カーテンの間から差し込む朝日で、
ごしごしと寝ぼけ眼を擦りながら、周囲を見渡す。
「
薄い笑みを浮かべる
「おはよう、
「……
豊かな
「申し訳ありません。昨夜は女の汚い欲を見せてしまいました。怖くありませんでしたか?」
「ううん。
ふご、と玲から奇妙な声が聞こえた。
「……取り乱しました。そろそろ身支度をいたしましょう」
◇◆◇
全ての男子は、高校一年生から遺伝子提供の義務を負う。
人口生産を出来るだけ計画的に行う為、今では自然妊娠よりも人工授精が主流となっている為である。
遺伝子――つまり、精液である――を採取するには俗に言うオカズが必要であるが、男性向けの成人向け雑誌などは存在しない為、代わりに有り余っている身近な女性が採取の補助を行うのが慣例だった。
「お、お、お、おはようございますっ!」
白雪学園の校門前。
昼前の待ち合わせ場所に、
ゆるめのパーカーに短めのスウェットショートを合わせていて、普段の制服よりも遥かに太ももが見えるファッションからは気合が感じられる。
「朝早くからごめんね」
「いえいえ! め、名誉な事なのでっ!」
セダンの後部座席を開けると、
「は、晴れて良かったね!」
「うん。ご飯ってもう食べた? 終わったら一緒にどうかな?」
「ほ、本当? い、いく!」
喋りながら
大正時代に建てられたネオ・ルネサンス様式の建造物が並ぶ大通りには、既に多くの観光客の姿があった。
土日になると、白雪学園の壮麗な校舎にも見物人がやってくるようだった。
「休日ってこんなに混むんだね」
「その、白雪は庶民からすると、一種の憧れだから……」
「そうなの?」
「色々な恋愛小説のモチーフになってるし、倍率も凄い事になっちゃってて」
「そっか。じゃあ
「わ、私はスポーツ枠だから勉強はあまり……」
車が脇道に入る。
一等市民向けの屋敷が並んでいる区画だった。
「み、
「うん」
「その、私、いっぱい勉強してきたんだ」
ずい、と
「み、
「
運転席から冷たい声が届いた。
「……え?」
「ですから、
呆けた顔の
車内に無言の間が訪れる。
「う、うん。だから、
「そ、そうなんだ」
「……それでも、緊張してると思うから」
そう言って、
「採取前は手を繋ぐと、心が落ち着くんだって」
「……ありがとう。いっぱい調べてきてくれたんだね」
やがて、目的地の遺伝子バンクに辿り着いた。
白い近代的な建物で、外観は小さな病院のようだった。
20席ほどの待合室と受付があるが、職員以外は誰もいなかった。
「
「うん」
受付でIDを照会すると、すぐに個室に案内された。
部屋はちょっとしたビジネスホテルのようになっていて、ベッド、テーブル、モニターがある。
「
手短く説明を終えた看護師と玲が出ていくと、部屋に
「えっと……どうしようか」
テーブルには他に、コンドーム型の採取容器も用意されていた。その他、色々な道具が置いてある。
どうしていいものか、と
空気が重く、緊張が張り詰める。
「
壁際で固まっていた
次の瞬間、ふわりと柔らかいものが
「えっと、始める前にこうやって慣らした方が良いんだって」
遠慮がちに
同時にまるで子供をあやすように、とんとん、と背中が叩かれた。
「大丈夫だよ。怖くないからね」
いつものおどおどした様子とは打って変わって、落ち着きが感じられた。
もしかしたら、そっちの方が本来の気質なのかもしれない。
身長差で、自然と全身を包まれるような形になる。
「しばらくこうしてるね。大丈夫、何もしないから」
「……うん」
身体から力が抜けていく。
思ったより緊張していた事に、今更気づいた。
「
「……ううん。どうして?」
「ちょっと背が高いから。威圧感があるかなって」
平気な振りをしているが、
瑞樹がおずおずと抱きしめ返すと、
「中学の時は怖かったかも……でも、今は大丈夫だから」
「本当? 無理してない?」
「うん。むしろ……
どこか遠慮がちだった
「……そっか」
沈黙。
とんとん、と背中を優しく叩く音だけが響く。
◇◆◇
「はい。これで問題ありません。ご協力ありがとうございました」
採取ケースを受け取った看護師がにこりと笑う。
「来月お越しの場合、またご予約をお願いしますね」
「はい」
遺伝子バンクから出る間も、
固く手を繋ぎ、肩を寄せたまま車に戻る。
「……お疲れさまでした。お食事にされますか?」
「うん」
後部座席で
「すぐ近くに三等市民向けのレストランがあります。そこでよろしいですか?」
「そうだね。
「……うん」
どこか上の空で、
熱に浮かされたように顔が仄かに赤く、額には玉のような汗が滲んでいた。
「大丈夫?」
「……うん」
繋いだ手が、すりすりと動く。
「
「そうかな? 何もつけてないけど」
「うん……そのまま何もつけない方がいいよ」
車がレストランに到着し、
「では参りましょう」
レストラン内へ歩く間も、
ウェイトレスに奥の男性専用の席へ案内されると、そこでようやく手を離した。
「……い、良いお店だね」
僅かに緊張した様子を見せる
確かに、高校生だけではあまり入らない店だった。
「こういう所はボクも普段は入らないよ。あまり家から出なかったしね」
「そ、そうなんだ」
「これはどう? 基本的なコースだから外れはないだろうし、ボクはこれにするけど」
「じゃ、じゃあ私も」
いつもの調子が戻ってきた
「ちょっと落ち着いた?」
「うん……」
昼を過ぎていたせいか、店内は静かだった。
時折、よその席から視線を感じる。
三等市民向けの店であるためか、あまり露骨に見てくる人は少なかった。
「遺伝子提供って毎月あるんだよね」
一度離れてしまった
「私……」
同時に濡れた瞳が、
先ほどまでのおどおどした雰囲気が霧散する。
「来月も選んで貰えるよう、頑張るね」
重なった指が、絡みついた。
一本一本の指が深く食い込む。
「……」
向かいの席では、