)が望む相手は、男子生徒の中には見つからなかった。

 気乗りしないが、これから三年を通して消去法で絞らなければならない。

 

(あるいは……)

 

 北条(ほうじょう)の家の力を使い、学外から男性を見つけなければならない。

 優秀な血を残すのが始国十八家の長女としての義務だった。

 そして、同じ義務を負っている一色雫の席に目を向ける。

 一色雫(いっしき しずく)は、まだ来ない。

 オリエンテーションが終わろうとしていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 1年Kクラスに配属された神成寧々(かみなり ねね)は、178cmという高身長を隠すように猫背になりながらオリエンテーションを聞いていた。

 

(これは……当たりかも)

 

 Kクラスという最下位に配属された寧々(ねね)には、クラスの選択権が存在しない。つまり、逃げ場がない。

 そういう意味では、無害そうな男子のクラスに当たったのは運が良かった。

 直接関わる機会はなくとも、遠くからその愛くるしい姿を眺めるだけでも寧々(ねね)は良かった。

 

「それでは、何か質問ありますか?」

 

 いよいよオリエンテーションが終わる雰囲気を感じ取り、クラス中がそわそわし始める。

 寧々(ねね)は更に背を曲げて、出来るだけ目立たないように気を付けた。寧々(ねね)のような長身は男子生徒を怖がらせる恐れがある。

 

「なければ、藤堂(とうどう)君に入室していただきます」

 

 担任の教師が戸口に向かい、廊下に向かって小声で何かを言う。

 直後、一人の男子生徒が教室に入ってきた。

 

(……写真より綺麗な顔)

 

 教室の空気が、変わった。

 藤堂瑞樹(とうどう みずき)が一歩、教室に足を踏み入れた瞬間、Kクラスの女子たちの視線が一斉に彼へと向けられた。

 その視線は、好奇と警戒、そして微かな熱を孕んでいた。

 瑞樹(みずき)は、まるで舞台に立たされた役者のように、静かに教壇の前に立った。

 制服に身を包んだ彼の姿は、どこか儚げで、しかし不思議と目を引く。

 白い肌に、整った顔立ち。肩まで届く柔らかな髪が、窓から差し込む光を受けて淡く輝いていた。

 担任が促すように手を差し出す。

 

「では藤堂(とうどう)君、自己紹介をお願いします」

 

 瑞樹(みずき)は小さく頷き、前へと進み出た。

 その動きに合わせて、教室の空気がさらに張り詰める。

 

「はじめまして。藤堂瑞樹(とうどう みずき)です。中学まではあまり学校に通えていなかったので、色々と不慣れなことも多いと思いますが、よろしくお願いします」

 

 声は静かなのに、どこか堂々とした立ち振る舞い。

 前情報と異なる姿が、女子たちの関心を強く引きつけた。

 

(本当に最下位クラスの男子なの?)

 

 寧々(ねね)は、無意識に拳を握りしめていた。

 通常、彼女のような"最下位クラス"の女子にとって、男子と関わることはリスクだった。

 だが、それでも――

 

(誰にも渡したくない)

 

 その感情が、胸の奥から湧き上がってくるのを、寧々(ねね)は止められなかった。

 

「それでは、中央の席についてください」

「はい」

 

 担任に促されるまま、藤堂瑞樹(とうどう みずき)が席に着く。

 男子に用意された中央席。寧々(ねね)の右隣だった。

 誰もが言葉を発しないまま、彼の一挙手一投足に意識を向けている。

 

「では、女子も自己紹介を。窓際からにしましょうか。30秒ほどで短くまとめてくださいね」

「は、はい。相原由良(あいはら ゆら)です! 北海道から参りました。寮住まいで――」

 

 その時、教室の戸口からノック音が響いた。

 担任が怪訝な顔をした後、どうぞ、と声をかける。

 

一色雫(いっしき しずく)と申します。クラス選択権を使用し、こちらへの移動となりました。教務からは後で机を運ぶので、先にオリエンテーションに向かうように、と指示を」

「……選択権を?」

 

 突然の乱入者に、クラス内がざわつく。

 

(クラス選択権? 初日から?)

 

 クラス選択権は、一度しか使えない貴重な権利だ。

 所属しているクラスの男子と折り合いが悪い場合、もしくは本命の男子が決まった後に使うもの。間違っても初日のオリエンテーション前に行使する権利ではない。

 ましてや、ここはKクラス。最下位クラスに自分から移動するなど、通常はありえない。

 

(しかも……一色(いっしき)?)

