夜になると、
客間よりも更に大きい和室には飾り気がなく、掛け軸と花瓶があるだけだった。
だからこそ、奥に姿勢よく座る着物姿の女性の存在が一際目立っていた。
銀色の長い髪に、鼻筋の通った顔。一目で
「よくいらっしゃいました」
しん、と張りつめた大広間に、
先に
「
「
「
「母上もだ。こんな大広間に三人だけなんて、無駄に気疲れさせてしまうだけだよ」
「大事なことです。私も祖母も、
「正直なところ、驚きました。白雪学園に入学してまだ四か月。それに、貴方のコロニーには
含みをもたせるような言い方だった。
「通常、十八家の娘は婚期が遅れます。二家が揃ってコロニー入りした上に、この早さは異例と言えるでしょう」
「つまり、母上は何が言いたいのかな」
「今一度、意思をはっきりさせておきましょう。そのほうが互いのためです」
「あの……意思とは……?」
「条件と言い換えたほうが分かりやすいかもしれませんね。あなたが
条件、という言葉で何となく
「……条件はないです。ボクは白雪学園の最下位クラスに配属されて、ちょっと……かなり不安でした。二年生になってクラス順位が上がったらごっそり人が減るんじゃないか、と思っていました。だから、
飾ることなく、ありのままを話すことにした。
「体育祭で躍進できたのも
「その時は何も考えていなかったとして、今から求めても良いのですよ。そのほうが問題や関係をわかりやすくできる」
「人でも物でも構いません。
「……いえ……望みはとくに……」
「つまり、母上はこう言いたいのだろう。私だけでなく
言い淀む
「
「各所への顔見せが終わった後に気が変わったのでは、互いに不幸となるだけです」
「母上の心配はよくわかるよ。父上のようになることを恐れているんだろう?」
「……このような場所で話す内容ではないでしょう」
「そうだね。私もできれば、こんな話はしたくなかったよ」
「では、困っていることはありませんか? たとえば、信用スコアとか」
「あの……」
「あるいは、やりたいことは? たとえば党員にしか発行されないパスポートですが、同行という形で叶えることもできます」
まだ短時間しか接していないにもかかわらず、
「その……本当に大丈夫なので……なかったことにしたりもしません」
「わかりました。何か思いついたら、いつでも言ってください」
そこで
「
「いえ、まだです」
妹の存在は初耳だった。
隣の
「飢えた狼の前に兎を放り込むようなものだ。彼女たちが高等部にあがるまで、紹介するつもりはない」
「……いいでしょう。初等部や中等部のうちに目が肥えるのは猛毒になりうる。取りやめておきましょう」
「最後に、ほかに何か言いたいことがあれば聞きます」
「私からは何も。
「えっと、とくには……」
答えると、
「では、今日はもうこれくらいにしましょう。明日から忙しくなります」
そして、最後に思い出したように薄い笑みを浮かべて言った。
「どうか、
◇◆◇
「私の言った通り、つまらない人だっただろう?」
大広間を出ると、
「そんなことは……」
「無理しなくていい。あんなんだから、父上はここに寄り付かなくなったんだ」
そう言いながら、
「そういえば
「もう何年も会ってないよ。まあ、仕方ないことだ」
「……そっか」
きっと、珍しいことではないのだろう。
むしろ、こうした状況のほうが一般的かもしれなかった。
「ところで、このまま私の部屋に行くのはどうかな? 客間よりは良いベッドがあるよ」
「
「雰囲気は学校の寮とあまり変わらないけどね」
腕を絡めた
夜の屋敷は静かで、使用人の姿もなかった。
「妹がいるの、知らなかったよ。何人いるの?」
「三人いてね。中学生が二人、小学生が一人。中学生のほうは二人とも白雪の中等部にいるよ」
「一緒に遊んだりするの?」
「さあ。昔はそういうこともあったかもしれないね」
あまり仲が良くなさそうだ、と
そうしている間に、
他の部屋と異なり、
「客間より声が漏れにくくて安心だろう?」
部屋の中は飾り気のない調度品が並んでいて、よく整理されていた。
「明日からは昼寝もできないし、もう寝ようか」
「ちょっと早くないかな?」
そして、
「ずっと会えなかったからね。今日はずっとこうしていたい」
「……うん。わかったよ」
それから、
実際に会ったことで母親の人柄は理解できた。
父親がほとんど不在だということも知った。
加えて、これまで
「
すりすりと身体を寄せる
――そこそこ上手くやれているつもりではあるんだけどね。でも、こんな事を続けてどうする、と考える冷静な自分が常にいる。
体育祭で
その意味がはっきりと見え始めていた。
「……」
胸元でじっとしている