放課後の教室は、いつもより賑やかだった。
中央に寄せ集められた机には、
全員が紙コップを手に持つと、
「では
「えっと、まずはお疲れ様でした。Kクラス、二位おめでとう!」
それから、ソフトドリンクの入った紙コップを飲み干した。
「用がある人は途中で抜けて大丈夫だからね」
全体に告げてから、一人一人に声をかけていく事にする。
最初に声をかけたのは、すぐ近くに立っていた
「
「
「それに少々、鍛えてもいますので。今後もご用命があれば、遠慮なく申してください」
「学級委員長の仕事もたくさんしてるし、これ以上は頼めないよ」
苦笑すると、黄金の瞳がじっと
「
「お注ぎいたしますね」
「あ、ごめんね」
とくとく、とソフトドリンクが注がれる中、
「
「……えっと?」
「
ペットボトルを机に戻し、
「ですが、たまには原初に立ち返り、私のお相手もして下さると嬉しいです」
「ご、ごめん。ほ、放置してるつもりはないんだけど」
「いえ、我儘を申しました。待つのも女の務めと心得ております。どうかお気になさらないよう」
最後に微笑んで、
後に残された
丁度こちらを見ている
「それ美味しそうだね」
「うん、クリームチーズ乗せると美味しいよ!」
声をかけると、
隣では
「二人とも、大活躍だったね」
「えへへ」
「ま、まあね」
塩気がチーズとよく合っていた。
「ん、美味しいね」
「でしょ!」
「
「
「んー、ギリギリで抜かされちゃった」
それから、黙々とソフトドリンクを飲んでいる
「……スタートの時、ごめんなさい」
「ううん。大丈夫だよ。ボクも体育祭までに体力、全然戻らなかったし」
一緒に出た二人三脚は結局、最下位だった。
それでも、完走は出来た。
「でも一回も転ばなかったし、練習した甲斐はあったかなって」
「……はい」
「来年もまた二人でやろうね」
「……来年も……ですか?」
「うん」
「……」
「あ、えっと、嫌だったらもちろん……」
「お願いします」
ぺこ、と
途端、
「そろそろ私の相手をしてくれるんだろうね?」
「
「咄嗟の言い訳としては中々だね」
「暫定二位を取れたのは殆ど
「出来れば、ここで一位を取れれば後が楽だったんだけどね」
「ううん、十分に凄いよ」
「この先が大変なんだ。学期末試験は体育祭みたいにエースが何度も出られるわけじゃないからね」
「体育祭は主力メンバーが何度も競技に出場できただろう? つまり、クラスの平均値ではなく主力メンバーの能力で順位が決まるようになってる」
「……うん」
「一学期の試験では、そうはいかない。純粋な平均値がクラスポイントに直結する」
「ここから先、Kクラスは暫定二位という有利を失っていくだろう。本来、平均値で言えば最下位だからね」
「……」
学期末試験では、間違いなく暫定順位を下げる事になるだろう。
出来る対策も限られてくる。
「一位を目指すのは当然だが、あまり現実的じゃない。君自身の目標設定を聞いておきたいんだけど、どうかな?」
「目標ラインは五位だと思う」
「つまり、生徒会への立候補が可能な順位だね?」
「うん」
白雪学園の生徒会は二年生から立候補可能で、立候補条件の一つに上位クラスである事が定められている。
1年生は11クラスある為、進級時に最低でも5位を維持しなければならない。
「ボクは社会スコアが低いから……出来るだけ巻き返しておきたいんだ」
「……では、クラスの誰かを送り込むわけではなくて、君が立候補すると?」
「うん、そのつもり」
男子でも立候補可能な事は、事前に調べていた。
前例は殆どないが、不可能ではない。
「君は……」
「どうやら、本当に私が抱えているものを半分こしようとしているようだね」
「その場の方便で言ったわけじゃないよ」
「そうか……うん……うん」
いつもの堂々とした姿とは違い、蚊の鳴くような声だった。
「それと……その……五月の遺伝子提供は……」
「
喧騒の中、
「……ああ、待ってる」
「出来るだけ早めにするから。じゃあ、ちょっと回ってくるね」
いずれも、体育祭で活躍した面々だった。
それから、次のグループを探す。
何人かがちらちらと視線を向けているのがわかった。
その時、教室の隅でつまらなさそうにしている
「……食べないの?」
声をかけながら、並ぶように横に立つ。
ひよりは小さく首を振った。
「あまり食欲がないので」
「そっか」
どうやら、誰かと話したい気分ではないようだった。
邪険にされているのを感じ取りながらも、
「紙コップ、空になってるね。何か入れてこようか?」
「いえ、大丈夫です」
沈黙が落ちた。
騒がしい打ち上げの空気が、随分と遠くに感じられた。
「騎馬戦、格好良かったよ」
それでようやく、ひよりが意外そうに顔を向けてくれた。
「誰よりも前に出てたのが観覧席からでもよく見えて、迫力あったから覚えてる」
「……ありがとうございます」
そこからは、言葉が思いつかなかった。
その数少ない接点も、あまり良いものではない。
二人の間に、長い沈黙が続く。
「あそこのクラッカー、クリームチーズ乗せると美味しかったよ」
「……」
「試してみない?」
「……では、少しなら」
無表情を貫いていたひよりが、根負けしたように小さく息をつく。