「よォ、
その日も、しとしとと雨が降っていた。
夕暮れの地区会館の前で、Cクラスの男子である
「こんばんは、
今日の奉仕活動は、党のパーティーへの参加である。
不慣れな
「党のお偉い方がくるからなァ。ばっちり決めねえとよォ」
「
「積極的に話しかけた方がいいの?」
「待ってても良いし、話しかけても良いが……お前はツラが良いからなァ。適当に話しやすい奴を捕まえておいた方が楽かもしれねェ」
「よし、そろそろ入るぞォ。俺たちが学生なのは見りゃ分かる。難しい事は言われねェから大丈夫だ」
「う、うん」
手が自然と、ネクタイに伸びた。
さっと身だしなみを確認してから、
党の地区会館は白で統一されており、入り口には立ち話をしている女性たちが散らばっていた。
軽く頭を下げながら、
「まずは受付だァ。ID準備しとけ」
軍服を着た集団が壁際にいて、
「
後ろから、
過去をよく知っている為、心配してくれているのだろう。
しかし今は大勢の視線を受けても、居心地の悪さを感じるくらいだった。
「大丈夫だよ」
小声で返して、そのまま受付に向かう。
IDカードを出して身元の確認が終わると、受付の女は朗らかに笑った。
「お二人とも学生ですね。ごゆっくりとお楽しみください」
そのまま奥のホールに向かう。
「
「うん、ありがとう」
遠くからざわめきが聞こえる。
会場が近いようだった。
「推進法第一条だァ。これは俺たちの義務でもあるが、俺たちの成長機会でもある。やってれば慣れるから心配すんなよォ」
会場の扉は、開いていた。
「……大きいね」
中の会場は、学校の体育館よりも大きかった。
テーブルに料理が並び、その周りで大勢の女が談笑に興じている。
大半はスーツや軍服を着ているが、ドレス姿の女もちらほらと見える。
「もう党の難しい話は終わった後だ。まずは空いてるところを探すぞォ」
「う、うん」
辺りには、成人した男もいた。
見慣れない姿に、思わず目を奪われる。
「よーし、あそこが良いなァ」
テーブルには、中年の女が二人しかいなかった。
「ご一緒しても?」
「もちろん。随分と若いね」
「高校に入ったばかりで」
「へえ。その制服、どこだい?」
女たちがじろじろと
「白雪学園です」
「ああ、あのクラス階級制の? ほれ、若いならたくさん食べないと」
女たちが皿とフォークを取り、差し出す。
「二人とも随分と細いじゃないか」
二人の中年の女が、次々と皿に肉を乗せていく。
あっという間に、肉が山盛りになった。
「あ、ありがとうございます」
「こんなに食えないっすよォ」
その時、一人の年寄りがテーブルに近づいてくるのが見えた。
片足を引きずるように杖をついているのが気になって、
「あの、ご案内しますね」
「おお……悪いね」
杖とは反対の腕を支えるように掴むと、年寄りの女は顔をしわくしゃにして笑った。
「三十年前の
「それは……ちょっと椅子を探してきます」
テーブルまで案内してから、壁際に並んでいる椅子を足早に取りに向かう。
「どうぞ」
「悪いね。よく気が利く子だ」
ちらりと、
元からいた二人の相手をしているところだった。
椅子に腰かけた年寄りが、じろじろと
「その制服、白雪かい」
「はい。入学したばかりです」
「奇遇だね。わしの母校だ」
思わぬ言葉に、
「体育祭はもう終わったところかい?」
「はい」
「懐かしいね。わしはクラスで一番足が速くてリレーを任されたんだ。なのに、転んじまってね」
くつくつと笑いながら、女はテーブルに目を向けた。
「取り分けましょうか?」
「いい。わしは好き嫌いが激しくてね。嫌いなもんを入れられたら敵わん」
そう言って、椅子から手を伸ばしながら器用に料理を皿に乗せていく。
「何の話だったかな。そうそう、体育祭で転んじまったんだ。後は針の
「それは……」
「どうしても耐えきれなくてクラス選択権を使った。当時はプライドが高くてね。わしにはダメだったんだ」
年を経て、十分に消化できたのだろう。
女はそれを笑い話として語っていた。
「孫娘にも、よくこの話をした。すると、白雪なんか絶対行きたくないと言いおって。
「
白雪に並ぶ、名門高校の一つ。
四大共学の一つとして知られている。
「
「あそこは指名制でな。男が希望の女をクラスに指名していくのだ。なのに、うちの孫娘は誰からも指名されてなくてな。なんとも情けない」
「た、大変そうですね」
「どこもそうだ。楽なところなど、ありはしない。あれはそれを理解しとらんかった。まったく」
そこで女はお酒を口にすると、満足そうに息をついた。
「お主、Aクラスか? あいつも素直に白雪に入ってればよかったものを」
「えっと……あの……Kクラスです……」
女のグラスを持つ手が、止まった。
怪訝そうに眉を寄せる。
「K? 今の白雪は何クラス編成になっとる?」
「……11クラスです」
「11……わしの頃は8クラスしかなかった。人口生産がうまくいっとる証拠か。いや、しかし……」
女は白髪混じりの髪を弄りながら、ふむん、と
「まさか京都の者ではあるまいな?」
「京都……?」
「いや、わからんなら良い。そうか……Kクラス……」
考え込む素振りを見せた後、女の目が
その目が、鋭くなる。
「お主、年上もいけるのか」
「えっと、はい」
「ならば、わしはどうだ?」
「え、あの」
「冗談だ」
どこまでが本当なのかよくわからない冗談だった。
「たまにはこういう面倒な場所もくるものだ。思わぬ縁がある」
それから、女はゆっくりと立ち上がった。
「さて、わしは少し用がある。若い者と話せて良かった」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「機会があればまた会おう」
杖をついて、ゆっくりと女が離れていく。
それを合図に、
いつの間にか、彼が相手していた中年女性たちも消えていた。
「……
「うん、話しやすくて良い人だったよ」
それから、辺りを見渡す。
「
「ああ、すぐ逃げていったなァ」
「逃げた?」
「お前が相手してたのは、
「
聞き覚えがある名前だった。
「ああ、十八家の
思わず、老人の方に目を向ける。
杖をついた年寄りが歩く度に、周囲が道を譲るように開けていく。
そして