男女比が壊れた世界でギスギスする話   作:月島しいる

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21話

「なんか、今日の出席率悪すぎないっすか?」

 

 不思議そうに言う青山遥(あおやま はるか)に、黒崎蓮(くろさき れん)は肩を竦めた。

 

藤堂(とうどう)が奉仕活動で休みだからな」

 

 いつもは全員が参加するクラス全体の勉強会。

 藤堂瑞樹(とうどう みずき)から事前に休むと連絡があったせいで、今日は露骨に参加人数が少ない。

 クラスの半分以上がさっさと帰ってしまっていた。

 

「空気も悪いっす……」

 

 いつも主導権を握りたがる北条乃愛(ほうじょう のあ)も、今日は静かだった。

 小テストを配った後は、クラスに一切の興味を向けていない。

 閑散とした教室には、空虚な義務感だけが漂っている。

 

「それに今日はクッキーないんすか? 腹減ったっす」

「黙ってろ、馬鹿」

「い、痛いっす」

 

 (はるか)を軽く小突きながら、緋村梨々花(ひむら りりか)の席に目を向ける。

 毎日のようにクッキーを焼いていた梨々花(りりか)も今日はやる気がなく、抜け殻のようだった。

 張り合うように何かしらのお菓子を作ってきていた下川杏(しもかわ あんず)緒方綾乃(おがた あやの)も同様だった。

 

「……帰るか」

 

 机のものを鞄に詰め込み、立ち上がる。

 それを合図に、桃原奈緒(ももはら なお)緋村梨々花(ひむら りりか)も帰りの支度を始めた。

 

「いくぞ」

 

 北条乃愛(ほうじょう のあ)(れん)たちを一瞥するだけで、何も言わなかった。

 廊下に出てから、小さく息をつく。

 

「はあ、だっる」

「で、どうするの?」

 

 伸びをする桃原奈緒(ももはら なお)と、気怠そうに方針を確認する緋村梨々花(ひむら りりか)

 

「後は適当に飯でも食いながらやろうぜ」

「賛成っす。やっぱり食べながらが一番っす」

瑞樹(みずき)様いないと、もうやる気出ないんだけどぉ」

 

 放課後の校舎は、人の気配がない。

 残ってるのはKクラスだけのようだった。

 

「……他に勉強会やってるクラスってないんだな」

「うちらは藤堂(とうどう)の発案でやってるだけだし。女から言うわけないでしょ」

 

 梨々花(りりか)の言葉に、そりゃそうだ、と呟く。

 クラス内の個々の格付けが、女子にとっては何より重要となる。

 特に下位クラスの大半は首席クラスを目指す事など諦めているのだろう。

 

「実際のところ、首席クラスなんてなれるんすかね」

「可能性としてはゼロじゃない、と思うけどな」

 

 認めたくなかったが、北条乃愛(ほうじょう のあ)一色雫(いっしき しずく)は相応の実力を伴っている。

 特に北条(ほうじょう)グループは全員が上位クラス出身で、クラス全体の平均値を大きく引き上げるだろう。

 

「もしも今回のトレードでAクラスから追加で五人補充されたら、クラスの約半分が上位クラスになる。しかも上位クラスに五人の役立たずを押し付けられるオマケ付きだろ」

「残れたら、の話だけどね」

 

 梨々花(りりか)の冷たい声。

 

「下位五人に入らない自信、ちゃんとある?」

「うちは本気出したら大丈夫だしぃ」

「私もやる時はやる女っすよ!」

 

 (れん)が見る限り、彼女たちはいずれも要領が良いタイプだった。

 白雪学園という名門にしては珍しく、派手な見た目をした面々。

 勉強と遊びを両立でき、うまく立ち回れる証左でもある。

 

「まあ、一番ヤバいのは下川(しもかわ)のグループだろうな」

「だろうねぇ」

 

 奈緒(なお)の顔に、酷薄な笑みが混じる。

 どこの有力なグループにも入れなかった余りもののグループ。

 天城久遠(あまぎ くおん)や、篠宮聖華(しのみや せいか)のような分かりやすい家格もなく、目立った実績もない。

 

「また雨降ってんのかよ」

 

 昇降口で、思わずげんなりした声が飛び出した。

 

「一週間続くらしいよ」

「私の髪、湿気に弱いんだよなぁ」

「それで、どこ行くの?」

 

 傘を差しながら、梨々花(りりか)が目を向けてくる。

 (れん)は特に考える事なく、駅前のファミレスでいいだろ、と答えた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 平日の中途半端な時間という事もあり、店には客が殆ど入っていなかった。

 腰を下ろすと同時に、それぞれ自習の準備を始める。

 

「そういえばさ、皆木(みなき)のこと調べたよ」

 

 何の前触れもなく、梨々花(りりか)が口を開く。

 (れん)は準備する手を止めて、顔をあげた。

 

「何か分かったか?」

 

 体育祭で徒手格闘の能力だけでなく、実銃の取り扱い経験を見せていた皆木鈴(みなき すず)

