月曜日。
朝早くに登校した
窓には落下事故防止の半ロック機構が新たに取り付けられている。
学級会で言われていた簡単な工事、とやらがこれなのだろう。
辺りを見渡すと、コンセントも新しいものに変わっているように見えた。
他にも変更点がありそうだったが、ぱっと見では分からなそうだ、と判断して席に向かう。
それから、スマートホンで
お手付き回数が0回から2回に更新されている。
「へえ……」
性機能に問題があるかもしれない、という最後の懸念もこれで消えた。
それから、お手付き回数の2回について思考を巡らせる。
(補助からお手付きになるのはよく聞く話だが……もう一人は誰だ?)
何人かの候補を思い浮かべる。
その時、
いつもよりどこか明るい表情だった。
「お、おはよう」
「よお」
教室にはまだ数人しかいない。
「うまくやったようだな」
「う、うん。ちゃんと出来たと思う」
話しながら、
コロニー、と呼ばれる考え方がある。
婚姻制度とは別に、一人の男性と性交渉を行ったグループを指す言葉だ。
このコロニーは特に法的な制約をもたないが、一般社会においてしばしば大きな意味を持った。
一度どこかのコロニーに入った者は、他の男性との接触を極力避けなければならない。
これはコロニー同士の男性の奪い合い、あるいは女性の奪い合いといった深刻な拗れを防ぐという意味もあったが、伝染病を別コロニーに持ち込まない、という意味もあった。
コロニーごとの独立性は疫学的にも非常に有効で、有史以前から世界中で見られる一つの暗黙の了解でもある。
寧々が着けている赤い指輪はお手付きを示すもので、どこかのコロニーに属している事を自ら主張するという一種の憧れの装飾品でもあった。
「……
「うん。中学までは苦手だったけど、今は大丈夫なんだって」
「……へえ」
探りを入れながら、妙だな、と思う。
女性恐怖症がそう簡単に治るものとは思えない。
それに、お手付きが1回ではなく2回になっているのが気になった。
――やはり、裏に誰かいるのか?
どこかの名家が裏に隠れているのはありそうだ、と思った時、教室に
「おはよー!」
「よお」
「どうだった!?」
「う、うん。問題なくいけたと思う」
「やったね! おめでとう!」
素直に祝福する
白雪学園では貴重な資質だった。
「お、さっそく指輪つけてるね! 買ったの?」
「日曜に慌てて買ってきちゃった。
「漫画みたいでいいなあ。私もいつか着けてみたいよぉ」
話してる間に、続々と他の女子生徒が登校してくる。
「おはよう、
「えっと、特に問題なかったかな」
次第に、それまで関係性がなかった女子たちも
(まあ、こうなるよな)
他の女子たちも"セット売り"を考えているのだろう。
初めての補助を行った
「おはよう」
振り返ると同時に、
「
社交辞令的に声をかけてくる
いつもの王子様然とした雰囲気がなりを潜め、女の子らしいシルエットに変わっている。
「……あ、ありがとう」
当の
「
「これくらい普通さ」
(私も黒に戻すべきか?)
身長で舐められないように入れた金色のメッシュが気になった。
(まあ、今更か)
表面だけ取り繕っても、どうせボロが出る。
それに、他の女子に埋もれるだけのようにも思えた。
「おはよう」
「おはようございます!」
次々とやってくる女子に紛れ、
女子が一斉に挨拶する中、
「
「おはよう、
隣に
いつも丸まっていた背も、今日はよく伸びていた。
(……思ったより気に入られてるな)
呼び方が変わっている事に、恐らく教室中が気づいているだろう。
それに、
それを見ただけで、間違いなく男女の仲になったのがわかった。
「はい、皆さん着席してください」
担任が入ってくる。
徐々に変わっていく教室の中で、やはり
◇◆◇
「それで、
昼休みの女子トイレ。
Aクラスの学級委員長、
「当時の同級生や担任等に聞き込みを行いました。女性恐怖症という診断に間違いないかと」
それにその、と言いづらそうに口を開く。
「去年、交通事故に遭遇しています。それがその……飛び込んだ可能性が」
「それは確かなの?」
「履歴に残っています」
「治療に当たった病院と、加害者である車の運転手を調べなさい。
くそっ、と
倫理監察局も特にそれらしい証拠には辿り着けていないようだった。
「後は証拠だけなの。偽装診断である事はもう間違いないはずよ。絶対に避けられない遺伝子提供で一気にお手付きが2回になった。あまりに都合が良すぎる」
「でも、リングを補佐官もしていた、と報告が」
「そんなのブラフでしょう。なんで今更補佐官に手を出すのよ。別人に申請を出させる手口は過去にもあった」
いい? と
「
「でも、
外で見張りをさせているクラスメイトに異常がない事を確認する。
「……私はね、
「京都ですか?」
「調べたら全員が小学6年生の時に東京へ引っ越してきているようだった。
「……」
その意味を理解したAクラスの少女たちが黙り込む。
「
公家の名前が出た瞬間、何人かの女子が怯えた顔を見せた。
実権を失った旧勢力とはいえ、京都には未だに50家以上の
「……
始国十八家として司るのは警察権。
四女とはいえ、
「私の目が届く範囲で、時代の遺物どもに好き勝手なんてさせないわ」
女子トイレでの情報交換が終わり、クラスに戻るとAクラスの男子である
「
「模擬試験ですか?」
「遺伝子提供の補助には、これから毎月実施する模擬試験の成績最優秀者を連れていく」
まわりで聞いていた女子たちが黄色い声をあげる。
光はどこか冷めた目でそれを見ていた。
「……よろしいのですか?」
「体育祭も同様に、成績優秀者に夏休み中の遺伝子提供の補助に同行する許可を与える」
「承知いたしました。周知します」
最後まで、
その鋭い眼光はずっと、ノートパソコンの画面に向けられている。
彼は暇さえあれば何かの作業をしていた。
どこまでも秩序合理性を追求するその姿に、