「まったく……こんなこと、前代未聞じゃないんですかぁ?」
女子トイレで手を洗っている
返す言葉もなく、
「ま、どうせ
「……何か勘違いしているな。十八家の女、それも軍閥系は特に人気がない。縁のあるコロニーに形だけ籍を入れて終わりだ」
「へえ?」
「付き添ってもらって悪かったな。ここまでで良い。部屋には一人で戻れる」
「ええ、もちろんそうさせてもらいます。おかげで出遅れてしまいました」
最後に鏡を見やる。
青白く、ひどい顔をしていた。
このまま昼の部は休み、夜の部に賭けるしかないか。いや、そもそもどんな顔して夜の部に参加するんだ、と諦めながら
「ちょっと楽になりましたか?」
予想していなかった声に、
外の廊下にさきほどの少年が立っていた。
さらさらと柔らかい髪質に、穏やかな目尻。一見すると少女のようにも見える華奢な身体と雰囲気が、後ろの窓から差し込む夏の日差しでさらに幻想的なものに見えた。
「さ、さっきは汚いもんを触らせて悪かった」
「慣れてるから大丈夫です。一応、お部屋に戻るまで付き添いしてもいいですか?」
少年は顔色ひとつ変えず、そう言った。
(慣れてる……? どういう意味だ?)
基本的に箱入りで育てられる男子が他人の嘔吐物に慣れているわけがなかった。
しかし、社交辞令を言っているようにも見えない。
不可解な言い回しだと思いながら、
「あ、ああ。もちろん、そっちがいいなら……」
そこまで言ってから、
「あのさ……名前を聞いてもいいか?」
「
話している間、視界の端で
「オレは
「
即座に前のめりな姿を見せる
しかし、
「
「あ、ああ。北方軍の
「以前、党のパーティーで前当主様にお会いしたことがあります」
「ぐ、偶然だな。そういう縁を大切にしたいものだ」
それからようやく、
「お二人は友達なんですか?」
「あ、やっぱりそう見えますかぁ? はい、大の仲良しです」
ぺらぺらと嘘を吐く
まだ胃の調子が悪いために口数が少ない
「
「趣味っていうほどでもないんですが、強いて言えば本を読むほうです。後は友達とゲームをやったりとか、チェスとか将棋をネットでやったりとかインドア派かも」
「本ですかぁ。どのような本を? 私はミステリーをよく読みます」
二人の会話を聞きながら、おもしろくない、と
会話の糸口を失ったことに焦りが生まれたが、すぐ近くで繰り広げられる
「それに丁度、チェスを学びたいと思っていたところでした。よろしければ今度、教えてくださいませんかぁ?」
縁巡りの間、男子はこういう表面的な会話を何十回もさせられるに違いない。ならば、別の手法を考える必要がある。
ぺらぺらと
「ゲームもやったことないのですがずっと興味がありました。大社の娘は家を空けられないので、いい趣味になりそうです。神道は縁を大事にするもの。きっと、これは神様がお結びくださったご縁なのでしょう」
話している間に、寮のエントランスに辿り着く。
紅葉院の寮は古い木造建てで、中を見せる気にはなれなかった。
「じゃあ、ボクはここで失礼しますね」
「はい。私はお部屋で
どうやら
女子トイレの時は付き添いを切り上げてさっさと戻ろうとしていた癖に、と思いながら
「面倒をかけて本当にすまなかった」
「本当に気にしないでください。では、夜の部でまた」
その隣で、
「はあ……素敵なお方……」
「……」
縁巡りが始まった今なら、男子の情報を閲覧できるはずだった。
学内サイトにはAクラスから順に九人の男子の情報が並び、
「最下位クラス……? あれで……?」
それを無視して
「げ……」
「とんでもない問題児じゃありませんかぁ。なにか抱えているパターンですね」
「しかし、暫定順位は二位だな」
「そんなの、クラスの女次第ですよぉ? コロニーも小さく、男子の能力とは言い難いでしょう」
現行のクラス順位は彼女の手腕によるもので間違いないだろう。
「男子の信用スコアは、ほぼ人格面に直結します。これはかなり危ないですね」
「……」
このまま
しかし、それはどうにも公平ではないように思えて、
「……
「へえ?」
「……一考の価値がありそうですが、そうなるとBクラスの男子が気になりますね。
なるほど、そういう思考になるか、と
確かにデータ上で見ると、暫定一位のBクラスはスコアも安定していて非の打ちどころがない。
すべてを知った上でも、わざわざKクラスの男子を狙う女子は少ないだろう。
「オレはさっきのKクラスの男子を狙おうと思っている」
「まあ……貴方はもう選択肢がないでしょうね」
「互いに第一希望が被らないようで安心しましたよ。ご健闘を」