男女比が壊れた世界でギスギスする話   作:月島しいる

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14話

「ほらほら! 山っす! 川っす! すごいっす!」

 

 真っ先に車から降りた青山遥(あおやま はるか)が嬉しそうに叫ぶ。

 駐車場のすぐ傍に、川が流れていた。

 瑞樹(みずき)も車から降りると、一面に広がる山々を見て歓声をあげた。

 

「わあ、遠くのドームみたいなのが泊まるところ?」

「とりあえず荷物置きに行こうよ」

 

 緋村梨々花(ひむら りりか)が荷物を背負いながら、冷静に言う。

 黒崎蓮(くろさき れん)も同意するように頷いた。

 

「ああ、まずは受付に行かないとな」

 

 駐車場から小さな橋を渡って、白いドームテントが並んでいる宿泊エリアに向かう。

 手前にひとつだけログハウスがあり、それが管理棟のようだった。

 

「ここだな」

 

 (れん)を先頭に、ログハウスに入る。

 

「はぁ。クーラーが涼しいっす」

「受付してくるから待ってろ」

 

 (れん)がカウンターに向かう。その間に瑞樹(みずき)は物珍しそうに周囲を見渡した。

 中は売店も兼ねているようで、様々な商品が並んでいる。

 

「へえ。マシュマロとかあるよ。焚火で焼けるんじゃない?」

「ドリンクサーバーもあるっす。飲み放題っすよ」

「思ったより快適そうじゃん」

 

 小奇麗なログハウスに、女子たちがはしゃぐ。

 

「花火! 花火ありますよ! 加恋(かれん)、これやりたいです」

 

 中を見て回ってる間に、受付を終えた(れん)が戻ってきた。

 手にはカードキーが二つ。

 

「二つ借りてきた。こっち、藤堂(とうどう)の分な」

「テントなのにカードキーなんだね」

 

 受け取ったカードをしげしげと眺める。

 ホテルでよく使われるようなカードキーだった。

 

「これなら夜も安心だろ? よし、とりあえず見に行くか」

 

 管理棟を出て、カードキーに記された番号のサイトを探す。

 辺りの原っぱにはハンモックが並んでいて、他の宿泊者がくつろいでいた。

 

藤堂(とうどう)はここだな。私たちはもう一つ向こうだ」

「じゃあ、荷物置いてちょっと休んだらそっち行くね」

「おう」

 

 ウッドデッキにそれぞれ扉があり、二重構造になっているようだった。

 カードキーをかざして中に入ると、バーベキュー用のスペースとお風呂やトイレらしき小さな小屋、そしてドームテントが並んでいる。

 

「セキュリティは問題なさそうですね」

 

 (れい)が満足そうに頷く。

 珍しく、少し浮かれた声色だった。

 ドームテントに入ると、中は思ったより広かった。

 シングルベッドが二つ並び、空調もよく効いている。

 

「テントっていうから、もっと狭いのかと思ってたよ」

 

 荷物を中央のテーブルに置いて、ベッドに腰掛ける。

 それから、瑞樹(みずき)は小さく伸びをした。

 

「玲さん、運転で疲れてない?」

「いえ、私は……」

「少しだけ横になろうよ」

 

 休む気がなさそうな(れい)の手を引っ張り、ベッドに引き込む。

 言葉とは反対に抵抗する様子もなく、(れい)は引っ張られるままに瑞樹(みずき)の腕の中に入り込んだ。

 

「……瑞樹(みずき)様とこうして遠くまで旅行するのは、初めてですね」

「うん。こういうの、意外となかったよね」

 

 ふわふわの柔らかいベッドが心地いい。

 (れい)を抱きしめながら、目を瞑る。

 

「五分くらい休もっか」

「……はい」

 

 いつもに比べてしおらしい(れい)に、瑞樹(みずき)は首を傾げた。

 

(れい)さん、どうしたの?」

「いえ……昨夜は少し、寂しかったもので」

 

 (れい)はそう言うと、瑞樹(みずき)の胸に顔を埋めた。

 

「二人だけのテントをいただけて、少し安心しています」

「……ごめんね」

瑞樹(みずき)様が気にすることではありません」

 

 それから、沈黙が落ちた。

 空調の音が静かに響き渡る。

 とんとんと(れい)の背中を叩くと、(れい)はそのまま気持ちよさそうに目を閉じた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「とりあえず川で泳ぎたいっす!」

