男女比が壊れた世界でギスギスする話   作:月島しいる

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15話

藤堂(とうどう)、これ焼けてるよ。食べる?」

瑞樹(みずき)様、こっちのハラミも焼けてます。加恋(かれん)があーんしてあげます!」

 

 日が落ちてバーべーキューが始まっても、藤堂瑞樹(とうどう みずき)の両隣には緋村梨々花(ひむら りりか)花守加恋(はなもり かれん)が陣取っていた。

 焼けた肉が次々と瑞樹(みずき)の前に差し出される。

 黒崎蓮(くろさき れん)はその光景を、少し離れたところから眺めていた。

 

「じ、自分で食べるから大大丈夫だよ。二人とも、気を遣わなくていいからね」

「私、肉焼くの好きなだけだから」

加恋(かれん)瑞樹(みずき)様のお顔を見ていたいだけなので!」

 

 離れるつもりがなさそうな梨々花(りりか)加恋(かれん)

 反対に、(れん)の隣では(はるか)が能天気そうに肉を焼いていた。

 

「いやぁ、ここって切ったりしなくていいんで楽っすね」

「アヒージョとかもあるな。これもアルミホイルごと煮るだけっぽいし後で試してみるか」

 

 その時、瑞樹(みずき)梨々花(りりか)たちから離れて(れん)のもとへ近づいてきた。

 

黒崎(くろさき)さん、今日は企画してくれてありがとう」

「あ、ああ。最初はキャンプの予定だったんだけどな。これなら飯もミスったりしないし、こっちにして正解だったな」

 

 (れん)はそう言いながら、照れを隠すように手元の肉を何度もひっくり返した。

 

「これ食ったらさ、中でトランプとかしようと思ってるんだけど……藤堂(とうどう)もくるよな?」

「うん。ただ、お風呂入ってからでもいい? ちょっと汗かいちゃったから」

「も、もちろん。それまで、私たちは適当に遊んでるからさ」

 

 周りには、食材が既に切られた状態で用意されている。

 瑞樹(みずき)はしげしげと観察してから、野菜の串に手を伸ばした。

 

「これ、焼いてもいい?」

「あ、ああ。食いたいなら私がやっとくけど」

「こういうの、初めてなんだ。自分でやってみたくて」

 

 (れん)は考えながら、探るように口を開いた。

 

「……藤堂(とうどう)って、バーベキューとかしたことねえの?」

「うん、まったく。だから誘ってもらった時、嬉しかったんだ」

「……そうか」

 

 パチパチと野菜の焼ける音がする。

 瑞樹(みずき)の横顔の中に寂寥感(せきりょうかん)のようなものを垣間見た気がして、(れん)は動きを止めた。

 沈黙が落ちそうになった時、ちょうど飲み物を持ってきた奈緒(なお)が近づいてきた。

 

「ねぇ、瑞樹(みずき)様。夏休みって後は何するのぉ?」

「えっと、乃愛(のあ)の実家に挨拶行くことになってるかな。あとはお祭りとか、天城(あまぎ)さんのホテルに泊まらせてもらう予定とか」

「ふーん。遺伝子提供は~?」

 

 突然の踏み込んだ質問に、(れん)はビクリと肩を震わせた。

 

「もしかしてぇ、もう誰かと予定あるのぉ?」

「……おい」

 

 咄嗟に低い声が出た。

 そのことに、(れん)は自分でも驚いた。

 

「そういうの、今はやめろ」

「な、なによぉ」

 

 奈緒(なお)が戸惑ったように後ずさる。

 (れん)は無視するように手元の金網へ視線を戻した。

 

「……藤堂(とうどう)、それ。もう焼けそうだ」

「あ、ほんとだ」

 

 不慣れな手つきで串焼きをひっくり返す瑞樹(みずき)を、(れん)は微笑ましそうに見つめた。

 やがて、両面を焼けた野菜の串焼きを瑞樹(みずき)が配り始める。

 最初に受け取った(はるか)が、熱に浮かされたように呟いた。

 

「私に最初にくれたっす。瑞樹(みずき)様、私のことが好きかもしれないっす」

「んなわねえだろ、馬鹿」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

(れん)。さっきの何?」

 

 バーベキューが終わり女子だけのドームテントに戻ると、奈緒(なお)が不服そうに声をかけてきた。

 (れん)は言い訳するように視線を逸らした。

 

