男女比が壊れた世界でギスギスする話   作:月島しいる

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13話

「あれ? 寧々(ねね)ちゃん?」

 

 瑞樹(みずき)が玄関扉を開けると、つい先ほど帰ったはずの寧々(ねね)が立っていた。

 それから、同じクラスの緋村梨々花(ひむら りりか)がどこかムスッとした表情で並んでいる。

 

「忘れ物?」

「う、うん。それに下で緋村(ひむら)さんと会ったから、私ももうちょっとダベっていこうかなって」

 

 言い訳するように寧々(ねね)が早口で言う。

 反対に、隣の梨々花(りりか)は落ち着き払った様子で口を開いた。

 

「ごめん、早く着きすぎちゃって。もしも迷惑だったら適当に近くで時間潰してくるけど」

「ううん、迷惑なんかじゃないよ。あがって」

 

 瑞樹(みずき)は微笑むと、リビングに向かって歩き出した。

 廊下を進む間、後ろで寧々(ねね)梨々花(りりか)とコソコソと話す声が届く。

 

「なに? あんた忘れ物を取りにきたんじゃなかったの?」

「私、瑞樹(みずき)くんのコロニーに入ってるもん。何しようが勝手でしょ」

 

 寧々(ねね)が戻ってきた理由を何となく察しながら、瑞樹(みずき)は聞こえない振りをしてそのままリビングに二人を案内した。

 

「お茶用意するね」

「あ、お土産もってきたから、これ使ってよ」

 

 梨々花(りりか)が紙袋を差し出す。

 受け取ると、高そうな紅茶とクッキーの袋が入っていた。

 

「もしかして、こっちのクッキーは手作り?」

「……この前、美味しいって言ってくれたから」

「ありがとう。実はちょっと期待してたんだ」

 

 学期末試験に向けたクラスの勉強会で、梨々花(りりか)は毎日のようにクッキーを焼いてくれていた。

 実家が洋菓子屋ということもあってか、彼女の作るクッキーはよく出来ている。

 

「こんなんで良いなら、いつでも作るけど」

 

 梨々花(りりか)の照れを隠すような反応に、クス、と笑いながら三人分の紅茶を淹れる。

 準備を進めていると、寧々(ねね)が不思議そうに口を開いた。

 

「そういえば御門(みかど)さんは?」

「えっと、お部屋の掃除をしてくれてるところ」

「あ……」

 

 寧々(ねね)は察したように顔を伏せた。

 隣の梨々花(りりか)が面白くなさそうな表情を浮かべる。

 

神成(かみなり)ってバレーの選抜練習で忙しいんじゃないの? 遊んでていいわけ?」

「……別に……頻繁に来てるわけじゃないから……」

「ふーん……」

 

 クッキーをお皿に移すと、瑞樹(みずき)は紅茶と一緒にテーブルに運んだ。

 それまで寧々(ねね)に冷たい視線を向けていた梨々花(りりか)が、瑞樹(みずき)に視線を戻す。

 

藤堂(とうどう)、ジャムってある?」

「ジャム?」

「その紅茶に入れると美味しいんだ。ソ連で流行ってるらしいよ」

「そうなの?」

 

 確かあったはず、と冷蔵庫を覗くと未開封のいちごジャムがあった。

 

寧々(ねね)ちゃんも入れていい?」

「う、うん」

 

 全員のティーカップにジャムを入れ、かき混ぜる。

 すぐに良い香りが漂ってきた。

 

「わ、美味しそう」

 

 瑞樹(みずき)が目を輝かせると、梨々花(りりか)は得意そうに笑った。

 

「でしょ。私、これが好きなんだ」

 

 反対に、隣で寧々(ねね)が不安そうな表情を浮かべていた。

 

「ソ、ソ連の文化なんて真似していいのかな」

「そんなこと言ったら、こういう紅茶自体が英帝の文化じゃん」

「そ、そうだけど……」

 

 寧々(ねね)の不安を払拭しようと、瑞樹(みずき)は先にティーカップに口をつけた。

 

「飲みやすくて美味しいよ。倫理監察局もこんなことで怒らないんじゃないかな」

「そ、そうだよね」

 

 それでようやく、寧々(ねね)もジャム入りの紅茶を飲み始めた。

 

「そういえば倫理監察局で思い出したけど、あの無道(むどう)ってやつが次の特別プログラムも考えるのかな」

 

 ポツリと梨々花(りりか)が言う。

 

「多分、そうだと思う」

「なんかさ、嫌な感じだったよね。人で遊んでるっていうかさ」

 

 まるでゲームみたいにさ、と梨々花(りりか)は吐き捨てるように言葉を続けた。

 

「あいつきっと、生徒同士を争わせて楽しんでるんだよ。それを見て、笑ってるんだ」

 

 それには瑞樹(みずき)も同意見だった。一学期の末に行われた特別プログラムは、クラス内で協調するか裏切るかを選び、信用スコアが増減する仕組みとなっていて、争いを積極的に起こそうとする意図が感じられた。

