「……」
白雪学園の男子生徒は、今は使われていない紅葉院の旧寄宿舎に泊まることになっていた。
部屋の内部は清掃が行き届いていたが、古い木造造りでどことなく暗い印象がある。
とりあえず荷物を置こうと足を進めると、床が嫌な軋み声をあげた。
「歴史のある立派なお部屋ですね」
後ろから
旅行にきたような口ぶりだった。
「う、うん。味があるよね」
話しながら、簡素な二段ベッドを
「紅葉院の寮って二人部屋なんだね」
「集団生活を学ぶ場所ですからね。
部屋の高いところには、簡素な神棚も用意されていた。それを見て、白雪学園の寮とは随分と違うようだ、と思った。
以前に
「紅葉院って男子も寮生活なの?」
「そう聞いています。学校自体が山奥にありますから、外から通うことをそもそも考慮していないのでしょう」
「そっか……」
窓の外は、まだ夜の八時にもかかわらず真っ暗だった。
時折、明かりに釣られた羽虫が窓ガラスに衝突するような音が響く。
「入浴は十時まで。お腹が減っているのであれば、一階の食堂に軽食を用意するとのことです。いかがされますか?」
「縁巡りの間に結構食べちゃったし、先にお風呂に行こうかな」
薄暗い部屋が何となく嫌で、
長い廊下には人の気配がなく、
「野外の特別プログラムってどんなことするのかな」
「慣例的に、行軍や演習だと思われます」
「……それだったら、
夜の部で
入学前の入院生活から未だに体力が戻り切っていない
「ただ、
「……うん。それはボクも考えてた」
一学期の特別プログラムはゲーム理論を元にしたルールを採用しながらも、既知の最適解に従えば自滅するように仕向けられていた。
明日の特別プログラムも同様の傾向を持つ可能性は高い。
外に一人の補佐官が警護に立っていて、他の男子がすでに中にいることを示していた。
「後からにしますか?」
「他の男子と話せる機会って少ないし、このままお邪魔しようと思う」
「承知しました」
暖簾をくぐって脱衣所に入ると、脱衣所に人影はなく、中からシャワーの音がした。
「お、お邪魔します」
こうした共同浴場を使うのは初めての経験で、念のために
腰掛けに座りながら身体を洗っていたAクラスの男子、
「Kクラスの
「お風呂、一緒に使っていいかな?」
「ここはそういう場所だろう。好きにすればいい」
「……何故、隣に座る。他に空いているところがあるだろう」
「せっかくだし、ちょっとお話したくて。迷惑だった?」
「……好きにしろ」
ぶっきらぼうな言い方だったが、それほど嫌がっているようには見えなかった。
「夜の部で、一人しか指名しなかった理由を聞いてもいいか」
「理由というか……これ以上はコロニーに収まりきらないと思ったんだ」
「……なるほど。暫定二位なら、補充の人員など不要ということか」
湯が波打ち、溢れていく。
「
「うん」
「Bクラスは縁巡りで十人規模のグループを築いている。どう勝つつもりだ」
「正直、何も考えてないよ。でも、難しいほど
「随分と楽観主義のようだな」
そこで会話が途切れた。
そのまま髪を洗い、湯船に向かう。
「ちょっと熱いね。お水入れてもいい?」
「ああ」
「当初、Aクラスには三人の十八家がいた。
「うん」
すぐ近くで冷たい水流が広がり、湯に混じっていく。
「クラス分けを見た時、厄介だと思った。クラス内における主導権の取り合いは、しばしば男の手を離れやすい」
「……」
「だから
「……うん」
そして、今でも完全に解消できているとは言えない問題でもあった。
「だが、皮肉なものだな。Kクラスは暫定二位まで上がり、こちらは最下位だ」
「……あの特別プログラムは、偶然も大きいと思う」
「いや、俺は女の戦力を大きく見誤った」
「
「えっと……どっちだろう。
「……どちらも使える女だったか」
後悔の念が混じった言葉だった。
「明日は
「うん。いい勝負ができるようにボクも頑張るね」
「……張り合いのないやつめ」