「あまりそんなこと言っちゃだめだよ」
教室が静まり返った。
「
「……」
「普通に仲良くしてくれるともっと嬉しいかなって」
「……」
「多分、こういうのっていきすぎると良くないから」
「……あ、ああ。いや……そうか……気を付けるよ」
恐らく、
教室中が、事態を正しく理解できていないのだろう。
未だ入学四日目。
その
(……)
鈴は素早く
そこにあるのは驚き、動揺、困惑。
そして、熱を含んだ視線だった。
(……なんだ……こいつ?)
遺伝子提供の補助に選ばれたのは庶民の
自ら同行者を尋ねた
にも関らず、
まるで、嬉しい誤算とでも言うように。
(……
始国十八家の中でも特殊な立場にある
秩序の守護者と呼ばれる彼女たち一族は、他の名家から孤立した立場になりがちだった。
そして、この教室でも彼女は一人であり続けている。
加えて何を考えているのかわからない様子が、どこか不気味に見えた。
「お腹減っちゃったね。お昼休みまだかな」
話題を変えるように、
「きょ、今日は学食へ行かれるのですよね?」
「うん。名物のメニューとかあるのかな」
「し、調べてきたんですが、出汁を使った料理がとても美味しいらしいですっ」
「中等部から通っておりますが、どれもお勧めできます」
「初日に行ったのですが、とても綺麗なところでした。
周囲の女子が我先に会話へ飛び込んでいくのを視界の隅で捉えながら、
彼女は未だ、遠くから
◇◆◇
「つまり、人間以外の哺乳類のオスとメスの比率は1:1に近づいていく。これをフィッシャーの法則と呼ぶわけです」
四限目の生物。
眼鏡をかけた女教師が興奮した様子で話し続けている。
「おもしろいでしょう? そして、何故、人間だけが特別なのか? これについては色々な学説があります」
本来、哺乳類としてはありえない欠陥。
逆に男が多い生物もどこかにいるのだろうか、と
「一つ言えることは、人間が持つ極端な男女比が文明を後押ししたということ。安定した繁殖には巨大な群れが必要で、それが他の生物では見られない国家を作り出し、高度な文明を作り出していった。逆に男女比率が同じであれば、動物のように少数の群れで暮らし、このような文明社会は築けなかったでしょう」
そこでチャイムが鳴った。
「では、今日はこれで終わりましょう」
生物教師が出ていくのを見て、背伸びする。
「一緒に学食に行く人いるかな?」
問いかけると、クラス全員が一斉に立ち上がった。
「ぜ、全員?」
「興味がありました」
「一度行ってみたくて」
「中等部の時から常連なので」
「そ、そう」
半数くらいを予想していた
46人が一斉に動く光景は、まるで移動教室のようだった。
「む、無理に合わせなくても大丈夫だよ?」
「行く機会がなかったので丁度良かったのです」
「うんうん。写真見たら美味しそうだったし!」
白雪学園は中高一貫校であり、敷地内には複数の建物が並んでいる。
学食に向かうには、
「こうやって見ると、中学生も結構いるんだね」
途中、ちらほらと中学生らしき生徒とすれ違った。
中等部と高等部はそれぞれ別の校門を使用するため、これまで見かける事は殆どなかった。
「半分がここの中等部出身ですからね。共有の学食や図書館以外では遭遇しませんが」
「そっか。図書館とかも一緒なんだ」
中等部出身の
「初等部もあるんだっけ?」
「そちらは完全に分かれております。まだ幼く分別がついておりませんから」
すれ違う中学生たちの中には、わざわざ立ち止まって視線を向けてくる者までいた。
「ご容赦ください。中等部は女子しかおりませんので、慣れていないのです」
「……大目に見てやってほしい。そういうものなんだ」
どこか意気消沈した様子の
「
「ああ、だから学園内の施設についてはそれなりに詳しいよ」
「そっか。じゃあ何かあったら頼りにさせてもらうね」
「も、もちろんだ」
笑いかけると、それだけで
「じゃあ、
「顔は知っていたが……同じクラスになった事はないね」
「はい。5クラスありましたので」
喋っている間に、学食に辿り着く。
本校舎と違い現代的な見た目をしていて、見た目はレストランのようだった。
「うわあ……思ったより大きいね」
「800席あります。他にカフェテリアも」
中に入ると、想像より遥かに大きい空間が広がっていた。
壁際にはフードコートのようにいくつかのカウンターが並んでいる。
「な、なにがお勧めなんだっけ?」
「そうですねー。とりあえず定食でしょうか」
「白雪はおうどんも有名ですよ!」
「お出汁の効いた丼ものが美味しかったです」
それぞれ違うものを口にするクラスメイトたち。
「か、神成さんはどうする?」
「え、あ、その、私は……日替わり定食にしようかなって」
「じゃあ、ボクもそれにしようかな」
一番手前にあった定食のカウンターに向かい、注文と会計を済ませる。
クラスメイトもぞろぞろと後ろに続いた。
「み、みんなは好きなもの選んだ方が……」
「これがいいです」
「丁度食べたいと思っていました」
「ほ、本当? みんな無理してない?」
受け取り口からすぐに定食のトレイが渡される。どうやら今日は唐揚げ定食のようだった。
「……」
先に座って待っていると、クラスの女子が次々と周辺に集まってくる。
「……」
不思議な事に、誰も座らなかった。
それとなく、全員の視線が
「……」
(明日からはお弁当にしよう)
一つの決意を胸にしながら、食事をはじめる。
その時、ぞろぞろと学食に入ってくる集団が見えた。
「あれ一年じゃねえのか!」
男の声がした。
思わず箸をとめる。
「おい、その赤ネクタイ! やっぱり同じ一年だよなァ!」
女子の集団を引き連れた一人の男が、右手を挙げながら真っすぐに向かってくるところだった。
「会えて嬉しいぜェ!」
金色に染められた短髪に、すらっとした長身が印象的な男だった。そのまま瑞樹たちの隣のテーブルにドカッと腰を下ろす。
そして、人懐っこい笑みを瑞樹に向けた。
「よう! 俺、Cクラスの