「排卵期の妊娠率は約30%と言われており、人口生産の計算では0.3という数字を使用するのが一般的だ」
教室内は、味わった事がない空気に包まれていた。
顔を隠すように教科書を立てながら、
隣では、顔を真っ赤にした
「男子の……あー……精液は2日に1回……もちろん個人差が大きいので、あー、これは単なる計算の基準だが、まあ、2日に1回出ると想定し、年間射精数を182回と仮定する」
体育教師も何かが喉に引っ掛かったような様子で、生徒たちと目を合わせようとはしなかった。
「男性の精通年齢は非常に個人差が大きく、これについて明確な答えはないが、えー、とにかく便宜上は15歳で計算する」
恐らく
断定を避けるように、あやふやな言葉が続く。
「ここからも個人差が大きいが、継続的に、ぼ、勃起可能なのは40歳までという仮のモデルを使用すると、射精可能年数は25年という前提になる。その、あくまで人口生産の仮の計算モデルだ」
保険体育が重要なのは理解しているつもりだったが、この極端な男女比の中だと地獄のような有様だった。
明るく振る舞う体育教師の声が、反対にどこか痛々しい。
「では計算してみよう。排卵期の妊娠率が0.3であり、年間射精数182回。それが25年続く。さあ、計算できる人はいるか?」
嫌な沈黙が落ちた。
いつもは真っ先に手を挙げる
「えー、答えは1365人だ。これが1人当たりの男性から生まれる理論値であり、個体生産最大値と言われる」
1365人。
恐らく、白雪学園の女子よりも多い数。
「これを聞いて、思ったより多いと感じた者も多いだろう。寿命が30歳~40歳くらいの時代や、流行病が猛威を振るった時代でも人口生産にはそこそこの余剰があったという事だ」
理論的な話になったせいか、体育教師にいつもの調子が戻ってくる。
「さて、人工受精が当たり前になった現代で、何故こんな事を勉強するのか不思議に思うかもしれない。それは、この個体生産最大値の1365という定数があらゆる分野で使われているからだ」
教科書には、世界地図が載っている。
同時に各国の平均的な個体生産値が載っていて、一部の国だけが突出していた。
「例えば英帝では、この個体生産最大値1365人という数字から、植民地に残す最低限の男性を計算し、残りの男性を接収しているわけだ。この個体生産最大値は、軍政レベルの意思決定にも影響を与える重要な理論値となる」
そこで体育教師は、意味深に
「今では遺伝子提供によりこの個体生産最大値は更に跳ね上がっているが、えー、娯楽的性行為はつまり、その、社会資源の喪失であり、そのー、ほどほどにすべきものである。以上だ」
チャイムが鳴ると、体育教師は逃げるように出て行った。
残された生徒たちは何も言わず、誰も立ち上がらない。
今はとにかく、何かやる事が欲しかった。
「今の授業で思い出したのですが、そういえば遺伝子提供がいよいよ始まりますね」
無言の教室に、どこか白々しい
「遺伝子提供の際、連れていく方は決まっておられますか?」
月に1回の遺伝子提供では、身近な女性を補助として連れていくのが社会的な慣例となっている。
高校生の場合は通常、同級生が補助の為に同行する。
「えっと」
いつのまにか、教室中の視線が
そして、全員が聞き耳を立てるような奇妙な静寂。
「これから考えるところだったんだけど……」
遺伝子提供の補助とはつまり、間接的な性行為を指している。
自然と目が泳ぐのがわかった。
健康的な太ももに視線が吸い寄せられる。
それから、知らない間に
「はい。ご指名されれば、どなたでも喜ばれるでしょう」
にこ、と姿勢よく微笑む
美しい所作とは反対に、どこか
周囲の女子たちもどこかアピールするように、足を組み直す。
「……」
ふと、
彼女は顔を真っ赤にして、背を丸くしている。
いつもと変わらない姿が、瑞樹に安心感のようなものを与えた。
「……
「ひゃ、ひゃいっ!」
飛び上がるように返事をする
入学してから出来るだけ万遍なくクラスメイトと話してきた
真面目で純粋らしい彼女には、少なからず好意が芽生えている。信頼できる人だと思った。
「遺伝子提供の時、
「わ、わ、わ、私でいいのなら、も、もちろんっ!」
丸まった背が更に丸くなり、机にめり込みそうになっていく
どこまで小さくなれるのか少し気になる
「じゃあ、土曜のお昼前はどうかな?」
「いきますっ! 大丈夫ですっ!」
「うん。じゃあ
「は、はいっ!」
◇◆◇
「遺伝子提供の時、
「わ、わ、わ、私でいいのなら、も、もちろんっ!」
女同士のカーストなんて何の意味もない。
立ち尽くす
彼女たちはどうせ、選ばれるのは自分達のどちらかだと思っていたのだろう。
あるいは二回目の遺伝子提供で余った方が選ばれて、
ところが全く別の、地方名家ですらない庶民が選ばれた。
(ますます欲しくなってきたな)
社会奉仕スコアの低さが気になっていたが、
女を見る目もある。
この「女を見る目」は
他に娶られた妻たちが見た目しか取り柄がない名家の娘だった場合、そのしわ寄せは
(だが、私でも大丈夫か?)
選ばれた
反対に
(そうなるとセット売りが必要になってくるな)
ちら、と
毎朝、バカみたいに大きい声で挨拶するやつだ。
良くも悪くも田舎出身の人間で、まだ都会に染まってない。
(
よし、と腹を決める。
男が妻を娶る数は、平均して3~5人。
セット売りすれば丁度で、
「……私が用意した子たちに、好みの子がいなかったのかな?」
「それにこの前、私を使った場合は娶って貰う必要があると言ったのが誤解を与えたかもしれないから、ちゃんと説明しよう」
「えっと……」
「遺伝子提供の補助は女の義務であってお手付きではないし、気軽に私を指定してくれても大丈夫だよ」
「ああ、そうだ。背が高い子が好みでいいのかな? 私もそこそこ高いと思うんだけど、望む髪型があったりするなら言って欲しい」
「あの……」
「あるいは、モデルの子とかに声をかけてあげようか? それともバレーが好きとか?」
思ったより脆いな、と
女の理屈。
上流階級の理屈。
十八家の理屈。
そして、それは
「わ、私はもっと役立てるよ? 具体的に要求してくれたら何だって出来る」
「……
そして、
「あまりそんなこと言っちゃだめだよ」