男女比が壊れた世界でギスギスする話   作:月島しいる

89 / 89
29話

 藤堂瑞樹(とうどう みずき)は寄宿舎の部屋を恐々と見回した。

 

「……」

 

 白雪学園の男子生徒は、今は使われていない紅葉院の旧寄宿舎に泊まることになっていた。

 部屋の内部は清掃が行き届いていたが、古い木造造りでどことなく暗い印象がある。

 とりあえず荷物を置こうと足を進めると、床が嫌な軋み声をあげた。

 

「歴史のある立派なお部屋ですね」

 

 後ろから(れい)が楽しそうに言う。

 旅行にきたような口ぶりだった。

 

「う、うん。味があるよね」

 

 話しながら、簡素な二段ベッドを瑞樹(みずき)はしげしげと見つめた。

 

「紅葉院の寮って二人部屋なんだね」

「集団生活を学ぶ場所ですからね。瑞樹(みずき)様は下段をお使いください。上段は転落の恐れがありますので」

 

 部屋の高いところには、簡素な神棚も用意されていた。それを見て、白雪学園の寮とは随分と違うようだ、と思った。

 以前に北条乃愛(ほうじょう のあ)の寮室にあがった時は、中は普通のマンションのような造りをしていた。

 

「紅葉院って男子も寮生活なの?」

「そう聞いています。学校自体が山奥にありますから、外から通うことをそもそも考慮していないのでしょう」

「そっか……」

 

 窓の外は、まだ夜の八時にもかかわらず真っ暗だった。

 時折、明かりに釣られた羽虫が窓ガラスに衝突するような音が響く。

 

「入浴は十時まで。お腹が減っているのであれば、一階の食堂に軽食を用意するとのことです。いかがされますか?」

「縁巡りの間に結構食べちゃったし、先にお風呂に行こうかな」

 

 薄暗い部屋が何となく嫌で、瑞樹(みずき)は着替えを持って(れい)とともに廊下に出た。

 長い廊下には人の気配がなく、瑞樹(みずき)は心細さを誤魔化すように(れい)に話しかけた。

 

「野外の特別プログラムってどんなことするのかな」

「慣例的に、行軍や演習だと思われます」

「……それだったら、最上(もがみ)さんに迷惑かけるかも」

 

 夜の部で瑞樹(みずき)が指名したのは、自ら志願した最上飛鳥(もがみ あすか)だけとなった。

 入学前の入院生活から未だに体力が戻り切っていない瑞樹(みずき)にとって、野外のプログラムは大きな不安要素だった。

 

「ただ、無道(むどう)地区担当官には前例主義を嫌うところがあります。まったく新しいプログラムが用意される可能性も高いかと」

「……うん。それはボクも考えてた」

 

 一学期の特別プログラムはゲーム理論を元にしたルールを採用しながらも、既知の最適解に従えば自滅するように仕向けられていた。

 明日の特別プログラムも同様の傾向を持つ可能性は高い。

 (れい)と話しながら、一階の浴場に辿り着く。

 外に一人の補佐官が警護に立っていて、他の男子がすでに中にいることを示していた。

 

「後からにしますか?」

 

 (れい)が小声でたずねてくるが、瑞樹(みずき)は首を横に振った。

 

「他の男子と話せる機会って少ないし、このままお邪魔しようと思う」

「承知しました」

 

 暖簾をくぐって脱衣所に入ると、脱衣所に人影はなく、中からシャワーの音がした。

 瑞樹(みずき)はすぐに服を脱ぐと、タオルを一枚だけ持って内扉を開けた。

 

「お、お邪魔します」

 

 こうした共同浴場を使うのは初めての経験で、念のために瑞樹(みずき)は小声で声をかけた。

 腰掛けに座りながら身体を洗っていたAクラスの男子、吉祥寺進(きちじょうじ すすむ)が振り返る。

 

「Kクラスの藤堂(とうどう)か」

「お風呂、一緒に使っていいかな?」

「ここはそういう場所だろう。好きにすればいい」

 

 瑞樹(みずき)は頷くと、(すすむ)の隣に腰を下ろした。

 

「……何故、隣に座る。他に空いているところがあるだろう」

「せっかくだし、ちょっとお話したくて。迷惑だった?」

「……好きにしろ」

 

 ぶっきらぼうな言い方だったが、それほど嫌がっているようには見えなかった。

 瑞樹(みずき)が隣でシャワーを流し始めると、(すすむ)から口を開いた。

 

「夜の部で、一人しか指名しなかった理由を聞いてもいいか」

「理由というか……これ以上はコロニーに収まりきらないと思ったんだ」

「……なるほど。暫定二位なら、補充の人員など不要ということか」

 

 (すすむ)はそう言うと、しばらく考え込むように無言で泡を流し、それから立ち上がって湯船に向かった。

 湯が波打ち、溢れていく。

 

藤堂(とうどう)

「うん」

「Bクラスは縁巡りで十人規模のグループを築いている。どう勝つつもりだ」

 