「あそこ、泳げるほどの深さじゃないぞ」

「ええ!? せっかく水着持ってきたのに……」

 

 青山遥(あおやま はるか)黒崎蓮(くろさき れん)の会話を聞きながら、桃原奈緒(ももはら なお)はドームテント内の備品をチェックしていた。

 

「結構いいところじゃん。高かったんじゃないの?」

「ま、それなりだな」

 

 はぐらかす(れん)を見て、奈緒(なお)はそれ以上は深く聞かないことにした。

 今回の旅費はすべて、(れん)が受け持つことになっている。

 

「そういえばお金、本当に払わなくても大丈夫なんですか?」

「いいの、いいの。(れん)ってお金持ちだから」

 

 申し訳なさそうに言う加恋(かれん)に、奈緒(なお)はひらひらと手を振った。

 (れん)はあまり身の上を話したくないのか、それ以上の説明をしなかった。

 

「金のことはいいから、もしもコロニー入りできたらちゃんと手引きしろよ」

「もちろんっす。全員入れてあげるんで、どーんと任せるっすよ」

 

 自信満々に言う(はるか)を、(れん)胡乱(うろん)そうに眺めた。

 

「……まあ、期待しておくよ」

「っす!」

 

 それまで黙ってスマホを見ていた梨々花(りりか)が立ち上がる。

 

「で、どうする? 軽く散策でもする?」

「そうだな。管理棟にソフトクリーム機があったからさ、食いながら川沿いでも歩こうぜ」

「いいっすね。夏って感じっす」

 

 休憩を早々に切り上げ、奈緒(なお)たちはテントを出た。

 ちょうど、隣から瑞樹(みずき)(れい)が出てくるところだった。

 

瑞樹(みずき)様、ソフトクリーム食べに行こうよ」

「近くで売ってるの?」

「うん、さっきの管理棟にあったらしいよ」

 

 管理棟で全員のソフトクリームを買うと、一行はすぐそばの川に向かった。

 川遊びしている他の宿泊者がいたため、人がいない上流を目指すことにする。

 川沿いを歩きながら、奈緒(なお)は周囲を観察した。

 前を歩く梨々花(りりか)の視線はずっと、瑞樹(みずき)に向けられている。

 それから、加恋(かれん)瑞樹(みずき)の横を陣取り、しきりに話しかけている。

 六人グループのため、自然と三人ずつ前と後ろで分かれて歩くことになった。

 

(れん)は行かなくていいわけぇ?」

 

 後列を歩く蓮に奈緒(なお)が問いかけると、(れん)は肩を竦めた。

 

「……何を話したらいいかわかんねえ」

「らしくないなぁ」

 

 (れん)がムッとした顔を見せる。

 

「お前も全然行けてないだろ」

梨々花(りりか)が頑張ってるからねぇ。今は譲ってあげてるだけ」

 

 じりじりと虫の鳴き声が響く。

 

「脈、あると思う?」

「さあ、分かんねえ」

 

 まだそれほど歩いていないのに、だらだらと汗が流れていく。

 隣で黙々とソフトクリームを食べていた(はるか)が悲しそうに呟く。

 

「あ……食べ終わっちゃったっす」

「丁度いいな。この辺りで涼もうぜ」

 

 (れん)が声をあげると、前を歩いていた瑞樹(みずき)たちも立ち止まった。

 

瑞樹(みずき)様、一緒に川に入りましょう! 加恋(かれん)が靴下脱がせてあげます!」

「キモ……」

 

 加恋(かれん)梨々花(りりか)が競うように瑞樹(みずき)に話しかけているのを眺めながら、奈緒(なお)は残ったソフトクリームをたいらげた。

 それから丁度いい岩を見つけ、奈緒(なお)はそこに座り、靴を脱いで足だけ川に投げ出した。

 

「ひゃ、冷たぁい」

「どれどれ……思ったより冷たいな」

 

 奈緒(なお)の隣に(れん)が腰掛ける。

 少し離れたところで、裸足になった瑞樹(みずき)加恋(かれん)が川の中央に進む始めていた。

 

「……藤堂(とうどう)の足、めっちゃ見えてるな」

 

