「……これが目玉のトンネルですか」
途中で曲がっているのか出口の光が見えず、真っ暗な穴が広がっている。
「このトンネル、五百メートルあるんだって」
目の前の暗闇に怖気づいた
その横で、
「もしも暗闇の中で
それまで後ろから静かについてきていた補佐官の
近くの女性陣だけに聞こえるような声量で、どうやら冗談で言っているわけではなさそうだった。
「じゃ、じゃあ行こっか」
「中は随分と涼しいですな」
「ここって実は休憩ポイントかも」
ほのかと
懐中電灯で周囲を照らすと壁面にスプレーで落書きしてあるのが見えた。
「お、思ったより雰囲気がありますね」
「
「そ、そういうわけではありませんが……」
「なんかさ、夏らしくていいよね」
「自然いっぱいで、近くには川もあって。ちょっと冒険っぽいし」
「お金がかからないのも助かる。生地にお金つかったから、もうお小遣いがない」
「生地?」
「このドレス、自作なの」
「
「
「
楽しそうに喋る
それを羨ましそうに
「きゃっ」
「大丈夫?」
転ばなかったものの、咄嗟に手を離してしまい、懐中電灯が地面を転がっていく。
「あ……壊れちゃった」
懐中電灯を拾い上げて、何度かスイッチをカチカチと操作する。
どうやら衝撃で破損したようだった。
「まあ、一つくらい壊れても問題ありませんぞ」
「うん。安いやつだし、気にしなくていいからね」
ほのかと
「ご、ごめんね」
「それにしても長いトンネルですな。まだ出口が見えませんぞ」
「そういう怪談ありそうだよね。歩いても歩いても出口がないトンネルとか」
何事もなかったようにほのかと
二人の物騒な会話に嫌な想像が膨らみ、ふと後ろを振り返る。
入口の光がいつの間にか見えなくなり、どこまでも暗闇が広がっていた。
寒気が全身を襲った時、横から
「ライトがないまま歩くと危ないから、ボクと一緒に行こう」
「あ……」
ごく自然な動作で、手が握られる。
「大丈夫? もしかして暗いところ苦手?」
「ちょ、ちょっとだけ……」
トンネル内が真っ暗でよかったと思った。
顔が茹ダコのように真っ赤になっているのがわかった。
さきほどまでの恐怖心は消え去り、今はただ羞恥心だけがあった。
「……」
前を歩いていた
涼しいトンネルの中、微かな熱が心地いい。
「……
すぐに
「そう。じゃあ私が手を繋いであげる」
「やっぱりなおった」
一連のやり取りに、
「わ、私はわざとじゃないからね?」
言い訳しながら、出来るだけ歩みを遅くする。
いつまでも出口が見えないことへの不安は、もうなかった。
今はただ、このトンネルが永遠に続けばいいのに、と願うだけだった。
◇◆◇
「それにしても、温泉もあるなんてすごいですな」
ハイキングコースの最後には、温泉宿があった。
開放的な露天風呂に入ったほのかが息をつく。
「汗かいちゃったから、助かるよ」
「はー、こんなに歩いたのは久しぶりですぞ」
話している間に、身体を流し終えた
「終わっちゃったね。あとは帰るだけかぁ」
残念そうに
願わくば、あのままずっと手を繋いで歩いていたかった。
「みんな、今日はどうだった?」
「良いところでしたな。トンネルの後は鉄橋もあって、川遊びできるところもあって。最後はこうして温泉まであるなんて」
「そうじゃなくて、手応えっていうか」
一瞬の沈黙があった。
「一回目としては成功じゃない? これまで殆ど接点がなかったわけだし」
「そうですぞ。こういうのは順番が大事。いきなりキスやエッチまでいけると思ってるなら処女すぎますな」
楽観的な意見の二人とは別に、
「他のグループと比べてってことかな?」
「そう。夏休み中に
「
白雪学園の生徒にしては珍しい脱色した髪やピアスで異彩を放ち、
彼女たちと
「
「でも、
トンネルでの出来事を掘り起こされ、
「ま、まあ、補佐官の人もいるから。心配する必要はないと思うけど……」
「そういえば
「男子風呂の前で警備しているんだと思います」
「あー、なるほど。仕事中だし、お風呂なんか入れないよね」
そこで
「そういえば、
「なにが?」
「私が
「だって、そういう仕事だしねぇ。逆に仕事熱心な人で安心じゃない?」
「それに
ほのかたちの反応に、
「それはそうですけど……」
「それより、次をどうするかじゃない?」
「
「賛成ですな。文化祭を一緒に回ったりできれば最高ですぞ」
「それは
話を聞きながら、
「二学期かぁ。しばらく
「ね、寂しいよね。あ、そろそろあがろうよ。
脱衣所に戻ると、
「
「悪いですな。頼みますぞ」
髪を乾かすのを後回しにして、先に脱衣所から出る。
ロビーを見渡すと、男湯の前のベンチに
「……」
隣には、とろんとした表情を浮かべた
胸の奥から、堪らない不快感が沸き起こった。
「お待たせしてすみません。もう少しで皆も戻ってくると思います」
「ゆっくりで大丈夫だよ」
声をかけると、それまで寄りかかっていた
それに満足しながら、
「
「こっちこそ。ボクもこういう経験全然ないから楽しかったよ」
「あの、少し差し出がましいお願いをしてもいいでしょうか?」
「それは内容によるかも。なにかな?」
「よろしければ最後にもう一度、手を握っていただけないでしょうか」
「えっと、こう?」
予想していた通りだった。
「ありがとうございます。とても落ち着きます」
女にとっては一生の思い出になるようなことでも、男にとってはそうではない。
今日のトンネルでの出来事を通して、
恐らく、普通に生きていれば気づけないことだった。
大きな収穫だった。
「しばらくお会いできないのは残念ですが、二学期が楽しみです」
しかし、