【書籍化】男女比が壊れた世界でギスギスする話(書籍タイトル:恋奪の教室) 作:月島しいる
「夕方は意外と涼しいね」
ホテルの周りには、広々とした遊歩道が海岸に沿うように整備されていた。
「
歩きながら、
気づけば繋いでいた手が離れ、腕に巻き付いていた。
「さっきはロビーで何やってたの?」
「えっと、
「将棋?
「うん。昔、時間があまってた時に結構やってたんだ」
前世のぼんやりとした記憶の向こうの出来事だった。
遊び方を教えてくれた人の顔も、はっきりとは思い出せない。
ただ、いくつかのやり取りが魂に焼き付いたように残っていた。
――こうやって考え事をしているとね、死の恐怖が和らぐんだ。
小児病棟のプレイルーム。
カラフルな色彩の部屋で、最年長の少女はチェスボードを眺めながら、いつも退屈そうにしていた。
普通ならば一般病棟に移動する年齢にもかかわらず、彼女は小児病棟に残っていた。
幼かった当時の
――よかったら、私の相手をしてほしい。
手ほどきを受けてしばらくしてから声をかけた理由を聞くと、彼女は笑いながら言った。
――少なくとも、私よりは長生きしそうだからね。
そして、本当に彼女のほうが先に死んでしまった。
今も、彼女から教わったものが
「わ、私もやってみようかな」
腕に絡みついた
どこか、媚びるような表情だった。
「そうだ。今夜、お部屋行っていい?」
むにゅ、と胸が押し付けられる。
「十八家の人ばかりだと気を遣っちゃわない?」
囁くように言って、
「お菓子とかもっていくし、その……」
そこで
「私だったら……
いつもの
笑みの中にも、
「……
「うん」
ちょうどいいところにベンチがあり、二人して腰かけた。
それから、後ろから影のようについてきている
「
しかし、
何となく、うまくいっていないのだろうという予感が
「えっとね……控えからも落ちちゃった」
思ったよりもあっさりとした反応。
「元々、何となくで始めたんだ。小学生の時に背が高いからって理由で勧められて」
「……うん」
「それまで得意なことなんて何もなくて、筋が良いって言われた時は結構嬉しかったの」
でも、と
「急に背が伸びなくなって、周りに抜かされちゃった」
伸びなくなった、という言葉に
178cmは、高校一年の女子としては十分に高身長に思える。
「一応、まだ一年生としては高い方なんだけどね。でも、何となく自分の限界が見えちゃったんだ」
「……そっか」
チェスや将棋をやっていた時、病院からネットに遊び場を移すと、自らの立ち位置というものを嫌というほど思い知らされたものだった。
「コロニーで私だけ何もないし。みんなちゃんとした家の人なのに」
「……」
きっと、現状に焦りを感じているのだろう。
不安定になっている理由は明白だった。
「一応言っておくけど、ボクは
「うん。それはね、わかってるつもりなんだけどね」
もう一押し必要そうだった。
「恥ずかしいからはっきり言ったことがないんだけど、ボクは
「……本当?」
「隣の席っていうのもあるけど、一番話しやすかったし。最初、ちょっとクラスの雰囲気が良くなかったし」
「あ……うん。なんだか怖かったよね」
「この前みたいに一緒にゲームで遊んだりとか、
「あはは……
「だから、コロニーのことで悩んでるんだったら、気にしなくて良いからね」
「……うん」
こうしたコンプレックスを言葉だけで解消することは難しい。
長い時間をかける必要がありそうだった。
「そろそろ夕飯だし、戻ろっか」
ベンチから立ち上がると、すぐに
来た時以上に力が入っていた。
互いの顔の距離も、随分と近い。
「
「好き……えへへ」
少し元気が戻ったようだった。
そこで、離れたところにいる
(コロニー内のバランスも、もっと考えたほうがいいのかな)
七月の遺伝子提供で
それでも、小さなひずみが生まれつつある。
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