男性が生涯で妻を迎える数は、大体三人から五人が一般的と言われている。
1:200の男女比から考えれば、男性と結ばれる女性はどれだけ多く見積もっても3%もない。
1:30の白雪学園すら結ばれるのは一割から二割のみ。
だからこそ、女子たちは派閥を形成する。名家同士でグループを組み、男子を囲い込もうとする。
知り合った男性に派閥の女性を紹介しあい、それ以外の女性は排斥する。
それが白雪学園における、一般的な友達付き合いだった。
新しくやってきた三人の女子生徒が一つの派閥であることは明らかで、彼女たちは既存のクラスメイトにとって明確な敵だった。
「では、まずは学級委員長を決めましょう。立候補する人はいますか?」
担任の言葉に、四人の手がすっと挙がった。
一人は
それから今日来たばかりの三人。
「他は?」
担任の視線が教室をぐるりと一周する。誰も手を挙げる気配はない。Kクラスの女子たちは、ただ静かに様子を窺っているだけだ。
立候補した四人は、それぞれに自信たっぷりな表情を浮かべていた。
「では、この四人で多数決を採ります。投票は匿名で、各自が用紙に名前を書いてください」
担任が投票用紙を配り始める。
(三人の派閥が影響力を強めれば、空き枠がなくなる)
始国十八家の一つ、
投票はすぐに終わり、担任が集計を始める。
クラス内の女子たちは息を潜め、互いの顔をうかがいあった。
「結果を発表します。
教室に安堵の雰囲気が広がっていく。
「ありがとうございます。皆さんの期待に応えられるよう、精一杯務めさせていただきます。何かお困りごとがあれば、いつでもおっしゃってくださいね」
新参の三人組は、票が殆ど入らなかった事を大して気にしてもしていないようだった。織り込み済みだったのだろう。
学級委員長の決定後、担任は他の委員会――副委員長、美化委員、体育委員など――の選出に移った。ここでも立候補が相次ぎ、結局、副委員長に
一限目が終わると、短い休み時間になった。
そこに
「
「確かにあった方が便利かも。任せてもいいかな?」
「はい、もちろんです。今日中に皆さんにも声をかけて参加して頂きますね」
その時、
「委員長を
「中学でも積極的に男性を相手にされていたのかしら。頼もしいです」
「
表面上は褒めているようで、どこか含みのある言い方。
なるほど、そういう攻撃の方法もあるのかと
「私、中等部からのエスカレーター組です。
おどけるように言って、にこやかに流す
嫌味を言った
(私みたいなのが立候補してたら、すぐに潰されちゃうんだろうな)
この学園の在り方が徐々にわかってきた。
家格の低い者が下手に動ける状況ではない。慎重に時勢を見極める必要があった。
あるいは、仲間を増やす必要がある。
(
仮面のように微笑を浮かべる
ハーフアップの黒髪はよく手入れされていて、化粧も学生として最低限のものでありながら、しっかりと流行を取り入れている。
同性から見てもはっとするような美しさでありながら、たった一人で他の女子とやりあう度胸もある。
Aクラスから一人でやってきた
(こういう凄い子だけが、男子と結ばれるんだろうな)
もしも
(私は多分……窓際で怯えている事しかできない)
きっと、大多数の女子も
誰も口出しできず、教室は静まり返っている。
そして、その沈黙を破ったのは予想外の人物だった。
「次の授業、いきなり数学らしいね。高校の授業ってやっぱり難しいのかな?」
「みんなは数学得意? ボクはちょっと不安なんだけど」
張りつめていた空気が、一瞬にして溶けていく。
彼の隣に座っていた
「わ、私も苦手で!」
「授業速度が心配です」
「す、数学なら少しでしたら教えられるかもしれません」
「数学だけは得意です! 何かあったら聞いてください!」
それを皮切りに、黙り込んでいた少女たちが一斉に話に入ってくる。
「そっか、得意な人もいるんだ。じゃあグループが出来たらそこで得意な人に授業の相談でもしようかな」
息苦しさすら感じる教室の中で、ただ一点、彼のいる場所だけが空気が違っている。
「
「は、はい! 学級委員長として出来る事があれば!」
「うん。本当に助かるよ。やっぱり、外から文句言うのって誰でもできるけど、自分からやるのって一番難しいと思うから」
出る杭が打たれることを許さないように、これからの事まで牽制するような事まで告げて。
彼の傍に立ったままの
(……)
先ほどまで凄いと思っていた少女に対し、別の感情が急速に膨らんでいく。
始国十八家の家名に恥じない、尊敬すべき少女だ。
にも関わらず――
――妬ましい、と思ってしまったのだ。