 Kクラスの生徒としては、どうも不自然だった。

 

「やっぱり訳ありだった。軍人の家系なんだけど、あいつの叔母がヤバめの反動主義で捕まってるみたい」

「……連座で信用スコアを失ったパターンか」

「地元じゃ有名で、中学時代から孤立してたんだって。本人もいまさら隠すつもりなさそう」

「邪魔だな。藤堂(とうどう)から切り離せそうか?」

 

 皆木鈴(みなき すず)神成寧々(かみなり ねね)のグループの一員として、藤堂瑞樹(とうどう みずき)に近しい位置にある。

 (れん)としては、早めに排除しておきたい存在だった。

 

「どうかな。そこら辺、藤堂(とうどう)って甘そうだよね」

「そもそも、既に知っている可能性もあるか」

 

 女子が男子のデータを閲覧できるように、男子もまた女子のデータを閲覧する権利を有する。

 皆木鈴(みなき すず)の信用スコアが著しく低い事を、藤堂瑞樹(とうどう みずき)が既に知っている可能性は十分にあった。

 

「知った上で一緒にいるなら、やっぱり使えないな」

瑞樹(みずき)様って、あまり家格やスコアに興味なさそうっすからね」

「そう? 何だかんだ、十八家の北条(ほうじょう)に手を出したじゃん」

 

 奈緒(なお)の言葉に、(はるか)は不敵な笑みを浮かべた。

 

「知らないんすか? 十八家って意外とモテないらしいっすよ。面倒事ばかりっすからね」

「あー、それはちょっと分かるかも?」

「スコアで言うなら、天城(あまぎ)とか篠宮(しのみや)になるんじゃないっすか? 金はあるけど、責任はない。それが一番求められるんすよ」

 

 (はるか)の言ってる事は、もっともだった。

 天城久遠(あまぎ くおん)篠宮聖華(しのみや せいか)のように、家格が高いものの政治からは程よい距離を置いている者は、一般的に男から好まれやすい。

 

「……でも、藤堂(とうどう)って天城(あまぎ)篠宮(しのみや)には全然声かけてないよな」

「そうなんすよね。コロニー入りしたのって神成(かみなり)北条(ほうじょう)っすからね。基準が謎っす」

「純粋に相性が良さそうな人だけ選んでるんじゃないのぉ?」

 

 奈緒(なお)がメニューの載った端末を見ながら、どうでも良さそうに言う。

 

「ドリンクバー4つでいい?」

「ポテトと唐揚げも欲しいっす。今の私には油が必要っす」

「オッケー。注文しとくねぇ」

 

 端末を置いた奈緒(なお)が、それより、と(れん)に冷たい視線を向けた。

 

「最近の(れん)さぁ、やる気なくない?」

「……何がだ」

「体育祭から、なーんか消極的だと思ってぇ」

「……」

 

 図星だった。

 一色雫(いっしき しずく)に目をつけられてから、(れん)はあまり目立たないように気を付けていた。

 

「もしかして北条(ほうじょう)のコロニー入りにびびってんの?」

「まさか」

「ふーん?」

 

 奈緒(なお)だけでなく、梨々花(りりか)からも冷たい視線が向けられていた。

 

「しっかりしてよ」

「……わかってるよ」

 

 本調子じゃないのは、自分でもわかっていた。

 誤魔化すように参考書を開き、視線を逸らす。

 

「ところで夏休みはどうするんすか?」

「あー、何もしないのはマズいよねぇ。遊びくらい誘ってもいいでしょ」

「どこにっすか?」

「それは知らなーい」

 

 (はるか)奈緒(なお)の無責任な会話を聞きながら、考える。

 無策のまま夏休みに突入するのは、確かにマズかった。

 

「……旅行」

 

 ぽつりと、呟く。

 奈緒(なお)たちが、ぽかんとした顔を向けてきた。

 

「旅行、誘ってみるか」

「……無理でしょ」

 

 梨々花(りりか)が呆れたように言う。

 (れん)は静かに首を横に振った。

 

「もちろん泊まりじゃない。日帰りならどうだ?」

「んー、場所によると思うっすね」

 

 (はるか)の同意を得て、自信を取り戻した(れん)奈緒(なお)に目を向けた。

 

「よし、奈緒(なお)。お前が声かけろ」

「えー、なんでぇ?」

「馬鹿な振りして勢いでいけ」

「ちょっと、それどういう意味ぃ?」

 

 このまま一色雫(いっしき しずく)に怖気づいているわけにはいかない。

 どこかで覚悟を決める必要がある。

 

「トレードが成立した場合、最大で五人も厄介なのがくるんだぞ。ここで攻めた方が良い」

「……当たって砕けろってことね」

 

 梨々花(りりか)の悲観的な言葉は無視する事にした。

 参考書を閉じ、身を乗り出す。

 

「よし、作戦会議だ。この夏、絶対ヤるぞ」

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