練習後の廊下に、三人の少女の影があった。
いずれも
「……やはり、我慢ならないな」
「なにが?」
「わかるけど、落ち着きなよ」
隣を歩く
「
「ああ、あれね」
「殿方にあのような……あまりにも不埒だ」
ひよりが酷薄な笑みを浮かべる。
「やっぱり、Kクラスの原住民は追い出すべきでしょ」
「ああ。あのような者を許せば、いずれは毒となるだろう」
「まあ、
「……どうかな」
左右の見通しがいい場所で足を止め、声を潜める。
「
「……最近、
「
そうだな、と
「
「……それで?」
「必要があれば、私たちで指導する」
「……指導ねえ」
「将来、
窓の外は、夕日で赤く染まっている。
◇◆◇
太陽が傾き、白雪学園の煉瓦造りの正門が巨大な影を作り出している。
体育祭の練習を終えて制服に着替えたKクラスの女子たちが
「
通り過ぎていく女子の中から、
「ちょっと用事が残ってて」
「だ、大丈夫? もう暗くなるよ? 一緒に残ろうか?」
心配そうな顔で
「ありがとう。でも、
「で、でも……危ないよぉ」
おろおろとした様子で、
校内に人影は殆どない。
「……わ、私も残っていい?」
「えっと、ごめんね……ちょっと二人だけでお話ししたい人がいて」
「ふ、二人きりっ!? だ、誰と?」
「あの、そういう意味じゃなくて……あ、来た」
昇降口から歩いてくる
「
「あ……うん」
事情を察したように
「
「……はい」
掠れるような声で言う
「誰もいないところの方が良いよね。車の中とかどうかな?」
「……はい」
「うん。じゃあついてきて」
正門から駐車場に向かう。
男子生徒用の駐車場にはもう、
「ごめん、
「はい」
おずおずと後部座席に入る
「いきなりで驚かせたかな。ちょっと話をしてみたくて」
「……いえ」
受け答えする
「やっぱり、周りに人がいないと平気なんだね」
「……どうして、わかったんですか?」
「ボクも同じだったから」
「え?」
「中学の時、女の子の視線が怖くて。身体が動かなくて。それでずっと学校に行けなかったんだ」
「……」
「大勢の視線が怖いのかな?」
「……たくさんの目に注目されると…動けなくて」
「そっか。同じだね」
「……どうやって」
「うん?」
「どうやって、治ったんですか?」
離れたところから、
「ボクの場合は……偶然かな。何となく、急に価値観が変わったというか」
「……」
「ごめんね、参考にならなくて」
「……いえ」
自信がなさそうに伸ばされた前髪と、隠れてしまった片目。
その姿がいつかの自分に重なり、
「さっきも言ったけど、ボクはまともに走れない状態なんだ。だから、うまく動けなくても気にしなくて良いからね。最悪、棄権でもいいし」
「……はい」
今にも消え入りそうな声だった。
何となく、それが本意ではない事がわかった。
「……でも、最初から諦めるのも良くないかなとも思って。だから、空いてる時に練習してみない?」
「え?」
俯いていた
「クラスの全体練習だと緊張しちゃうだろうから、まずは二人だけで何回かやってみて、慣らしたらどうかなって」
「……いいんですか?」
「うん。一緒に頑張ろうね」
「はい」
それまでと違って、力の入った返事だった。
それを見て、
「丁度、いまの時間だと人がいないみたい。ちょっと試してみる?」
「……
車から降りて、念のために持っていた二人三脚用のバンドを取り出す。
「ちょっとごめんね」
一瞬躊躇した後、出来るだけ見ないように視線を逸らしながら彼女と足を結ぶ。
「じゃあ動いてみようか」
肩を抱くように引き寄せると、
「結んだ方の足から行こう」
「はい」
ゆっくりと足を踏み出す。
しかしすぐにバランスを崩し、近くで見守っていた
「
「……嫌じゃないですか?」
「うん、大丈夫だから」
遠慮がちに回されていた凪の腕に、ぎゅっと力が入る。
「じゃ、もう一回やるよ」
「はい」
次の第一歩はうまくいった。
ゆっくりではあるものの、転ぶ事なく進んでいく。
「いっち、に、いっち、に」
急がなければ、進む事に問題はなさそうだった。
適当なところで足を止め、すぐ近くの
「練習すれば何とかなりそうだね!」
「……うん」
「よし、もう一回やってみよう」
そのまま駐車場を一周するように、ゆっくりと走る。
緊張のせいか、
無事に一周終わったところで、身体を離す。
「……ごめんなさい。汗かいちゃって」
「普通に走るより疲れちゃうよね」
既に辺りは暗くなっている。
「全体練習後だし、今日はこれくらいにしようか」
「……はい」
「
遠くからサイレンが聞こえた。
正門を巡回している警備員が、瑞樹たちの様子をうかがっていた。
徐々に深まる闇の中、
「……ありがとうございます」
彼女はしばらく、そのまま頭をあげなかった。