「飯の時くらい、もっと普通に接してやれってだけだよ」

「なにそれぇ?」

 

 (れん)は肩を竦めて、それ以上は説明しなかった。

 真ん中にあるテーブルの前にドカッと座り、トランプを出してシャッフルする。

 

「で、何する?」

「人数的に大富豪とかっすかね?」

「ああ、大貧民な。まあ、それでいいか。藤堂(とうどう)は風呂入ってくるらしいから、それまで適当にやろうぜ」

「えー、大富豪でしょ? 大貧民ってなにぃ?」

「うっせえな。大貧民のほうがどう考えても一般的だろ。梨々花(りりか)花守(はなもり)も来いよ」

 

 声をかけると、ベッドに休憩していた面々もテーブルに集まってきた。

 どうでも良い会話をしながら、トランプを配る。

 

「大富豪でしょ。大貧民って呼び方、きしょすぎ」

「いえ、加恋(かれん)は大貧民が正しいと思います」

 

 全てのトランプを配り終えた後、(れん)は出来るだけ自然に話題を変えた。

 

「そういえばさ、花守(はなもり)ってBクラスにいたんだよな」

「はい。そうですよ」

「Bクラスの男子ってどんな奴だったんだ?」

 

 加恋(かれん)は特に気にした風もなく、8のカードを出しながら答えた。

 

「はい、8切りです。まあ、外面の良さそうな人ですね」

「ちょっと待って。8切りってなに? 意味不明なローカルルールやめてくれる?」

 

 不意に梨々花(りりか)加恋(かれん)の出したカードに文句を言い始める。

 (れん)は呆れたようにそれを流した。

 

「別に8切りはスタンダードなルールだろ」

「いや、私もよく知らないっす。何すか、それ」

「はあ? お前ら大貧民やったことねえの?」

「いや、大富豪ね」

 

 梨々花(りりか)がボソっと言う。

 そこにまた奈緒(なお)も乗っかかり始めた。

 

「マジで大貧民って呼び方はおかしくない? 大富豪を目指すゲームなんだからさぁ。あ、8切りはもちろん有りと思うけどぉ?」

「……めんどくせえな」

 

 (れん)は手札のトランプを放り投げて、溜め息をついた。

 

藤堂(とうどう)がきたらババ抜きでもするか」

瑞樹(みずき)様にどっちが正しいか決めてもらった方がいいっす。大富豪が絶対正しいっす」 

「ああ、もうそれでいいよ。で、ここからどうする?」

 

 (れん)は正直、ここから瑞樹(みずき)と距離を詰める案を持っていなかった。

 仲間の顔を見渡すと、奈緒(なお)が自信ありそうに笑った。

 

「トランプで勝ったら、好きな相手に何か命令できるとかどう?」

「……安直だな」

 

 思わず呆れる。

 しかし、周囲の(はるか)たちは乗り気な姿を見せた。

 

「シンプルだけど、良いんじゃないっすか? 王道が一番っすよ」

「常識の範囲内なら、藤堂(とうどう)も嫌がらないんじゃない?」

 

 どうやら、反対意見はなさそうだった。

 

「……まあ、それでいいか。あんまり露骨なことはすんなよ」

 

 好きな命令か、と(れん)は内容を考え始めた。

 その時、ドームテントの扉を叩く音が聞こえた。

 

「開いてるぞ」

 

 中から声を張り上げると、瑞樹(みずき)がドームテントに入ってきた。

 お風呂上りのせいか瑞樹(みずき)の髪はしっとりと濡れていて、(れん)は思わず息を呑んだ。

 普段見ることがない姿に思わず動揺を隠せず、視線を逸らしながらぶっきらぼうに手招きした。

 

「おう、来たか。トランプしようぜ」

「何のゲームするの?」

 

 隣に瑞樹(みずき)が腰掛ける。

 ふわりとシャンプーの香りがして、頭がくらくらした。

 誤魔化すように喋り続ける。

 

「大貧民やろうと思ってるんだけど、こいつらが大富豪だって言いがかりつけてくるんだよ」

「普通は大富豪っすよね?」

 

 瑞樹(みずき)はキョトンとした顔で、首を傾げた。

 

「ド貧民のこと?」

「……」

「……」

「……」

「……」

加恋(かれん)はずっとド貧民が正しいと思っていました」

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