【書籍化】男女比が壊れた世界でギスギスする話(書籍タイトル:恋奪の教室)   作:月島しいる

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7話

「こうしてせっかく揃っているのだから、コロニーのルールを決めておこう」

 

 ホテルの一室。

 藤堂瑞樹(とうどう みずき)のコロニーに所属する者たちが、北条乃愛(ほうじょう のあ)によって集められていた。

 神成寧々(かみなり ねね)は肩身が狭そうに、そっと周囲を見回した。

 一色雫(いっしき しずく)、北条乃愛(ほうじょう のあ)、最上飛鳥(もがみ あすか)。いずれも始国十八家(しこくじゅうはっけ)と呼ばれる党の重要ポストを預かる特別な家の者たち。

 そして、乃愛(のあ)の寄騎(よりき)である御倍美弥(ごばいみや)。補佐官として、幼少期から瑞樹(みずき)の身を預かり、後見人を務める御門玲(みかど れい)。

 この中でもっとも立場が弱いのが、庶民出の特別な後ろ盾のない寧々(ねね)だった。

 

「オレはまだコロニー入りしていないが」

 

 周りの様子をうかがうように、飛鳥(あすか)が口を開く。

 飛鳥(あすか)は縁巡りによって白雪学園への転入が決まったものの、未だお手付きは受けていない。

 居心地悪そうにする飛鳥(あすか)に、乃愛(のあ)がにこやかに言う。

 

「瑞樹(みずき)くんの性格なら、転入させてそのまま放置ということはないだろう。十八家という立場もある。特例として同席を認めるべきだと思ってね」

「つまり、コロニーのルールを知らなかった、という言い訳を封じたいわけですね」

 

 仮面のような笑みを浮かべて、雫(しずく)が補足するように付け加えた。

 乃愛(のあ)は困ったように肩を竦める。

 

「それは少しばかり、人聞きが悪いね。私はただ、トラブルを防ぎたいという善意でみんなを招集しただけだよ」

「それで、何を決めるのでしょうか?」

 

 無表情に問いかけるのは御門玲(みかど れい)。

 いつも瑞樹(みずき)の傍にいる補佐官がここにいるのが、寧々(ねね)にはひどく気になった。

 

「あの……瑞樹(みずき)くんの傍から離れて大丈夫なんですか?」

「心配ない。綾乃(あやの)たちが護衛についている」

 

 答えるのは御倍美弥(ごばい みや)。

 一学期の試験勉強で多くの時間を過ごしたこともあり、寧々(ねね)にとっては比較的見知った存在でもある。

 

「話が終わればすぐに戻ります。それで、何を決めるのでしょうか?」

 

 玲(れい)が抑揚のない声で、静かに繰り返す。

 思わず寧々(ねね)は身を小さくした。

 最年長の補佐官は愛想がなく、寧々(ねね)は少し苦手意識を持っていた。

 

「女だけの場だし、率直に言おう。まずは夜の順番について決めるべきじゃないかな」

「それは、瑞樹(みずき)様が決めることです。女が決めることではございません」

 

 乃愛(のあ)の提案を、雫(しずく)がぴしゃりと却下する。

 その返答を予想していたように、乃愛(のあ)は余裕のある笑みを見せた。

 

「みんな、異論は?」

 

 寧々(ねね)は思わず、周りを眺めた。

 一様に黙り込み、異を唱える者はいなかった。

 

「さて、これで一つ決まったね。恨みっこはなしだ」

 

 乃愛(のあ)はそう言って、次の議題に進む。

 

「次に、瑞樹(みずき)くんの卒業後の住居について。一般的に女が用意するものだ。どうするか、皆で決めるべきじゃないかな」

「それも、瑞樹(みずき)様が決めることです」

 

 今回も雫(しずく)がぴしゃりと言う。

 乃愛(のあ)は満足そうに頷いて、同じ言葉を繰り返した。

 

「みんな、異論は?」

 

 寧々(ねね)の中で、小さな不安が沸き起こった。

 話し合いというより、一方的に言質を取られているような違和感があった。

 

「じゃあ、次にいこう。京都について」

 

 そう言って、乃愛(のあ)は雫(しずく)に視線をやった。

 

「一色(いっしき)さん、どうかな? なにか言うことは?」

「質問の意図がわかりません。何故、そんなことを私に聞くのですか?」

 

 雫(しずく)が仮面のような笑みで、小首を傾げる。

 一連のやり取りの意味がわからない寧々(ねね)は、困惑しながらも状況を注視するしかなかった。

 

「Dクラスからやってきた瑞鳳(ずいほう)さんは、一条(いちじょう)の出身だ。これはつまり、堂上家(どうじょうけ)であることを意味している。天楼(てんろう)のお膝元で生きてきた人間が、何故Kクラスになんてやってきたのかな」

「それはご本人に聞くべきことでは」

「そうだね。じゃあ質問を変えよう。君は何故、Kクラスにやってきたのかな」

「入学の初日、鍵を落として困っていたところを助けて頂いたのです」

「幼少期の知り合いだったと、瑞樹くんから聞いているよ?」

 

 雫(しずく)が押し黙る。

 表情が抜け落ちたような雫(しずく)と、余裕のある笑みを浮かべる乃愛(のあ)。

 状況の把握ができていない寧々(ねね)でも、どうやら乃愛(のあ)が雫(しずく)の痛いところを突いたのがわかった。

 

「幼少期、つまり御門(みかど)さんが補佐官を務める前の次期だ」

「……」

「さて、男児を実母から取り上げた後の再配置には一定の指向性があると言われている。細かいルールは秘匿されているが、確実にわかっていることは、遺伝的な問題を避けるために出生地と再配置場所を同じにしないという点だ。だから、少なくとも瑞樹(みずき)くんは東京生まれではないと推測できる」

