男女比が壊れた世界でギスギスする話   作:月島しいる

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6話

「そういえばさ、うちの縁巡りの相手、白雪学園だったらしいんだよ」

「え?」

 

 市民体育館のロッカールーム。

 練習終わりのちょっとした雑談で飛び出した話題に、寧々(ねね)は思わず聞き返した。

 その反応に、同じ選抜チームの二つ年上の先輩は満足したように笑うと、でも、と言葉を続けた。

 

「土壇場で調整が入ったらしくて、話が消えたけど。神成(かみなり)の相手、見てみたかったんだけどな」

「……」

「おい、そんなに嫌そうな反応するな」

「あ、ちがっ。調整が入ったっていうのが気になって」

 

 先輩が苦笑する。

 

「おおかた、残花ノ園辺りが我儘言ってんだろうな」

「公家ってそんなに問題が多いんですか?」

 

 庶民である寧々(ねね)は、京都の事情をよく知らなかった。

 首を傾げると、補足するように先輩が言葉を続けた。

 

「今はかなり弱ったらしいけどね。党の公正な統治前、つまり維新政府の時代なんかは公家がまだまだ力を持っていた。音詠(おとよ)みの家なんかは人買いで有名だ。実際、そこに生まれた男児を売って急速に成り上がった地方名家もいくつかある」

音詠(おとよ)み?」

「和歌の名家さ。一族郎党、処刑台に送られてもう残ってないけどね」

 

 すらすらと答える先輩に、寧々(ねね)は思わず意外そうな表情を浮かべた。

 

「先輩って詳しいんですね」

「立場上、そういう教育をされているからね」

 

 先輩はそれから、周りを気にするように声を落とした。

 

「それより、男のほうはどうなんだ。順調か?」

「今日はカフェテリアで二人きりでお喋りできて……夏休みも、お祭りに行く約束があります」

「なんだ。心配して損した」

 

 言葉とは裏腹に、安堵したような言い方だった。

 寧々(ねね)は微笑んで、でも、と視線を逸らした。

 

「十八家の一色(いっしき)さんがコロニーに入って。ちょっと自信ないです」

「二つの十八家に挟まれる形になったわけか。で、お(つぼね)の補佐官もいると。苦しい立場だねぇ」

「お、お(つぼね)ってわけじゃ」

「幼い頃から面倒をみている古株な上、最年長なわけだろう。十八家が二人もいるなら、バランスを取るためにそういう最年長者がコロニーを取り仕切る可能性が高い。うまくやったほうがいいよ」

 

 先輩はそう言って、ロッカーを閉めた。

 寧々(ねね)も急いでユニフォームを畳み、スポーツバッグに詰め込んだ。

 

「コンビニ寄っていこう」

「はい」

 

 話しながらロッカールームを出る。

 廊下に、数人の少女たちがたむろしているのが見えた。

 反射的に、足が竦んだ。

 

「……」

 

 寧々(ねね)は背を丸めると、ゆっくりと廊下を進んだ。

 

「あれ? 神成(かみなり)じゃん。もうちょっと残って練習したほうがいいんじゃない?」

 

 予想通り、すぐに嫌味が飛んできた。

 顔をあげると、同じミドルブロッカーの少女が獲物をいたぶるような獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「C落ちしたのに、定時上がりなんて呑気すぎない?」

「……」

「デカいだけの置物じゃ邪魔になっちゃうんだからさぁ」

 

 寧々(ねね)は何も言わず、足を速めた。

 隣を歩く先輩が小声で囁く。

 

「浮き沈みは誰でもあるものだ。上がり続けるやつなんていない。気にするな」

「……はい」

 

 さきほど絡んできたのは、同じポジションのために昔からよく絡んでくる少女だった。

 最近は、特にひどい。

 

「ま、妬みもあるんだろうな。幸せ税と割り切るしかない」

 

 先輩の言う通り、お手付きを示す赤い指輪をつけてから選抜練習での当たりが強くなっていた。

 選抜チームでお手付きを受けているのは、寧々(ねね)だけだった。

 

「いっそ、一回連れてきて見せつけてやったらどうだ? あそこまで妬まれてるなら、堂々とマウント取ってやればいい」

 

 笑いながら先輩が言う。

 寧々(ねね)は静かに足を止めた。

 

「……絶対いやです」

「あ、え?」

瑞樹(みずき)くんのこと、他の人にわざわざ見られたくないです」

 

 衝動的に、考えるより先に言葉が飛び出していく。

 

「最初は静観してたのに後から寄ってきたり、別クラスから移動してきたり、今度は他校の交流会なんかもあるし。これ以上、邪魔な人が増えるのなんか絶対いやです。だから、あの子たちには絶対見せてあげないです」

神成(かみなり)……」

「あ、その、ごめんなさい。冗談だってことはわかってるんですけど」

 

 あはは、と誤魔化すように笑いながら寧々(ねね)は頭を下げた。

 

「私、ちょっと買い物してから帰るので、今日はここで」

「……ああ。気を付けてな」

 

 市民体育館を出たところで先輩と別れ、いつもとは別の方向に歩き出す。

 一人になると、思わずため息が出た。

 

「何やってんだろ、私」

 

 調子が良くなかった。

 バレーの選抜チームの練習では格下げを受け、スポーツ枠として入学したのもあって学期末試験ではクラスでも下のほうの成績となった。

 クラスで最初にコロニー入りしたという有利な部分も、後から入ってきた十八家の北条乃愛(ほうじょう のあ)一色雫(いっしき しずく)の二人に挟まれる形となり、薄れ始めている。

 さらに、最近ではBクラスから移動してきた花守加恋(はなもり かれん)が毎日のように瑞樹に言い寄り、寧々としては気が気ではなかった。

 花守加恋(はなもり かれん)の顔は、よく整っている。直情型の性格も瑞樹と相性が良さそうで、いずれ受け入れられるだろうという予感があった。

 七月を迎え、次の遺伝子提供が始まる。

 これ以上、ライバルを増やすわけにはいかなかった。

 

(がんばらないと!)

 

 地下鉄を乗り継いでやってきたのは、繁華街だった。

 人混みの中を、寧々(ねね)は背中を丸めながら進んだ。

 知り合いに見られるわけにはいかなかった。

 目的地は、以前から気になっていた成人向けの店舗。

 どうにかして瑞樹(みずき)の気を引こうと、色々と見て回るつもりだった。

 

(あれ?)

 

 記憶を頼りに歩くも、それらしい店舗が見当たらなかった。

 何度も同じ道を往復し、ようやくそれらしい跡地を見つける。

 

(潰れちゃったのかな)

 

 店舗自体が取り壊されたようで、小さな空き地だけが残されていた。

 寧々(ねね)は今日何度目かの溜め息を吐き出すと、諦めて別の店を探すために歩き出した。

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