 ぽつりと(れん)が言う。

 川に入った瑞樹(みずき)は水に濡れないようにズボンの裾を捲っていて、普段は見えないふくらはぎが露出していた。

 

「あんなの見せていいのかよ」

「眼福じゃん。ありがたく見させてもらおうよ」

 

 奈緒(なお)は補佐官の御門玲(みかど れい)にチラリと視線を向けた。

 少なくとも、咎めるような動きは見られない。

 

「……なあ、Bクラスのこと知ってるか」

「何が」

 

 突然声を落とした(れん)に、奈緒(なお)は怪訝そうに視線を戻した。

 

「Bクラスにトレードされたやつがいただろ」

「ああ、下位の?」

 

 学期末試験では、上位五名が定員を無視して好きなクラスに移動できるトレード制が導入された。

 その結果、花守加恋(はなもり かれん)がKクラスへのトレードを希望し、代わりにKクラスの下位一人がBクラスへ移動している。

 

「トレードされたのは外倉真紀(そとくら まき)下川(しもかわ)のところに所属してたやつだ」

「どうでもいいやつの名前とか覚えてないけど。それがどうしたの?」

「そいつ、Bクラスの男子にお手付きされたらしい」

 

 予想してなかった言葉に、奈緒(なお)は動きを止めた。

 

「……ふーん。Kクラスの中でも更に落ちこぼれだったのにぃ?」

「どう思う?」

 

 奈緒(なお)はすぐには言葉を返さず、黙り込んだ。

 少し離れたところでは、(はるか)が小魚を見つけて騒いでいる。

 瑞樹(みずき)梨々花(りりか)も集まって、何やら川底を覗いていた。

 川のせせらぎ音も相まって、ひどく平和な光景だった。

 

「どうって、どういう意味ぃ?」

 

 奈緒(なお)は意図的にとぼけた反応を返した。

 それが答えのつもりだった。

 (れん)が周囲を気にしながら、補足するように言う。

 

「別に私たちが移動しようって話じゃない。ただ、これで馬鹿が釣られるかもしれないって話だ」

「ああ……Bクラス狙いの馬鹿が出てくるかもね」

 

 (れん)の言いたいことを理解して、奈緒(なお)はニヤリと笑った。

 

「じゃあその情報、広げておこっか」

「ああ、そうしてくれ」

 

 奈緒(なお)は頷くと、腰掛けていた岩から立ち上がった。

 

「ま、難しい話はそれくらいにしてさぁ。あとは遊ぼうよ。ほら」

 

 奈緒(なお)はそう言って、(れん)に向かって水を思い切りかけた。

 

「てめっ」

 

 頭からずぶ濡れになった(れん)が立ち上がる。

 その時、(れん)の下着が服の上から透けて見え、奈緒(なお)は思わず笑った。

 

「うわ、なにそのえぐい下着。やっばぁ」

「おま……くそ」

 

 (れん)が慌てたように両手で前を隠す。

 

「冷静なフリして、ヤる気満々じゃん。それなら、もっとグイグイいきなよ」

「……覚えとけよ」

 

 睨みつけてくる(れん)に、奈緒(なお)は不敵な笑みを浮かべた。

 

「丁度いいじゃん。お手本、見せてあげよっか」

「はあ?」

 

 困惑した様子の(れん)を置いて、奈緒(なお)はその場で自ら川の水を被った。

 それから、奈緒(なお)は堂々と瑞樹(みずき)に向かって歩き出した。

 

瑞樹(みずき)様ぁ、そこで何してるのぉ?」

「えっと、青山(あおやま)さんがカニを見つけたらしくて」

 

 振り返った瑞樹(みずき)が、奈緒(なお)の濡れた格好を見て視線を逸らす。

 その反応に、奈緒(なお)は気を良くして更に近づいた。

 

「サワガニかなぁ? 可愛いよねぇ」

「う、うん」

 

 胸元を強調するように、前屈みになる。

 すると、瑞樹(みずき)は明らかに奈緒(なお)を見ないように更に視線を逸らした。

 

瑞樹(みずき)様、ほんと可愛い~!)

 

 どうよ、と奈緒(なお)は得意そうに蓮に向かってアイコンタクトした。

 (れん)は何かと考えすぎなのだ。時には、こういった勢いも必要になる。

 夜が楽しみだ、と奈緒(なお)は舌なめずりした。

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