 瑞樹(みずき)は石鹸で身体を洗いながら、困ったように笑った。

 

「正直、何も考えてないよ。でも、難しいほど最上(もがみ)さんと一緒に考える機会になるし、仲良くなれると思う」

「随分と楽観主義のようだな」

 

 そこで会話が途切れた。

 そのまま髪を洗い、湯船に向かう。

 

「ちょっと熱いね。お水入れてもいい?」

「ああ」

 

 瑞樹(みずき)が蚊口を捻って温度を調整していると、また(すすむ)から口を開いた。

 

「当初、Aクラスには三人の十八家がいた。一色(いっしき)北条(ほうじょう)七瀬(ななせ)の三人だ」

「うん」

 

 瑞樹(みずき)は振り返って、(すすむ)に視線を向けた。

 すぐ近くで冷たい水流が広がり、湯に混じっていく。

 

「クラス分けを見た時、厄介だと思った。クラス内における主導権の取り合いは、しばしば男の手を離れやすい」

「……」

「だから一色(いっしき)北条(ほうじょう)の二人が出て行った時、俺は安堵した。頭となる七瀬(ななせ)さえ制御すれば上手くやれる自信があった」

「……うん」

 

 (すすむ)の言う通り、初期のKクラスでは主導権を巡ってクラス内に不和が見られた。

 そして、今でも完全に解消できているとは言えない問題でもあった。

 

「だが、皮肉なものだな。Kクラスは暫定二位まで上がり、こちらは最下位だ」

「……あの特別プログラムは、偶然も大きいと思う」

「いや、俺は女の戦力を大きく見誤った」

 

 (すすむ)はそう言って、顔を伏せた。 

 

一色(いっしき)北条(ほうじょう)、Kクラスのリーダーはどちらだ」

「えっと……どっちだろう。(しずく)は学級委員長だけど、乃愛(のあ)の方が影響力は強いかも」

「……どちらも使える女だったか」

 

 後悔の念が混じった言葉だった。

 (すすむ)は顔をあげると、だが、と瑞樹(みずき)を見つめた。

 

「明日は一色(いっしき)北条(ほうじょう)のどちらもいない。存分に勝たせてもらう」

「うん。いい勝負ができるようにボクも頑張るね」

 

 瑞樹(みずき)が微笑むと、(すすむ)は虚を突かれたように表情を崩し、顔を背けた。

 

「……張り合いのないやつめ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた(作者:一森 一輝)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

女が男を守るべき、みたいな価値観が根付いた世界で、男が身を挺して女を守ろうとしたらどうなるんだろうか?▼旧題:男女の価値観が反転している貞操逆転世界で身を挺して女の子を守ってみた場合▼※カクヨムとマルチ投稿中です▼https://kakuyomu.jp/works/16818792435932689728


総合評価:35937/評価:9.13/連載:105話/更新日時:2026年07月20日(月) 12:03 小説情報

あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活(作者:関税破産お嬢様)(オリジナル現代/コメディ)

八代透が令和の世から転生した先は、男が少なく、女性が男性の役割を果たしはじめた貞操逆転世界。▼男は希少なはずなのに、すでに世界ではあんまり男は求められておらず……モテモテのはずが振られてばかり。▼彼は前世では得られなかった男としての夢を掴むため、軽い気持ちで実家の芸能事務所の門を叩いたのだった。▼無断転載禁止 無断利用禁止


総合評価:68827/評価:9.22/完結:75話/更新日時:2025年06月24日(火) 19:56 小説情報

【完結】うお……貞操逆転世界魔法少女物はちょっと盛りすぎ……(作者:しゅないだー)(オリジナル現代/日常)

▼貞操逆転世界で清楚なお兄さんをやりたい主人公vsコミュ障魔法少女▼ファイッ


総合評価:28405/評価:9.15/完結:37話/更新日時:2026年06月19日(金) 00:12 小説情報

貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る(作者:しば犬部隊)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

死にゲーに転生した主人公(男)が遺伝子的に湿度が高く重い女達に囲われていく話。▼なお、主人公は自分に価値を見出していないので、自分を犠牲にしたりする。▼だが それが逆に重い女の琴線に触れた!▼無自覚にヒロインを沼らせていく、ただ平穏に生きたいだけの男。▼書籍化決定 5月20日 オーバーラップノベルス様より発売! ▼


総合評価:31692/評価:8.89/連載:51話/更新日時:2026年07月20日(月) 18:44 小説情報

男女比3:1でも貞操逆転世界なのに「もう少し大きくなったら結婚しよう」でとうとう引き返せなくなった奴(作者:陽波ゆうい)(オリジナルファンタジー/恋愛)

男女比3:1の世界に転生した。▼って、おいこれ、男がチヤホヤされる貞操逆転世界ってやつじゃねーじゃん!?▼野郎が多くなったら、寝取りが増えるだけだろっ。▼だから俺は、女の子にモテることを諦めることにした。▼※カクヨムでも掲載しています。


総合評価:3637/評価:8/連載:24話/更新日時:2026年06月01日(月) 22:22 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>