「つまり、あらゆるものは地球の自転の影響を受けるわけですね。例えば30キロメートル先を砲撃する場合、コリオリの補正を怠れば数十メートルの着弾誤差が生まれてしまいます。ちゃんと数学を勉強していれば、敵を木っ端みじんにできるわけですよ」
黒板の前で、数学教師が物騒な雑談を始めていた。
「このように数学というものは、あらゆる分野で使います。あるいは、もっと簡単な話をしましょう。そうですね、オームの法則はどうでしょう。皆さん良く知ってますね?」
蒸し暑い梅雨のせいか、最近の
華奢な身体のラインに、自然と視線が吸い寄せられた。
「人体を黒焦げにするのに、電気がどれくらい必要なのか気になった事はありませんか? 実際に計算すれば簡単にわかるんですよ」
髪や肌の色素が薄いせいか、目を離したら消えてしまいそうな儚さが特に
じっと見つめている間に、他の女子も
特に、
「人体の電気抵抗をご存じですか? 約5000オームと言われています。ではこれをオームの法則にあてはめてみましょう」
数学教師の雑談がどんどん物騒なものになっていく。
しかし、
無防備な
「おっと、時間ですね。では、人体を黒焦げにする方法は次回のあまった時間に話すとしましょう」
古びたチャイムが鳴り、数学教師が出ていく。
「
不意に、
教室中の視線が集まるが、
「うちら、夏休みの予定立ててるところなんだよね。それで、
脈絡なく始まった誘い方に、思わずギョっとする。
(……馬鹿。人のいない時にもっと上手くやってよ)
細かいところは
そんな
「夏と言えば山じゃん? でもキャンプは男の子だと危ないから、グランピングならどうよって思って! ほら、見て見て。こういう所! 楽しそうっしょ!」
スマホを見せる
互いの距離が近いせいで、更にイライラが募った。
「近くに川もあるの? 景色も良さそうだね」
「でしょ! どう? 一緒に行かない?」
手応えを感じたのか、
「うん、こういうの行ってみたかったんだ。何泊予定なの?」
時間が止まった気がした。
しかし
「え……えっとねぇ、
想定外の答えに一瞬止まった
「せっかくだから二泊くらいしたいけど山奥だし、やる事なくなっちゃうかな?」
「いや! 都会から離れて、やる事ない状況を楽しむのも醍醐味だから! うん! 二泊しよっか!」
「日程とかってどうしよう。全員の空いてるところ出してから決める?」
「あー、うん、そう、そうする。うん」
男子とのお泊まりがとんとん拍子で決まっていく光景に、
(……これ、まずいかも)
便乗するように、
「失礼します。実は、私たちも旅行を計画しておりまして。そうですよね、
「い、いきなり何を言うのだよ。そんな話はこれまで一度も――むぐ」
「
何か言いかけた
「えっと……ホテルってどこに行くの?」
「どこにしましょうか。
「むぐ……ホ、ホテルは確かに持ってるのだよ」
「
「楽しそうだね。詳細決まったら教えてくれるかな?」
追い討ちするように、
「あ、あの! 私たちも皆で遠出しようって考えていて!」
クラスの地味な余りものをまとめている女子。
「あの、川はどうかなって考えてたんですけど……」
「……私たちと被ってるし」
思わず、ぽつりと言葉が零れた。
苛立ちの感情が乗った言葉に、
「だ、だから、他に何か……お祭りなんてどうですか?」
「あの、お祭りは私たちが既に行く約束をしていて……」
想定していなかったのか、
「え……あ……えっとじゃあ……」
知らない間に夏休みの約束を取り付けている者はもっといる可能性がある。
それが更に
(……もう諦めたら良いのに。下手なクッキーだってしつこいし)
クラス全体の勉強会でも、
「じゃあ、どこに行くか一緒に考えよっか」
途端、沈んでいた
(あんな奴にまで優しくしなくていいのに)
面白くない、と思った。
「ごめん、ちょっとお手洗い行ってくるね」
それを待っていたように、くふ、と
「煩悩ばかりの愚か者どもめ。夏休みの事より、試験の心配でもしたらどうですか。これで落ちたら笑いの種ですよ」
心から馬鹿にするような声色だった。
教室に重い沈黙が落ちる。
(……まあ、確実に何人かはいなくなるわけだしね)
無言の教室に、視線が交錯する。
ページを捲る指先が重かった。