「……」
息遣いが聞こえるほどの静寂が、リビングを満たした。
俯いた
「ご、ごめんね! ちょっと驚いちゃって!」
「
「うん、最初にコロニーに入ったのって
あはは、と笑いながら
「私が持つね」
「うん……ありがとう」
そのままお茶菓子の乗ったトレイを手にした時、隣で
「二人きりと思い、気が緩んでおりました。申し訳ありません」
「そ、そんな! 私の方が新参なわけだし!
そう言って、
「み、
「……うん」
お茶菓子を運ぶ
部屋のすぐ傍まで来た刹那、不意に
「
それから、柔らかいものが唇に触れる。
「……」
一瞬の出来事だった。
とたとたと、
廊下に一人残された
部屋の中から雑談する声がして、ようやく動き出す。
「海とか山とか行きたいよね」
部屋に戻ると、
元の席に腰を下ろすとすぐに、
「試験が終わったらどうするか話してたんだ。
「夏休みってこと? ボクはまだ何も決めてないよ」
「ホント? じゃあ皆でどこか行こうよ!」
対して、
「
「わ、わかってるよ」
「
その時、ふと幼少期の思い出が蘇った。
「お祭り……かな」
「もしかして、毎年行ってるお祭りがあったり?」
「ううん、そういうのじゃないんだけど。小さい時に行った事を何となく思い出して」
「へえ、この近く?」
「本当に小さい時だったから場所とかは全然分からないや。人混みだから大きくなってからは中々行けなくて」
本当にぼんやりとした記憶だったが、当時仲の良い少女たちに色々な出店へ連れていかれた覚えがある。
補佐官である
「お祭りか。いいね。人混みは確かに難しいかもしれないけど、花火を見れる場所を確保したりすれば雰囲気は味わえるんじゃないか?」
「探せば予約席もあると思います。ええ、十分に可能です」
ニコニコと機嫌が良さそうに
「よろしければ私が皆様の分も手配いたしますが、いかがでしょうか?」
「え……あの、それってお金はどれくらい……?」
恐る恐るといった様子で
「私がお支払いしておきます。
「ホ、ホント? 助かる~!」
いつものように表情は乏しいが、乗り気のように見えた。
「
「はい、お任せください」
今日の
お菓子を食べながら、どうしてだろう、と考える。
お祭りが楽しみなのだろうか。
「
躊躇するように
「
「ううん、その時、仲良かった友達と」
「わ、それってもしかして幼馴染ってやつじゃない?」
幼馴染。
あまり意識した事はなかったが、言い表すとそうなるのかもしれない。
「……そうなるのかな?」
「わっ! わー! 映画みたい! やっぱりそういうのあるんだ!」
「それからどうなったんだ? 今でも付き合いが?」
幼少期の話で、もう名前も覚えていなかった。
「んー、途切れちゃったから……連絡先も知らなかったし……」
「へえ……だってさ。良かったな、
「へっ!? わたし?」
「不安そうな顔してたじゃないか」
「そ、そんなことないもん!」
「そろそろ、解散のお時間ですね」
「あ、もうこんな時間」
「長々と居座って悪いな」
それを皮切りに、続々と帰宅の準備が始まった。
「みんな忘れ物ない? 大丈夫?」
それぞれが鞄を持ち、立ち上がる。
「よし、じゃあ今日はこれで」
「また明日も頑張らねばなるまいしな」
「結構進んだよね」
がやがやと言葉を交わしながら、一向を玄関まで見送る。
「じゃあね、
「お邪魔しましたー!」
「じゃ、また明日」
玄関から一人ずつ出ていく彼女たちに手を振る。
最後に、
「
「いえ、学級委員長でもありますし、当然の務めです。他にも何かあればご用命ください」
「そういえば
「これは?」
お土産にしては、随分と軽い紙袋だった。
お菓子の重さではない。
中を覗くと、綺麗に折りたたまれた下着が入っていた。
「……え?」
時間が止まった気がした。
反射的に、顔をあげる。
黄金の瞳が、
「買い戻しておきました」
ニコニコと、いつも通りの様子で
「
「え……あの……」
喉がからからだった。
紙袋に入っている下着には、見覚えがあった。
「大丈夫です。私しか知りません」
高校に入って初めての社会奉仕。
そこで明日死ぬという老婆と出会い、お金を工面しようとしてアダルトショップで売った下着。
それが、目の前にあった。
「もちろん、写真も回収しています。
「……あの……あれは……」
「大丈夫です。
呆然とする
最後に、心から嬉しそうな笑みを浮かべた。
「それと、やはり覚えていてくださったのですね。
そして、玄関ドアが重い音を立てて閉まった。