 

 庶民の寧々(ねね)でも、始国(しこく)十八家の家名くらいは知っている。

 名家がこのような動きを見せるなど、ますます不可解だった。

 クラス中が困惑した視線を向ける中、一色雫(いっしき しずく)は静かに頭を下げた。

 

「お騒がせして申し訳ございません。机が届くまで、後方で立たせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「え、ええ。そうね。席もないし、申し訳ないけれどそうしてもらえるかしら」

 

 対応に困り果てている担任に自ら助言した一色雫(いっしき しずく)は、もう一度頭を下げた後、教室の後方へ下がった。

 

「で、では。相原(あいはら)さん。もう一度、自己紹介を」

「……はい。繰り返しになりますが、相原由良(あいはら ゆら)です。北海道出身で――」

 

 自己紹介が再開された教室の空気は、どこか落ち着かないままだった。

 女子たちは、ちらちらと後方に立つ一色雫(いっしき しずく)へ視線を送っていた。

 彼女の存在は、あまりにも異質だった。

 始国十八家の家名を背負う者が、最下位クラスに自ら降りてくるなど、前代未聞。

 その行動の意味を、誰もが測りかねていた。

 自己紹介は順調に進み、窓際の列から始まって次第に中央へと移っていった。

 その間も皆の視線は、後ろの一色雫(いっしき しずく)に引き寄せられている。(しずく)は教室の後方で一人、怖気づく様子もなく静かに佇んでいた。

 その堂々とした姿に、寧々(ねね)は小さな妬みを感じた。きっと彼女は、自らを卑屈に感じた事などないのだろう。

 寧々(ねね)は自分の番が近づくにつれ、ますます背を丸めた。

 178cmの身長は、クラス内でも目立つ。

 男子の前ではいつもこうして小さく見せようとするのだが、効果は薄い。

 右隣に座る藤堂瑞樹(とうどう みずき)の存在が、さらに寧々(ねね)を緊張させた。

 彼の柔らかな髪、見た事がないほど整った顔。

 女性恐怖症という情報が本当なら、寧々(ねね)のような大柄な女子は特に避けられるはずだ。彼に嫌われたくない、と心から思った。

 

「次、神成(かみなり)さん」

 

 担任の声に、寧々(ねね)はびくりと肩を震わせた。

 立ち上がろうとして、足がもつれそうになる。

 ゆっくりと席を立ち、クラス全員の視線を感じながら声を絞り出す。

 

「か、神成寧々(かみなり ねね)です。えっと……バレー部に所属してました。よろしくお願いします」

 

 話を30秒繋ぐ事もできず、すぐに切り上げて着席する。

 顔が熱い。瑞樹(みずき)がこちらを見たかどうかもわからない。後は視線を落とし、机の木目をじっと見つめる事しかできない。

 寧々(ねね)はそのまま、クラス全員の自己紹介が終わるまで背中を丸めたまま微動だにしなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 そのまま何事もなくオリエンテーションが終わり、その日は解散となった。

 しかし女子生徒は誰一人、席を立とうとはしなかった。

 互いを牽制するような沈黙の中、寧々(ねね)は息を潜める事しかできなかった。

 最初に沈黙を破ったのは、一色雫(いっしき しずく)だった。

 

藤堂(とうどう)様、またお会いできて光栄です」

「えっと……朝の」

「はい。一色雫(いっしき しずく)です。鍵を拾っていただいたお礼がしたくて……」 

 

 (しずく)は丁寧に頭を下げ、瑞樹(みずき)の目をまっすぐに見つめた。

 

「ううん、そんな大したことじゃないよ。それより、クラス選択権を使ってここに来たって本当?」

 

 クラス内の女子全員が、遠巻きに藤堂瑞樹(とうどう みずき)一色雫(いっしき しずく)を見つめていた。

 寧々(ねね)もその一人で、机の下で拳を握りしめながら二人の会話に聞き入っていた。

 

「はい。どうしてももう一度藤堂(とうどう)様にお会いしたくて。多数の女性を相手するのが苦手だと聞いております。何か困った事があればご相談ください。必ず、私がお守りします」

 

 (しずく)の言葉に、クラス内がざわついた。

 名家の娘らしい、自信に満ち溢れた宣言。

 周囲の女子たちの視線が、鋭くなった。寧々(ねね)も胸がざわつくのを感じた。

 

「気持ちは嬉しいけど、実は今はそんなに女性が怖いわけじゃないんだ」

「そうなのですか? では、よろしければこれからカフェでお茶でも……」

 

 諦めずに距離を詰めようとする(しずく)の態度に、クラスの雰囲気が剣呑なものになっていく。

 それを察したのか、瑞樹(みずき)は静かに首を横に振った。

 

「ごめんね、今日はちょっと緊張して疲れちゃったからまた今度でもいいかな?」

「気が回らず申し訳ございません。ではまた後日」

 

 寧々(ねね)は内心ほっとした。

 これで今日のところは抜け駆けしようとする者はいなくなるだろう。

 目立たないようにゆっくりと席を立ちあがる。

 

「わ、神成(かみなり)さんって本当に背が高いんだ」

 

 どくん、と心臓が跳ねた。

 気が抜けていた。

 振り返ると、ニコニコと無邪気な笑顔を見せる瑞樹(みずき)がこちらを見上げていた。

 

「え、あ……ご、ごめ――」

「モデルさんみたいでかっこいいね」

 

 出会いからまだ一時間。

 交わした言葉は10秒にも満たない。

 けれど、確かに彼女の中で、瑞樹(みずき)という存在が“特別”になり始めていて。

 

 誰にも取られたくない、と心から思った。

 

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