「おはよー!」
それを確認すると、真っすぐに廊下側の席へ向かった。
「
「え、あ?」
眠そうに頬杖をついていた
「あの
「お、おう」
前のめりになる
「わ、私もびっくりしちゃった」
横から
「ね、凄いよね」
「勇気もらったよ」
「私、言われっぱなしでもう悔しくてさ」
「ありがとうね。これから見返してやればいいだけだって気づけたよ」
「……そうか。なら良かったよ」
その飾らない姿を、微笑ましく思う。
「私も足を引っ張らないように頑張らないと!」
ふんす、と
それに対し、
「あまり真に受けない方がいい。あんなの方便だよ」
「え?」
「何でもいいから追い出す理由が欲しいんだ。人が出ていけば、クラス内の
「あ……」
考えたこともない理屈に、
「8枠だ。後8枠あれば
あるいは、と
「そんなことをしなくても、クラス内で
「そ、そんな!」
そうなれば何の後ろ盾もない自分たちなど、簡単に排除されてしまう予感があった。
「……でもまあ、私たちは気にしなくていい」
「ど、どうして?」
「学校という子供の世界で、大人の力学を使える機会は意外と少ないってことだ」
「……そうなの?」
「クラス運営の主導権は握れるだろうな。でもそれだけだ」
クラス運営の主導権。
その意味を、
行事の意思決定だろうか。確かにそう考えると、クラスの過半数を取る事にあまり意味はない。
「クラス運営なんてやりたい奴がやればいい。どうせお前らは仕切らないだろ?」
「……それはそうかも」
「いいか。多数派だの少数派だの、それは女社会の中の、女の理屈だ」
女の理屈。
「私が見る限り、
「……うん。それは分かる気がする」
「だろ?」
家格や多数派かどうかで扱いを変えた事は一度もない。
「結局、こんなのは女同士のつまらない縄張り争いなんだ。ボス猿の席なんか渡してやればいい」
「す、すごいよ!
「……今、意外って言ったか?」
そして、目の前の小柄な
彼女には、どこか達観した大人の雰囲気があった。
「……
確信があった。
しかし、
「私は何か大きい事がしたいわけじゃないし、どうでもいい」
それに、と
「真に警戒すべきは……
「そうなの?」
「……まあ結局、
女社会の理屈。
他でもない
◇◆◇
「支配とは何か?」
張りつめた母の声を、懐かしく思う。
「支配とは、内に利益を与える事です」
当時、小学生だった
「そして外から奪う事でもあります」
「ふたつあるのですか?」
「二つを組み合わせなさい。外から奪い、内に利益を与える。この分配機構の永続性こそを、人は支配と呼びます」
その時点で、彼女の未来は殆ど決定されていた。
それが
「
「え……」
「お前はいずれ、当主を継ぐ存在です。私たちに何かを与える為に、お前は何かから奪う事を良しとしなければなりません」
「……」
「最も簡単なのは、新しい境界を作る事です。恭順を示した者に報酬を、敵意を示した者には罰を。後はこれを分配することで支配構造が出来上がります。
よく覚えている。
繰り返し刷り込まれたそれが、今の
「こうした境界は、既に先人がシステムとして作り上げています。例えば党員システム。党員と非党員には明確な境界があり、党員でない者にはそもそも出世ポストが用意されていません。だから、人々は生産性スコアをあげて思想的純度を保ち、労働や
「……」
今ならわかる。
支配とは、椅子を用意することでもある。
それを秩序合理性に満ちた社会が教えてくれた。
「こうして自発的に支配を望む事。それが支配の根幹と知りなさい」
「……」
「手始めに周りの子たちを使い、よく学び、よく励むといい。人を動かせぬ者に
繰り返し、繰り返し言われて育ってきた。
人を動かす行為が、
「……
耳元の声で、
周囲を見渡し、そこが
隣を見ると、寝ぼけ眼の
「今日も可愛いね」
そっと頭を撫でる。
褒めたのは、ただの癖だった。大体の女はこれを言うだけで喜び、
ゆっくりとベッドから立ち上がり、洗面台へ向かう。
鏡に、中性的な姿が映った。
女は男を求める。そして本当の男である必要はない。
表情のない自分の顔を、
どこにも
「
身だしなみを整えている間に、
「甘えんぼさんだね。ほら、梳かしてあげる」
抱きついてくる
女が恋人に求める行為を、乃愛はよく理解していた。
「さあ、いくよ」
着替えを済ませて寮を出ると、辺りには大正時代に建てられた煉瓦造りの建造物が並んでいる。
統一規格の無機質なマンションが並ぶよりはずっと良い。
「朝はちょっと肌寒いね」
「あ……」
わざとらしく
「
「……」
「倫理監察局だ」
「車の中ですか?」
「ああ」
思ったより動きが早い。
密告を受けた倫理官たちもKクラスの状況を不審に思ったのだろう。
くつくつと笑いが漏れた。
「密告したのは十中八九、Aクラスに一人残された
倫理監察局など、普通は恐れて関わりたがらない。
最低でも、密告したのは党の人間だろう。
「おや、ここは温かいね」
「の、
さて、出来るだけ長く勘違いをしてもらうほうがいい。
どうやって遊ぼうか、と
厳しい当主教育を受け、支配の在り方について幼少期から長く学んできた。
そして、
そこに疑問を抱く事はなく、