男女比が壊れた世界でギスギスする話   作:月島しいる

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12話

「週に何度か、クラス全体の勉強会を開こうと思うんだけど、どうかな?」

 

 教室に戻り、まだ時間がある事を確認すると、瑞樹(みずき)は全体に向かって提案した。

 事前に何人かに是非を問い、感触が良かった為、ここで切り出す事にした。

 

清華団(せいかだん)が始まるまでの放課後の二時間くらいで、参加は自由。用事がある人は途中で抜けても良いし、一人だと集中できない時に使って貰えたらって」

「……一応聞くけど、それって藤堂(とうどう)も参加するんだよな?」

「うん、もちろん」

 

 黒崎蓮(くろさき れん)の問いに頷くと、すぐに相原由良(あいはら ゆら)が手を挙げた。

 

「さ、参加する!」

「私も出来るだけ参加するよ」

 

 皆木鈴(みなき すず)も後に続く。

 それを皮切りに、何人かが声をあげた。

 瑞樹(みずき)はそれぞれに笑みを向けた後、もう一度全体を見渡した。

 

「個別に勉強会を開く人とか、家に個人講師を呼ぶ予定の人は無理して参加しなくて大丈夫だからね」

「開催は明日からだ。私たちがサポートに回る。わからないところがあっても、大概の質問は答えられるだろう」

 

 北条乃愛(ほうじょう のあ)が補足するように言う。

 そして、一色雫(いっしき しずく)に目を向けた。

 

一色(いっしき)さんはどうする? 君もサポートに回ってくれると嬉しいけど」

「もちろん、参加いたします。誰にでも門戸を開き、公正な機会を与え下さる瑞樹(みずき)様の采配、支えぬわけにはいきません」

 

 満面の笑みを浮かべる(しずく)は、妙な気迫があった。

 

「あ、ありがとう。助かるよ」

「ええ。他にもお困りごとがあれば何なりと」

 

 その時、神成寧々(かみなり ねね)が言いづらそうにおずおずと口を開いた。

 

「その……私、バレーの選抜練習であまり行けないかも……」

「うん、わかった。自由参加だし、気にしなくて大丈夫だよ」

「……家で頑張るね」

 

 しゅん、と気を落とした様子を見せる寧々(ねね)

 それが少し気になり、瑞樹(みずき)は少し考え込んだ。

 クラス全体の勉強会とは別に、夜に少人数での勉強会を企画してもいいかもしれない、と思いつく。

 

「……」

 

 顔をあげると、ニコニコと上機嫌でこちらを見ている(しずく)の姿があった。

 クラス選択権を既に使った(しずく)は、他のクラスに移動できない。

 初日に移動してきた彼女からの好意は明白で、どこかでちゃんとお互いを知る機会を作ろうと考えていたが、体育祭で忙しかった事もあり、長らく関係が薄いままになっていた。

 

一色(いっしき)さん、もう少し仕事をお願いしてもいい?」

「……はい!」

 

 花が開いたように、(しずく)が微笑む。

 その笑顔に一瞬、視線が奪われる。

 

「……あ、ごめん。後から伝えるね」

 

 少人数での勉強会についてはここで言わない方が良いと考えなおし、手を振って席に戻る。

 

「はい、いつでもお待ちしております」

 

 (しずく)は心から嬉しそうにはにかんで、手を振り返した。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「学期末のトレード制には、抜け道がある」

 

 昼休み。

 北条乃愛(ほうじょう のあ)の寮室に入ると同時に、彼女はそう宣言した。

 

「お手付きだよね?」

 

 乃愛(のあ)に案内されながら、問いかける。

 話の内容自体は、事前に予想していたものだった。

 

「そうだ。君がお手付きをすれば、殆どのルールを無視できる」

 

 乃愛(のあ)の部屋は、思ったより質素だった。

 始国十八家という肩書とは裏腹に、家具などは一般的なものが並んでいる。

 促されるまま、瑞樹(みずき)はベッドに腰掛けた。

 

「でも、あまりやらない方が良い気がする」

「なるほど? まずは君の考えを聞こう」

 

