体育祭当日。
「めちゃくちゃ良い展開っすね」
隣では、
遥の言う通り、Kクラスは最下位クラスとは思えないほど善戦していた。
全11クラスある一年生で、4位という好スタートを切っている。
「良いわけねえだろ、バカ」
「い、痛いっす!」
「くそ……」
現状、活躍しているのは上位クラスから移動してきた
それと
運動神経に自信があった
「完全に崩壊したと思ったんだけどな……」
更衣室で行われていた
事実、四月末の時点で
後は
それが今は、急速に立て直した
「……最近の
そして、
「どうしてだ……」
知らない間にお手付きがあったわけでもないし、五月の遺伝子提供もまだのようだった。
「どうして、
更衣室での
それが今は、
しばらく遠ざけられていた
「
不意に名前を呼ばれ、振り返る。
ジャージ姿の
「体育祭が終わったら、二階の資材室にきてください。後片づけで手伝って欲しい事があります」
「……ああ、わかった」
「忘れないようにお願いしますね」
それだけ言って立ち去る
これもまた、
「……あいつも何で普段通りなんだ」
最初にクラス選択権を使ったのは
なのに、
「うーん、十八家特有の余裕ってやつじゃない? あたしら庶民とは違うんだよ」
蓮はじろりと
「んなわけねえだろ。同じ十八家の
「んー、確かにそうかも」
「くそ。もっと真面目に考えろよ」
「えー、だって十八家なんて最初から敵わないし」
目玉競技の一つ、射撃が始まるところだった。
「あいつも何なんだ……」
使用しているのは赤外線を発射する競技用のビームライフルだが、実銃の取り扱い経験を匂わせていた。
「
「……ああ」
「……じゃあ、どういう事?」
「ワケアリって事じゃねえの」
例えば、と
「生産性スコアや社会信用スコアが著しく低い、とか」
「……探ってみようか」
「ああ。あいつは放置しとくとヤバそうだからな」
トラックの特設会場では、
Kクラスから歓声が上がる。
「……くそが」
◇◆◇
「一体どういう事ですか!」
Aクラスの指揮をとっている
序盤の低ポイントの競技で大きくリードしたものの、後半の高ポイントの競技で次々と敗北し、徐々に点差が縮み始めていた。
「高ポイントの競技には、
「周りはそうは思わないでしょう! このままでは、首席クラスが最下位クラスに負けたという汚名を背負う事に……」
入学初日から、全てがうまくいかなかった。
始国十八家で、自分だけが取り残されるという屈辱。
密告した倫理監察局も、偽装診断の証拠を掴めずに撤収を始めている。
「なぜ、こんな事に……」
Kクラスが集まる観覧席を見やる。
周囲の女子たちと仲睦まじい様子を見せており、
『つづいて、二人三脚です。競技に出る方は準備に入ってください』
会場にアナウンスが響く。
Aクラスの最前列から、
いつもと変わらない堂々とした姿で、
――この人は本質的にAクラスなど、どうでも良いのでしょうね。
大柄な背中を見送りながら、思う。
クラス運営について指示は出すが、その結果についてはあまり頓着していないようで、他人とどこか線を引いているように見える。
「
「……もうここまで来たら、予定通りにこなすしかないでしょう」
諦めた様子で、トラックを眺める。
二人三脚は伝統的に男子と女子で行う事になっていて、体育祭の花形でもある。
各クラスの男子が一斉にトラックに集まるため、大半の女子が立ち上がって黄色い声援を送っていた。
「……随分と目立ちますね」
一年生の中で最も大柄な
それから、Kクラスの
「あれは……?」
Kクラスからは、知らない女子が出ていた。
大人しそうな外見をしていて、とても運動神経が良さそうには見えない。
『位置について、よーい』
号砲が鳴った。
1年生の各クラスが一斉に駆け出す。
「……やはり体格差がありすぎるわね」
Aクラスの