 そして、ふと気づく。

 特別プログラムの責任者である地区担当官は、党の行政職である。その管轄は、白雪学園だけに留まらない。おそらく、縁巡りにも関わってくることになる。

 

「二学期もまた変なゲームだったら嫌だよね」

「……」

 

 嫌な予感がした時、ドアチャイムが鳴った。

 思考が現実に引き戻される。

 

「誰か来たみたい。見てくるね」

 

 椅子から立ち上がり、とたとたと玄関に向かう。

 扉を開けると、黒崎蓮(くろさき れん)花守加恋(はなもり かれん)が立っていた。

 

「よお」

「こ、こ、こんにちは!」

 

 落ち着いた様子の(れん)と、珍しく緊張した様子の加恋(かれん)が対照的だった。

 

「珍しい組み合わせだね」

「たまたま駅で会ったんだ」

 

 どうぞ、と中に案内する。

 加恋(かれん)はひどく緊張した様子で靴を脱いだ。

 

「ここが瑞樹(みずき)様のおうち……」

「まあ、男子の家なんて最初は緊張するよな」

 

 前にも来たことがある(れん)は、どこか余裕がある態度を見せていた。

 二人を連れてリビングに戻ると、梨々花(りりか)が不快そうに顔をしかめた。

 

「来るの早くない?」

「お前のほうが早いじゃねえか。つーか、それより何で神成(かみなり)が?」

 

 (れん)が怪訝そうに寧々(ねね)に視線を向ける。

 途端、寧々(ねね)の背中が丸まった。

 

寧々(ねね)ちゃんは昨日から泊まってるんだ」

 

 代わりに瑞樹(みずき)が説明すると、(れん)が警戒するように周囲を見渡した。

 

「ふうん。もしかして一色(いっしき)もいるのか?」

「ううん、どうして?」

「いや……いないなら良い」

 

 どこか安堵した様子を見せる(れん)に、瑞樹(みずき)は首を傾げた。

 

「椅子が足りないな。ソファ借りるからな」

「あ、では加恋(かれん)も……」

 

 (れん)加恋(かれん)がソファに腰を落とす。

 その時、再びドアチャイムが鳴った。

 

「ちょっと見てくるね」

 

 慌ただしく玄関扉に向かう。

 扉を開けると、今度は青山遥(あおやま はるか)桃原奈緒(ももはら なお)が立っていた。

 

瑞樹(みずき)様に会いたくて、ちょっと早く来たっす!」

「せっかくだし、ゆっくりお茶でもしようよぉ」

 

 ニコニコと笑みを浮かべていた(はるか)が、瑞樹(みずき)の足元を見て動きを止める。

 

「なんか……靴が多くないっすか?」

「うっそぉ。私たち、もしかしてビリ?」

「うん。実は皆、もう来ちゃってて」

 

 騒ぐ二人をリビングに案内する。

 ソファの(れん)と顔を合わせるなり、(はるか)が溜め息をついた。

 

「はあ。抜け駆けしようとする卑しい女ばっかりで嫌になるっす」

「お前もだろ」

 

 二人が軽口を叩いている横で、奈緒(なお)がじっと梨々花(りりか)を見つめる。

 

「それで、誰が一番最初に来たの?」

「……」

「ふーん。てっきり花守(はなもり)かと思ったけど、違ったかぁ」

 

 奈緒(なお)はニヤニヤと笑みを浮かべて、梨々花(りりか)の首へ腕を回した。

 

藤堂(とうどう)、どう? 梨々花(りりか)って思ったより本気だし、結構尽くすタイプだよ?」

「……うっさい」

 

 梨々花(りりか)が顔を赤くして、奈緒(なお)の腕を払う。

 

「えー、お勧めしてるだけなのにぃ」

「それより、全員揃ったけどどうする?」

 

 梨々花(りりか)の言葉に、時計を見やる。

 予定より三十分早いが、時間まで待つ意味もないように思えた。

 

「じゃあもう出発しようか」

「んー、私は賛成!」

「まあ、ここにいても仕方ねえか」

 

 賑やかになったリビングで、居心地が悪そうに寧々(ねね)が立ち上がる。

 

「あの……じゃあ私は帰るね」

「うん」

 

 そそくさと玄関に向かう寧々(ねね)に、見送りのためについていく。

 

「帰り、気を付けてね」

 

 座って靴を履き直す寧々(ねね)に声をかけると、寧々(ねね)は立ち上がってくるりと瑞樹(みずき)に向き直った。

 それから、唇に柔らかい感触。

 一瞬の出来事だった。

 寧々(ねね)はすぐに離れると、照れたように笑った。

 

「……また来てもいい?」

「……うん、もちろん」

 

 瑞樹(みずき)の答えに寧々(ねね)は安心したように微笑み、それから(きびす)を返して出て行った。

 玄関扉が、音を立てて閉まる。

 口の中で、ほのかに甘いジャムの味がした。

 残された瑞樹(みずき)は少しだけ立ち尽くした後、(れい)に車の運転を頼むために自室へ向かった。

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