 乃愛(のあ)はそう言いながら、隣から甘えるように肩に絡みついた。

 廊下で一人、ずっと考えていた事を整理しながら語る。

 

「お手付きすればその人は守られるけど、トレードのラインが後ろに下がるだけだよね」

「そうだ」

「ラインが動いて、本来はセーフだった別の誰かがアウトになるだけなら今後の不和に繋がると思う」

 

 膝の上までしなだれかかった乃愛(のあ)が笑みを深くする。

 

「まったく同意見だ。そう、根本的な解決にならない」

 

 それに、と乃愛(のあ)はもう一つの懸念に言及した。

 

「これは私の推測だが……今回のトレード制は本命じゃない」

「本命?」

「恐らく、他に本命の案があったんだと思う。しかし、予算やスケジュールに問題があったのか、間に合わせのトレード制を導入した、というのが私の見方だ」

「それは……どうして?」

「問題の根本的な解決になっていないからだ。トレード権を与えられるのは5人だけ。大多数のクラス選択権は腐ったまま。つまり、ただのガス抜きにしかなっていない」

「うん、それはボクも思った」

「つまり、もっと大きな制度変更が予定されている可能性が高い。だから、このトレード制を切り抜ける為だけにお手付きなんかしなくていい」

 

 そこで乃愛(のあ)は反応を見るように、瑞樹(みずき)を見上げた。

 逡巡してから、考えを素直に吐き出す事にする。

 

「実はね、トレード制についてはあまり心配いらないと思ってるんだ」

 

 密着していた乃愛(のあ)が意外そうに顔を離す。

 

「入学からもう一か月以上経ってるし、上位クラスって皆仲良くなってるんじゃないかな? わざわざ下位クラスに移ってくるパターンって考えづらいというか」

「……」

 

 男子のクラス振り分けは、主に信用スコアによって行われる。

 上位クラスには愛想が良く、社交性が高い男子が配置されているはずだった。

 唯一知ってるCクラスの白川健斗(しらかわ けんと)も、やや情緒に問題があったものの、長身で顔が整っており面倒見もいい。いかにも女子に人気がありそうだった。

 

一色(いっしき)さんが移動してきたのは、入学前に少しだけ話したからなんだ。本当に偶然が重なっただけで」

「……」

乃愛(のあ)が移動してきたのも、過去の履歴を見て似てるってたまたま思ったからだよね」

「……」

乃愛(のあ)が友達をいっぱい連れてきたから最初は話題になったかもしれないけど、今からKクラスに移動してくるって多分いないと思う」

「……」

 

 そこまで話すと、乃愛(のあ)が腹部に顔を埋めてギュっと腕を絡ませた。

 

「だからトレード制の事を考えるより皆で勉強会を頑張った方がいいかなって思ったんだけど、どうかな?」

「……いや、クラスポイントの方を重視する君の考えは正しい」

「というか、人が来る心配よりも、このままじゃ二年でクラスから出ていく人もいるだろうし、愛想尽かされないように頑張らないと」

「……私がいるだろう。どれだけ出ていっても問題ない」

「うん、ありがとね」

 

 髪を梳くと、乃愛(のあ)が気持ちよさそうにぐりぐりと頭を押し付けてくる。

 まるで猫のようだった。

 

「そういえば、一色(いっしき)さんには何を頼もうとしていたんだい?」

寧々(ねね)ちゃんが参加できないみたいだから、小人数の勉強会を開こうかなって」

「……私に言えばいい。君の頼みなら何でもする」

「うん、でも一色(いっしき)さんと一度ちゃんと話してみたくて」

「……」

 

 不貞腐れたように黙り込む乃愛(のあ)に、瑞樹(みずき)は困ったように首を傾げた。

 他のコロニーはどうやって同時に多くの女性を相手しているのだろう。

 

「ごめんね」

「……そう思うなら、時間いっぱいまでこうしてくれ」

「うん」

 

 乃愛(のあ)が更に甘えるようにしがみつく。

 瑞樹(みずき)はそのまま頭を撫でながら、微笑んだ。

 

「勉強会って、何だか普通の学校生活って感じがしていいよね」

 

 かつて夢見た普通の学園生活。

 今は少し、毎日が楽しみだった。

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