「わあ、思ったより崖の近くにあるんですね」
廃線跡の右側は渓谷になっていて、激しい音を立てて川が流れている。
「スタート地点とゴール地点の近くに駅があるから、帰りは歩かずに電車でここまで戻ってこられるらしいよ」
今回のプランを提案したのは
当初は男子にプランを任せることに抵抗があったが、彼の行きたいところにしようと最終的に
「廃墟みたいでワクワクしますぞ」
草木に覆われた枕木とレールが、どこまでも続いている。
夏休みのせいか、ハイキングコースには人影がちらほらあった。
「虫よけスプレー持ってきたんだけど使う?」
「おお、さすが
段取りよく進めていく
学期末試験ではクラス上位に食い込み、こうして男子との遠出まで実現した。
放課後の図書室で共通の趣味である恋愛小説について語り、たまに愚痴を聞く。そして時折、遠くから
田舎で育ったため、中学に男子が一人もいなかったというのも大きな要因かもしれない。最下位クラスの目立たないグループであろうと、
しかし、
「じゃあ、行こうか」
にこやかに
歩き出してすぐ、視線が合った。
「そういえば
「あ、はい。ちょっと変えてみたくて」
気の利いた返しができない自分が嫌になった。
「普段の眼鏡も理知的で似合ってるけど、そっちも可愛いと思う」
「あ……ありがとう……ございます」
ただのお世辞であることはわかっている。
それでも顔が赤くなっていくのを感じ、
「緑が多くて、川も近くて、とても素敵なところですね。このような場所には縁がなかったのでとても新鮮です」
背後から
「ボクも全然こういうところに来たことがなくて。一回来てみたかったんだ」
二人の会話を聞きながら、意外だな、と思った。
常に女子に囲まれている男子は、あちこちに連れまわされているとばかり思い込んでいた。
「
「中学は殆ど行ってなかったから。そういう機会はほとんどなくて」
「なるほど。そうだったのですね」
不登校という情報を失念させるほど、今の
しかし、本来はもっと大人しい男の子なのかもしれない。
そう考えると、急に身近な存在に感じられた。
「じゃあ、
「うん。家で遊んでばかりいたかな」
「もしやゲームとかも嗜まれたり?」
「小学校の時は友達とよく遊んでたよ」
「むむ。これは我らと気が合いそうですぞ」
ほのかが笑みを深くする。
「
「集めてたことはあるよ。あんまり強くないけど」
「私たち、休み時間にやってるよ。今度、
「ちょっと興味あるかも。それまでに買いそろえておこうかな」
線路の上を歩きながら、順調に会話が続いていく。
次第に、全員の緊張が解けていくのがわかった。
「男の子の奉仕活動って、どういうところに行くんですか?」
普段は大人しい
「ボクは中学時代にお世話になったリハビリ施設とか、小児病棟の慰問とかが多めかな。あとは最近だと党の立食パーティーとか」
「党のパーティーですか。なんだか緊張しそうです」
「そうだね。その時はCクラスの
ハイキングコースですれ違う女性たちから、次々に視線を感じた。
一見すると少女のように儚く、独特の透明感のある
そのすぐ近くを歩いているだけで、
学校で味わったことがない優越感。
今の
「あ、あれが一つ目のトンネルだね」
前方に数メートルほどのトンネルが見えた。
「思ったより短いですな。トンネルというより、アーチのような」
「本番は二つ目のトンネルで、そっちはすごく長くて真っ暗なんだって」
草木に覆われた朽ちたトンネルと夏の日差しの組み合わせが、どこか幻想的だった。
「古い建造物ってワクワクしない?」
「入院してた時に、こういうところの写真を見るのが好きだったんだ。いつか自分の足で行ってみたいと思ってて」
「わかります。私も、遠くの写真集を眺めるのが好きでした」
入院経験のある
それを眺めながら、
「そういえば
「今日は不思議と大丈夫なんです。
たしかに、今日の
(なんか……
楽しそうに話す二人の姿に、胸の奥がチクリと痛んだ。
「体力でいうと私より
「……この服、あんまりハイキング向けじゃない」
初夏の太陽の下では、まっさきに体力を奪われてしまうようだった。
「一回、この辺りで休もうか」
線路沿いに設置されたベンチに、全員で腰掛ける。
すぐに
「スポーツドリンク持ってきたんです。良かったらどうぞ」
「
その光景を見て、
「そういえば
「え? あ、うん」
「ほお、それは初耳ですな。しかし合点ですぞ。しっかりしているはずですな」
元来、
そう考えると、最近の
置いていかれたわけではない。元から、遠い位置にいただけ。
(そっか。私が勝手に同類と思ってただけなんだ)
すとん、と胸に落ちた。
つっかえていたものが、勝手に取れた気分だった。
「
「は、はい。大丈夫です」
「お菓子持ってきたんだ。どう?」
そう言って、グミの入った袋が差し出される。
「い、いただきます」
口に運ぶと、酸っぱい味がした。
「レモン味……かな? ちょっと変わってますね」
「クエン酸が入ってて、疲労に効くんだって」
短い会話だった。
「す、酸っぱいですぞ!」
「そうなんですか? 私も試してみたいです」
友人たちと一緒に笑う
普段、
男子はもっと遠くて、特別な存在だと
なのに、目の前ではまったく別の光景が広がっている。
――全員のこと知りたいと思ってるよ。
さきほどの
綺麗ごとのように聞こえたそれが、
「そろそろ行こっか」
「しかたない。がんばろう」
「
友人たちの会話をぼんやりと聞き流しながら、
視線が自然と、
綺麗な横顔だった。
夏の日差しのせいか、身体が熱くなっていく。