「あ、あの! 私たち買い出しに行ってきます!」
放課後になると、一人の女子が真っ先に立ち上がった。
教室の後方で固まってる地味なグループの一人だった。
「体育祭の打ち上げだし、体育委員の
「ええ、私がやります」
「ああ、それと荷物持ちが必要だよね。
「はい」
いずれも
「で、でしたら私たちも荷物持ちを」
体育祭で大した活躍が出来ず、今後の試験でも結果を残せる目途がないのだろう。
クラスに貢献する事が難しい彼女たちは、雑用係でも良いから仕事を作ろうとしている。
彼女たちには何の役割も与えず、このまま教室の背景として埋もれてもらう事にする。
「ありがとう。気を遣ってくれてるんだよね。でも役員の仕事だし、ゆっくりしてていいよ」
「……ッ」
建前を使い分けるのは得意だった。
副委員長、体育委員。文化委員。
こうした時の為に、主要な役員は
「
「
相変わらず、何を考えているのか読めない。
「三人で大丈夫?」
不意に、
「ボクも行っていいかな?」
「ああ、そうだね。君が選んだものなら、皆も喜ぶだろう」
こういう時の為に、
「では、出来るだけすぐ戻ります」
「ゆっくりでいいよ」
それを見送ってから、
体育祭の直前まで増長していた
廊下側の席では、
現状は、十分にコントロール出来ているといっていい。
五月の遺伝子提供の補助も、
後は出来るだけ
唯一の不安材料は、
(さて、彼女はどうしようか)
一族の殆どが党員の為、思想純度を高く保つ教育を受けており、普段から選民的なところがある。つまり、市民階級や社会スコアを重視しない
(クラス選択権はもう使わせてしまったしね)
問題を起こす前に出来るだけ
(最悪、よその学校に飛ばそうかな)
しかし、こうした強い手段を
結局、答えは出なかった。
◇◆◇
「買い出しってどこに行くの?」
「歩いて五分ほどにスーパーがあるので、そちらの方へ」
話しながら、正門を出る。
白雪学園の周囲は、明治から大正に造られた煉瓦造りの建物が並んでいる。
いつもの見慣れた通りを渡り、普段行く事のない住宅街に入っていく。
「ちょっと脇に入ると普通の住宅街なんだね」
「はい。大通りは観光客向けですが、奥に入ると学生向けの安い食堂もあります」
「と言っても、殿方に向かない小さなお店ばかりですが……」
「皆はよく来るの?」
「寮の者はよく利用しています」
「そっか、
「……覚えていてくださったのですか」
「うん。
「ええ、合っています。千葉の実家が道場を営んでおりまして」
不意に、前を歩いている
「あの、少しお話してもよろしいでしょうか?」
「うん。何かな」
「……
「その……信じて頂けないかもしれませんが、乱暴を働く意図は本当になかったのです」
「それに、
「最初に提案したのは私です。ただ私は……道場で門下生を指導するように喝を入れてから二人三脚の練習をしようと……しかし、無視された事にひよりが激昂してしまい……」
「うん、事情は何となく分かってるよ。ただ少し……
彼女の行動からは、無抵抗の相手を明確に痛めつけようという意思を感じる。
「ひよりに関しては既に
元来、生真面目な性格をしているのだろう。腰を折り曲げたまま、ぴたりと動かない。
「もうしないなら大丈夫。ほら、行こう」
萎縮してしまっている
横で見ていた
「
そう言って、顔を赤くしている
「このように勘違いされてしまいますから。特に
「か、勘違いなどするものか!
抗議するように
彼女たちのやり取りからは、仲の良さがうかがえた。
「皆は中等部から一緒なの?」
「ええ。寮も同じでした。特にこちらの
「物心ついた時からです。
そして真剣な目を瑞樹に向けた。
「
「うん……」
普段の姿はただ演じているだけのものだということも知っている。
そして、始国十八家という立場でありながら、既に
「……」
目の前の少女たちも同様だった。
だからといって、全員の責任を取る事は現実的ではないだろう、という事も分かっていた。
彼女たちがそれを望んでいるかも分からない。
「あ、ここかな」
「はい。大体何でも揃っているかと」
目的のスーパーに辿り着き、中に入る。
「皆は普段、自炊とかしてるの?」
「……恥ずかしながら全く」
「キッチンが小さいので、寮生は意外と外で食べてくる子が多いんです」
ただ、歩み寄って知る努力はしようと思っていた。