「……」

「そうなると一色(いっしき)さんと瑞樹(みずき)くんは幼少期、どこで出会ったのか。一色(いっしき)の本家がある東京以外なら、自然と候補は限られてくる」

 

 そこまで話してから、乃愛(のあ)は自信たっぷりに辺りを見回した。

 飛鳥(あすか)がぽつりと答える。

 

「……京都か」

「やはり、誰もが同じ答えに辿り着くようだね」

 

 場の視線が、一斉に雫(しずく)に向かう。

 雫(しずく)は表情のないまま、機械のように口を開いた。

 

「男子の出生地を探る行為は、禁忌とされています」

「そうだね。不要なトラブルを招くし、再配置のアルゴリズムの解析にも繋がる危ない行為だ」

 

 しかし、と乃愛(のあ)は言葉を続けた。

 

「知らない振りをしているほうが危ない場合もある。例えば、瑞樹(みずき)くんが公家の出身とかね」

「危ない話題だな」

 

 黙り込んだ雫(しずく)の代わりに、飛鳥(あすか)が仲裁するように割り込んだ。

 

「六波羅(ろくはら)の監視もある。今の京都にそんな力は残っていない。一体、何を危惧している?」

「私はただ、最悪の場合を想定しているだけだよ」

 

 寧々(ねね)の知らない言葉が飛び交う。

 飛鳥(あすか)の言う通り、乃愛(のあ)が一体何を警戒しているのか寧々には皆目わからなかった。

 

「南方軍を動かせる大宰府(だざいふ)ならともかく、京都は武力を持たないただの抜け殻だ。そんな狂ったことは万が一にも起きないだろう」

「もちろん、党の支配は盤石だ。しかし、何事にも例外が存在する」

 

 乃愛(のあ)はそこで、視線を雫(しずく)に戻した。

 

「私が確認したいのは、その例外に該当するかだ」

「……」

 

 雫(しずく)は何も言わなかった。

 乃愛(のあ)が不快そうに顔をしかめる。 

 

「瑞樹(みずき)くんの安全にかかわることを明言しないのは、重大な背任行為と思うよ?」

「乃愛(のあ)」

 

 それまで黙っていた美弥(みや)が、見かねたように口を開いた。

 

「言いすぎだ。それにこの公開裁判のようなやり方は、禍根を残しかねない」

「じゃあ、背任行為は訂正しよう。しかし彼女には説明義務があるだろう?」

「秩序の守護者という立場もある。党の禁忌に触れるようなことを、一色(いっしき)さんに求めるのは酷だ」

「私はただ、確証が欲しいだけだよ」

 

 そこで雫(しずく)は沈黙を破り、絞り出すように言った。

 

「私は必ず、どのような状況でも瑞樹(みずき)様を守ることを誓います」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 話し合いは、それほど長くは続かなかった。

 一室を出てから、寧々(ねね)は一階のロビーに向かうためにエレベーターを待った。

 何となく、そこに瑞樹(みずき)がいる気がした。

 入学してから多くの時間を共にしたため、寧々(ねね)には何となく瑞樹(みずき)の行動がわかるようになっていた。

 

(なんか……聞いちゃいけないことをいっぱい聞いた気がする)

 

 エレベーターを待つ間、先ほどの話し合いを振り返る。

 十八家のうち三家が集まった話し合いは、寧々(ねね)が気軽に何か言えるような場ではなかった。

 

(ロクハラってなんだろう)

 

 疑問に思って、スマホを取り出す。

 検索ワードに打ち込むが、検索には何も出なかった。

 

(検閲に引っ掛かってるのかな)

 

 寧々(ねね)は少し考えてから、関連していると思われる京都を調べた。

 都市についての簡素な説明以外は、特に情報が出てこない。

 地図も黒塗りの所が多く、党の何かがあることくらいしかわからなかった。

 そこでようやく、エレベーターがやってきた、

 

(ドウジョウケ……)

 

 乗り込みながら、先ほど聞いた言葉を次々と打ち込んでいく。

 どれも検索に出ない。

 そうしている間に、一階について扉が開いた。

 スマホをしまい、ロビーに向かう。

 窓際のラウンジに、女子の集団がいた。

 そっと近づくと、中心に瑞樹(みずき)を見つけた。

 

「……」

 

 自然と、足が止まった。

 瑞樹(みずき)の周りを固めているのは、乃愛(のあ)の寄騎(よりき)たちだった。

 そのうちの一人、如月(きさらぎ)ひよりと目が合う。

 気が強そうな顔立ちで、周りを見下すような言動も目立ち、寧々(ねね)は苦手意識を持っていた。

 寧々(ねね)が動けないでいるうちに、ひよりが瑞樹(みずき)の肩を軽く叩いて言う。

 

「神成(かみなり)さん来てるよ」

 

 意外な助け舟に、寧々(ねね)はぺこりと頭を下げて瑞樹(みずき)のもとへ足を進めた。

 

「ちょ、ちょっと瑞樹(みずき)くんの顔が見たくて」

 

 瑞樹(みずき)は立ち上がって、微笑んだ。

 

「夕飯まで少しあるみたいだし、ちょっと歩く?」

「う、うん!」

 

 それから、乃愛(のあ)の寄騎(よりき)たちに視線を向ける。

 彼女たちもぞろぞろとついてくるのではないか、と警戒するも、ひよりたちは立ち上がらなかった。

 寧々(ねね)は瑞樹(みずき)の隣にぴったりと身を寄せると、誰も寄せ付けないように気を付けながら一緒に散歩に向かった。

 先ほどの難しい話は、寧々(ねね)の頭からはもう消え去っていた。

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