「一度、話し合うべきでしょう」
最初に沈黙を破ったのは、
「最大5名の入れ替えは、今後のクラス運営に多大な影響を及ぼします。
「……うん」
「導入されるトレード制は、ある程度のコントロールが可能のように思えます。まずはダメージコントロールの可否について意見を集めたいと思います」
ダメージコントロール。
それについては
「そうだね。ダメージコントロールも大事だけど、まずは希望者を募った方が良いんじゃないかな」
口を開くと同時に、教室中の視線が
いかに平和的にダメージコントロールの話へもっていくか、腕の見せ所だった。
「トレード権を得られるのは上位5名。つまり、トレード先はAクラスかBクラスになるだろう」
席から立ち上がり、友好的な笑みをクラスメイト達に向ける。
「移動先にKクラスが指定された場合、成績下位の者は自動的に上位クラスへ移動できるわけだ。悪い話じゃないと思う」
これが決して悪い話ではない、という前提をまずクラスで共有する必要があった。
そうでなければ、今後の話次第で
「しかも、クラス選択権は残ったままだ。AクラスかBクラスにトレードされた後は、クラス選択権を行使して下位クラスへ移動できる。これはとても凄い事だよ」
「好きなクラスへ行けるチャンスなんだ。希望者は今すぐ申し出て欲しい。先着5名までだ。少し点数を落とすだけでいい。生産性スコアに若干の影響はあるだろうけど、微々たるものだ。こんな機会はめったにないよ?」
大袈裟に両手を広げ、教室を見渡す。
手を挙げる者は、誰もいなかった。
沈黙の中、
「えっと……ボクの前で他クラスに行きたいなんて言いづらいよね? 外に出ていようか?」
「ああ! 私のデリカシーのなさを許してほしい。そうだね、
「その、他クラスに行きたい人はボクに遠慮しなくていいからね」
遠慮がちにそう言って
「
それで、と
「よそに行きたい奴はいないのか? 5人いるならそれで話は終わりだろ」
「ええ、先着順です。どなたかいませんか?」
手を挙げる者は、やはりいなかった。
「どうやら、自主的に出ていきたい人はいないようですね」
「ところで
「ん……上位5名に入れる自信はあるか、という質問でいいかな? それなら、必ず入るよ」
「わかりました。私も上位5名に入る自信があります。つまり、これでトレードは最大でも3名までに抑え込めます」
その時、くふ、と小さい笑い声が教室に響いた。
笑い声の主は、
日本人形のように黒い髪を腰まで伸ばした彼女は、
「トレード人数をわざわざ3人に抑え込む必要がありますか? 役立たずを追い出す良い機会ではありませんか」
鈴を転がしたような声だった。
「
以前までの
しかし、今は乗り気にならなかった。
「クラス内環境の大きな変動は、男子の心的負担になる。私としては、
「くだらない茶番は不要です。たまには本音で話してみてはいかがですか? 例えば、
すべてを見通したような目で、
党は
「長期的に考えれば、
おや、と
体育祭の暫定二位という結果を受け、首席クラスへの欲が出てきたのかもしれない、と分析する。
「……さっき言ってたダメージコントロールっていうのは何だ?」
「純粋な結果で決めるのはなく、別の基準でトレードに出す人をこちらで決め、試験の点数を下げてもらおう、という話です。こうすることで、身体能力が高い者などを残すことができます」
「へえ……」
体育祭で大した結果を残せなかった者たち。
ダメージコントロールとして任意の者を追い出すなら、彼女たちが対象になるのは間違いなかった。
「……」
あるいは、と
赤い指輪を、そっと撫でる。
コロニー入りは果たした。後は不確定要素を出来るだけ取り除かなければならない。
「ひより」
振り返って、
ちょうどいい機会だと思った。
「ひよりは確か、別のクラスに興味があったよね」
「私の為に無理を言ってクラス移動してもらったけど、元のクラスに戻れるチャンスだ。今までありがとう」
建前を使い分けるのは、得意だった。
気性の荒さも、
これからは出来るだけコロニーに
今現在、
生真面目な
「では、
「ひより、私のことは心配しなくていい。よく尽くしてくれた。この大義には必ず報いると誓うよ」
ひよりは唇を噛み、目を伏せた。
「……わかりました」
絞り出すような声だった。
これで、不安要素が一つ消えた。
「では、これでトレード人数はやろうと思えば二名まで抑え込めます」
そこで一瞬、
後2名、役立たずを決めるとしたら間違いなく
しかし、
「さて、それではどうする? 二名まで抑え込むか、それとも五人まで広げるか」
「では、多数決を採りましょう」
「
「反対意見は?」
声をあげる者はいない。
「それでは、トレードは出来るだけ抑え込み、二名を目指す事をクラスの方針とします」
「それで、ダメージコントロールはどうするんだ?」
ダメージコントロールを行うなら、残留が確実になる。
「もちろん、すべきでしょう」
「反対する理由はなかろう。自然に任せると、今後の特別プログラムに支障をきたす可能性があるのだよ」
クラスメイトたちの意見を聞きながら、
頭の中にあるのは、
そして、一つの懸念が浮かんでいた。
「私は反対かな」
「何故ですか?」
「まあ、特に深い理由はないよ」
あまり露骨にやると、
それに、
処分に困っていた
「どうする? 多数決でも取るかい?」
「……好きにするがいい」
「悪いね。でも、私はクラスの為を想ってやってるんだよ。そこを分かって欲しいね」
クラスの掌握は、順調だった。
トレード人数も、出来るだけ抑え込む事ができた。
不確定要素は出来るだけ取り除き、後は
「では、最終結論を。トレード人数は出来るだけ抑え込み、ダメージコントロールは行わず、学期末試験の結果をそのまま適用する。以上を方針とします」
学級会は、全て
残る懸念は、お手付きされた生徒はトレードされない、という条件。
「終わったね。じゃあ
何事もなかったかのように、にこやかに廊下に出る。
少し離れた廊下で、
「
そして、小声で言葉を続ける。
「昼休み、少し話したい事がある。私の寮室に来て欲しい」