白雪学園の中庭は広い。
点在するようにいくつかベンチが並び、多くの生徒が休憩できるようになっている。
しかし放課後の今、ベンチに座っている人影は一つしかなかった。
「
ベンチに座っていた
弱々しい笑みだった。
「やあ。どうしたんだい」
「いつもの元気がなさそうだったから」
すぐに足元に視線を落とす。
「
「……まあ……そうだね」
「暴力を振るってたから怒ったけど、
「……ああ。それも分かってるつもりだ」
沈黙が落ちた。
手持ち無沙汰で、何となく木陰から降り注ぐ陽光を見上げる。
木漏れ日の隙間から、突き抜けるような青空が覗いていた。
「
「……そうかもしれないね」
「もっと早く、話していればもうちょっと上手くやれたかもって後悔してる」
「……君のせいじゃない」
「……ボクね、学校に行きたかったんだ」
「ずっと病院にいて。動けなくて。チューブが刺さってて。中学に進めるかも分からなくて」
虫食いだらけの記憶。
病室の窓から見ていただけだった晴天。
それが今、頭上に広がっている。
「……君が入院していたのは……中学三年生の時だけだろう?」
「……うん。そっちの時は、学校に行きたくないとずっと思ってて。うまくいかないね」
弱っている
「何が言いたいかって言うと、同世代にあまり慣れてなくて。
真意を探るように、じっと
「そういえば
「……ああ。言ってはいけない事を言ってしまった」
「仲直りできそう?」
「どうだろうね。修復不可能かもしれない」
「……そっか」
先に
少し考えてから、踏み込む事にする。
「答えたくなかったら無視して欲しいんだけど……」
前置きをして、
いつか、聞いておかなければいけない事だった。
「
「最初は、好奇心だった。
「うん」
対して、
「調べてみると、交通事故の履歴があった。中学三年生の冬。見通しの良い深夜の道路。事情は何となくわかった」
「……」
「自動回送中の市民バスだったらしいね。静音性もないし、確信するには十分だった」
そして、ぽつりと言った。
「それを知って、似てると思ったんだ」
ただ静かに続きを待った。
「なぜ私が女子に人気があるか、わかるかい?」
「……」
「雰囲気を美形の男性に似せているからだよ。そして十八家の次期当主だからだ」
「……」
「それだけだ。それだけなんだよ。それ以外は何もない。空っぽだ」
そう言って、
「……それが、
「馬鹿馬鹿しいだろう? どうせ、いつか破綻していた」
諦めたような声だった。
「そこそこ上手くやれているつもりではあるんだけどね。でも、こんな事を続けてどうする、と考える冷静な自分が常にいる」
「……」
「君もそうなんじゃないか? なんだか急に馬鹿らしくなったんだろう?」
じっと続きを待つ。
「周囲にどれだけ人が集まっても、空っぽなんだろう。彼女たちは、男なら誰でも良いんだ」
でも、と
「私は違う」
濡れた瞳が、
風で木々がざわめく。
「私はそもそも、男である事にそれほど拘ってない。実際、
今にも叫びだしそうな、心からの悲鳴。
「私だけだ。私だけが、
「なあ、わかってくれよぉ……」
縋りつくように倒れる
子供のような姿で泣きじゃくる
十八家の長女としての重責は、
降り注ぐ木漏れ日は柔らかく、暖かった。
春らしい気候に身を任せるように目を瞑る。
「
労わるように
そして、自分に出来る事と、出来ない事を仕分けしながら考える。
「
一瞬の迷い。
ここから先は、気軽に言うべきではなかった。
ただ、以前から選択肢の一つとして考えている事だった。
「だったら、
「ずっと一人で上に立つのってしんどいと思うから。ボクも一緒に立つよ」
「そ、それは……」
泣きじゃくっていた
「多分、
「
「それは……クラスだけじゃなく、うちの上に立ってくれるという意味で良いのかな?」
「うん……えっと、もちろん、
「つまりそれは……将来的に私と……」
「ボクなんかの為に既にクラス選択権使っちゃってるから放置するつもりはなかったんだけど、その、どうしていいか分からなくて。それにまだ互いの事も知らなかったし」
「……そうか」
ぽふ、と
「
「……ああ。私の宿題だ」
「
「……うん。私から何か言うより、きっと喜ぶよ」
「
「……そうだね」
もう大丈夫そうだった。
「そろそろ皆が心配してるかも。先に戻ってるね」
「み、
立ち上がろうとした時、
「……も、もう少しこうさせてくれないか」
「うん、じゃあもう少しだけ」
胸元に顔を埋めたまま、
「もう五月だ」
「うん」
それから、少しの間があった。
「次の遺伝子提供、私を選んでくれないか」
表情はわからない。
しかし、声が震えていた。
「うん。まだ確約はできないけど」
「ほ、本当か?」
「体育祭が終わって、互いをもうちょっと知ってからね」
「ま、前にも言ったが、十八家の私を使ってしまうと、その、娶ってもらう必要がある面倒な女でもあるのだが」
「うん、大丈夫。覚えてるよ」
「……そうか」
もう一度、小さくすすり泣く声が聞こえた。
「……頭も撫でてくれ」
子供が甘えるような声だった。
まだ太陽は高く、春の日差しが気持ちいい。
抜けるような晴天の下、