昼休み、
最近のひよりは、昼食を一人で食べるようになっていた。
強制されたわけではない。
ただ、学級会でKクラスからの離脱が決まってから、居心地の悪さを感じて自主的に距離を取る事にしていた。
日替わり定食を頼み、空いている席に腰掛けたところで、予期せぬ人物に声をかけられる。
「ご一緒してもいいですか?」
彼女もまた、
「別にいいけど」
「ありがとうございます」
品のある所作だった。
「
「
「……」
かける言葉がなかった。
黙り込んだひよりに、
「
「……そう」
ただ、関係が解消された事だけはグループの中で噂になっていた。
「互いに、大変な立場ですね」
「……諦めたの?」
ひよりは、中等部からのエスカレーター組である。
「完全に諦めたわけではありませんが、勝ち目がないとも思っています」
「……そう」
「
始国十八家たる
「
「これからどうするわけ?」
「そうですね……今の
「それは……随分と複雑だね」
素直に、気の毒だと思った。
恋人を奪った相手に、今度は尻尾を振らなければならない。
「そうですね。ただ、恨んではいないんです。仕方ないかな、としか」
諦めたような笑みだった。
「仕方ない?」
「もうちょっと質の悪い男性だったら恨めたんですけどね。あまりにも勝ち目がなさそうなので諦めもつきます」
「……そう」
「最近は特に彼が不在のクラスを見ていると、人を掌握する何かがあるように思えます。
ひよりはじっと、
むしろ、少し傾倒しているようにさえ見えた。
「もしかして、もう乗り越えたの?」
「まさか。まだ気持ちの整理もついていません。しかし、悪く思っていないのも事実です」
それに、と
「私は副委員長です。ちゃんと役割を果たしている限り、
「結構、打算的なんだ?」
「こういう女でないと、
心の中で、ひよりは同意した。
誰にでも友好的に振る舞うが、その実、誰にも心を許さない。
「私の話ばかりになってしまいました。ひよりさんはどうなんですか?」
「……何が?」
「恨んでいませんか?
「……」
ひよりは沈黙を選んだ。
彼女が
かと言って、嘘くさい芝居をするつもりもなかった。
「ごめんなさい。意地悪な質問でした」
「別に。気にしてない」
ぶっきらぼうに返す。
どうせ、彼女との付き合いもあと少しだった。
「
「そうだけど」
「噂によると、Aクラスの
「まあ……」
「それに、Bクラスの
「そうかもね」
気のない返事をしながら、止まっていた食事を再開する。
味がしなかった。
「あまり興味がなさそうですね」
「どことトレードされるか、こっちじゃ選べないし」
「大事な事は、どちらも
「……」
ようは、釘を刺しにきたのだろう。
「Kクラスから出ていくのは悪い話ではありません。首席クラスになれる確率もあがるでしょう」
「原住民の面倒も見なくていいしね」
「ええ。どうか前向きに頑張ってください」
激励のように見えて、突き放すような言い方だった。
問題を起こすな、と暗に彼女はそう言っている。
ひよりは黙って食事を続けた。
そのまま暫く無言が続いた時、不意に食堂が静まった。
違和感を覚え、顔をあげる。
入口に、
食堂中の視線を集めながら、キョロキョロと辺りを見渡している。
「何で……」
思わず立ち上がると、
「あ、いた。探してたんだ」
「
「……ああ」
アリの観察の時に、手を汚してしまった
ふわりと、柔軟剤の良い香りがした。
同時に、包み紙に包まれた小箱も手渡される。
「これは?」
「こっちはお礼だよ。良かったら食べて」
ひよりが受け取ると、
「食事中にごめんね。それじゃね」
「あ……うん」
残されたひよりは、とたとたと戻っていく
それから、手元に視線を落とす。
綺麗に包まれた小箱。
そっと開けると、高そうなチョコレートが入っていた。
「まさか、ハマったわけじゃないでしょうね」
「……そんなんじゃない」
それから、チョコを一つ口に放り込む。
「忠告しておきますけど、短慮は起こさない方がいいですよ」
「……言われなくても分かってるっての」
「ならいいですが」
口の中に、ほろ苦さと甘みが広がっていく。
どうしようもなく、胸が苦しかった。
あっという間にチョコは溶けてしまい、後には胸のざわめきだけが残された。