「お前、どこのクラスだ?」
Cクラスの
誰も席に座ろうとはしなかった。
「はじめまして。Kクラスの
「へえ、Kクラス……」
値踏みするように、
「俺はツラが良いやつが好きなんだ」
「え?」
「仲良くしようぜェ、ってことだ」
「う、うん」
話しながら、彼の後ろの少女たちを見る。
彼女たちはまだ立ったままだった。
「俺よォ、他にも何人かの男に声かけてみたんだぜェ?」
「悪ィ、適当なの買ってきてくれ」
「はい」
Cクラスの女子が一人、財布を受け取って走っていく。
何か、違和感があった。
「他のクラスの男子はどんな人だったの?」
「Aクラスの奴は付き合いが悪くて、Bクラスの奴は女にしか興味ないみたいでよォ」
それから、と
「Eクラスのやつはずっと寝てたし。まあ、ツレない奴ばっかりだったなァ」
「男友達を作りたい人って少ないのかな?」
「かもな。ところでよォ、来週の社会奉仕決めたか?」
「ううん。家でチェックしたんだけど、まだ良くわからなくて決めてないや」
「なんだァ? 中学でサボってたタイプか?」
「うん。実は殆どやった事がなくて」
途端、
「大丈夫だァ。怖くねえぞ」
「う、うん」
「式典への出席はどうだ? ニコニコして座ってるだけなのにポイントが高い。最初はやっぱりこれだよなァ。軍事パレードへの出席もいいなァ。後は党の立食パーティー。タダ飯だぜェ?」
すらすらと言う
「く、詳しいんだね」
「おう、推進法1条にもこう書いてある。すべての男性は、国家の定める社会奉仕活動に参加する義務を有するってなァ」
その間に、Cクラスの女子が昼食を運んでくる。かつ丼だった。
「お、サンキューな。で、奉仕は人格形成の一環であり、公共秩序の維持に資するものとするって続くわけだ。これは俺らの為でもあるって事だな。党に感謝しなきゃよォ」
かつ丼を掻き込む
もしかしたら男子だけの会話に気を遣わせてしまってるかもしれない、と思った。
「……あの……お昼ご飯、頼まないの?」
「私たちは後から頂きます」
遠慮がちに問いかけるも、Cクラスの女子たちに食べるつもりはないようだった。
「でも、式典やパレードは時期次第だからなァ。まずは短いので慣らした方がいいかもなァ」
「
「俺かァ? 俺は地元の労働クラブと
「へえ、推進法ってそんなに細かく書いてあるんだ」
「そうだぜェ。推進法は俺たちの聖書みたいなもんだ。7条は地元への奉仕を奨励しててよォ、地元民の生活向上に寄与する活動を優先しろってな」
状況を見守っていた周囲の何人かの女子たちが「素晴らしい事です」と相槌を打つ。
「推進法ってみんな暗記してるの?」
「不勉強ながら全文は覚えてないです」
「私も暗記までは。でも男性にとって大事なのはわかります」
「男性だけの義務ですものね」
その時、空気が変わった。
「……わかります、か」
箸を置く音がカチャンと響いた。
「なァ……」
突然、
同時に
「お前らに一体、何が分かるんだよッ!」
突然の叫び声に、学食全体が静まり返った。
Cクラスの女子たちが慌てて彼の袖を引いたが、彼はそれを振り払った。
「お前ら女に、何が分かるって言うんだッ! 俺らの義務が、奉仕が、どれだけ重いかッ!」
突然の豹変に、
彼の目には単なる怒りだけでなく、様々な感情が入り乱れているように見えた。
「……」
学食を静寂が満たし、興奮した
しかし、次の瞬間、
叫び声の余韻が残る中、彼は小さく呟く。
「悪かった……つい、熱くなっちまった」
誰も何も言わなかった。
すぐ耳元で
「ちょっと俺、キレやすくてよォ……」
打って変わり、
学食中の視線が集まっていた。
「わりィな、変な空気にして」
そう言って、トレイを残したまま
とぼとぼと歩く彼の後ろ姿は、どこか小さく見えた。
「……」
「申し訳ありません。先に警告するべきでした」
「これは公にされていない情報ですが、彼は過去に思想最適化を受けています」
「……」
「実母からの性的虐待の影響を除去する為で、今もやや不安定なところがあると」
再生産と呼ばれる考え方がある。
特に貴重な社会資源である男性に対して行われるもので、社会復帰の可能性が皆無とみなされると人格操作の行政措置が入る事になる。
かつて、中学三年生だった
「すまない、判断が遅かった。先にうまく切り上げるべきだったね」
黙ったままの
「……
「……うん」
不登校で社会奉仕にあまり出た事がない自分を、彼は本気で心配してくれていたように見えた。
あの目は嘘ではなかった。
そして、死について考え始めたきっかけが思想最適化だった事をゆっくりと思い出す。
立ち並ぶ二等市民向けのマンション。誰もいない街。暗い車道。
いくつかの光景が、走馬灯のように脳裏に蘇った。
そして死に触れた折に、本来ありえない記憶が混ざった事を。
あれがなければ、
「……」
「
後ろから
「
長らく入院していた影響ですぐに息が上がり、瑞樹は足を止めた後も大きく肩で息をした。
「……なんだよ?」
不機嫌そうな声。
しかし
「これからも仲良くしてほしいんだ」
「……」
「ボク、男の子の友達が全然いなくて」
「……」
「ずっと学校に行ってなかったし、世間知らずなんだけど」
「……」
「その、だから、友達になってほしい」
驚いたような、呆れたような、様々な感情がぐちゃぐちゃに混ざった色が
「お前……変なやつだなァ」
そして、最初に見せた人懐っこい笑みを浮かべた。