「では緊急の学級会を始めます」
火曜日の早朝。
本来の登校時間より早く集められた女子生徒たちは困惑した顔を
「通達します。これより先、
(発作でも起こしたか? 半年前に自殺未遂を起こした彼が、他人の死を冷静に見送れるわけもないか)
社会奉仕先が安楽死施設であることは
困惑した教室の空気にも
「葬式、法事、病院等、なんらかの用事がある場合でも、ご本人の前では別の用事に言い換えてください」
「……何があった?」
廊下側から、
しかし、
「あなたが知る必要はありません」
それにしても、
社会奉仕からまだ半日。
即座に学級会を招集した事を考えると、情報の確度も高い。
「また、
なるほど、と
これだけで、この情報源が補佐官の
(へえ……
補佐官である
しかし、どうやら
間違いなく補佐官の立場を危うくする行為。だからこそ、この通達にはそれ相応の理由があるのだろう、と推察できた。
「加えて、
底冷えするような声だった。
「もしも今後、
金品の取引の禁止。この通達はどうにもしっくり来なかった。
その意図を考えている間に、
「私からは以上です。他に何かお話ししたい事がある方はいますか?」
無言。
誰も手を挙げる様子がないのを見て、このまま終わりかと思った時、低い声が響いた。
「ちょっといいかな」
声の主を見て、
代々剣道の道場を継いでいる武家出身の家系で、その黒髪は動きやすいようにポニーテールでまとめられている。
「
「
教室中の視線が、窓際の
「……何も言わないなら、申し開きはないと受け取るが?」
「ビビっちまってるだけじゃねえの」
教室前方から嘲笑うように言うのは
脱色した髪と着崩した制服が目立ち、
「ま、Kクラスの原住民にいちいち言っても仕方ないっしょ」
今度はクスクスと廊下側の前方からバカにするような声が届く。
「あ? それ、あたしらもバカにしてんのか?」
状況を注視しながら
「時間がないのでそこまでです。
教壇から
「本日、早朝から学級会を開いた事は秘匿とします。それぞれ一度家や駅まで戻り、それからいつものように登校してください」
ぞろぞろと女子生徒が立ち上がる。
前方から
◇◆◇
「
「そう? どこが?」
寮の洗面所。
「
「一体何を。女は男に媚びるものだよ」
やれやれ、といった態度を隠す事もなく、
「彼の好みがまだ分からないからね。今は色々試して反応を見るべき時期だ」
「の、
「そう? 我ながらこういうのも似合っていると思うけど」
後は方向性さえ調整すれば
「さあ、行くよ」
不満そうな
通学路には駅から歩いてくる生徒の姿が多くあった。
「
「……私は、
「相変わらず嬉しい事を言ってくれるね」
頬に軽くキスをする。
「そういえば、
「……あの堅物は、剣の道にしか興味がないと思っていましたが」
「そういうものだよ。歴史上の偉人さえも、男に狂った者は多い。富や権力では手に入らないものの最たる例だ」
今日も路肩に倫理観察局の車が何台か停まっていた。
「の、
「いいかい。権力者が最後に求めるものは、男と決まっている。今は興味がなくとも、君もそのうち興味を抱くだろう」
「……っ」
「君の相手はするし、
「は、はい」
手勢のうちで最も不安定な要素を持っている
教室に着くと、早朝の学級会などなかったようにそれぞれが普段通りに過ごしていた。
入学から一週間。Kクラスではゆるやかなグループらしきものが形成され始めている。
教室の中央には、
後方には地味そうな女子のグループ。
それから、教室前方の
(あんな奴らでも白雪に入れるとはね)
意外とお勉強は出来るのかもしれないな、と思いながら
「
「ん。どうしたんだい」
声をかけてきたのは、
生真面目な顔をした
「なにか方針は?」
「ないよ。自由にしてて良い」
あっけらかんと言うと、
補足するように言葉を繋げる。
「ああ、私に遠慮しなくていいよ。篭絡できるなら勝手にやってもいいし。私はじっくり攻める事にした」
「……了解した」
その時、
「おはよう」
「おはようございます!」
女子たちが一斉に挨拶する見慣れた光景。
「やあ、おはよう。趣向を変えてみたんだけど、どうかな?」
「
「そう? じゃあ明日からもこれにしようかな」
にこにこと笑いかけ、
ふわりと石鹸の良い香りがした。
「ところで、今日はグラウンドの予約が取れたんだ。
「体育祭の練習だよね? うん、ボクも参加する」
「それは良かった。皆の励みにもなるだろう」
ニコニコと笑いながら、探るように話を進める。
「そういえば、二人三脚の相手は決まったかな? 良ければ私を選んでくれると嬉しいんだけど」
「うーん……まだ……決めてないんだけど」
「力を尽くすと誓うよ」
じりじりと加減を見ながら押すも、
「正直に言うとね……今のボクはまともに走れないんだ」
「……そんなこと気にしなくていい。私ならいくらでも合わせられる」
「ううん。そうじゃなくて、全員何かしらの競技に出ないといけないから、出来るだけ運動が苦手な人がボクと組んだ方が良いと思って」
おや、と
「悪い言い方をするとボクと一緒に捨て石になって貰う事になるんだけど、多分、それが一番効率が良いから」
「なるほど。じゃあ今日の練習の結果を見て、相手を決める感じかな?」
「うん、そうなると思う」
「……合理的な選び方だ。私が選ばれそうにないのは残念だけど」
そう言って、
(まあ、悪い話ではないか)
少なくとも、
そう楽観的に考える事にした。