自然とぎこちない動きになり、スタートから出遅れている。
それともう一つ、Kクラスもスタートで固まっていた。
「トラブルかしら」
後半の競技の中で、二人三脚は最もポイントが低い。クラスの勝敗の責任が男子に向かわないように調整されている。
周囲が黄色い声援を送る中、光はどうでも良さそうにトラックを眺めた。
「あ、動き出しましたよ」
ようやくKクラスもスタートする。
女子と
「……」
次々と先頭集団がゴールに入っていく。
Aクラスは丁度真ん中だった。
最後にKクラスが遅れてゴールする。
「……」
ビリにも関らず、Kクラスの二人は最後まで仲が良さそうな雰囲気だった。
他のクラスが次々とゴムバンドを外して立ち去っていく中、ゴール付近で雑談を続けている。
「
「……なに?」
「次、障害物リレーですよ」
「……ええ、わかってる」
ゆっくりと立ち上がる。
リードしているものの、点差によっては二位転落もありうる大事な局面だった。
「
「……少し緊張しているだけ」
汗を拭う。
体育祭日和のよく晴れた天気で、太陽が眩しかった。
◇◆◇
体育祭は11クラス中2位で終わった。
一年生が打ち立てた最下位クラスの記録としては、歴代最高という。
しかし、
校庭で盛り上がるクラスメイトたちを残し、
校舎内は普段と違って人影がなく、どこか薄暗い。
「よお、待たせたな。で、何をやればいい?」
資材室の扉を開けると、
「まずは扉を閉めて頂けますか?」
「……」
言われた通り、後ろ手で扉を閉める。
「……片づけっていうのは嘘か?」
「ええ、お話があります。身に覚えがありませんか?」
「身に覚え、ねえ……」
どれの事を言っているのか分からず、
少なくとも、
「
「……」
一体情報がどこから漏れたのか、頭を働かせる。
最初に浮かんだのは、普段から行動している三人の顔だった。
いずれかが
あるいは、売られたか。
「覚えてないな。何の事だ?」
「貴女が
しらを切るのは難しそうだった。
適当にカマをかけられているわけではない、と理解する。
「ああ、あれね。お金に困ってると思ったんだ。困窮している男を救うのは女の務めだろう?」
後ろめたい事は何もしていない。
過度に
「なるほど」
資材室の隅から、
「つまり、お金を渡したんですね?」
「……」
ゆらりと近づいてくる
暴力の匂いがした。
「破れば
「ッ!」
喉を潰され、ひゅー、と奇妙な音が漏れた。
「なにか、申し開きはありますか?」
唐突に、身体が浮いた。
次の瞬間、床に叩きつけられる。
何が起きたのか、
そこでようやく、首を絞める力が緩んだ。
「申し開きがあれば聞きましょう」
「ぐっ! ごほっ! わ、渡してねえ!」
咳き込むように息を繰り返しながら、
「突っ返されたんだ! 本当だ!
「お金を渡してどうするつもりだったんですか?」
「め、飯に誘うつもりだったんだ。きっかけになれば良いって思った。本当に何もしてねえ!」
「
「やってない! 指一つ触ってもない! マジだ! 他にもいたんだ! 証人がいる!」
「な、なんなんだよ、お前。
「親しいですよ」
「私が、世界で一番、彼を知っています」
腹部に衝撃が走った。
呻き声をあげる
「
一言喋るごとに、右手が振り下ろされる。
不意に、
「体育祭も終わりましたし、折ってもいいんですよ」
静かな声だった。
だからこそ、本気だとわかった。
「折り方は知っています。自分でも試しましたから」
「や、やめ……」
いつもの仮面のような笑顔ではなく、表情がなかった。
「今後二度と、
「ち、誓う! もうやらねえ!」
叫ぶと、拘束が解けた。
「お前……
小さな間があった。
「互いに将来を約束した仲です」
薄暗い倉庫の中、彼女が持つ黄金の双眸だけが輝きを放っていた。
ここまでが1章で一区切りとなります。
お付き合い頂きありがとうございました。
少し休みます。