「そろそろだね。この辺りから
綺麗に整備された山間の並木道で、それまで静かだった
うとうとしていた
ちょうど、巨大な門をくぐるところだった。
「……お庭、大きいね」
「前庭だけでも歩くと二十分近くかかるからね」
「に、二十分……」
どこまでも続く私道の両脇には、歴史を感じさせる巨大な木が視界を覆っている。
木々の向こうに赤い鳥居が見え、
「中に神社もあるの?」
「あれは
「す、すごいね」
しばらく進むと、左右に広がっていた林が急に途切れ、視界が開けた。
よく手入れされた植栽と、離れのようなもの、そしてどこまでも続く瓦屋根が前方に広がっていた。
想像していた屋敷より遥かに大きい実物を前に、
「だ、大丈夫かな……」
「堅苦しい出迎えは省いているから安心して欲しい。母上への挨拶も後でいいからね。着いたらまずは休もう」
「う、うん」
護衛車が速度を落とし、玄関口で停車する。
先に
平屋で高さはそれほどない。しかし、白い
「行こう」
「ようこそいらっしゃいました」
途端、玄関に並んだ二十人ほどの使用人たちが一斉に声をあげ、頭を下げた。
「お、おじゃまします」
「……婆や。出迎えはいらないと言っただろう」
「ご当主様から、最低限のおもてなしを、と。食事の準備もございますが、いかがいたしますか?」
「いい。
「あの、せっかく用意してくれてるなら……」
「気にしなくていい。母上は形式にこだわるところがあるだけだ」
「お休みになるのであれば、お部屋にご案内いたします」
「
「承知いたしました。何かありましたらお呼びください」
頭をさげ、出迎えの者たちが散っていく。
中でも若い女たちが名残惜しそうに振り返り、目が合った
途端、黄色い声があがり、何人かが慌てて口元を抑えた。
「……すまないね。あの若い娘たちは
「ううん、気にしてないから大丈夫だよ」
「見ての通り、山奥の屋敷だろう? 男子を見る機会なんてないから、随分と舞い上がっているようだ」
靴を脱ぎ、
廊下はどこまでも真っすぐ続き、終わりが見えなかった。
角を曲がっても同じような光景が続き、
「このお屋敷、何部屋くらいあるの?」
「数えたことはないが……五十は超えているはずだ。使っていない区画もあるから、実際はもっとあるかもしれないね」
耳慣れない数字に、頭がくらくらした。
やがて
「ここが
「十分大きいように思うけど……」
通された部屋は十畳ほどの和室だった。
まるで旅館の一室のように部屋の真ん中にテーブルがあり、茶菓子も準備されていた。
「
「承知しました。
「疲れているだろう? さあ、座ろう」
「う、うん」
手前の座椅子に腰を下ろす。
同時に、
「ようやく二人きりになれたね」
それまでのどこか気を張った
「うまくやれるかな……」
「君が心配する必要はない。うまくやるべきは、君に顔見せする女たちのほうだよ」
「それに、今日は何も予定を入れていないからね。母上への挨拶も夜になってからでいい。だから今はゆっくり休もう」
「うん」
「明日になったら、ゆっくり鎌倉を見て回ろうか」
「観光しても大丈夫なの?」
「ああ。明日の昼には
そこで
「夏休み中、ずっと君のパーソナルデータを見ていた。七月の遺伝子提供はまだだね?」
「……うん」
「鎌倉にも遺伝子バンクはある。気になる子がいれば選んでやってほしい」
耳元に熱い吐息がかかる。
同時に
「もちろん、再び私を指名してくれてもいい。遺伝子提供は妻の大事な役目だしね」
「
「おっと、そうだね。急に私の鳴き声が響いたら驚かせてしまう」
「じゃあ、今はこれで我慢しておくよ」
「もう……」
優しく髪を梳くと、
「願わくば、ずっとこうしていたいものだね」
「じゃあ、お義母さんへの挨拶までこうしてようか」
「なんなら、母上への挨拶なんてすっぽかしてもいいよ。このまま眠ってしまいたいくらいだ」
「そういえば、お義母さんはどんな人なの?」
「一言で言うと、つまらない人だね。
「な、仲悪いの?」
「いや、そうでもない。可もなく不可もなくという具合だ」
じゃあ、と
「お義父さんはどんな人なの?」
一瞬の沈黙。
「さあ。どういう人なんだろうね」
さきほどと同じく、どうでも良さそうな言い方だった。
しかし、その言葉には妙に冷たい響きが篭っていた。